第272話 フラワー 4
『フラワー』との模擬戦。
第一戦はノエラの勝利だ。
「ジュン様、勝ちました」
「あ、うん。よくやった」
「有難う御座います。それで、その…御褒美は…」
「あ~…うん。後でね」
「はい」
まだ何をあげるか、決めてないんだよね。
あんまり凄いのは参加出来なかった人を考えると、不満が出てくるだろうし。
「次は私ですわ!」
おっと、次はダリアさんがやる気らしい。
非常にやる気に満ちているようだ。
「それじゃこっちは…」
「ジュン様、私が」
「…はい、クリステアね。行ってらっしゃい」
「はい。私が勝ったら…」
「御褒美ですね。考えておきます、はい」
「お願いします。では」
クリステアとダリアさんが練兵場の中央へ。
ダリアさんの武器は見た所…鞭がメイン武器か?
「彼女…ダリアさんの噂は少しだけ耳にした事があります。火魔法が得意で二つ名が『炎のダリア』だとか」
「『炎のダリア』…」
いいな、それ。
何かカッコいい。ちょっと男心を刺激されてしまう。
口に出すととんでもないの決められそうだから、言わないけど。
「いいなぁ、二つ名。僕も欲しい」
「アイシスはそう言うと思った」
「アイシスの二つ名は『スケベ勇者』」
「セリア酷い!」
「それしか無いね」
「異議は無いわ」
「アイとユウも酷い!」
「あの…戦いが始まりましたよ」
話に夢中になってる間にクリステアとダリアさんの戦いが始まっていた。
ダリアさんは左手に腰に着けていた鞭を、右手には魔法で作られた炎の鞭を。両手に鞭を持って戦うのが彼女のスタイルらしい。
「クリステアはダリアさんの事、知ってたのかな?」
「そうなんじゃない?だから立候補したんだと思うな」
「どういう事です?」
「クリステアは火の耐性が高いので」
クリステアが持つ『火の紋章』は火属性魔法の適性と火の耐性を与えてくれる紋章だ。
『炎のダリア』を相手にするなら適任と言える。
「なるほど…名が売れているのが仇になりましたか」
「でも、それだけで勝てる程ダリアは甘い相手じゃ…」
カトレアさんの言葉が止まったのはクリステアが優勢に戦っていたからだ。
それも鞭を使うダリアさんが有利なはずの中距離戦で。
クリステアはダリアさんの鞭を剣で弾くと同時にオーラフラッシュを放ち、盾で防ぐと同時にシールドオーラバッシュを放つ。
攻防一体の戦いを披露。
対してダリアさんはクリステアの攻撃を避けるしかない。
鞭ではクリステアの攻撃を防ぐのに向いていないのだ。
しかし、ダリアさんもこのまま押されっぱなしでは終わらないだろう。
「くっ…やりますわね…」
「お褒めに預かり光栄です」
「ですが、私は『炎のダリア』!これからですわ!」
ダリアさんは紋章を使い、火属性魔法「ファイヤーウォール」を展開。炎の壁でクリステアを囲んでしまった。
「あの紋章は…『炎の紋章』ですか」
「そうです。『炎のダリア』は伊達じゃないですよ」
『炎の紋章』は『火の紋章』の上位にあたる紋章だ。
より高い火属性魔法の適性と火属性耐性を与え、紋章の力で炎を操る事も可能だ。
「その炎の壁は鉄をも簡単に溶かします!そして!」
炎の壁の外側から、炎の鞭で攻撃。
クリステアなら鞭の攻撃は防げるだろうけど…
「くっ!」
「無駄ですわ!」
炎の壁の内側に居るクリステアにはダリアさんを攻撃する有効な手段が無い。
壁の向こうに居るダリアさんをクリステアは視覚で捉える事が出来てない。
オーラフラッシュやシールドオーラバッシュで炎の壁を一瞬吹き飛ばして穴を開けても直ぐに閉じてしまう。
「炎の壁でクリステアの動きを封じ、ダリアさんは位置を変えつつ外から攻撃。一方的な展開になってしまったな」
「はい。ああなっては彼女…クリステアさんに勝ち目はありません。炎の壁の内側は蒸し風呂状態。ただ持久戦に持ち込んでもダリアの有利です。降参する事を御薦めします」
「いいえ、姉さんはまだ負けていません。降参はしません」
「ルチーナ…」
クリステアは結構、負けず嫌いだ。
武闘会でアイシスに負けたリベンジをいつか果たそうと考えてるのも知ってる。
そして、一見考えて行動するタイプに見えるけど、どちらかと言うと直情的に強引に押し通すタイプだ。
妹のルチーナは逆に、一見、直情的に強引に押し通すタイプに見えて結構考えるタイプだ。
クリステアも考える力が無いわけじゃないし、頭も回るのだが。
「早く降参なさい!蒸し焼きになりますわよ!…ん?これは…」
ダリアさんの炎の鞭がピンと張っている。
これはクリステアが炎の鞭を掴んで引っ張っているのか?
武闘会でルチーナとイグナス君が戦った時のように力比べをする気なのか?
「力比べをする気はありませんわ!炎の鞭は伸縮自在!それに一度消せば済む話…」
「力比べをする気は私にもありません。今居る凡その位置が解れば十分です」
「なっ!?」
何と。クリステアは炎の壁を突っ切って出て来た。
幾ら火の耐性が高いからって、何て無茶を。
「シールドオーラバッシュ!」
「きゃあああ!」
クリステアの予想外の行動に不意を打たれ、シールドオーラバッシュをまともにくらったダリアさんは吹っ飛んでしまう。
衝撃が抜けず、起き上がれないようだ。そこへ剣を向けるクリステア。
「私の勝ちです」
「な、何故…私の『ファイアーウォール』の壁を突破してその程度の火傷で済むはずが…」
「貴女の炎の鞭を見てて思いました。炎なら炎の中を通れる、と」
「……ま、まさか…自分の魔法で自分に火を点けたのですか!?」
「はい。そして私は『火の紋章』を持っています。火の耐性は高いので。それでもかなり熱かったですけど」
頭を使ったようだけど、やはり強引な突破方法だ。
普通の人は思いついても実行出来ないような事をやってのけるのは流石だと思うが。
「普通じゃありませんわね…貴女。ですが…私の敗北です」
「…はい。ありがとうございました」
二戦目はクリステアの勝利だ。
これでうちの二勝。
でも…
「ジュン様、勝ちました」
「うん…よくやったね。でも…」
「ジュン様?痛っ」
「無茶しすぎ。火傷はボクが治癒魔法で治せるけど、もし綺麗な顔に痕でも残ったら…あっ」
「ジュ、ジュン様?今、私の事を綺麗と…」
「あ~そう?気のせいじゃない?」
「いいえ、気のせいでも聞き間違いでもありません!も、もう一度言ってもらえませんか?」
「「「……」」」
言いません、決して。
皆の視線が怖いから。




