第290話 戦乱 7
『ど~こ~だ~は~や~く~こ~い~』
何ともおどろおどろしい声だ事…。
何処だ、何て言ってるけど、ボクの位置は凡そに感じて把握してるようだ。
何故、それが解るかというとボクも蛇の大体解るからだ。
何となく感覚的に、だが。
転移である程度距離を詰めてから飛行魔法で近づく。
そうすると、すぐにあの蛇を目視で捉える事が出来た。
本当に空を飛んでる。
デカすぎて距離感がいまいち掴めないけど…天気のいい日にビルの屋上から遠く離れた山が見える感じか。
『み~つ~け~た~!』
向こうもボクを見つけたらしい。
普通の蛇が地面を這うように、空中を移動しながらこっちに向かって来る。
ここで戦闘…はしたく無いが、仮に戦闘になったとしても周辺は無人地帯だ。ここなら大丈夫だろう。
というか、現在地と封印されてた地点を考えると街や村がある地帯を迂回して来てる?
空を飛んでるんだから直線で来れるのに。
『お~ま~え~!なぁ~んで直ぐに封印を解かなかった!どんだけMeが寂しかったか!』
Me?この蛇は自分の事をMeと呼ぶのか…なんかちょっと似合わないな。
偏見だけど…というか、寂しかった?やはり意識があったのか?
「あ~…幾つか理由がありまして。先ず、貴女はボク達からすれば大きすぎます。住処も食事も、用意出来そうにありません。次に石碑に書いてある通り、貴女が悪い子じゃなかったとしても、動くだけで周りに被害が出るでしょう?…空を飛ぶとは思いませんでしたが」
『何だ、そんな事。大きさなんて自由に変えられるに決まってるだろ、ほら』
バフン、と。
煙をあげて蛇…レヴィアタンは大きさを変化させた。女神様が言ってたように大きさは自由に変えれるみたいだ。となると、人にも変化出来るのか。
『どうだ?これで問題無いだろ?』
ギガンティックスネークくらいの大きさに…なったかな?
確かに大分小さくなったけども。
「あの、それでも大分大きいです。あと人によりますけど、基本的に蛇は苦手な人が多いですから。正直、ボクもちょっと苦手です」
『なっ!』
ガーン、とショックを受けたように口を開けて固まる蛇。
そのサイズでも大きく口を開けると、食べられるみたいで怖いな。
『酷い!酷いぃぃ!あんな狭い場所で永い眠りにつかされて、素敵な主が出来るのだけを楽しみにしてたのに!あんまりだぁぁぁぁぁ!』
「ええええ……」
人のサイズをまるで考慮してない巨体のままで言われましても。
せめて手の平サイズなら…てゆうか、メンタル弱いな。
『ビエエエエエエ!』
あ、蛇って涙出るんだ?
この子?が特別なだけかもしんないけど。
それに随分と子供っぽい泣き声。最初のあの声と喋りは何だったんだ?
っと、呑気な事考えてる場合じゃないか。
「あ、あー…ごめんなさい!とりあえず落ち着いて話を聞いてもらえます?」
『うるさーい!こうなったらMeは理想の主を探しに旅に出る!あんたなんかもう知らない!』
その巨体で?間違いなく討伐対象にされるな…そして返り討ちに会う冒険者や軍…どれだけの死者が出るのか、見当もつかない。
「待って下さい!蛇の姿のままじゃ怖がられますって!」
『怖がっ!?Meは怖くない!こんなにキュートで綺麗なんだから!女神様も、他の皆も褒めてくれたもん!』
「いや、ですから…サイズを考えてください…」
神様達はどのサイズで可愛がってたんだ?
まさか最初のあのビッグサイズじゃあるまいし。
『もういい!怖がられるならMeは海の底で静かに暮らす!お魚と友達になる!止めても無駄だからな!』
「え?海中でも生活出来るんですか?」
『当たり前だ!じゃあな!止めるなよ!』
海の底で静かに暮らす…それなら誰の迷惑にもならないだろうし…いいのか?
でもせっかく封印が解かれてようやく自由になったのに、それじゃ可哀そう…ん?
『止めるなよ!』
チラッ
『止めても無駄なんだからな!』
チラッ
『止めても…』
チラッ
『止め…止めろよぉぉぉぉぉ!!』
めんどくせえええ!
