第286話 戦乱 3
予想外のエルリックの能力の高さ。
どうする…接近戦は不利。
かといって距離を取っての魔法攻撃も防がれてしまう。
兎に角、エルリックを近付けないように戦うしかないか。
「ほう?何だ、それは」
「魔力で出来た剣だ。かなり伸びるから…注意するんだ…な!」
【アトロポス】の魔力剣を伸ばし、【フレイヤ】はオーラフラッシュで攻撃。
中距離戦を挑む。
「ふん。良い判断だ。だがな」
「うっ!?」
「ジュン様!!」
「だ、大丈夫だ!来るな!」
こ、こいつ…オーラフラッシュを即座に真似してきた。アイシスも同じ事が出来たけど…センスもアイシス並か。
何とか回避出来たけど、肩を掠めてしまった。
でも、この程度の傷なら治癒魔法で即座に治せる。
けど…
「その程度、真似するのは容易い。そして当然、それも何でも斬れるぞ」
つまり…剣気に何でも斬れる力が宿ってるわけか。そう言えば、剣気を使う前の剣とは普通に打ち合えた。
「そら、中距離戦が望みなんだろう?付き合ってやるぞ」
「くっ!」
どうするか…ここまでは若干劣勢…かな。
こういう時は状況を整理し、相手を観察して逆転の目を探す、だったか。アイが言うには。
先ず…エルリックの何でも斬る能力は剣気を使用して無ければ使えないと見ていい。
剣聖級なんだから、使わなくても大概の物は斬れるだろうけど…
次にエルリックの装備は…かなり充実してる。
ヴェルリア王家に伝わる装備なのか、自前で揃えたのかは解らないが…一流の冒険者に見劣りしない装備だ。
「ん?」
「ハァハァ…」
息が上がってる?汗もかいてるし。
まだそれほど長時間戦って無い筈。
護衛の騎士達も瞬殺したみたいだし…
「随分と辛そうだな。息が上がってるぞ?」
「だ、黙れ」
返す言葉も、さっきまでに比べて弱い。
本当に体力が尽きてきたのか?
…そうか、そりゃそうかもな。
「十七歳で剣を極めたから、訓練を辞めた。そんな奴に体力があるわけないよな」
「黙れ!」
「それに体力が無いなら無いでもう少し戦いようが有るはず。なのにその、まるでペース配分を考えて無い戦いよう。あんた、実戦経験もまるで無いな?魔獣相手すら無いだろう?」
「黙れぇぇぇ!」
ここに来てオーラフラッシュの乱れ打ちか。
後先をまるで考えて無い。
負い詰められたら冷静さを簡単に失う辺りも、経験の無さが窺えるな。
「ど、どうだ…今のは躱せ無いだろ…」
「そうでもないね」
「な!どうやって…逃げ場など無かった筈だ!」
「ボクが転移魔法を使えるのはあんたも知ってる筈だろ?目視出来る範囲に一人で転移するのなんて簡単だ。一瞬で出来る」
「なっ…く、くそ!」
アレは…魔法薬か?
体力回復の魔法薬か。それぐらいの用心深さは有ったか。
「ハァハァ…フゥ~」
「思ったより回復してないだろう?」
「……」
「体力回復薬は体力は回復してくれる。体は楽になるさ。だが精神的な疲労は回復してくれない。体が楽になった分、精神的にも多少は楽になるけどね。あんまり体力回復薬を立てつづけに飲むと、先に精神力が尽きるし、回復薬が効きにくくなる。覚えておくといい」
「う、煩い!」
「そして、実戦とは命の奪い合い。実戦慣れしてないあんたにはさぞ精神的負担が大きいだろう。平静を装っても内心は穏やかじゃいられなかっただろう?」
「黙れと言っている!」
もう余裕ぶって中距離戦をやる余裕なんて無くなったか。
なりふり構わず、接近戦でケリをつけに来たか。
…一つ、思いついた事がある。
試してみるか。
「無駄だ!こんな物!…な、何?」
「なるほど、こうなるか」
エルリックの何でも斬る事が出来る能力は、少し【アトロポス】の斬る物を選択する能力に似てる。
違いはエルリックの能力は絶対切断。斬りたくない物も斬ってしまう。
【アトロポス】の能力はボクの技量次第で選択した物を何でも斬れるようになる、だ。
ボクが認識し、選択してしまえば剣気も斬る事が出来るのではないか?と。
【アトロポス】の能力は防ぐ事が可能ではあるが…
「どういう事だ。何故、先ほどまで斬れていた物が斬れない」
「さぁてね。何でか…な!」
「くっ!」
【アトロポス】の能力で、エルリックの絶対切断の能力を斬ると選択。
お互いの『斬る』力がぶつかり合った結果。
普通の剣と魔力剣の打ち合いのようになる。
「さて…そら、接近戦が望みなんだろう?付き合ってやるぞ。…かな?」
「ぐ…貴様ぁ!」
エルリックの絶対切断の能力は封じた。
後は距離を詰めずにエルリックの体力を削るだけで楽に勝利出来る。
それまでにアイシス達も来るだろうし。
でも、此処は接近戦をやる。
こいつのプライドをへし折ってやるために。
「能力を防がれたとしても!剣の腕は俺の方が上だ!」
「だが、僅かな差だ。そしてそれ以外はボクの方が上だ!」
確かに、剣の腕はエルリックが僅かに上。
でも、身体能力や紋章の数はボクが上。
絶対切断を封じた今、負けはしない!
