第518話 ドワーフの夢 3
「はいーというわけでやって参りました、ウィスラー魔王国王都グースベイです。フレムリーラの北隣にある中堅国家で特に目立った産業の無い国ですが美少年が多い国として有名。特に王都は多く、世の独身女性が行きたい街No.1だとか」
「初めてジュンのウンチクで興味を唆られた気がする」
「うん。正直私も」
今まではまるで興味を持てなかったって事ですかそうですか。
アイとユウはお仕置き確定で。
「それにしても、都合良く都合の良い依頼が出てたもんだねぇ」
「ですねージュン様は本当に…おっと危ない」
「そこまで言ったら同じだけどね。まあ見逃してあげる」
この街に来た理由。
それは当然アーマード・モスの情報があったからだ。
ウィスラー魔王家から討伐依頼が出ており、討伐難度Sの魔獣の為当然Sランクの依頼。
だがこの国には現在Sランクの冒険者パーティーは存在しない。
ならば国で討伐しなければならないが、騎士団もさして強力でもないし多くの犠牲が出てしまう。
そこで他国のSランク冒険者パーティーに向けて依頼を出していたのだ。
それをボク達が受けたというわけである。
「ウチらだけで冒険って久しぶりだね~」
「そうですね。いつもはアイシス殿達が一緒ですから」
ウィスラー魔王国では人族はあまり歓迎されない。
初めて訪れる国だし、ウィスラー魔王家が出した依頼である以上ウィスラー魔王家とも会う事になるだろうし。
「でも私達が来る事は伝えてないんだよね?お兄ちゃん」
「うん。流石にこの国にはボク達の顔までは伝わってないと思うから。大袈裟にする事も無いでしょ。……出来るだけウィスラー魔王家には会いたくない理由もあって……」
「それは認識が甘いと思いますが……ジュン様はウィスラー魔王家にお知り合いが居るのですか?」
「オレは記憶に無いが…いつ知り合ったんだ?」
「ちょっとね…」
知り合ったのはつい最近。
フレムリーラでのお茶会に急遽参加した時に知り合った。
ボクの手をドレスの中に居れ胸を触らせてきた女の子である。
そして隙あらば唇を狙って来た。
超肉食系女子だった。
「ところで認識が甘いって?」
「周りをよくご覧ください」
「周り?」
冒険者ギルドに向かう途中なのだが…何だか視線が集まっている。何かヒソヒソ話をしながら。
「ああ。目立つからね。冒険者風の恰好してる人とメイドと執事が一緒だからね。というかいつもの事だけど?」
「いえ、それもあるのでしょうが…それだけではありません」
「ですねー。あ、ジュン様、あのお店を見てください」
「店?」
シャクティの指差したお店は雑貨屋?
そしてそこには…似顔絵?ボクの似顔絵が売られている。
「…アレは?」
「ジュン様の似顔絵ですねー」
「エルムバーンの絵師を大勢雇って大量生産してます。フレムリーラやダルムダット。ヴェルリアにも協力を依頼して販売経路を増やしています。此処にはフレムリーラから流れて来たのでしょう」
「因みにエリザ様主導だからオレ達にはどうしようも無かった。かなりの売り上げを叩きだしているらしい」
「私も王都で売られているのを見ました。ユウ様とアイ様との三人で並んでいる姿絵もありましたし、私と姉さんとの三人での姿絵もありました。『マスター』全員が並んでいる姿絵もありましたよ」
「なん…だと…」
ママ上…なんて事を…そんな事したら変装しない限りお忍びで遊ぶに行くとか出来ないじゃないか。
「オレとノエラでのやつもあったし、リリーとハティの三人でのやつもあったぞ」
「で、でもいつ皆の似顔絵なんて…」
「多分、それはアレよ。今年の初めに家族みんなが集まった絵を描いて貰ったじゃない?」
「その時私達も別の部屋で集まって描いてもらいました」
「私達も親衛隊の何人かで集まって…」
「リリーも他のメイドと集まってましたぁ」
周到…何処までも。いい加減本人に無断でそういう事するのは止めて欲しい。
ママ上にどうにかしてお仕置き…何故だろう返り討ちに会う気がしてならない。
「い、いや!そんな事よりもだ!一度帰って変装しよう!」
「無駄じゃない?王都の冒険者ギルド経由で此処の冒険者ギルドにはウチらが受けるって伝わってるんでしょ?」
「恐らく、その連絡はウィスラー魔王家に即座に伝わっている筈です。何せ魔王家からの依頼ですから」
「それに…来ましたね」
「ご主人様、何かいっぱい来たよ」
「う…遅かったか…」
どう見てもウィスラー魔王家からのお出迎え。
魔王家の馬車っぽいのと数十名の騎士達。
そして馬車に乗ってるのは恐らく…
「ジュン様ー!」
「う…やっぱり…」
馬車から降りて来たのは予想通りの人物。
例の肉食系女子の魔王女様だ。あの時はもう会う事もあるまいと思っていたのだが…こんなに早く再会する事になろうとは。
「ようこそ!ウィスラーへ!さぁ!早速私の部屋へ!そして子作りに励みましょう!」
「再会の挨拶としては最低ですね…マーヤさん」
「姫様、先ずは御連れの方々にも御挨拶を…それに此処は街中です。周りの眼も気にして下さい…」
「あ、いけない、私ったら。皆さん、ウィスラー魔王国第二魔王女マーヤ・ウィスラーです。以後お見知りおきを」
一緒に降りて来たマーヤさん付きの侍女さんは非常に困り顔だ。
騎士達は驚愕の顔をしている。彼女のこういう言動を眼にしたのは初めてなんだろうか?