メンタル弱いし、かまってちゃんか!
『何なんだよぉ!普通此処は必死になって止めるとこだろ!お前ちょっと冷たいんじゃないか!?』
「……ああ、はい、すみません。で、落ち着いて話がしたいので、人の姿になってもらえませんか?」
『…人に?いいけど、何でお前、Meが人の姿になれる事を知ってる?』
「それも含めて御話ししますから、とりあえず人の姿になってください」
『うん…』
今度はピカッと光って変身した。
人の姿になったレヴィアタンは…女神様が言ってたように、美人だ。
白い肌に白い髪。赤い眼とスラッとした手足。
髪型はツインテール。見た目十代後半くらいか。服装は…何故かシスター服だ。
「これでいいか?」
「あ、はい…」
「何だ?ジッと見つめて…あ、さてはお前…」
「な、何です?」
「Meにホレたな?ダメだぞー出会ったばかりで恋人になんてなってやらないんだからな!まぁでも?どうしてもって言うなら考えてやらなくも?ないけどなぁ~」
ちょっとイラっと来るな…なんだその得意気な笑顔。
まぁいい…話を進めよう。
「ええと、確認しますが、石碑には大陸を喰らう蛇とか書かれてましたけど、その一文は冗談という事でよろしいですか?」
「ああ、うん。そう言えばそんな事書いてたかな」
「では次に、貴女がボクを呼んだのはボクが主になる資格があるからですか?」
「うん。こんな冷たい奴だとは思わなかったけど!」
「ですから、それは…まぁいいです。次に貴女が空を飛んで此処まで来たのは、途中の村や街を壊さないようにするためですか?」
「当然。ママも人を怖がらせたり、街や村を壊しちゃダメって言われてたし。それに森や山にだって小さな動物が沢山いるし」
だったらもっと大きさを考えて…いや、人じゃないんだから仕方ないか。
それに女神様が言ってたように優しい子みたいだ。
このまま人の姿でいてくれるなら、連れ帰ってもいいかもしれない。
ところで…
「ママ?母親がいるのですか?」
「女神アフロディーテ様のことだ。私を創造してくれたのはアフロディーテ様だからな!」
よかった…もう一匹…いや、もう一人同じような存在がいるのかと。
まぁ女神様が言ってた通りみたいで、よかった。
「それじゃ、先ずこの指輪を受け取ってください」
「え!?指輪!?い、いきなりプロポーズ?あんた、実はMeの事、好きだったの?」
「…そうじゃないです。それは女神様から頂いた物です」
「女神様から?それって……うっ!」
「どうし…貴様は!」
いつの間にか、レヴィアタンの背後にあのマッド爺が!
やっぱり封印を解いたのはこいつか!
「つまらんのう。世界を滅ぼす蛇とか聞いておったのに。とんだ期待外れじゃわい」
「う、うう…あああああああ!」
「貴様!彼女に何をした!」
「大した事はしておらん。正気を失って凶暴になる薬を打っただけじゃ。この蛇…いや、この娘の抵抗力と精神力次第じゃが、まあ一時的じゃろ。並の者なら完全に精神が破壊される薬じゃがな」
「なっ…貴様は!」
「おっと、巻き添えを喰う前に退散しなければな。もうすぐわしの長年の夢が叶う。そうしたら会ってやるからのう。ではな」
「待て!…ちっ!」
長年の夢が叶うだと?
人族をやめて寿命を延ばす事に目途がついたのか?
いや、それよりもだ!
「レヴィアタン!大丈夫か?正気を保って!」
「あああああ!」
「うっ!」
早いっ!
何とか避けれたけど…とりあえず距離を…
「ぐふっ…あ、あれ?血?」
ろっ…肋骨が折れてる?
完全に躱しきれて無かった?それでも掠っただけのはず。
それで完全武装のボクの肋骨を折った?
「あああああああああああ!!!」
拙い…流石はハティでさえも恐怖を感じるレヴィアタン。
ただ振り抜いただけの拳がこの威力…本気でやらないと死ぬな、これ。
「悪いけど…手加減する余裕は無い。怪我をしても後で治せるから、怒らないでよ」
「あああああああああああ!!!」
殺したくはない。優しい子のようだし、殺したくはないけど…『魔神王の紋章』を使ってこの子と戦えば、ボクも正気でいられるかどうか…でも、やるしかない!




