第285話 戦乱 2
「貴様は…」
「お久しぶりです、エルリック殿下。随分と物騒な物を持ってますね」
「どうやって此処まで来た。貴様はこの玉座の間には来た事が無いから、転移出来ない筈だ」
「ええ。ですから、以前案内された応接室から来ました」
「だとしても、火を放ってあったし、俺の手勢の者とも鉢合わせした筈だ」
「火は魔法で消しました。出所になってる魔法道具は今頃はボクの家臣が止めてる筈です。手勢の者も家臣とアイシス達がなんとかしてると思いますよ」
火の回り方から見て、魔法か何らかの魔法道具で放った火なのは想像出来た。
魔法道具の対処はクリステアとルチーナ、バルトハルトさんに。
侵入した賊の対処はユウとアイ、リリーにシャクティ。アイシスとセリアさんとハティが。
そしてボクはセバストとノエラを連れてカタリナさん達の救出に来た。
「ジュ…ジュン。よく来てくれたな。でも、どうして…」
「約束したじゃないですか。カタリナさんが危機の時は助けに行くって」
「あ、ありがとう…い、いや、そうじゃなくてだな。何故こんなにも早く助けに来れたんだ?」
「それは俺も聞きたいな。何故こうまで早く行動出来た」
「セリアさんの『預言の紋章』とアイの『先見の紋章』の御蔭ですよ。尤も、予知したのがついさっきなので、ギリギリになりましたけど」
「そうか、セリアの…」
「セリアだと?あの娘、そんな紋章を持っていたのか」
「おや?知らなかったので?」
「セリアちゃんの紋章の事は一部の者しか知らないわ。王族で知ってるのは私とユーグ。それとカタリナちゃんだけよ」
そう言えば最初に『預言の紋章』の事を聞いた時、フランコ君が心配してたな。
なるほど、国家機密扱いだったか。
「ジュン様」
「ノエラ、護衛の人達は?」
「ダメです。全員既に…」
「一撃で急所を斬られてる。大した腕だ」
「そうか…」
確かあの人達ハバルトハルトさんが鍛えた剣士の中でも指折りの腕を持つという、カタリナさんの護衛をしてた人達。
それを倒したのか?エルリック殿下が、一人で?
「さて…幾つか質問させて頂きます。この事態は貴方の仕業という事でよろしいのですか?エルリック殿下」
「そうだが?見ればわかるだろう」
「ジュン殿!此処までやった以上、エルリックは最早ヴェルリア王家の者ではない!反逆者だ!斬ってしまって構わん!」
「…そうですか。では次にあの剣士達を斬ったのは貴方ですか?」
「俺以外にいないだろう。そんな事もわからんのか?」
「ジュン殿!エルリックはあれでも剣の才能は確かだ!子供の頃は『剣聖の紋章』を獲得するのは確実とまで言われていた程だ!」
「私の護衛達は皆、『剣豪の紋章』を所持した猛者だった!エルリック兄さんはその者達を一瞬で殺した!気を付けろ!」
おいおいおい。
それ、かなりの腕じゃないか。
ダメ王子だとばかり思ってたのに。
「それは凄いですね。…では最後の質問です。貴方は今、カタリナさんをどうしようとしてたのです?」
「それも愚問だな。斬るつもりだったに決まっているだろう」
「…妹でしょう?」
「だから?必要だから斬る。それだけだ」
「そうか…親の前で子を痛めつけるのは気が引けたけど…妹を斬ると言う兄に遠慮はいらないな。覚悟してもらおうか」
「ふん!舐めるなよ!」
剣を抜き、エルリックと対峙する。
こうして向き合うとよく分かる。
この人、確かに強い。
「ジュン様、お下がりください」
「先ずはオレ達が…」
「駄目だ。二人はカタリナさん達を守って」
「しかし…」
「エルリックは多分、剣聖級だ。二人には危険な相手だ」
「なっ…」
対峙した時の感覚がバルトハルトさんを相手にした時と似ている。恐らくは…
「ふん。よく分かったな」
「それなりに場数は踏んでるんで」
エルリックの手にある紋章。
アレは間違いなくバルトハルトさんの紋章と同じ物だ。
「エルリック…貴様、いつの間に…」
「言った筈ですよ、父上。剣はもう極めたから、訓練をする必要など無いと」
「何…あの時既に、『剣聖の紋章』を獲得していたと言うのか」
「十七歳の時にか!?」
「そんな…何故隠してたんです?そんな凄い事…」
「決まっているだろう?シルヴァン。そんな事がバレたら騎士団長とかやらされるじゃないか。誰がそんな面倒臭い事やるか」
「貴方って人は…そんな恵まれた才能が有りながら…」
「有ったら何だ?マークス。あぁ、そうだ。お前が出した治水工事の計画書、二ヵ所程間違いが有ったぞ。ちらっと見ただけだからまだあるかもしれんな。まあ、もう気にする必要は無いがな」
「な…」
この人…実はハイスペック王子?
