第267話 クリステア
クリステア視点です。
誤字脱字報告ありがとうございます。
「じゃ、行きましょ、姉さん」
「ええ」
今日は私とルチーナが王都を巡回する日です。
本来、王都の巡回等は別の騎士団の仕事なのですが、ジュン様の親衛隊は常に何か任務があるわけではないので、手が空いてる者は王都の巡回をしたり、周辺の街や村を周って何か異常が起きてないか調べる事になっています。
私とルチーナはジュン様達に付いてよく王都を離れるので、あまり機会は無いのですが。
「王都の巡回も何だか久しぶりね」
「そうですね」
誰がジュン様達の護衛として付いて行くか。
毎月親衛隊内で試合をして勝った者が付いて行くのですが、今の所私とルチーナが連勝しています。
と言ってもカイエン隊長を始め、男性陣には遠慮してもらってるのですが。
最近ではリディアがかなり力をつけていて、私もギリギリ勝ってる感じです。
私も更なる力を着けねばなりません。
「あ、御婆さん。どうされました?」
「あの…東の隣町まで行く馬車には何処で乗ればよかったかしら?」
「それなら東門前の乗り場からですね。こっちです、案内しますよ」
こうして、困っている人が居たら助けてあげるのも仕事の内です。
これも本来は親衛隊の仕事ではないでのですが、御優しいジュン様の御命令を守って、皆積極的に仕事をこなしています。御蔭で、王都の治安や、騎士達に対する国民の人気は高くなる一方です。
「きゃあ!」
「へへへ!あばよ!」
とはいえ、やはりこういう犯罪は稀に起こるのですが。
「姉さん!」
「ええ、ひったくりですね。追いますよ」
犯人は…狼人族ですか。
脚の速さではかないませんね。
とはいえ、街中で魔法を撃つわけにもいきませんし…おや?
「ぐへぁ!」
「はいはい、オイタはダメですよ」
アレはシャクティですか。
糸で犯人を捕まえてくれました。
ジュン様もよく仰ってますが、どうやってるのか私にもサッパリです。
「ありがとう、シャクティ」
「協力に感謝します」
「いえいえ。これくらいなんてことないですよ」
「シャクティは買い出しですか?」
「いえ、買い物に来たのは間違いないんですけど、私は今日は休みですので。自分のオヤツを買いに」
シャクティが出て来たこのお店は…菓子屋ですか。
そういえばシャクティは甘い物が大好きでしたね。
「ほどほどにしないと、太るわよ?」
「う…だ、大丈夫ですよーだ。ちゃんと運動もしてますから!」
「ほんとーにぃ?ちょっと太ももとかむっちりしてきたんじゃない?」
「し、失礼な!む~…ルチーナさんは、ちょっと太った方がいいんじゃないですか~?胸が大きくなるかもしれませんよ~?」
「ふ、触れてはいけない事に触れたわね!」
「ルチーナ、そろそろ行きますよ。それでは、シャクティ。有難うございました」
「あ、いえ。それじゃルチーナさん、後でお菓子一緒に食べましょ。クリステアさんも」
「ええ、楽しみにしてます」
「フンだ!食べつくしてやるんだから!」
捕まえた犯人は近くに居た兵士に任せ、巡回を続けます。
今回のような事件は、王都では稀に起こる程度の事。
今日はもう事件は起こらない…
「ま、魔獣よ!魔獣が出たわ!」
「なんでこんなところにゴブリンが!?」
王都に魔獣?
どういう事でしょう?
いえ、考えるのは後ですね。
「ルチーナ!」
「はい、姉さん!」
現れたのは…ただのゴブリン一匹?
簡単に始末出来ましたし、本当にただのゴブリンのようですが…
「このゴブリンが何処から来たのか、わかる方はいますか?」
「い、いえ…私には…」
「私にも…突然現れたとしか…」
「そうですか…」
どういう事でしょう?
ふむ…
「姉さん、兵士達が集まって来たわ」
「なら、此処は彼等に任せましょう」
兵士達に後の事は任せて巡回を続けましょう。
ですが、この件はジュン様とカイエン隊長に報告して相談した方がよさそうです。
「今日は何だか色々起こるね、姉さん」
「そうですね。ですが後は流石に…」
「マァマァ~…グスッ…どこぉ~」
今度は迷子ですか…先ほどの騒ぎではぐれてしまったのでしょうか?
