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第294話 戦乱 11

「テオ叔父さん…ジュン!今すぐ僕をリュバーンに連れて行って!」


「待て!落ち着け、アイシス!」


「だって、カタリナ!」


「…殿下の言う通りだ、落ち着け!敵兵は一万!我々だけで向かってもテオを…リュバーンの住民を救う事は出来ん!兵力も作戦も無しに強硬策を取ることは出来んのだ!」


 アイシスには悪いけど…バルトハルトさんに同意だ。

敵軍は言うなればリュバーンを丸ごと人質に取ったようなモノ。

そこへボクとアイシスだけで行った処で…本当は誰よりも、バルトハルトさんが飛び出して行きたいのだと思うけど…


「そうよ、アイシスちゃん。テオを救いたいなら…今は我慢して。貴方、伝達は以上で終わり?」


「いえ。リュバーンに常駐してる守備隊はほぼ無傷。何時でもこちらの援軍の動きに合わせて蜂起が可能という事です」


「どういう事だ?敵軍に占拠されたなら、守備隊が自由に動けるわけが無かろう」


「それが…代官であるテオ・ノーヴァは敵軍が砦を突破し、一万の大軍でリュバーンに向かってると気付くと、守備隊を住民に化けさせ、潜伏させた後、降伏したそうです。三千いる守備隊の内、捕虜となったのは五百と代官補佐等を含む、文官達のみ。街の防衛設備もほぼ無傷だそうです」


「テオ…流石ね。やってくれたわ」


「…そうだな。流石は武家の名門、ノーヴァ伯爵家の男だ」


「どういう事です?」


「もし徹底抗戦をして、リュバーンで防衛戦を行ったとしたら?住民に多くの犠牲が出たでしょうし、今後防衛拠点として使えなくなる。それは今後の小国同盟との戦いに於いて大きな痛手となった筈。でもテオの機転の御蔭で守備隊も住民も無事だった。後は取り返すだけよ」


「でも…それってリュバーンを無事に取り戻せたらの話ですよね?」


「必ず奪還するわ。テオは私達ならそれが出来ると信じてるのよ。必ず取り返す」


「テオ叔父さん…」


「……」


 あの人、やっぱり無能なんかじゃなくキレ者だったんだな。

そして勇敢な人だ。自分の身が危険に晒されるのは明らかだったろうに。


「それで、他には?」


「はっ。敵軍はリュバーンの北に陣地を構築。アロイス・ノーヴァ伯爵様率いる軍と睨み合っている、と」


「陣地にいる敵軍の数は?」


「凡そ七千、と」


 という事は…敵に増援が来てなければ街の中に残ってる敵軍は凡そ三千。

リュバーンの守備隊と協力出来れば…


「なら、ボクが誰かと一緒にリュバーンへ転移で潜入します。そして潜伏してる守備隊と接触。タイミングを合わせてアロイスさんに攻撃を開始してもらえば何とかなるでしょう」


「ダメよ。それだけじゃ恐らく守備隊は壊滅するわ」


「何故です?潜伏してる守備隊は二千五百。相手は凡そ三千。確かに数の上では不利ですが。奇襲を掛ければ…」


「忘れたの?敵軍の兵は例の魔獣兵。普通の兵士よりずっと強いのよ?どれだけの数の魔獣兵が居るかはわからないけど…最悪一万の敵兵全てが魔獣兵だと想定しておくべきよ」


「う……」


 そうか、敵兵は魔獣兵…確かに守備隊だけじゃ危険か。


「ジュン殿。ジュン殿の転移魔法は一度に何人連れて行けるのだ?」


「二十人ちょっとです。あ、いや…全力で紋章の力を使用すれば、今ならもっと行けると思います」


 全力…『魔神王の紋章』を使用すれば。

恐らく千人くらいは一気に転移出来るんじゃなかろうか。

ただ、レヴィアタンとの戦いで危なかったし、出来ればアフロディーテ様が問題を解決する道具を送ってくれるまで待ちたいけど…そうも言ってられないか、今は。


「……なら空間魔法を補助する大魔法陣を大急ぎで構築させるわ。それがあればどうかしら?どのくらいの人数を転移させられる?」


 空間魔法を補助する大魔法陣?

