第255話 家出王女 9
「あの…先ずは助けて頂き有難う御座いました」
「ありがとう…」
「どういたしまして」
「……」
起きて来た二人が部屋に来て挨拶の後、礼を述べて来た。知らない人が沢山いるから怯えてるのかと思ったのだが…どうも、ベルナデッタさんはボクを警戒してる…いや、避けてるような?
「それで何が起きてるのか、話してくれる?」
「はい。ベルナデッタ様に代わり私がお話しします。サンドーラ王国は今、一人の男に乗っ取られています」
「…乗っ取られて?」
「はい。あの男…ナジールと名乗った男は突然やって来て数日の内にサンドーラの宰相になってしまいました」
「数日で?一体どうやって…」
「解りません。その力は恐らくあの男の言う事を全て受け入れてしまう、洗脳のような能力です。その力は既に騎士団にまで及んでいて、城に居る殆どの者は奴の言いなりです」
「ルシールさんは平気に見えるけど?だからこそ、こうやって亡命なんてしたんでしょ?」
「はい。私も一時は奴の支配下にあったようです。ですがベルナデッタ様のお力で正気を取り戻せました」
「ベルナデッタさんの?どういう事です?」
「それは…」
ルシールさんが目を遣るとベルナデッタさんが頷く。話してくれるみたいだ。
「ベルナデッタ様は『解呪の紋章』を持っています。掛けられた魔法や呪いの類を解く事が出来る紋章です」
「そんな紋章があるなら、全員の洗脳を解けばいいじゃない」
「無条件で全ての人の洗脳を解けるわけではありません。洗脳の効果が薄い者のみ、解く事が出来るのです。恐らく、ベルナデッタ様より奴の力の方が上なのだと思います」
「それじゃウラリー様は?」
「洗脳を解く事が出来た数少ない味方です。ヴェルリアへ逃げるよう指示をだし、協力して下さいました」
「どうして?洗脳を解けるなら、少しずつ味方を増やして反撃に出る事も可能だったんじゃない?」
「最初はそのつもりでした。しかし、奴がヴェルリアを攻撃するつもりだという事、そしてベルナデッタ様が支配下に無い事に感付いたかもしれないとなったので、逃げる他無かったのです」
「攻撃とは?」
「すみません、内容までは…」
分からないか。
しかし…だとするなら、魔獣の異常発生もその男の仕業?
或いは偶然を利用したか?
「ねぇ、その男の種族も教えて」
「種族は人族に見えましたが…ハッキリと確認はしていません」
「もしかして、こんな顔じゃなかった?」
ユウが出したのはあのマッド爺の似顔絵だ。
ボクももしかして、とは思ったが…
「いえ、違います。もっと若い感じです」
「そう…」
違うか。なら、奴やガリア魔王国とは別口か?
「ウラリー様は他に何か指示は?」
「いえ…ヴェルリアに行き、助けを求めるようにとだけ…兎に角、余裕が無かったものですから」
「なら…そのナジールをどうにかするしか無いって事ね」
「いえ、先にヴェルリアへの攻撃をどうにかするのが先でしょう。そしてその攻撃とは恐らく…」
「魔獣討伐に向かった軍への攻撃、でしょうね」
「え…」
ベルナデッタさんとルシールさんは魔獣の異常発生の件は知らなかっようだ。タリスの街でも出来るだけ人と接触する事は避けていたようだし、当然か。
「アンナさん、魔獣の異常発生の件については何か新しい情報はありますか?」
「あるわよ。私の部下からの情報。魔獣の異常発生は確かに起きてる。正確な数は不明。最低でも討伐難度Bの魔獣は多数確認してるらしいわ」
「ヴェルリアから派遣した戦力はどの程度です?」
「騎士と魔法兵団、併せて五千名。二日後には到着の予定よ」
「ならタリスの街から向かえば先回りは可能ですね」
「お待ち下さい、ジュン様。まさか魔獣討伐に参加されるおつもりですか?」
「え?そうだけど?」
「いけません!今回ばかりは危険過ぎます!」
「私も反対です。魔獣の数も何がいるのかも不明。しかも、その後にはサンドーラの軍と戦闘になる可能性がある。いえ、もしかしたら間にある国も敵に回る可能性がある。それなのに、ジュン様を最も危険な場所に送り出すなど論外です」
ノエラとカイエンは反対か。
いや、今の話を聞いた全員か。しかしなぁ…
「魔獣をヴェルリアの軍にぶつけて、撃破した場合、相手はその後どうすると思う?」
「それは…」
「サンドーラ王国とその協力関係にある国はヴェルリア王国に侵略を開始すると思う。そうなったらヴェルリア王国と同盟関係にあるエルムバーン魔王国は参戦せざるを得ない。だよね、お兄ちゃん」
「その通り。それにヴェルリアが戦争になったらアイシス達も戦うんでしょ?」
「え?あ、うん。僕はヴェルリアの勇者だからね」
「アイシスが戦うなら私も」
