第298話 戦乱 15
「ジュン殿…貴殿には本当に迷惑を掛けるな…」
「いえ…ボクの方こそ力及ばず…テオさんを…」
「ジュンちゃんが責任を感じる事何て、何も無いわ。全ては私達の責任。テオも…リュバーンの者達も良くやってくれたわ」
リュバーンの奪還が成功し、少し落ち着いてからユーグ陛下とアンナさんを迎えに来ていた。
テオさんの事は既に二人も知っている。
だけど、努めて平静を保ち王族としての仕事を果たさねばならない。
二人も辛いだろう。
特にテオさんと幼馴染だったアンナさんは。
「お兄ちゃん…大丈夫?」
「うん…ユウは休めた?」
「私は大丈夫。…アイシス達は?」
「リュバーンで働いてるよ。皆も一緒に。…動いてなきゃ辛いんだろうな」
「そっか…じゃ、私もリュバーンで働くよ」
「うん。じゃぁ行きましょう、ユーグ陛下、アンナさん。護衛の方はいいんですね?」
「うむ。ジュン殿も疲れているのに、すまないな」
「御願いね、ジュンちゃん」
ユーグ陛下達を連れて再びリュバーンへ。
捕虜や死体の処理。物資の運搬等。
まだやる事は山積みのようだ。
騎士団や守備隊だけで無く、リュバーンの住民も懸命に働いている。
…辛いモノを見ないように、辛いモノを思い出さないように。
「陛下…アンナ様」
「ランスロットか…リュバーンの奪還、大儀であった」
「はっ…しかし…」
「うむ。解っておる。案内いたせ」
「はっ」
丁度転移した先に居たランスロットさんの出迎えを受けてから中央広場へ。
中央広場にはまだ…テオさんの遺体がある。
中央広場には人の輪が有った。
リュバーンの住民達の中でもテオさんと親交の深かった人。
テオさんの部下だった文官達。
そしてテオさんの遺体の傍には一人の女性。
皆、テオさんの死を悲しみ涙を流していた。
「あっ…」
「…陛下…アンナ様…」
「陛下、アンナ様。わざわざご足労頂き、感謝します」
「アイシス…バルトハルト…アロイス。すまない。全ては余の不徳が招いた事態だ。お前達には…本当に…」
「ごめんね…アイシスちゃん。バルトハルトさんにアロイスも…本当に…」
「いえ…陛下とアンナ様に責任など…悪いのは小国同盟の連中です」
「そうです。さぁ、アンナ様も…いや、アンナもテオに会ってやってくれ」
「……ええ。ユーグ、テオに会いに行きましょ」
「うむ…すまない、皆。道を開けてくれ」
人の輪を開けて中心にいるテオさんの下へ。
テオさんの傍で泣いている女性はユーグ陛下達に気が付かないのか、立ち上がる様子が無い。
「…バルト、あの者は?」
「ノール子爵家の末娘でリュバーンの代官補佐です」
「私の妻、フルールの姪です。リュバーンの情報を私に送った功労者です」
という事は…アイシスの従姉か。
テオさんとは血の繋がりは無い、筈だけど…誰よりも悲しんでいるように見える。
「彼女は…マリーはテオの妻にどうか、とフルールの薦めもあって代官補佐に任じたのです。お互いにそのつもりは無いと聞いていたのですが…どうも、それはテオだけだったようです」
そういう事か…出会った当初はお互いにそのつもりは無かったのかもしれない。
でも一緒に過ごす内に、マリーさんの中では変化が有ったんだろうな。
そう言えば、テオさんは代官補佐が優秀だと褒めていたな…
「そうか…マリー・ノール。面を上げよ」
「………へ、陛下?」
「リュバーンの情報をアロイスに届けたそうだな?大儀であった。お前の働きにより、リュバーンは奪還出来た。後に褒美を取らせよう」
「い、いえ…私は…全てテオ様の指示に従った…だけで…テオ様に守られただけで…」
「守られた?」
「陛下、自分はリュバーン守備隊隊長であります。テオ様は守備隊を潜伏させるだけでなく…文官の女連中にも潜伏するように指示を出しました。そして…一度は自分が見せしめの処刑される役に選ばれたのですが…テオ殿が身代わりに…」
「…そうか。お前も辛い立場だな…」
「…テオは自分から身代わりに?」
「…はい」
「そう…テオらしい…」
自分から身代わりに…誰にでも出来る事じゃない。
そりゃ、戦争中なんだから守備隊長が居なくなったら困る。
でもだからって…
「あ、アロイス様…これを」
「これは…」
「テオ様が…捕虜となる前に私に預けた物です。高価な物だから奪われないようにと…」
「これが…高価な物?…うふふ…貴女、騙されてるわよ?」
「え?」
