第278話 妖精女王 2
バルーク帝国の皇子で勇者のダンテさんを先頭に妖精女王の下へ。
彼の手にはかなりの力を持っていると思われる槍がある。
「(メーティス。あの槍はやっぱり?)」
『(神様の祝福を受けた槍やな。間違いないで)』
「(やっぱり。誰かダンテさんの情報持ってる?)」
「(少しだけですが。長年続いていた隣国のポーンド王国との戦争終結に、その武力で大きく貢献。その褒美としてポーンド王国から奪った国土の大半を領地として貰ったそうです。ポーンド王国の王女を妻として迎える事も決まっているとか)」
「(それはまた…)」
夜に王女に殺されないだろうか。人質の意味合いが強いのだろうけど。
「(よく知ってるね、ノエラ)」
「(各国の重要人物くらい、多少は調べています。マルレーネさんにも協力して頂きましたし)」
マルちゃんか…あの人も何だかんだでかなりの情報通だしね。
そしてダンテさんはやはり強いのか。
金髪で長髪。碧眼で端正な顔立ち。
キザな振る舞いが板についてる人物だけど…隙が無い。
「ん?どうかしたかね?」
「あ、いえ…ダンテ殿はポーンド王国の戦争で活躍されたとか?戦場でもその鎧を着て戦われたのですか?」
「勿論だとも。これだけ目立つ鎧を着ていれば私に敵が集まって来るだろう?その分、他の者が安全になる。私が敵をまとめて叩き潰すのが最も効率の良い戦いだったからな。とはいえ、最後の方は私を見たら敵が逃げて行ったがね」
「その所為でポーンド王国でダンテ様は『黄金の死神』と呼ばれて恐れられていました」
一応、まともな理由があったのか。
『黄金の死神』…ちょっとカッコいいと思ってしまった。
「『黄金の死神』…いいなぁ。僕もカッコいい異名が欲しい…」
「アイシスには『うっかり勇者』という異名がちゃんとあるじゃない」
「そんなの嬉しく無い!」
「『うっかり勇者』?ハハハ!いいじゃないか!私はそっちの方がいいと思うぞ!」
「ええ~…『うっかり勇者』がですか?」
「そうとも!戦場で付いた異名など、大して誇るような物ではないよ。それだけ人を殺したという事だからな。それに比べ、君の異名は親しみが込められている。多少の嘲りもあるのかもしれないがね」
「あ…」
そっか…それはそうかもしれない。
『黄金の死神』と異名が付くほど恐れられたという事は、それぐらい敵兵を殺したという事。
確かに、誇るような事ではないのかもしれない。
「申し訳ありません、ダンテ殿。孫が無神経な事を…」
「すみません…」
「ん?気にする事は無い。敵に恐れられ、付けられた異名を強さの証として考える者もいるからな。だが…そうか。君達は戦争を経験していないのだな」
「え?あ、はい」
「僕達は戦争は経験していません。盗賊退治や、魔獣討伐はありますけど」
「そうか…エルムバーンとヴェルリアは平和なのだな。良きことだ。大事にしたまえ。戦時には誰もが求めるが、簡単には得られない、尊いモノだからな」
「はい…」
戦争を経験した人だからか、その言葉には重みがある。
ダンテさんのキザな振る舞いも計算されたモノなのかもしれない。
そうだとしたら、変な人なんて思ったのは失礼だったな。
「ダンテ様は変な人だけど、いい人だよ。強いし」
「いきなり尋ねた私達の頼みを親身になって聞いていただけましたし」
「ハッハッハッ!民の願いを聞くのは支配者の務め!ましてAランク冒険者の頼みとあればな!」
「私達は別国の冒険者パーティーですけどね…」
「ハッハッハッ!小さな事だ!気にするな!」
「ハハハ…」
変な人なのは確かだけど、いい人でもあるようだ。
強いのも確かなんだろうけど、護衛も無し一人でこんな所に来るなんて。
よく認められたな。
「ダンテ殿、ボク達も此処に来るのは最小限にして欲しいとは聞いています。ですが、本当に御供を一人も連れて来なかったのですか?周りに止められませんでしたか?」
「うむ。無論止められた。だが話を聞く限り、私以外の者は連れて行っても犠牲になるだけだろう。我が国に、私以外の強者が居ない、というわけでは無いのだがね」
バルーク帝国は実力主義の国家。
人族でも魔族でも能力がある者は雇入れている。
その為、聖エルミネア教国とは仲が良くない。
ポーンド王国との戦争の原因の一つらしい。
ポーンド王国は聖エルミネア教国の後押しを受けて戦争をしてたそうだ。
元々の国力の差があって、長年粘ったもののバルーク帝国の勝利に終わったわけだが。
「君達も、妖精女王を救うのは私に任せたまえ。私と、この【アレス】があれば何も心配いらないとも」
「【アレス】…それがその槍の名前ですか」
「そうとも!戦いの神アレス様の祝福を受けた我が国に伝わる神聖な槍だ」
戦いの神アレス…現代地球の神話にもそういう神様の名前があったような?
