第270話 フラワー 2
「お待たせしました」
Sランク冒険者パーティー『フラワー』の面々が待つ部屋へ。
部屋の中にセバストとリリーとシャクティ。そして初顔の五人の女性。
「初めまして、ジュン・エルムバーンです」
「御初に御目にかかります。私達はSランク冒険者パーティー『フラワー』。私はリーダーのアネモネです。よろしくお願いします」
意外にも丁寧な挨拶をした女性はリーダーのアネモネさん。
薄紅色の髪に紫の瞳。清楚で真面目そうな人だ。
「カトレアです。初めまして」
同じく丁寧で、しかし妖艶な印象を受ける女性はカトレアさん。
紫の髪に黄色の瞳。とても魅惑的な人だ。
「サフランです。よろしくお願いします」
黄色の髪に黄緑色の瞳。何が楽しいのかずっとニコニコしてるのがサフランさん。
彼女も丁寧に挨拶をしてきた。
「ダリアです。よろしくお願いいたしますわ」
赤い髪に紅い瞳。先の三人同様、丁寧な人だ。
だが、どことなく気品を感じさせる。
「ナズナです。よろしくです」
最後の一人は他の四人とちょっと違う。
他の四人は見た目二十歳以上の大人の女性という感じなのだが、彼女は小柄でまだ少女と言った感じだ。
そして服装も違う。ギンの妹達やタマモさんと同じで和服っぽい。
白い髪に薄緑色の瞳。可愛らしい女の子だ。
五人全員、人族に見えるけど…何となく違う気がする。
「早速ですが、どのような御用件でしょう?」
「はい。ジュン様は冒険者で、Sランクの冒険者パーティー『マスター』のリーダーだそうですね?ならば私達の噂を聞いておられませんか?」
「…各国にいるSランク冒険者パーティーに戦いを挑んでいるとか?」
「そうです。聞いておられるならお分かりだと思います。私達と戦って頂きたいのです」
「御断りします」
「はい。では早速…って、え?」
「あれ?御断り?」
「はい。御断りします」
こちらに何のメリットも無いし…アイが居たら受けて立つと言い出しただろうけど。
というか。この人達も断られると思ってなかったみたいだけど、何で?
ボクは頼み事を断らない人だと思われてるのだろうか。
「ええ~?嘘~」
「断られたのは初めてですね」
「ど、ど、どうしましょう?」
「理由を聞こう?」
「そうですね。あの、理由をお聞かせ願えますか」
「戦う理由がありませんから。噂によるとそちらが戦いたい理由も教えてもらえないんですよね?なら、そちらの事情を考慮する事も出来ませんし。こちらにメリットも無い、理由も無い。ならば戦う必要も無いと考えます」
アイのように、強い人と手合わせをしてみたいと思う気持ちがまるで無いわけじゃないけど。
『フラワー』の人達が戦いたい理由を知らずに受けるのは怖い。
「う~ん…困りました…確かに、私達がそちらと戦いたい理由は話せません。少なくとも今は…」
「今までのSランクパーティーは殆ど無条件で受けてくれましたのに」
「あ、私達が負けたら御金をあげるとかはあったよ?もしくは抱かせろとか」
「ああ、ありましたわね」
「なら、同じ条件出してみる?」
「でも、今回の相手は魔王子様だし」
「Sランクの冒険者でもありますから、御金には困ってないでしょうし…女にも不自由してないでしょうし…あの、どうにかお願いできませんか?私達が負けた場合、可能な限りの事はしますから」
「そう言われましても。こちらに貴女方にして欲しい事は特にありませんし」
もしも、戦争が始まったら…御願いしたい事はあるが。
今は戦争が始まるかもしれないとは、漏らす訳には行かないし。
「ただの訓練として、手合わせをするなら考えますけど?」
「いえ、それでは意味が無いのです。本気でやって頂かなくては…どうにかお願いできませんか?」
「御断りします。話がそれだけなら、お引き取りください」
「…お待ちになって。戦いを挑まれて受けないのは、魔王子としてもSランクの冒険者としても恥なのでは?評判が落ちてしまいますよ?」
挑発して来たか。魔王子と冒険者って戦いを挑まれたら受けないといけないの?