「なるほどね。ジュンが避けたがるわけだわ」
「心配しないで、お兄ちゃん」
「ジュン様の貞操は私達が御守りします」
今回は皆が頼もしい。
今日はこのまま城に泊まる事になりそうだし…出来るだけ皆と一緒に居よう。
…それはそれで貞操が危うい気もするが。
「それにしても驚きました。まさかジュン様が我が国の悩みの種、アーマード・モス討伐をお引き受け下さるなんて」
「まぁ、少々事情がありまして。ところでマーヤさん、少し離れてくれませんか」
「照れる事ないじゃないですか。お茶会の時はもっと―――」
「姫様、ジュン様の御婚約者の前ですから。ジュン様が困ってらっしゃいます」
馬車に乗って城に向かう途中。
マーヤさんが強引にボクの隣に座って腕を組んで来た。
二の腕が幸せに包まれている。しかし、馬車の中は険悪なムード故に空気は最悪だ。
「随分、仲がいいみたいね?ジュン」
「マーヤさんはいつ、お兄ちゃんと知り合ったのかしら?」
「ついこの間です。シャンゼ・フレムリーラ様主催のお茶会にお招きされた時に。その時にひっじょーに仲良くさせていただいて」
「「ほっほう~」」
同じ馬車に乗ってるのはユウとアイのみなのだが…君達、ボクを護ってくれるんだよね?
視線で殺されそうななんだけど。そしてこの殺気の中平然としてるマーヤさんは中々の胆力…
「御二人はジュン様の御婚約者なのですよね?他にも大勢いらっしゃるとか。ぜひ私も御仲間に加わりたいものです」
「……言っておくけど!ジュンの婚約者になるのは並大抵じゃないのよ!」
「貴女もちょ~っと美人だけど!簡単になれると思わないように!」
そうなのだ。マーヤさんは美人なのだ。それも超が付く。
シャンゼ様やイーノさんと肩を並べる程の。
クーと同じ猫人族。黒髪のセミロングで黒猫を思わせる容姿。
スタイル抜群で色気のある超美人。
故にあまり強く拒絶出来ない…
「というかお兄ちゃんから離れなさい!」
「婚約者の前で堂々とイチャイチャし過ぎじゃない!?」
「この程度いいじゃないですか。私、ジュン様のファンなんです。私の部屋はジュン様の似顔絵でいっぱいなんですよ?」
「その部屋、居心地悪そうだなぁー」
そんな部屋に入ったら即、灰にするか吹き飛ばすかしてしまいそうだ。
少なくともエルムバーンの城にあったら即撤去だ。
「さぁ、城に着きましたよ。今夜は皆様の御来訪を祝して宴です。是非、ジュン様にお会いしたいと皆楽しみにして待っています」
「ああ、やっぱり。そういう流れなんですね」
依頼を受けると決めてから此処に到着するまで。
フレムリーラから出発して二日掛かった。
その二日の間にかなり集まってるんだろうなぁ…やだやだ。
「そんな不安そうな顔をして心配しなくても大丈夫です、ジュン様。我が国は美少年が多い事で有名ですが、美女も多いのです。幼女から熟女まで各タイプの女性を揃えていますので、きっとジュン様も御満足いただけるかと。勿論私も精一杯ジュン様の御相手をさせていただきます」
「何の心配をしてると思ったんです?あと、宴って食事をするだけですよね?いかがわしい宴じゃないですよね?」
不安だ、この肉食系魔王女…碌な宴を用意してなさそう。
いや、彼女は第二魔王女。国賓を歓迎する宴を取り仕切る立場には無い筈…
「勿論です。何せ今日の宴は私の仕切りで行われますので。必ずやジュン様に御満足頂けると確信しています」
「…何故?」
「はい?あ、ジュン様の事は以前からシャンゼ様から伺ってますし。噂もお聞きしています。ジュン様が聞いた通りの御方なら必ずご満足いただけるかと」
「そうじゃなくてですね。何故マーヤさんの仕切りなんです?」
「ああ!何故魔王である父ではなく、第二魔王女の私が宴を仕切るのか、という事ですね?そろそろ私もそういう仕事を覚えるようにと、以前から父と母から言われてまして。次の宴の仕切りは私、と決まっていたのです。まさかジュン様を招いた宴になるとは父と母も予想してませんでしたが」
そこは予定変更して欲しかったなー…しかし、彼女に宴の仕切りを任せるなんて…チャレンジャー過ぎないだろうか。
「さぁさ、中へどうぞ」
「はい…」
…ま、あくまで歓迎の宴だ。美女が揃っていようと宴は宴。
まさかセイレン魔王国の宴を超えるような宴ではないだろう。
アイ達も一緒だし…多分きっと大丈夫…だと思う。