戦いの神に祝福を受けた槍か…能力はやはり戦いに向いたモノなんだろうな。
でも…
「ダンテ殿。ボク達も魔獣を倒し、妖精女王を救う為、相応の覚悟で来ました。邪魔にならないようにしますので、お手伝いくらいはさせてください」
「そうか…君達も王族や貴族だったな。人の上に立つ者としての義務をよく理解しているようだ。…わかった!共に戦ってくれたまえ!」
「はい。よろしくお願いします」
上に立つ者の義務?高貴なる者の義務ってやつか。
そこまで崇高でも高い意識を持ってたわけじゃないけど…
「(よろしいのですか、ジュン様。初対面の者と共闘など)」
「(知られたくない事は確かにあるし、強敵と戦う以上、見せる事になる可能性は高いけど…最優先は魔獣を倒して女王を救う事だから。今回はよしとするよ)」
「(畏まりました)」
アネモネさん達の話から推測するに、相手は植物系の魔獣。
【フレイヤ】の植物を操作する能力が役に立つかもしれない。
「それで、女王様は何処に?」
「このまま真っ直ぐ進んだ場所ですわ」
このまま真っ直ぐ…しかし、この道は何だか…
「この道はもしかして…」
「……お察しの通りだと思います。例の魔獣…いえ、ドラゴンによって作られた道。ドラゴンブレスの爪痕です」
やっぱりか。
不自然に凹んでるし森が変に開けてる。
五十年以上前の出来事なのに、破壊された自然は回復していないようだ。
それも女王不在の影響という事だろうか。
「…これ、あの時のドラゴンブレスと同じくらいなんじゃ…」
「あの時?ユウ様、あの時とは?」
「クリステアは居なかったね。王都の北の森に黒いドラゴンが出た話は聞いてない?四年くらい前になるかな」
「ああ…聞いてます。手負いの神獣のドラゴンが居たという」
「その話なら私も聞いている。我が国にも手負いの神獣のドラゴンの情報を問われたからな。無論、バルーク帝国とは何の関係も無い話だったのだが。そう言えばエルムバーンの魔王子が倒したという話だったか」
「ええ。そしてこれは確かに、あの時のドラゴンブレスと近い威力を持った攻撃のようですね」
「そうか。だが心配はいらない。私が居るからな、フッ」
…キザなのは計算だとしても、自信家でちょっとナルシストっぽいのは地だろうなぁ。
いや、やっぱりキザなのも地だな。
「見えました、あそこです」
「結界ですね。侵入を阻害する結界ですか」
「結界が張られてるのが解るのですか?」
「はい。ボクの眼には結界が見えますから。それで、アレが…」
「はい。あの魔獣が、突如現れ『メグ・メル』を滅亡の危機に追いやった者です」
確かに、その魔獣は木で出来たドラゴンだ。
大きさも北の森で見た黒い神獣のドラゴンと同じくらい。
感じる威圧感も同じくらいだ。
「この大きな光の玉は?」
「その光の玉が妖精女王、タイタニア様です」
「なら、周りの小さい光の玉は?」
「あの者達は結界を維持し、女王様を御守りする役目を持った妖精達です。貴方達、結界を解いてください。あの魔獣を倒す日が来たのです」
結界が消えて、小さな光の玉が姿を変えた。
「スプライト…」
「はい。戦う力は持ちませんが、守る力はそれなりに持った者達です」
その姿は手の平サイズの人間に羽が付いた姿で、現代地球で御馴染みの、妖精と言えばっこれ!という姿だ。
小さな光の玉が姿を変えて妖精が出て来るという事は、妖精女王も封印を解けば別の姿を見せてくれるのだろう。
「次はタイタニア様に封印を解いて頂きます」
「封印が解ければ直ぐに戦闘ですわ。皆様、準備してくださいませ」
「えっと…女王様も封印されてるんですよね?どうやって解くんですか?」
「この宝玉を使えば、タイタニア様と会話が出来ます。では…女王様、アネモネです。聞こえますか?」
『…モネ?……帰って…の…か』
「なんだかはっきりと聞こえませんね」
「封印されてる影響ですね……女王様、あの魔獣を倒せる力を持った者達を連れてきました」
『倒…?…違……倒す…なく……救……この……島の……守り神……神獣の…』
「え?それはどういう…」
女王様の言葉はそこで途切れた。
なんだか電波状況の悪い携帯電話みたいだ。
「何か、はっきりとは分かんないけど、女王様とアネモネさん達が言ってる事、違くない?」
「あの魔獣を倒す事を否定してる感じだね、お兄ちゃん」
「うん…」
何だか話が変わって来たな。
倒すのではなく救えと言うのだろうか、魔獣を。
倒すより、ずっと難しそうだな…




