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第257話 家出王女 11

「ほんとーに全滅させたの?ジュンちゃんの魔法一発で?」


「事実です、アンナ様…」


「直接見てた僕達も信じられない思いですけど…事実です」


「うん。凄かった」


 今、ボク達は再び、王都ヴェルサイユのノーヴァ家の屋敷に来ている。

魔獣を討伐した後、ヴェルリア軍が後始末をする間、念の為待機して様子を見ていたが、サンドーラが何かする様子は無かったので引き上げて来た。


 そして、次にサンドーラが何かする前にナジールを何とかしなければならない。

その為に、ナジールの支配能力に対抗する術を用意しなければならない。

それを話し合う為と報告を兼ねて集まっているわけだ。


「指揮官からの報告は聞いていたけど…いやぁサンドーラを敵に回すより、ジュンちゃんを敵に回す方が怖い気がするわねぇ」


「大袈裟ですよ。アンナさんの方がよっぽど怖い人でしょ?」


「あら?そうかしら。魔獣達の中にはドラゴンもいたそうじゃない。それに魔獣が何匹居たか、知ってるの?」


「いえ。数えてませんが」


「七千匹を超える数が居たのよ?多くは討伐難度D以下のザコだけど…中には討伐難度Aの大物も含まれていたそうよ。なのに一発の魔法で殲滅。どう考えてもジュンちゃんの方が怖いわよ。益々ジュンちゃんとは親戚にならないと」


 七千匹か。

それだけの討伐証明があれば一気にランクUP出来そうだな。

まぁ今回は貰うわけには行かないんだけど。


「ねぇ、本当に報酬は魔石だけでいいの?ユーグも指揮官のアングラード男爵も気にしていたけど」


「はい。最初の約束通りでいいですよ。約束は守らないと。ねぇイーノさん」


「はい?何故私に振るんですか」


「いえ、別に。それよりも今後とナジールの支配能力の対策について話し合いましょう」


「そうね。…って、え?ナジールもジュンちゃんが何とかするつもりなの?」


「あ、もしかしてもう解決策出来てます?」


「ううん。暗殺者を送り込もうとは思ってたけど。いえ、既に送ってはいるけど…」


「送ってるんですか…」


 ヴェルリアにもやっぱり暗殺者とかいるんですね。

サラっと言うアンナさんの方がやっぱり怖いと思うな…


「どうして?ジュンちゃんはエルムバーンの魔王子なのよ?そんな危険な事を率先してやる必要は…ヴェルリアなら絶対にさせないわよ?」


「今更ですよ。それに放っておく方が後々面倒な事になりそうですし。後…ベルナデッタさんの家族が人質に捕られてるような物でしょう?なら早く助けないと」


「…助けてくれるの?お父さんやお母さん達…」


「出来る限りの事はさせてもらうつもりですよ」


「…ありがとう」


 さて、その為にもナジールの能力に対抗する術を早く用意しないと。


「で、ナジールの支配能力…あるいは洗脳能力ですか?それについて御二人は何か思い出せる事はありませんか?」


「思い出せる事ですか…」


「そうです。例えば能力を使う場面を見てませんか?」


「あ…あの…」


「何か思い出しましたか?ベルナデッタさん」


「…わたし、一度しかナジールと話してないけど、あいつは私を支配出来てると思ってた。ならその時に能力を使ってたんだと思う…多分…」


「ベルナデッタさんが支配されなかったのは紋章の御蔭ですか」


「うん。ルシールもその時だと思う…ちょっとボーッとしてたから」


「私はその時の事を覚えていないのです」


「なら、ベルナデッタさん。その時ナジールは魔法を使った様子はありましたか?」


「…ううん。ただ見つめられただけ。でも…眼が赤くなってた。普段は金色なのに」


「眼が赤く…」


 魔眼の類か?

