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第512話 未知との遭遇 5

『主…何処まで行くんだ?もうずっと海しか見えないぞ…』


「ですね…」


 洞窟を出て三日。

ボクは蛇の姿に戻ったリヴァさんの背中に乗って、ムーの民先導で海を進んでいた。

まだ海中では無く、背中を海上に出したまま移動してもらっている。

最初っから【クラミツハ】の力で海中を進めば、恐らくボクは途中で力尽きる。

というか三日過ぎた今となっては確実だ。


 そして退屈…海上の移動は夜になれば転移で帰って朝になれば転移で戻って移動を再開といういつもの手段が使えない。

更に船での移動じゃないので食事も簡素だ。

魔法の袋に入れてある非常食とフルーツの類しか食べて無い。

ムーの民が魚を獲ってくれたが調味料の類を用意して無かったので食べられず。セバストの存在が如何に重要で大切なのか再認識させられる三日間だった。


「まもなくムーの街、直上で御座います!」


「もう少しです!リヴァイアサン様!」


『えー…本当に?でも退屈だよー』


「ならば私がムーに伝わるタコ踊りを披露して御覧にいれます!」


「無理しなくていいですよー」


 先程からリヴァさんにバカ丁寧な対応をしているのはムーの戦士ではなく。

ハーディン陛下とレムリアさんだ。


「無理などしておりません!ジュン様も御照覧あれ!」


「貴方達も踊りなさい!」


「「「はっ!光栄です!」」」


 彼らのこの急激な態度の変化には理由がある。

リヴァさんの真の姿を見て、名前を知ったからだ。

何でもムーに伝わる伝説…いや伝承の類か。

ムーの民が崇める神はポセイドンらしい。

これはまあ…解らなくもない。

現代地球でもポセイドンは海の神として有名だったし。


 そして、そのポセイドンの使いとしてムーの民に伝わる伝承の中に巨大な蛇の姿を持つ者、リヴァイアサンという名前が登場する。

何でも、ムーの民が危機に陥った際、巫女が願えばリヴァイアサンが救世主を連れてやって来ると言う伝承があるのだとか。


 更にリヴァさんの姿は以前の蛇の姿とは少し違う。

鱗の色は水色になり、背鰭や胸鰭がある。蛇と言うより海竜と言った方が近いかもしれない。

これは言うなれば水中モードらしい。

陸上や空を飛ぶ時は以前の蛇の姿で、あの姿の時をレヴィアタン。

今の海竜の姿の時をリヴァイアサンと呼ぶそうだ。

神様に力の使い方を教わって初めて出来るようになったらしいが、ボクも知らされてなかったので、ムーの民と同じように驚いてしまった。


 そして、ムーの民はそのリヴァイアサンが主と呼ぶボクを救世主扱い、中にはポセイドン様の化身に違いないとまで言う者までいる。

ボク達に最初から不遜な態度だったレムリアさんまでもが神様と神様の使いとして崇めてくる始末。

実にむず痒い。

というか、ムーを襲った魔獣の正体を知ってる身としては罪悪感でいっぱいだ。

悪質過ぎるマッチポンプ。


「あ、はい!はいはいはいはい♪」


「「「「「はいはいはいはい♪」」」」」


 ボク達を神の如き存在として再認識したハーディン陛下達はボク達を退屈させまいと、それはもう必死に踊っている。

上手いのか下手なのかは判らないが、必死なのは判る。

因みに彼らは全長三十メートルはあろかという鯨型の魔獣、一角の背に乗っている。

一本の角が生えた巨大な鯨で王家秘蔵の騎獣だとか。


 そんな鯨の背で必死に踊る下半身がタコなムーの民達。

どうしよう、笑っちゃいそう。だって何かオタ芸みたいなんだもの。

だが此処で笑うのは…


『アハハ!変な踊りだなぁ!』


 空気呼んでー!其処はせめて面白いと評価して下さい、リヴァさん!