「仕方ないですね…貴女、大丈夫ですか?」
「お母さんとはぐれちゃったの?」
「…グスッ…うん…」
「お家は何処?」
「…わかんない…」
となると、はぐれた母親を探すしかありませんか。
母親もこの子を探しているでしょうし。
「じゃあ、お姉ちゃん達がお母さんを一緒に探してあげる。だから泣かないで、ね?」
「…うん」
「いい子ね~大丈夫よ。きっとすぐ見つかるから」
「…本当?」
「もちろん。さ、行こ?」
「うん…」
とりあえずは落ち着いたようです。
先ずは大通りの方に出ますか。
「それにしても、何だか慣れてますね、ルチーナ」
「まぁね。つい最近も迷子の子を母親の下に送り届けたし。アレはアイシスさんの手柄だけどさ」
「そうですか」
そう言えば、サンドーラでそのような事があったと言っていましたね。
その時の話ですか。
「そう言えば貴女、御名前は?私はルチーナ。こっちはクリステアだよ」
「あたし、シェリー。五歳だよ」
「シェリーちゃんね、よろしくね」
「うん」
シェリーちゃん、ですか。
シェリー…どこかで聞いた事がある名前のような?
それにこの子も誰かに似てるような…
「あ、クリステアとルチーナだ」
「本当だ」
今度はハティとセリアと会いましたか。
二人は仲がいいですね。よく二人で出掛けているようですし。
「どうしたの?その子は?」
「迷子?」
「そ。今はこの子のお母さんを一緒に探してるの」
「二人は遊びに行った帰りですか?」
「うん」
「森に木の実を取りに行ったんだよ。ほら、これ」
二人が取り出したのは…栗にアケビ。柿もですか。
「大漁ですね」
「うん!これを使ってご主人様にお菓子作ってもらうんだ~」
「ジュン様に?セバストさんじゃないの?」
「お菓子はジュン様の方が上手」
そう言えば、偶にジュン様がお菓子を配ってくださる事がありました。
アレはジュン様の手作りでしたね。
「あ、そだ。ねぇ君。これあげる」
「わ…おっきなアケビ…いいの?」
「いいよ~」
「わぁぁ…ありがとう、お姉ちゃん!」
「お姉ちゃん…えへへ。そうだ、お母さんを探すのも手伝ってあげよっか?」
「あ、助かるわ、それ」
「そうですね。御願い出来ますか、ハティ」
ハティの鼻なら、きっとすぐ見つかる事でしょう。
「うん、いいよ~。スンスン…こっちだよ~」
「もう分かったの?」
「うん。この子と同じ匂いがする人がこっちにいるみたいだよ~」
もう母親と思しき人物に匂いを嗅ぎ分けたようです。
流石、神獣フェンリルです。
「よかったね、シェリー。もうすぐ見つかるよ。ほら、行こ」
「うん!」
「ほら、姉さんも。シェリーの手、持ってあげて」
「私もですか?何故です?」
「いいからいいから」
「はぁ…」
ルチーナは何がしたいのでしょう?
何だか少し楽しそうですね。
それにしても、こうして誰かと手を繋いで歩くというのは随分久しぶりな気がします。
ジュン様と初めてお会いした時、ルガーの街を案内した時以来でしょうか?
それとも末の妹、ナターシャと街を歩いた時でしょうか?
「あ、ママァ!」
「ああ!シェリー!よかった!」
どうやら見つかったようです。
母親の様子から、随分と心配して探し回った事が窺えます。
「あのお姉ちゃん達が助けてくれたの!」
「そう。ありがとうございます、皆さん」
「いえ、これも仕事です。気にしないでください」
「ありがとうございます。…あの、もしかして主人と同僚の方ですか?」
「主人?」
「はい。主人も騎士で…ジュン様の親衛隊に所属している、ダービスというのですが…」
「…ダービス…」
ダービス…ダービス…ああ、彼ですか。
何故か皆の記憶に残りにくい影の薄い彼。
そう言えばシェリーはダービスに似ていますし、彼から家族の話を聞いたような気も…
「そうですか、彼の御家族でしたか。確かに私達もジュン様の親衛隊に所属する騎士です」
「ああ、やっぱり。主人の鎧と同じ紋章がついてるから、そうじゃないかと。主人がいつも御世話になっております」
「いえ、こちらこそ」
「…えっと、こちらこそ」
ルチーナ…まだダービスを思い出せていませんね?