「だってそれ、子供の頃にフルールがテオの誕生日にあげた物だもの。子供のプレゼントよ?いくら貴族の娘だからって、そんなに高価な物じゃないわ。大体、見ればわかるでしょ?」
「え?で、でも…」
マリーさんがテオさんから預かったという物は確かに高価な物には見えない。
少し色のくすんだ、安物の銀の腕輪に見える。
「それ、テオ叔父さんが大切にしてた腕輪だ…お母さんがあげた腕輪だったんだ…」
「そうなの?もう三十年くらい前の品なのよ?…でも確かに傷も少ないし、大切に扱ってたみたいね」
「はい…僕、一度その腕輪を叔父さんに頂戴って強請った事があって…でも叔父さんは『これは大事な物だから、いくらアイシスでもあげれないんだ。ごめんな』って…」
「…そう」
「…テオ、お前…」
もしかして、テオさんはフルールさんの事が…そっか、それで結婚しなかったのか…
「…マリー、その腕輪はお前が持っててくれ」
「え?…よろしいのですか、アロイス様」
「ああ。テオはお前に預けたのだろう?なら、お前が持っててくれ」
「はい…ありがとうございます…」
「アイシスも構わないな?」
「…うん」
「アロイス様、代官様の部屋にはまだ私物が残されています。遺品となる品はそこから…」
「うむ。だがそれは後だ。他にもまだすべき事はある。さしあたっては部隊の再編成。偵察もせねばな」
「ユーグ、私達も仕事をしましょ」
「うむ。…テオ・ノーヴァ、大儀であった!さらばだ!」
「…じゃあね、テオ。またいつか会いましょ」
ユーグ陛下とアンナさんは、リュバーンを護った騎士や守備隊を労いに。
アロイスさんは部隊の再編成。
バルトハルトさんはアロイスさんの手伝いに。
アイシスとセリアさんはボク達と一緒に休んでおくように言われた。
親衛隊も同様だ。ユウは働こうとしたが、アンナさんに止められていた。
流石に親衛隊全員を連れて転移で戻る魔力はもう無いので、親衛隊は兵舎を借り、ボク達は空地にマジックハウスを出して休む事になった。
「アイシスは?」
「…部屋に籠ってる。セリアも一緒」
「動いてる時は考えずに済むけど…ジッとしてると思い出しちゃうもんね。暫くは仕方ないんじゃないかな」
「そうだな…」
ボクとユウも、前世の両親が亡くなった時にそうだった。
今はそっとしておこう。
「ジュン様もお休みください。何かあっても私達で対応出来ますから」
「そうだぜ。体調は大分戻ったみたいだが、魔力はまだ回復してないんだろう?また転移であっちこっちといく羽目になるだろうし、早目に回復させた方がいい」
「うん。あ、そうだ。休ませてもらう前にあの蛇の事だけど。今はエルムバーンの城に居るから」
「「「……は?」」」
「あ、やっぱ連れ帰ったんだ?」
「うん。放置するわけにもいかないしね」
「…う~ん…蛇の姿のままで?」
「いや、人の姿になってもらったよ。流石に蛇の姿のままじゃ厳しい。急いでたから、ティナ達に預けっぱなしで、今頃どうなってるかちょっと不安だけど」
「そっかー。蛇の姿じゃないなら、ウチはいいけどー」
「そうね、蛇じゃないなら大丈夫なんじゃない?」
「いや…いやいやいや、待て、待ってくれ。ジュン様はともかく、アイ様とユウ様まで、どうしてそんなに落ち着いてるんだ?」
「そ、そうですよ!あの蛇…何でしたっけ…レヴィアタン?あんなデッカいのが城にいるんでしょ!?」
「あんなのが城に居たんじゃ…ヴェルリアが戦争でどうにかなる前にエルムバーンが滅んじゃいますぅ!」
事情を知らないシャクティとリリーの動揺は解るが…ボクはともかくってどういう意味だ、セバスト。
「ああ~…大丈夫大丈夫。そこらへんはジュンが上手い事やったから」
「そうそう。お兄ちゃんの事だし、そこらへんは上手い事やってるよ」
「そ、そうなんですか?」
「でも、確かに…ジュン様なら何とかしてしまいそうです」
雑な誤魔化し方だな…まぁいいけどさ。
「落ち着いたら一度城に戻って紹介するよ。石碑にあった通り、悪い子じゃなかったから、心配しなくていいよ。それじゃ少し休ませてもらうね」
「は、はぁ…」
「お、御休みなさいませ」
まだ、リュバーンの危機は完全には去っていない。
一万の軍が敵の第一陣に過ぎないとしたら、次がある筈。
少なくとも一万の兵でリュバーンを保持し続けるのは無理がある。
なら第二陣がもうすぐ来る筈。
その時の為に少しでも魔力を回復させておかないと…




