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第258話 家出王女 12

「というわけで、やってまいりました。サンドーラ王国の王都アルテイアです。世界でも珍しいペガサスを騎馬とする国だけあって、王都の巡回を天馬騎士が担っているようで空にはチラホラと天馬騎士が見れるのが特徴でしょうか」


「ジュン?誰に言ってるの?」


「ジュン様、センスない」


「ジュン様って時々わからない事言いますよねー」


「気にしないであげて」


「お兄ちゃんの持病みたいなモノだから」


 相変わらず厳しいセリアさんはまだいいとして。

病気扱いは酷いんじゃないか、妹よ。


「それで…ジュン。本当にこの人達があん…んんっ。この人達が例の?」


「うん、まぁ…アイの言いたい事はわかるけど、そうらしいよ」


 サンドーラの王都アルテイアに到着してすぐ。アンナさんに言われたように一度ヴェルリアに戻った。

アンナさんが用意すると言ってた暗殺者は何時ぞやのハニートラップ要員で、夏のバカンスにも同行していたメイドさん三人だ。


「ご安心ください。こう見えても私達は強いので」


「城に潜入も慣れたモノです」


 本当かなぁ。だってこの前はノエラとセバストに捕まって…いや、あれは出来レースだったか。


「でも、なんとなく不安…」


「そうね、アイ。私も不安…」


「ああ、ボクも不安」


 だって見た目普通の街娘だもの。

いや、街にいる時点で暗殺者ってまるわかりだったら逆に問題なのはよくわかるけども。


「ご心配なく。万事全てお任せください」


「はぁ…それでこれからどうするんですか?」


「先ずは先に潜入してるこちらの手の者から情報を集めます」


「そうですか。どこで落ち合うんです?」


「一緒に聞きますか?」


「そうですね。ボク達も一応聞いておきたいですね」


「そうですか。ではこちらです」


 メイド兼暗殺者の三人組の先導で、向かった先は…宿?


「この宿ですか?」


「はい。此処です」


「しかし、この宿は…」


 どこか普通の宿と違うような…いや、誤魔化すのはやめよう。

今出て来たカップルが全て物語っている。

ここは連れ込み宿とか連れ込み旅館だとか言われる、所謂ラブホだ。


「こ、此処に入るんですか?」


「はい。女だけでは入りにくいので正直来てもらって助かりました」


「いやいやいやいや。確かにボクを含め男は四人いますけども?男女比がおかしいでしょう」


「男女比?なんか関係あるの?」


『マスター…いや、知らんなら知らんままでええか』


 興味津々なのに知らないのか、アイシス。

まぁアイシスも伯爵令嬢だしな。知らないのも無理はないか。

むしろ、そういう情報から隔離されて半端に知識を得たから興味津々なのかな。


 いや、今はそんな事考えてる場合じゃなく。

どうしよう、普通に入っていいのかな、これ。


「落ち着いて、お兄ちゃん」


「入ったからって必ずそういう事しなきゃいけないわけじゃないんだから」


「そうです。さぁ行きましょう、ジュン様」


「ささ、ジュン様」


「待って、何故腕を組む?しかも左右から」


「勿論、こういう宿に入るのですからそれっぽく見せませんと」


「そうです。他意はありませんよ?」


「ノエラ先輩ズルいですぅ」


「クリステアさんもズル~い」


 どうやら入らないわけには行かないらしい。

仕方ない、仕方ないけど先に言って欲しかった。


「この部屋です」


 メイドさんに案内された部屋には先客が。

一見、冒険者に見える女性二人。


「来たか」


「随分大勢だな」


「こちらはエルムバーンの魔王子様御一行と、勇者アイシス様御一行です」


「貴方達が集めた情報を皆さんも聞いておきたいそうです。問題ありませんので情報の開示を」


「わかった」


 二人の情報はベルナデッタさんとルシールさんから聞いた情報と同じ物が殆どだったが幾つか新しい情報もあった。


 一つは、ベルナデッタさんの捜索の為に城内に勤める騎士達の大半が出ている事。

これは普段、ベルナデッタさんは引きこもってるので城外の騎士は顔もよく知らない者ばかりで城内の騎士を出すしかなかったらしい。

まさか引きこもりが役に立つとは…


 もう一つは、少なくとも城内に奴の協力者はいないという事。

ただ、自室で時折、魔法道具で連絡を取っているらしい。


「城内の警備が手薄なのは助かりますね」


「サンドーラ王家の人達は無事ですか?」


「全員、無事を確認している。支配下にあるのだから、監禁する必要も無いのだろう。一見、普通に過ごしていたよ」


 ウラリーさんや他にも何人か支配下から逃れた筈だけど…ベルナデッタさんがいなければ再度の魅了からは逃れられないか。

恐らく、全員再度支配下におかれたと見るべきか。


「ならば、ナジールを始末するだけで事足りますね」


「背後関係を聞き出さないのか?」


「アンナ様からはサンドーラ王国の解放を最優先にするようにとの事。支配下にある城の中でナジールを捕らえて連れ出すのも、その場で尋問するのも難しい。最悪支配されたまま逃亡されては厄介ですから」


「そうか」


「二人の分の対吸血鬼用の装備も用意しました」


「ああ」


「では、夜になるのを待って潜入しよう」


「夜?」


 今は昼。

日が沈むのは後5~6時間後。

しかし、夜に潜入というのは寝静まった頃にという事だろう。

何時間後だ、それ。


「それまでどうするんですか?」


「無論、此処で過ごします」


「宿の主人は買収済みです」


 此処で?夜まで此処で待機?

いやいや、ダメだろう。


「い、いや、流石に退屈しますし、時間があるなら観光もしたいし外へ…」


「そんな目立つ人達を連れて大人数でですか?」


「警戒されたくないので、控えて頂けますか」


「う…」


 確かに、目立つ。

美男美女の集まりだし、騎士やらメイドやら執事やら冒険者やら。

服装も目立つし…


「じゃ、じゃあボク達は転移魔法でエルムバーンに戻ります。数時間したら戻りますから…」


「まぁまぁ、ジュン様」


「偶にはこういう宿でゆっくり過ごすのもいいんじゃないですか?」


「いや、ダメでしょう」


 そもそもアイとユウはまだ未成年。

まだこういう宿に来ちゃダメでしょ。


「ほら、一旦エルムバーンに戻るよ」


「は~い」


「ちょっと残念な気も…」


 ユウが何か言ってるが無視して連れ帰る。

数時間後には作戦開始か。

ナジールの暗殺…果たしてうまく行くか。

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