エルムバーンとフレムリーラ、ダルムダットを繋ぐ転移魔法陣のような物か。


「そうですね…その魔法陣の効果次第ですけど…千五百…いえ、二千くらいはどうにか」


「二千…それと守備隊を合わせれば何とかなるよ!僕が行くんだし!」


「当然、ジュン様が行くのであれば我々親衛隊も行きます。今度こそ、ジュン様だけに危険な真似はさせません」


「ならジュンちゃんの親衛隊とアイシスちゃんやノエラちゃん達も含めたら約800名程よね?…ランスロット。第一騎士団から千二百名を選出。ジュンちゃんに付いて、リュバーンを奪還しなさい」


「はっ!必ずや!」


「頼んだわよ。ユーグもそれでいい?」


「うむ。すまんな、ジュン殿。また貴殿に頼ってしまって」


「ボクもテオさんを死なせたくはありませんから。ただ…恐らく二千人も一気に転移させたら、ボクは魔力切れになります。魔力回復薬なんかである程度回復出来るでしょうけど…ボクは戦力外になると思ってください。帰りも転移で騎士団を連れ帰る事は出来ませんよ?」


 完全な魔力切れを起こすと、体調にも影響が出る。

ゲームみたいにMPが切れたら武器で戦うとは行かないのだ。


「わかったわ。ランスロット、ジュンちゃんは確実に守るように。いいわね?」


「はっ!」


「では、皆、準備に入って。大魔法陣の構築には時間が掛かるわ。なるべく早く終わらせるけど…ジュンちゃん達は自分達の準備が終わったら休んでいて。あとの細かい事はこっちでやっておくから」


「はい」


 それから皆が待ってる部屋に戻り、状況と会議の内容を説明。準備に入る。


「それにしても、アンナさんはテオさんをよく知ってるような口ぶりでしたね?」


「ああ…アンナお母様はテオ・ノーヴァとは友人…幼馴染なんだ」


「え?そうだったんですか?」


「はい。アンナ様は元ボルドー侯爵家令嬢。王都のノーヴァ伯爵家の屋敷の隣がボルドー侯爵家の屋敷でして。テオとアロイスとは年も近く、よく遊んでおりました」


「因みにお母さんは元ノール子爵令嬢。子供の頃は四人でよく遊んだんだってさ」


「大人になってからはそれぞれの家庭と仕事があって、中々会えてないみたいだけどね」


 一見、普通に話してるように見えるが…アイシスもバルトハルトさんも。

表情に余裕は無い。大魔法陣の構築を今か今かと、早く早くと待ちわびているのだろう。

二人共、ギュッと剣を握ったままだ。


「…長いですね。大魔法陣の構築ってどれ位掛かるんですか?」


「わからん。だが…小さな魔法陣の構築にも数時間掛かると聞いた。大魔法陣の構築となると…誰かに確認に行かせよう。おい」


 会議が終わって約二時間。

もう日付も変わって、深夜1時過ぎ。

夜襲になるかと、覚悟していたんだが…


「…そうか、ご苦労。…このままだと後十時間は掛かるそうだ」


「そんな…それで間に合うの!?」


「…わからん。いつ処刑するのかは分からんのだ。明日かもしれんし、ひょっとしたら…いや、すまん。何でも無い…」


 ひょっとしたらもう処刑されたかもしれない。そう言おうとして、カタリナさんは言葉を止めたのだろう。

後十時間…正午頃か。


「カタリナさん、何か手段は無いんですか?魔法陣構築に掛かる時間を短縮する…」


「既にやっている。ヴェルリアの魔法陣の専門家を総動員して、アンナお母様の陣頭指揮の下に休憩無しで働いてようやくその時間になるそうだ。本来なら三日は掛かる作業らしい」


