第273話 フラワー 5
「連敗ですか…」
「『ファミリー』の人達と戦って以来のピンチですね」
「しかし、この展開こそが私達の望む展開なのです」
「そうね。さぁ、次は私の番ね~ウフフフ」
Sランク冒険者パーティー『フラワー』に戦いを挑まれ、現在二戦二勝。
後一勝すればパーティーとしての勝利は確定する。
が、それで終わりにするのは彼女達の望みではないらしい。
そして次の相手はサフランさんか。
「さて、次は誰が行く?」
「ジュンはリーダーらしくラストを飾ってもらうとして。ウチかルチーナだね」
「では、私が行きます。アイ様は次の相手を」
「そう?わかった。じゃあウチは次ね。ルチーナ、頑張って!」
「はい!」
次はルチーナの出番か。ルチーナとサフランさんが練兵場の中央に向かう。
サフランさんの武器は棍のようだ。それに身軽そうな装備。
パワータイプの戦士では無く、テクニカルタイプの戦士だろうか?
「戦う前に一つだけ、よろしい?」
「はい、何でしょう?」
「私、他の人と違って純粋に戦いが好きなのです。勿論、目的は忘れてはいませんが、目的と趣味が一致しているのです。ああ、殺しが好きというわけではありませんよ?」
「…何が言いたいのでしょうか?」
「私が好きなのは戦い。ですからジュン様が戦わないと仰った時は非常に焦りました。そして私が嫌いなのは負ける事。ですから私、他の冒険者との戦いにも負けた事ありませんので。心して掛かって来てください」
そう言えば、ボクが戦うのを断った時は焦った顔してたな。
戦う事が決まってからはまたニコニコと笑っていたけど。
「…少々、上から目線なのが気に入らない、と言いたい所ですが…心しておきましょう」
「はい。それでは始めましょうか、楽しい楽しい戦いを」
どうやらサフランさんは本当に戦闘狂らしい。
実に楽しそうな顔で戦いを始めた。
「サフランさんが負けた事が無いというのは本当ですか?」
「事実ですわ。Sランク冒険者パーティーとの戦いで負けた事が無いのはサフランとアネモネだけですわ」
「パーティーとしても負けた事がないんだよね?今まで何組のパーティーを打ち破って来たの?」
「え?ど、どのくらいでしたかしら、アネモネ?」
「確か…七組くらいでしたか」
「いえ、私が以前集めた情報によると九組ですね。ジュン様達が十組目の相手です」
「知ってるんですか?マルちゃん」
「はい。Sランク冒険者の情報は以前集めましたから」
「偉いわねぇ、マルちゃん」
「…マルレーネは意外と真面目…」
「意外ってなによ!」
流石ヤーマン王国の勇者パーティーの斥候及び情報収集役。
エルムバーン魔王国のSランク冒険者パーティーの情報も集めているらしい。
「じゃあマルちゃん。サフランさんの情報はどんなモノがありますか?」
「あ、すみません…情報を集めはしましたが、あまり大した情報はありません。ですが…」
「ですが?」
「サフランさんの噂はあまりよくありません。戦いを好む余り、わざと戦いが長引くよう止めを刺せる時に刺さないでいたぶるとかなんとか…すみません、御仲間の前で」
「いえ、構いません」
「その噂は事実ですわ。ただ少し訂正しておくと、いたぶっているわけじゃなく、純粋に長く戦いを楽しもうとする結果、いたぶっているように見えるだけですわ」
「相手にしてみれば結果は同じなんですけどね…」
どっちにしろ性質が悪いな。
そんな人を相手にルチーナは戦っているわけだが…
「ルチーナが押されてるね」
「そうね…パワーではルチーナが勝ってるだろうけど、スピードとスキルで負けてる。サフランさんの動きに対応しきれてないね」
攻撃を全て受けているわけではないけど、サフランさんの連続攻撃を十発中二発は受けている。とはいえかすり傷だし、致命傷は受けていないのだが。
「立派な物だと思います。初見でサフランの攻撃をあれだけ防げるのですから」
「ですが、時間の問題ですわね」
「果たしてそうでしょうか?ルチーナはこのまま終わる程、容易い相手ではありませんよ」
やはり姉妹だな。ルチーナもクリステアがピンチの時、同じような事を言ってた。何だかんだで仲の良い、似てる姉妹だ。
「そうは言いましても、現に実力差は歴然…」
「い、いえ、ダリア。そうでもないようです」
「え?」
クリステアが断言したように、ルチーナはこのまま終わらないようだ。サフランさんの攻撃を受ける事が無くなって来た。
「何故?この短時間で腕が上がったとでも?」
「違うね。ルチーナはサフランさんの攻撃を見切ったんだよ」
「そんな…今までサフランの攻撃を見切った者なんて…」
「ルチーナは意外と賢いですから」
ルチーナは見た目通りのパワーファイター。
だけど結構考えて戦ってるし、小細工もする。
そしてユウ程じゃないけど、分析も得意だ。