ハティとセリアも同様ですか。
まぁ二人は親衛隊ではありませんし、無理も無いですが。
「それでは、失礼します」
「またね、シェリーちゃん」
「またね~」
「またね」
「あ、待って!お姉ちゃん達!ちょっとしゃがんで!」
「なんです?」
言われたままにしゃがみましたが…何故かシェリーに頭を撫でられました。
私だけでなく、全員。
これは…
「パパがね、いい事したら頭をナデナデしてくれるの。だから、お姉ちゃん達もナデナデしてあげる」
「アハハ。ありがとね、シェリーちゃん」
「ふふん」
「うん。悪くない」
「…そうですね」
御蔭で大切な事を思い出せました。
ジュン様と初めて会った日。治癒魔法使いとして、民を癒す為に初めてルガーの街を訪れたあの日。
あの日の事があったから、私は…
「それじゃあね、シェリーちゃん」
「ありがとうございました、皆さん」
「バイバイ!」
「あたし達も城に戻るね~」
「二人はまだ仕事?」
「いえ、そろそろ一度戻ります」
「そうね、戻りましょ」
「じゃあ、一緒に帰ろー」
「ん」
せっかくですし、皆で帰るとしましょう。
それにしても、ルチーナが何だかご機嫌ですね。
「ルチーナ?どうかしましたか?何だか楽しそうですが」
「え?そう?ん~…シェリーちゃんと手を繋いで歩いてる時さ、兄さんや姉さんと手を繋いで歩いた子供の頃を思い出しちゃって」
「そうですか。私も少し思い出してましたよ」
「やっぱり?懐かしいなあ…皆、元気かなぁ」
「暫く、ルガーには帰っていませんからね。今度休暇を頂いたら戻ってみますか?」
「そうね。お母様の誕生日も近いし…ジュン様も御一緒してもらってサプライズもいいかもね」
「フフフ、そうですね」
「姉さんも何だかご機嫌じゃない」
「そうですか?…そうですね、私も少し思い出した事がありまして」
「何思い出したの?」
「内緒です」
「何でよ~」
「大した事じゃありません。でも内緒です」
「ぶー」
あの日。
ジュン様と初めて会ったあの日。
ジュン様も私の頭を撫でてくれました。
私より年下の子供であるジュン様が、先ほどのシェリーのように。
でも、その時のジュン様の手はまるでお父様の手のような。
暖かさと優しさを感じる手でした。
あの時から私は…
「姉さん?どうしたの?もう城に着いたわよ?」
「あ、ああ。少し考え事をしていただけです」
「そう?」
いつの間にか、城に着いてましたか。
さて、と。街中にゴブリンが現れた件をカイエン隊長とジュン様にご報告しないと。
「と、いう事がありました」
「そう…突然ゴブリンが…怪我人は出なかったんだね?」
「はい。その後の事は騒ぎを聞きつけてやって来た兵士達に任せました」
「わかった。突然ゴブリンがやって来た…いや、現れた、か。ふうん…」
「何だろうね。転移魔法?」
「まさか、それは無いでしょ」
「うん。転移魔法を使えるゴブリンが居たとしても、一度行った事のある場所にしか、転移出来ない筈だから。それは無いかな」
「そっか。ん~…じゃあ召喚魔法?」
「残るは召喚魔法くらいだけど…聞いた限りじゃ違う気がするなぁ。あ、二人共、御苦労様。休んでいいよ」
「「はい」」
確かに、召喚魔法なら近くに召喚した者がいるはず。
しかし、あの時近くにそれらしき人物はいませんでした。
あっと…それよりも、です。
「ジュン様、もう少しよろしいですか?お伝えしたい事が」
「ん?いいよ。何?」
「はい。ジュン様、私は貴方が好きです」
「うん…え?」
「「「なっ」」」
「貴方の暖かで優しい手が好きです。貴方の優しい眼が好きです。貴方の優し気な声が好きです。貴方の優しさが好きです。だから私はジュン様が大好きです」
「あ…えっと…と、突然だね?何時もと何か違うし」
「そうですね。今日、初めてジュン様と会った日の事を思い出しまして。そしてジュン様を好きになった本当の理由も。それで、思い返してみれば私はジュン様に『抱いて欲しい』だとか『調教してください』だとか。そういう事は伝えていても好きだとは一度も伝えてない事に気が付きまして。御迷惑でしたか?」
「い、いや。そんな事は…んんっ…ありがとう、クリステア。嬉しいよ」
「そうですか…よかったです。それで、ジュン様?私を…」
「ちょっと!ちょっと待ってください!クリステア、抜け駆けは許しませんよ!」
「そ、そうですぅ!クリステアさん、ズルいですぅ!」
「そうでしょうか?抜け駆けと言っても、いつも言ってる事に比べれば可愛いモノでは?それに別にズルくもないような」
「そ、そうなんだけど!」
「くっ…普段碌でもない事ばかり言ってるのが此処に来て有効に働くなんて…」
「そうね…普段おかしな事ばかり言ってる子が急に真面目にまともな告白をする。計算でやってるなら大したモノだわ…」
「恐るべし、クリステアさん…」
「うう…姉さんがまともな告白…止めるに止められない…」
計算とか、そういう意図は無かったのですが。
ただ、ジュン様に好きだと一度もまともに伝えてなかったと気が付いたから、伝えただけで。
しかし、確かに効果的だったようです。
ジュン様の御顔が真っ赤です。ジュン様が此処まで私を意識してくれたのは初めてかもしれませんね。
「ですので、ジュン様。いつか私を、ジュン様の女にしてください」
「…か、考えさせてください」
「はい。よろしくお願いします、ジュン様」
「「「むー!!!」」」
考えさせてください、ですか。
今はそれで十分です、ジュン様。
皆さんとの今の関係も楽しいですし。もう少し今のままでもいいと思えます。
普段は本の内容を真似たアピールしか出来ない、不器用な私ですが…これからもよろしくお願いします、ジュン様。
読んでいただき有難うございます。
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