「おお!リヴァイアサン様に喜んで頂けたようで何より!恐悦至極で御座います!それでは続きましてはムーに伝わる物語『タコと亀の愛語り』を!」


「陛下!ムーの街、直上に到着しました!」


「む?そうか…残念ですがリヴァイアサン様、ジュン様。此処からは海中に潜ります。『タコと亀の愛語り』は次の機会に」


『ああ!楽しみにしてるぞ!』


「ははは…」


 次の機会とかあるんでしょうか。

でもちょっと気になるな『タコと亀の愛語り』。


『じゃあ、行くぞ?主』


「はい。頼みます」


 此処からはボクも【クラミツハ】を使用する。

身体全体を薄い膜が包み、海中に沈んで行く。

息もできるし、身体が濡れてもいない。

動いても海水の抵抗を感じない。

陸上での動きとなんら変わらないように思える。

これなら何の問題も無く行けそうだ。

流石は神様の祝福を受けし武具。超便利。


『主ー大丈夫かー?』


「大丈夫、問題無いですよ」


 ボクはリヴァさんにしがみつきながら足を下にし、ほぼ垂直に沈んで行ってる。幾ら海中でも【クラミツハ】で陸上とそう変わらない状態でいる以上、頭を下にして沈んで行くと頭に血が上りそうだったから。


「魔獣も鮫も居ませんね。この辺りは大型の魔獣が多数生息すると聞いていたんですが」


「居るには居ますよ。あちらを御覧ください」


 ハーディン陛下に言われた方向を見ると、いつぞやの亀型の魔獣が。

だがボク達から離れて行く。というより逃げてる?


「リヴァイアサン様に恐れを為して逃げているのです。一角でもこの辺りの魔獣は蹂躙出来ますし…ムーに着くまで襲って来る魔獣は現れ無いでしょう」


 そりゃそうか。

あの亀型魔獣も相当デカいけど、リヴァさんや一角に比べたら小さい。

自分よりデカくて強い相手に挑むなんて事はしないだろう。

そういえば此処まで全く魔獣に襲われ無かったし。


「真っ暗ですね」


 海中に潜ってほんの数十秒で真っ暗になっていたが。

今どの位潜ったのかは解らないが、もはや太陽の光は全く届いて無い。

魔法で灯りを点けてようやく数十メートル先が見渡せる程度だ。


「そうでしょうか?確かに地上に比べると暗いですが、我々には充分な明るさです」


『Meも普通に見えるぞ!』


「そうなんだ…」


 流石は海底人と言ったとこか。

というか、最初から気になってたけどハーディン陛下の声が普通に聞こえるのは何でだろう?

謎だ…


「後どの位でしょう?」


「もう間もなくです!」


「見えて来ました!アレです!」


 潜り始めて二十分ほど。

上を見ても太陽の光はもう見えない。

体感で二千メートルは潜ったのだろうか?

或いはもっと短い距離しか潜って無いのか。はたまた実は倍以上潜ったのか。それは解らないが…どうやら目的地に着いたらしい。


「アレがムーの街?」


「はい。我らの故郷。ムーです」


 ムーの街はなんと言うか…岩山の密集地帯とでも言うべきか。

ボクはこう…海中に沈んだ街みたいな光景を想像していたのだが。

どうやらムーの街は海底の山に横穴を掘り、そこを家としてるらしい。

植物も無いし、殺風景な街だ。

だが灯りがある。至る所にチョウチンアンコウに付いてるような灯りが有り、街中は思ってたより明るい。


 そして一際大きい山。アレが王家が住む城だそうだ。

他の山とは違い、全体を削っており、何となく地上にある城に似た形になっている気がする。

そしてその城の横に巨大な魔獣。

アレが問題の魔獣で間違い無いだろう。


「奴め…我が城で何を…」


「もしかして中に卵を産み付けでいるのでは?お父様」


 だとしたら拙い。あんなのが増えたらどうなる事やら。

一匹しかいないが、単体で繁殖能力があるのかは疑問だが。

というか…


「(リヴァさん。アレで間違いありませんか?)」


『(うん…間違い無いと思う…)』


 やはりリヴァさんが助けた奴で間違い無いらしい。

しかし、なるほど。貝とイカが合体したような魔獣ね。

確かにその通りの姿だが、ボクはアレを何て名前なのか知ってる。

少なくとも現代地球ではアレはこういう名前だった。


 アンモナイト…それがあの魔獣の元となった存在の名前だ。

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