初耳なんだけど。
「ボクは構いませんよ?むしろ…大歓迎?」
「はい?評判が落ちるのを歓迎するのですか?」
「ええ。何と言いますか…エルムバーン国内ではボクの事を神様の如き扱いをする人が多くて。ある街ではボクに絡んで来た酔っ払いは即座に周りの人に殴られて土下座させられたり、ボクを見たら御祈りを始める人が居たり、街を訪問すると予め伝えたら街をあげてお祭り騒ぎになったりで。どうにか評判を落としてバランスを取りたいんですよね」
「「「……」」」
治癒魔法として各地を周った影響はまだまだ残っていて。
学校や病院ではボクの肖像画まで飾ってあるし、銅像まで建ってる街まであるしで。
どうにか評判を下げてバランスを取りたい。
せめて御祈りを始める人が居なくなる程度に。
「手強いですわね…」
「ええ…これでは評判を落とすとかそういう脅し文句ではどうにもなりませんね」
「いや、魔王子様を脅すとかそもそも論外でしょ…」
「評判を下げようとしても、逆に私達がピンチになるだけな気がしますし」
「やっぱり何か対価…魔王子様達にメリットを用意するしかないです」
「そうですね。あの、何か私達にして欲しい事はありませんか?」
「大抵の事は聞き入れますわよ。私達が負けたら、という条件付きでですが」
「ですから、ありません。御引取り…」
「その勝負受けたー!」
「ちょっと、アイ!」
お茶会に行ってる筈のアイが乱入して来た。
アイは受けるって言うだろうと思ったから、居なくてよかったと思ってたのに。
「アイ、勝手に受けるんじゃない。というか立ち聞きしてたのか」
「ジュンこそ!勝手に断らないでよ!こんな楽しそうな話!」
「ごめんね、お兄ちゃん。止めたんだけど…」
扉の前には…お茶会に参加してた人が全員居る。
あ、いや、ママ上が居ないな。
「じゃ、ジュン達が勝ったら、ジュンの女になるってのはどう?」
「いえ、その…まだ結婚生活に入るのは…」
「魅力的な話ではあるんですけど…」
いつの間にか部屋の中にママ上が。
『フラワー』と交渉を進めてるし。
「はい、そこ!勝手に話を進めない!」
「あら、いいじゃない。どうして受けないの?」
「受ける理由もメリットも無いからです。女性を傷付ける真似もしたくありませんし」
「え~いいじゃない~ジュンなら治癒魔法で治せるんだし~。お母さん、久しぶりにジュンのカッコいい所見たいなぁ」
「そう言われても…」
「むー…じゃあ、ウチだけやる!ジュンは見学してたら?」
「…はぁ…わかった。アイは好きにしていいよ」
「あの…失礼ですが、貴女は?」
「あ、ウチ?ウチはアイ・ダルムダット。ジュンの婚約者で、『マスター』の一員だよ」
「あの、アイ様が『マスター』で最強なのですか?」
「え?ううん。最強はジュンだね。ウチも格闘戦なら誰にも負けない自信があるけど、統合的に見たらジュンには敵わないかなぁ」
果たしてそうだろうか?
遠距離戦となればボクが圧倒的に有利だけど、接近戦となればボクが圧倒的に不利な気がする。
いや、魔神王の紋章がある今となっては、そうでもないか?
「すみません、それではあまり意味が無いのです。『マスター』で最強の人の力を知る事が出来なければ…申し訳ありません」
「パーティメンバーの力を知る事も重要なのですけど…」
「ほらほら、ジュン。女の子が困ってるわよ。助けてあげたら?」
「困ってるわけじゃないでしょう。むしろ困ってるのはボクですよ」
「もう~…じゃあ、こうしましょ。彼女達の御願いを聞いてくれたら、イーノちゃんが例のスケスケドレスを着てくれるわよ?」
「ちょっと!?エリザ様!?私は関係無いでしょ!?」
「…うう~む…」
「ジュン殿!?何故悩むんです!」
何故って言われても。
見たいからですが?
「まだダメ?じゃあパメラさんとシャンタルさんとエミリエンヌさんも着てくれるから~」
「え?わ、私もですか?」
「スケスケドレスとはどのようなドレスなのですか?」
「あたしはいいですよ~。ドレスを着るくらい」
それも見たい。是非に。
だが、しかし…
「まだダメ?も~う欲張りさんねぇ。じゃあ、『フラワー』の人達と、ノエラ達とユウとアイにも着させるからぁ」
「ウチも!?」
「わ、私も?…お兄ちゃんに見せるのはいいけど…」
「私は問題ありません。むしろ望む所です」
「り、リリーもですか?」
「私も、ジュン様になら…」
「私達も負けたなら、ドレスを着るぐらい…」
「とんでもないドレスな気がしますけど…」
「うう~む!」
実に悩ましい。
しかし、こんな餌に釣られて勝負を受けるのもカッコ悪い気が…
「ジュンお兄ちゃん」
「あ…何?ベル」
「私も…ジュンお兄ちゃんのカッコいい所、見たい」
「う!」
そんな上目遣いでキラキラした眼で言われると…
「し、仕方ないな。ベルにお願いされたらなぁ~」
「受けて頂けるのですか?」
「仕方なしにですけどね」
「それなら私達があのドレスを着る必要は…」
「あ、それは着てもらいます」
「ジュン殿!?」
いくらベルの御願いでも、それくらいの御褒美が無いとね。
やりたく無い事やらされるんだし。
いいよね、それくらいの御褒美。