「ジュン!」
「お兄ちゃん!」
「エルリック殿下?これは一体…」
アイ達が賊を倒し、合流して来た。魔法道具を止めに行ったクリステア達も一緒だ。
皆、大きな怪我も無く無事のようだ。
「追い詰められたようだけど、どうする?投降するか?」
「ふ、ふざけるな!全員殺せば何も問題は無い!」
まだ、諦めない、か。
此処で投降しても…死ぬ事になるだろうから、分からなくはないが…
「ジュン!手伝うよ!」
「殿下!この騒ぎが殿下の手引きであるならば、せめて私共の手で!」
「来るな!死ぬぞ!」
「なっ…」
「皆はノエラ達と一緒にカタリナさん達を守れ!」
アイシス達にはエルリックの絶対切断を防ぐ術が無い。
それでも何とか出来そうな力量はあるけれど…初見で死んでしまうかもしれない。
対処法のあるボクがこのまま相手にするのが一番いい。
「さて、続きと行こうか」
「ふん…全員で掛かってくればいいものを。後悔するぞ」
「そうかな。多分、そんな事にはならないよ」
何か、こう…もう少しで何かが掴めそうな気がする。
一刀流と二刀流の違いはあるけれど、自分より剣の腕は上の相手との実戦。
こんな時なのに、凄くいい経験になってる。
自分の技量が上がっているのが解る。
そしてそれは、長年訓練をサボっていたエルリックも同じようだ。
最初より、ずっと動きが良くなってる。
「やるじゃないか、エルリック。正直、ここまで強いなんて思いもしなかったよ」
「誰に向かって言っている!偉そうな口を利くな!」
「偉そうなのはお互い様だろう!」
「くっ!痛っ…」
ボクの剣がエルリックを初めて捉えた。
浅く腕を掠めただけだが…それでもエルリックにはショックだったようだ。
それに痛みにも慣れていない、か。
「バカな…俺は剣聖だぞ!剣で負ける訳がない!」
「錆びついた剣聖じゃ無ければ、そうだったかもな」
「…グッ!」
でも…ああ…わかった気がする。
お祖父ちゃんにも言われてたっけ。
ボクには圧倒的に経験が足りてないって。
お祖父ちゃんとの特訓や冒険者として活動して来て、経験の不足は補えたと思ってた。
でも、まだ足りてなかった。
実力が拮抗した相手との戦い、命が掛かった真剣勝負。
それがボクに足りてなかったモノ。
まさか、エルリック相手に得る事が出来るなんてな。
「感謝するよ、エルリック。御蔭でボクはまた強くなれた」
「強くなれた、だと?どういう意味だ!」
「言葉通りだ。これが何の紋章か、解るか?」
「……『双剣豪の紋章』…ではない?」
「たった今、『双剣豪の紋章』は変化した。『天地剣の紋章』にね。『剣聖の紋章』に並ぶ上位の紋章だよ」
「なっ!」
師匠の『双剣地聖の紋章』は防御に重きを置いた双剣士系紋章の上位紋章。
反対に攻撃に重きを置いたのが『双剣天聖の紋章』。
そして双剣士系の三つ目の上位紋章が『天地剣の紋章』。名も知られてなかった紋章をボクが獲得出来るとはね。
「さて。早速新しい紋章の力を試してみるのも悪く無いんだけど…上手く手加減出来そうに無いからな、あっさり殺してしまいそうだから、やめておいてやろう」
「き、貴様…手加減だと?殺してしまいそうだと?ふざけっ…」
「終わりだ」
激昂するエルリックを一閃。
急所は避けて、戦闘不能に追い込む。
『天地剣の紋章』を獲得して剣の腕が更に上がった。
完全にエルリックを上回る事が出来たのだ。
「がふっ…こ、こんな…」
「あんたが何をしたかったのか知らないが…これで夢は終わりだ」
強敵だったが…エルリックは倒せた。
でも…まだ終わりじゃないんだろうな。




