第297話 戦乱 14
「行くぞ!卑劣な侵略者共を生かして帰すな!」
「「「「うおぉぉぉ!」」」」
リュバーン内の戦闘が終わって直ぐ。
捕虜の監視に最低限の人員を残し、アロイス・ノーヴァ伯爵率いる軍と戦闘中の敵兵を背後から挟撃する為、打って出た。
守備隊と騎士団の混成軍をランスロットさんが指揮。背後から敵が来るとは思ってなかったのか、敵の守備は前面に集中していて背後からの急襲に脆くも崩れ去っていく。
「ジュン様、我々は如何しますか」
「ランスロットさんが言ってたように、敵兵がリュバーンに逃げ込まないよう、親衛隊は此処で待機。但し…左右に展開してる二匹のドラゴンはボク達で仕留める」
「…ジュン様が戦われずとも親衛隊にお任せくだされば…レッサードラゴン如き、直ぐさま倒して見せます」
「うん、ありがとう。でも、ボクも少し暴れたい気分なんだ」
「…承知しました。お気を付けて」
「うん」
「僕達は行くね、ジュン」
「私怨で戦争をするなど、言語道断ですが、今は…」
「二人が行くなら、私も」
「…止めないよ。気を付けてね」
今の三人は止めても無駄だろうし、止めるつもりも無い。
「さて、と…ボクは左のドラゴンを」
「ジュン様はまだ本調子ではないでしょうから、私もお供します」
「じゃあオレも左だな」
「じゃあウチは右」
「お待ち下さい、アイ様」
「右は私達に譲って頂けませんか」
「ん…仕方ないね。ウチはさっきやったしね」
「「有難う御座います」」
右はボク・ノエラ・セバスト。
左はクリステアとルチーナが担当する。
二人も…いや、皆テオさんを救えなかった事に、思う所があるのだろう。
「既にドラゴンがいる辺りも混戦状態だけど、囲まれないように注意。ドラゴンを仕留めたら速やかに退がる事」
「「「はい!」」
行動を開始する。
混戦状態でドラゴンブレスなんて撃たせないと思うけど…それは奴らがドラゴンを完全に支配していれば、の話。
レッサードラゴンを半端に追い詰めれば…
「ジュン様!左のドラゴンが!」
「! クリステア!ルチーナ!」
ドラゴンブレスの体勢!?
二人は間に合わない!魔法…間に合うか!?
「おっと?」
「リリーですね」
「あの距離でピンポイント射撃か。やるもんだ」
リリーの魔法弓がドラゴンの眼を貫いた。
数百メートルは離れてるのに、スコープも無しにリリーは当てて見せた。
後で褒めてあげなきゃ。
「さて…お前も操られてるんだとしたら、可哀そうな存在だとは思うが…倒させてもらうよ」
『グギャオォォォォ!!!』
「ジュン様、周りの兵は私達が」
「さっさと済ませて戻ろう。戦場…それも最前線に主がいるのは気が気でない」
「そうだね」
セバストの言う通りだと思うので、サクっと済ませよう。
『天地剣の紋章』を使用し、両手で剣を一振りずつ振るう。
『グ?ガ…』
ドラゴンは自分がいつ斬られたのかも解らなかったろう。
一瞬でドラゴンは細切れだ。
「ふぅ…」
「お見事です、ジュン様」
「まだ本調子じゃないんだろ?それでコレだもんな」
「ありがと。さて、向こうは?」
「無事倒せたようですね」
「そうか…じゃあ戻ろう」
ドラゴンを倒した事で敵の陣形は完全に崩壊。
前と後を完全に囲まれ、敵軍はほぼ殲滅された。
生き残った敵兵はほんの僅か。
投降した魔獣兵ではない、通常の兵士約五百名のみ。
全ての魔獣兵は投稿する事無く、死ぬまで戦ったという。
その為、ヴェルリア側にも多くの死傷者が出た。
後方からの攻撃となった騎士団と守備隊の混成軍は凡そ二千五百名の内、約三百名が死傷。
正面から攻撃を仕掛けていたアロイスさん率いるノーヴァ伯爵軍は他領からの増援も含めて一万五千。
その内約二千名が死傷。
まだ息が有る者はボクの治癒魔法で何とか救えたけど…それでも二千名を超える死者が出た。
「ジュン…」
「アイシス…バルトハルトさん…セリアさん…三人共怪我は?」
「無いよ。全部返り血」
「私もです。ジュン殿」
「……私も」
「そう……」
アイシスとバルトハルトさんの二人は…返り血で真っ赤だ。
二人の戦いの凄まじさが、それだけで窺える。
「パパ…アイシス…」
「あ…お父さん…」
「アロイス…」
「テオの事は…さっき聞いた」
「そうか…」
「お父さん…テオ叔父さんが…叔父さんが…死んじゃったよう…」
「アイシス…今は好きなだけ泣いていい。だが明日には何時ものお前に戻るんだ」
「え…」
「! アロイスさん、それは…!」
「セリアか。お前もテオの死を悲しみ、それでも尚アイシスとパパを支えてくれて、感謝する。だが、アイシスは貴族であり、騎士の子。テオもまたそうだ。そしてこの戦いで大勢死んだ。皆、リュバーンを国を護る為に。そして生き残った者には…し、死んだ者の為にも…くっ…」
「お父さん…」
「アロイス…そうだな、その通りだ。まさかお前に教えられるとはな。私も年を取ったというモノだ」
「ん…私も明日にはいつも通りになる」
アロイスさんも決して悲しくないわけじゃない。
悲しくないわけが無い。ただ必死に耐えているだけだ。
あの人だって…テオさんは大事な家族だったのだから…
「ジュン殿…御助力を感謝します」
「アロイスさん…ボクの…いえ…ボク達の…いえ…」
言葉が見つからない。
アイシスには偉そうな事を言った。
でも、自分で前を向いて立ち直ろうとしてるアロイスさんに掛ける言葉が…ボクには見つからない。
アロイスさんはそんなボクを見て、首を横に振った。
「気にしないで…というのは無理でしょうな。ですがジュン殿には何の責任もありません。むしろジュン殿達がいなければリュバーンはどうなっていた事か…ジュン殿には功績こそあれど、落ち度も責任も無い。そうだろう?アイシス」
「うん。…ごめんね、ジュン。さっきは無理言って困らせて…」
「ううん…」
「それで、ジュン殿。陛下とアンナ様からの伝言です。落ち着いたら、一度戻ってリュバーンに連れて行って欲しいと。陛下自ら、リュバーンを護った者達へお言葉を掛けてくださるそうです」
「…わかりました」
ユーグ陛下はどんな言葉を掛けるんだろう?
ボクもいつか、ユーグ陛下と同じように街を護って戦い、傷つき、家族や仲間を失った者達に声を掛ける日が来るのだろうか?
例えば、今日。親衛隊の誰かが死んでたとしたら。
ボクは遺族に何て言えばいいんだろう。
解らない。
ただ、そんな時は来ないで欲しい。
戦争に参加させてるのに…矛盾しているのは自覚している。
それでも…
「兎に角、リュバーンに入りましょう。敵の増援がいつ来るかもしれない」
「はい」
そうだ、今は…前を向こう。
テオさんが護った街を、ボク達も護ったのだと、胸を張って。




