第293話 戦乱 10
「リュバーンが…テオ叔父さん!」
「待った、アイシス。何処に行くの」
「決まってるでしょ!叔父さんを助けに行かないと!」
「それならボクの転移魔法で行く方が早いでしょ。それに水着のままで行くつもり?」
「あ…」
「アイシスちゃん、落ち着いて。相手は軍隊なのよ?アイシスちゃん一人で行っても何にもならないわ」
そうだ、相手は軍隊。
街を奪還しなければならないし、助けなきゃいけない人がいる以上、無茶な事は出来ない。
しかし…仕掛けていたのは西側だけじゃなかったか。
西と南、同時侵攻か。
「兎に角、皆着替えなさい。会議を開くから、その恰好じゃ出れないでしょ?ジュンちゃんも会議に出て欲しいの」
「ボクもですか?」
「ええ。リュバーンの奪還に親衛隊の力を貸して欲しいの。レヴィアタンを何とかしてもらって、帰って来たばかりなのに申し訳ないんだけど…」
「…わかりました」
遂に、皆に戦争を…人殺しをさせる事になってしまう、か。
でも、テオさんを見捨てる訳には行かない。
…やるしかない。
「さ、皆早く着替えなさい」
「あのね、アンナお母様…ジュンが出て行かないと着替えられないじゃない」
「いいから早く着替える!ジュンちゃんにはいっぱい助けてもらってるんだから!裸見られるくらいでうだうだ言わない!」
「そんな無茶苦茶な!パ、パメラ姉さんもカタリナ姉さんも何とか言ってよ!」
「……諦めましょ、レティシア」
「そうだな…もう既に全部見られたんだ。一回も二回も変わらんな…」
「えええ…アイ、ユウ!」
「ウチは婚約者だし」
「私は妹だし」
「ええ~…アイシス!セリア!?」
「ぼ、僕はもう着替えた!」
「レティシア様も、早く」
「ええ~…」
いや、うん。レティシアさんの反応が普通だと思う。
アイシスとセリアさんははボクが見てるのも構わず、高速で着替えた。それだけテオさんが心配なんだろうけど、思い切り良すぎ。
「ああ、もう。ほら、私がジュンちゃんの眼を塞いでおくから、早くなさい」
「わ、わかったわよ。でも、それなら出て行ってもいいじゃない」
そうですね、その通りだと思います。
しかし、ボクは此処に居たい。何故なら…
「(ワザとですよね、アンナさん)」
「(ジュンちゃんには助けてもらってばかりだから~ここらで少しは返しておかないと)」
「(裸見たんだから結婚しろ、はナシですよ)」
「(うっ…わ、分かってるわよぉ。これはあくまでも御礼。対価は要求しないわ)」
ボクは椅子に座って背後からアンナさんに眼を隠されてるのだが…アンナさんはわざと隙間を作って見えるようにしている。御蔭で目の前には楽園が広がっている。
この一大事に何やってんだと、自分でも思うが。
「(どう?ジュンちゃん)」
「(控え目に言って最高です)」
水着姿でわかってはいたけど、皆スタイルいいなぁ。
アイももうすぐ十四歳。大分前世のスタイルに近づいた。
ルチーナは…あ、陥没してるんだ。何がかは言わないけど。
「あー、シャクティ。下着はちゃんと着けなさい」
「あ、はい……て、ジュン様ぁ!?見えてます!?」
「いいえ、見えてません。勘です」
「…ほんとですかぁ?」
嘘です、ごめんなさい。
心の中で謝るから許して…ん?