今の話が本当なら、この世界においてはかなりの…
「考え事とは余裕だな。死ぬぞ?」
「うっ!」
速い!一瞬で詰められた!
「ほう?流石にそこで転がってる奴等よりは強いか。よく躱したな。褒めてやろう」
「そりゃどうも…」
何とか躱せたけど…強いな。
それに魔獣相手に戦うのとはやはり違う。
考えて見れば、ここまで高い実力を持った人と実戦で戦うのは初めて、か。
「セバスト、ノエラ。カタリナさん達と一緒に離れて。周りを気にして戦う余裕は無さそうだ」
「あ、ああ…」
「ジュン様…御武運を」
「うん。それからユーグ陛下。周りにある物、壊したらすみません。先に謝っておきますね」
「あ、ああ…気にする事は無い。思いっ切りやってくれ。それからエルリックも…」
「解ってます。さぁ、下がってください」
「ゴメンね、ジュンちゃん。私達が不甲斐ないばかりに…後で絶対御礼するからね」
「すまない、ジュン。頼む…」
そんな申し訳なさそうにしなくても大丈夫ですよ、皆さん。
多分、裏で糸を引いてる奴が居ますから。真の悪党はそいつです。
「さて、再開といこうか」
「ふん。いつまでその余裕が続くか、見物だな!」
戦闘を再開する。
剣の勝負は…今の所、何とかついて行けてる。
『魔神王の紋章』を使えば簡単に逆転出来るけど…恐らく殺してしまう。
なら、魔法で弱らせる!
「む?何だ、それは。魔法か?」
「ボクのオリジナル魔法だ。悪いけど負ける訳にはいかないんだ」
スピリットオーブを攻撃モードで展開。
七つのオーブがエルリックを囲んで行く。
全方位から魔法を放たれたら、魔法か魔法道具で防がない限り避けられは…
「くだらんな」
「なっ!」
エルリックはスピリットオーブが放つ魔法を全て剣で斬った。
それどころか、スピリットオーブも。一瞬で。
「どうした?何を驚く。剣で魔法は斬れないとでも思ったか?」
「…」
剣で魔法を斬る。
そういう発想は当然有った。
実際にボクもやった事がある。
でも、ボクの魔法を斬られた事は無かった。
アイシスですら、出来なかったんだ。
剣で防いだり、軌道を変える事は出来たけど斬る事は。
勇者アイシスですら出来なかった事をやってのけた。
つまりはアイシスより剣の腕は上だと?
いや…
「それがあんたの『剣聖の紋章』の能力か」
「ほう?解るか。そうだ。俺の『剣聖の紋章』の能力は何でも斬る事が出来るようになる、だ。俺に斬れない物は無い」
何て危険な能力だ。
剣で防いでも、剣ごと斬られるのか。
結界も斬られるだろうし…こからは全て躱すしかないか。
受けに廻ったら不利だな…攻める!
「せあぁぁぁ!」
「ふっ…」
エルリックはボクの剣戟を全て受けるつもりか?
いや、待て。何を笑う?
まさか…
「ん?どうした。攻めるんじゃないのか?」
「まさか、あんたの能力…剣で防いでも斬られるのか」
「ほう。良い勘してるな。その通りだ」
つまり…エルリックの攻撃は防御不可。こちらの攻撃も剣で防がれたら斬られる。
なら魔法で眠らせるのは…無理だな。
その手の耐性装備はバッチリみたいだ。
強い…全くの予想外に。
ヴェルリア王国第一王子エルリック。
甘く見過ぎてたかな…