「アンナお母様は何だかんだで天才だもんね…これ以上短縮したいならアンナお母様以上の天才を連れて来るしかないわ」


「天才…」


 うちの天才はソファーで寝ている。

ユウは前世から、朝も弱いが夜も弱い。

テスト前も受験生の時も、夜更かししたりしなかった。

それでも常にトップだったが。

今こそ、その天才の力が必要な時かもしれない。


「というわけで、寝ている所悪いけど…起きてユウ」


「ふにゃ?にゃに?出発しゅるの?」


 我が妹ながら可愛いな、おい。

いや、それよりも、だ。


「違うんだ。悪いんだけど、ユウに頑張って欲しいんだ。大魔法陣の構築が間に合わないかもしれないんだ。そこで、天才で自慢の妹ユウに何とかして欲しいんだ」


「え~…御褒美は?御褒美はありゅ?」


「…ユウが以前欲しがってた指輪を買ってあげる」


「…もう一声」


「…何が欲しいの?」


「…一週間添い寝権」


「……了解」


「うふっ…うふふ…うふふふふふ」


 何だろう。

ユウから人類最終決戦兵器が発進するようなBGMが聞こえる気がする。眼も怪しく光ったような…


「まっかせて!リュバーンの人々を救うため!尽力を惜しまないよ!それでは行って来ます!」


「あ、うん。が、頑張って!」


 ユウから地球を救うため宇宙の彼方まで旅立つ船のような逞しさを感じる。


 スイッチが入ったユウは凄いからな。

前世では御褒美をエサに、全国模試を本気でやらせたら本当に全国一位を取ってしまったし。


「ユウはどうしたんだ?」


「魔法陣構築の手伝いを頼みました。ユウなら多分、時間を短縮してくれるでしょう。その代わり、リュバーン奪還には参加出来ないでしょうけど」


「そうか…」


「お願い、ユウ…頑張って…!」


 ユウの頑張りもあって。

魔方陣構築の時間を二時間以上短縮。

朝には出発可能になった。


 ボク達は既に魔法陣の上。

ヴェルリアの騎士団も一緒だ。


「もうすぐ完成するよ、お兄ちゃん」


「ご苦労様。ユウは休んでていいからね」


「うん。そうする。流石に疲れたし…」


「感謝します、ユウ殿」


「ありがとう、ユウ」


「気にしないで。私も、知ってる人を死なせたくは無いし」


 そうだな…ボクもそう思う。

だから…だからこそ…


「ジュン様、間もなく作業が終わるようです」


「うん。それじゃ…皆!聞いて欲しい!ボク達は今からリュバーン奪還に向かう!相手は魔獣じゃなく、軍だ!殺し合いになる!犠牲が出るかもしれない!でもあえて命令させてもらう!死ぬな!誰一人として死ぬ事は許さない!いいな!命令したぞ!」


「「「「はい!!」」」」


 もう相手を殺すなとは言わない。

それよりも皆に生きていて欲しい。

言葉は悪いかもしれないけど、リュバーンの住民やテオさんを救うために、皆が死んだら意味が無いんだ。

少なくとも、ボクにとっては。


「ジュンちゃん!完成したわ!行って!ぶっつけ本番で悪いけど、リュバーンをお願い!」


「はい、行きます!」


 紋章の力を使用し、全力で転移魔法を使用する。

二千人を一気に転移させるのは初めてだが…やってみせる!


「ついた!?」


「ここは…リュバーンの中央通りだ!」


 何とか成功したが…体が重い…やっぱり魔力が切れたな…


「あ、あれ見て!」


「テオ叔父さん!?」


「! ランスロット!」


「はっ!総員、攻撃を開始せよ!」


 アイが指差した方向はリュバーンの中央広場。

そこで今まさに、ギロチンに掛けられようとしているテオさんの姿が見えた。

アイシスとバルトハルトさんが駆け出し、セリアさんが続く。


 敵兵が突然現れたボク達に気付いて騒ぎ出すが、驚きで対応出来ていない。

奇襲は成功だ。

だけど…遠い。

テオさんまでの距離が。


「テオ叔父さん!今、今行くから!」


「テオー!」


 テオさんの下へ走ろうとするアイシスとバルトハルトさんの前には敵兵が立ちはだかる。その姿は二人にはどう見えたんだろう。


「邪魔しないで!」


「邪魔だ!どけい!」


 テオさんの隣にいる敵の指揮官と思しき男は…アイシスとバルトハルトさんを見て慌てだし、無情にも命令を下した。


「ま、待って!止めてー!!」


「止めろぉぉぉぉぉ!!!」


 敵指揮官の手が振り下ろされる直前。

アイシスとバルトハルトさんの姿を見たテオさんは何かを呟いた後…嬉しそうに笑っていた。

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