「アイシスちゃん?どうしたの?」
「…えい」
「あああああ!眼がっ眼がぁぁぁぁ!」
眼を指で刺された…酷い。
「な、何すんの、アイシス!」
「それは僕のセリフだよ!この非常時に何やってんの!アンナ様も!」
「ボ、ボクは何もやってないでしょ!?」
「これくらいいいじゃない。ジュンちゃんには助けてもらってばかりだし、リュバーンの奪還にも協力してもらうんだもの」
「もっと別の形にしてください!」
「ジュン様のスケベ」
「う…」
今回は否定出来ないな…今回は。
「ジュンならいつでも見せてあげるのに」
「そうですね。ジュン様なら見たいと仰って頂ければいつでも…」
「…リリーは恥ずかしいですぅ」
「私も…」
そうですよね。見せろ何て言いませんよ、リリー君、ルチーナ君。
見たいとは思うけど…
「そ、それじゃ、もうすぐ会議始まるから、ジュンちゃんとアイシスちゃんは会議室に来て。あと…カタリナちゃんも来て」
「はい」
「ちょっと待って、アンナお母様。じゃあ私達は?」
「此処で待機してて」
「じゃあ何の為に急いで着替えたのよ!?」
「ジュンちゃんへの御礼の為!ただそれだけ!」
「お母様のバカー!」
レティシアさんの絶叫を背に会議室へ。
其処にはユーグ陛下とバルトハルトさん、エクトルさんが既に居た。
「おお、ジュン殿。レヴィアタンの迎撃に向かったと聞いたが…戻られたという事は倒せたのだな?」
「そう言えば、聞いてなかったわね。でも、戻ったって事はそうなんでしょ?」
「あ、いえ…倒してはいません。ですが脅威は去りました。詳しくは説明出来ませんが」
レヴィアタンを手中に収めたとなれば、早速軍事利用しようと考えるかもしれないし、レヴィアタンの存在を脅威とみなして何かされるかもしれない。
今更、ヴェルリアを敵に回すつもりは無いけど、レヴィアタンの力は強大過ぎる。
用心しておくに越した事は無いだろう。
「失礼します」
「あ、カイエン?アンナさんが呼んだんですか?」
「ええ。ジュンちゃんの親衛隊にも参加してもらうからね」
「ジュン様…ご無事でしたか」
「うん。心配かけたね」
「…いえ。ジュン様がご無事でしたら、それで。…しかし、もう無茶な真似はしないでください」
「あ、うん…」
ちょっと約束出来ないけど…これからも何かありそうだし。
戦時中だしね…
それからヴェルリアの大臣や騎士団長達も集合した。
大臣が十人。騎士団長が五人。
つまり、今この城には五つの騎士団があるのか。
「全員揃ったわね。それでは会議を始めるわ」
アンナさんの号令から始まったリュバーン奪還に向けての会議。
先ずは現在の状況からだ。
「リュバーンが占拠されたわ。リュバーンからの連絡が途絶えた事を怪しんだノーヴァ伯爵が偵察を出し、リュバーンの街が占拠されてるのが発覚したのが数時間前。敵の侵攻はノーヴァ伯爵軍により。リュバーンより進んではいないけど…それで精一杯。援軍を出す必要があるわ」
「元々、南部の援軍として派兵していた騎士団はまもなく合流。だが、それでもリュバーン奪還には足りまい」
「それにリュバーンだけに眼を向けるわけにも行かないわ。西にも注意が必要。東は心配無いだろうけど、南東部はちょっと心配ね。ドラゴンがいる山脈を超えて来るとは思えないけど…」
ドラゴンがいる山脈…アストラバンの冒険者ギルドで聞いた話の山か。
確かに、普通ならそうなんだけど…あのマッド爺がいるからな。注意は必要だろう。
「お待ちを、アンナ様。リュバーンの南…国境沿いの砦はどうなったのです?それにリュバーンにも守備隊が居た筈。占拠されるにはあまりに早すぎます」
バルトハルトさんは元ノーヴァ伯爵。
自分の領地の事は把握出来てるみたいだ。
「…不明よ。ただ、遠目で見た限りではリュバーンで戦闘が有った様子は見られないそうなの。街が破壊された様子は無く、住民が避難した様子も無い。砦は…破壊されたのでしょうね」
「街で戦闘が有った様子が無いという事ですか?一体…」
砦が破壊されたというのは分かる。
しかし、街が破壊された様子が無いというのは一体?
無条件降伏でもしたというのか?
「テオ…いえ、リュバーンの住人達の安否も不明という事ですか?」
「そうなるわ。敵の戦力も不明。先ずは情報を集めたい処だけど…」
それだと時間が掛かり過ぎる。
そうする間に敵は防備を固め、戦力が集中するだろう。
いや、その前にリュバーンの人達が…ん?誰か来たな。
「会議中失礼します!ノーヴァ伯爵様より伝達です!」
「! 述べよ!」
「はっ!ガリア魔王国軍に占拠されたリュバーンの街より、連絡が有りました。敵の数は凡そ一万。そして…」
伝達に来た騎士はバルトハルトさんとアイシスをチラッと見てから、言葉を続けた。
それは二人にとっては絶望を告げる言葉だったに違いない。
「ガリア魔王軍は…リュバーンの街を治める、代官テオ・ノーヴァの処刑を決定した、と…」