そして遂にサフランさんに一撃を入れる。
と言っても、オーラフラッシュが肩を掠めた程度だが。
「驚きました。攻撃を受けたのは随分久しぶりです。褒めて差し上げます」
「…それはどうも。ですが、やはりその上から目線は気に入りませんね」
「あら、ごめんなさい。そんなつもりは無いのですけど。ですが…さっきの私の攻撃は読んでいたのですか?」
「はい。貴女は足払いをした後はそのまま振り上げる。どんな攻撃が来るか解っていれば、踏み込むのは容易い。それと貴女は攻撃が当たると思ってる時は下唇を舐めています。悪い癖なので直した方が良いかと」
よく見ている。
戦いながら攻撃パターンの分析だけでなく、癖まで。
「…御忠告、感謝致します。ですが、そこまで教えてよろしいのですか?」
「構いません。だってここからが本番なのでしょう?」
ナズナさんやダリアさん同様、サフランさんも何か奥の手が有ると、ルチーナはそう思っているらしい。
実際、そうなんだろうな。
「その通りです。ここからが本気の私です!行きます!簡単に終わらないで下さいね!」
「受けて立ちましょう!」
再び近接戦が始まった。
特にサフランさんの動きに変化は無いようだけど…
「あれ?どうして今の攻撃を受けるの?」
「さっきまで躱せてたのに…」
「あっ、また」
どうしてだろう。
ルチーナも何故避ける事が出来ないのか解っていない様子だ。
「うふふ。どうして避ける事が出来ないのか理解出来ていないようですね」
「…」
「先ほどの忠告の御礼に教えて差し上げます。これが答えです」
なるほど。
あの棍棒は所謂、三節棍というやつか。
攻撃の瞬間に伸ばし、間合いを変化する。
今までに覚えた間合いが無駄になってしまったわけだ。
「この武器にはまだ秘密があります。それから…私も紋章を使います。お気を付けを」
「御忠告、感謝致します。さぁ、続けましょう」
「ええ、続けましょう。楽しい楽しい戦いを」
戦いが再開し、サフランさんの動きが変わった。
先ほどまでは所謂正統派の棍棒使いの動きだったのだが、今はかなりトリッキーだ。
棍棒を走り高跳びの棒のように使い高く舞い上がったり、棍棒を軸にして回転蹴りをしたり。
時には三節棍をヌンチャクのように使ったり。
そして空中を蹴り、方向転換をするあの動きとスピード。
『韋駄天の紋章』をサフランさんも持っているようだ。
これがサフランさんの本来の戦闘スタイル。
トリックファイターが本来のサフランさんか。
「あ!」
「棍棒の先から刺が出た!」
「反対側からは鎌のような刃が出ました!」
何とまぁ。仕掛けの多い武器だこと。
「ふ~ん。まるでジュンの剣みたいだね」
『あ、マスター!あかん!』
「え?何が?」
「あら?ジュン様の剣にも何か仕掛けがあるのですか?」
「良い事を聞きました。有難う御座います」
「あ」
アイシスめ…わざわざバラしてくれちゃって。
どうしてくれよう。
「ご、ごめん、ジュン…」
「アイシスの異名は『スケベ勇者』改め『うっかり勇者』」
「セリア酷い!…でも反論出来ない…」
アイシスのお仕置きは後にするとして。
今はルチーナだ。
ルチーナは致命傷こそ受けていないものの、ダメージは蓄積され、既に満身創痍だ。
だが眼に力がある。まだルチーナは諦めていない。
「よくここまで持ち堪えましたね。ですが、そろそろ終わりにしましょう」
「はぁ…はぁ…」
まだルチーナは諦めてはいない。だけどこのままだと負ける。
何かルチーナに作戦はあるのだろうか?
「行きますよ!」
サフランさんの連続攻撃を満身創痍ながら必死に捌くルチーナ。だけど遂に攻撃をまともに受け、仰向けに倒れてしまった。
「これで止めです!」
サフランさんは高く舞い上がり、空中から突きを放つ。
しかし、ルチーナはその攻撃を読んでいたようだ。
「そう来ると思いましたよ!」
「う!?」
今まで使わずに温存していたルチーナが持つ盾の能力、『フラッシュ』の能力を発動。サフランさんの眼は一時的に封じられた。そこへ温存していたもう一つの隠し球。シールドソーサーでサフランさんを空中で捕らえる。
眼が見えない状態では『韋駄天の紋章』で空中でも避けれるとはいえ回避出来なかったらしい。。
地面に仰向けになって倒れた者への攻撃は限られてくる。サフランさんの攻撃パターンから空中からの攻撃が来る可能性は高い。
そこまでルチーナは計算し、それに賭け、賭けに勝ったのだ。
「えええいやっ!」
「がはっ!」
空中で捕らえたサフランさんを、そのまま地面に叩きつける。
そして近づき斧を突きつけ、ルチーナが宣言する。
「私の、勝ちです」
「うふふ…ええ、私の負けです」
三戦目もこちらの勝利。
ルチーナの逆転大勝利だ。
よくやったね、ルチーナ。