そんな魔眼があるとは聞いた事が無いけど…


『そこまで解れば十分やで。ありがとうな、お嬢ちゃん』


「なんの能力か解ったの?メーティス」


『勿論や。わりかし最近、縁があった種族の能力やで』


「というと?」


『吸血鬼の魅了やな。吸血鬼が魅了を使う時、眼が赤く光るんや。えらい大人数を魅了してるらしいし、そいつは魅了能力に長けた奴なんやろな』


 吸血鬼の魅了か。という事はナジールは吸血鬼。

勇者の遺物を強奪したブラドと関係のある者だろうか。


『因みに吸血鬼の魅了は非童貞と非処女には効きにくいって特徴があるねん。お嬢ちゃんの紋章で解除出来た人は皆、非処女か非童貞なんちゃうか?』


「…それって…」


 ベルナデッタさんは解呪の紋章がの御蔭だから例外として。

ルシールさんは…


「な、なな、何を…何を言うのですか!私はまだ処女です!」


「…処女ってなあに?」


「ベルナデッタ様はまだ知らなくていいんです!」


『そうなんか?じゃあ、あんたは男に興味無いんか?』


「何なんですか!そんな事聞く必要ないでしょう!?」


『いやいや、必要な事やろ。男の吸血鬼の魅了が効きにくい女の特徴は二つ。非処女か、男に興味が無くて女が好きな場合のどっちかやし』


「でも、メーティス。今は対魅了の装備もある事だし…ルシールさん嫌がってるし、これ以上は聞かないであげて」


 ルシールさんが本当に処女なら…メーティスの論で行くとルシールさんはレズだという事に…いや、別にだからどうだと言うつもりは無いのだけども。


『ほうか?まぁナジールが吸血鬼なら話は簡単や。ナジールを殺せば、全員魅了から解放されるで』


「そうなると、やっぱり有効なのは暗殺ね」


「しかし、アンナ様。それではナジールの目的、背後関係を知る事が出来ないのでは?」


「それは二の次よ。まずはサンドーラをナジールの支配から解放する。それが最優先よ」


「アンナさん、暗殺者は既に送ってるそうですけど、対吸血鬼用の備えはしてるんですか?」


「…してないわ。現地調達は…難しいかしらね」


「どこにでも置いてる物では無いですし、置いてあってもそれなりに高価な物ですからね。ボク達は以前用意しましたから、やっぱりボク達が行きますよ。可能なら捕縛します」


「ありがとう、ジュンちゃん…先に送った者達には情報収集をさせるわ。それから…サンドーラの王都に着いたら一度戻って来てくれる?」


「何故でしょう?」


「対吸血鬼用の装備をさせた暗殺者を用意しておくわ。ジュンちゃんに暗殺なんて真似をさせるわけにいかないしね」


「それは…」


 確かに、暗殺なんてしたくはないけど…自分の手を汚したくないから他人に汚させるというのは…何か違う気がする。


「ジュン様。お気になさる必要はございません。ジュン様はエルムバーンの魔王子。魔王子に暗殺なんて真似をさせる訳にはいかないのは確かです。それにこう言ってはなんですが、これは元々はサンドーラとヴェルリアの問題です。なのにエルムバーンに属する我々に暗殺をさせる訳にはいかないのです、ヴェルリアとしても」


「ノエラの言う通りだぜ、ジュン様。いくら同盟国だからって何から何までオレ達がやるのはよくない。魔獣の一件だけでもやりすぎなくらいなんだ。この上暗殺まで引き受けるのは、どうかと思うぜ?」


「二人の意見に私も同意です。ベルナデッタ様の御家族を助ける為に何かしたいと思われるジュン様の優しさは理解出来ますが…サンドーラの王都まで暗殺者を送り届けるに留めるべきでしょう」


 ノエラとセバストだけでなくカイエンもか。

いや、皆同意見って顔してるな…


「わかった…でも、サンドーラの王都には行くよ?」


「はい、それは御止めしません。いざという時に、転移出来るようにしておく必要があるでしょうから」


「うん。それじゃ、後は…ベルナデッタさんとルシールさんはナジールの似顔絵を用意しておいてもらえますか」


「…わかった」


「はい」


 サンドーラの王都にはタリスの街から三日程だったか。

それまでサンドーラが何もしなければいいんだけど。

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