「そしてヴェルリアにはカタリナさんやレティシアさんも居る。友人の危機なら助けないとね」
「ジュン…」
そう、ヴェルリアが戦争をするならそれはもう他人事では無い。なら事前に戦争回避に向けて、出来る事があるならやるべきだと思う。
「しかし…」
「そして今回は、魔獣を何とか出来れば戦争は回避出来るんじゃないかな。アンナさん、どう思います?」
「そうね…派遣した軍を潰すのが敵の初手だとしたら、初手からしくじったら二の足を踏むはず。同調しない国も出て来ると思うわ。少なくとも時間は稼げるはず」
「という事だから。ここは協力するのが正解だよ」
「ですが!魔獣討伐が既に危険です!それに魔獣で全滅出来なかった場合も考えて後詰めの兵くらい居るはずです!アンナ様が仰っていた、別行動をしている軍というのが恐らくそうでしょう!ヴェルリアの軍が無傷で存在しない限り、敵は予定通り動くと見るべきです!」
「ああ、魔獣討伐はボク達だけでやる。というか、ボクだけでやるよ」
「「「は?」」」
「ヴェルリアの軍には出来るだけ後方に居てもらう。無傷で居てもらわないと困るからね。カイエンが言ったように」
「い、いやいや、ジュン殿。私でも、それが如何に無茶なのかは解ります。無謀の極みですよ」
まあ、ちょっと前のボクなら、イーノさんと同じ事言ったと思うけど。今のボクなら可能だ。
「ジュン様…私もジュン様が如何に強いか存じてます。しかし、それは余りにも…」
「大丈夫だよ」
「いえ、ジュンちゃん。気持ちは嬉しいけど、ヴェルリアの問題にエルムバーンの魔王子を率先して危険に曝すわけにはいかないわ」
「大丈夫ですって。危険な事をするつもりはありません。ボクだって死にたくはありませんから」
「…そんなに自信があるの?」
「はい。魔獣の中に神獣のドラゴンでも混じっていない限り」
「そりゃ…サンドーラも自分が滅びかねない魔獣を用意したりはしないでしょうけど…」
「どうしても心配なら…そうですね。ボクが撃つ魔法は三発まで。それでどうにもならなさそうならサッサと逃げます。それでどうです?」
「本当に?約束出来る?」
「はい。もし約束を破ったら何でも言う事を聞きますよ」
「「「え」」」
「大きく出たわね…本当に何でも?」
「はい」
失敗するつもりは無いし。
「何だったらこの場に居る全員と約束しますよ。約束を破ったら皆の言う事を何でも聞きます。無期限、無制限に」
「ほ、本当ですか!」
「うん。本当」
「お兄ちゃんが私と結婚してくれるの!?」
「約束を破ったらね」
「私の調教も!?」
「調教だろうと何だろうと構わないよ。約束を破ったらね」
「あー…つまり絶対やる気は無いって事ね」
「そういう事だろうな」
まぁそういう事ですね。
討伐に失敗したら素直に逃げます。
「いいよね?カイエン」
「…わかりました。ですが、必ず約束は守ってください」
「勿論。じゃあ、アンナさん。ヴェルリアの紋章が入った、鎧や服何かを人数分用意してもらえますか」
「わかったわ。…ありがとうね、ジュンちゃん」
「ねぇ、どうしてそんなのが必要なの?」
「魔獣の大群を一瞬で殲滅した強力な魔法使いがヴェルリアには居るってなれば?ヴェルリアに攻めにくくなるだろ?それにヴェルリアの軍を後ろに下がらせてエルムバーンの魔王子が前に出て魔獣を殲滅したってなると、色々よろしくない」
「でも、ジュン。それじゃあんたが余りにも貧乏くじを引き過ぎなんじゃない?何かしらメリットが無いと…」
「メリットねぇ。う~ん…」
戦争回避はエルムバーンにとっても重要な事だしなぁ。
そこに別のメリットを求めるつもりはないけど…
「アンナさん、魔獣の死体は予定ではどうする事に?」
「討伐に参加した者達で分ける事になってるわ。売るなり、食べるなり自由にしていい事になってる。魔石だけ国が回収して軍の派遣費用に充てる事になってるけど」
「じゃあ、魔獣の死体の処理を軍がやる事。それと回収出来た魔石の一部を貰えますか?」
転移魔法封じ「キャンセラー」や新型魔法道具の作成には魔石が沢山必要となる。
ここらでガッツリ手に入れる事が出来れば後々楽だし。
「そんな事でいいの?もっと欲張ってもいいのよ?ヴェルリアにジュンちゃんのハーレムを作ったっていいのに」
「いや、いりませんから…」
多いな、ハーレム提案。
男なら誰でも喜ぶと思っているのだろうか。
…いや、まぁちょっと欲しいなって思う時もあるけどね?ほんと、ちょっとだけ。
「あと…ベルナデッタさん、ルシールさん。動けますか?」
「あ、はい。大丈夫ですが?」
ボクが話しかけると、ベルナデッタさんはルシールさんの後ろに隠れてしまった。
そこまで警戒されるような事した覚えは無いんだが…
「えっと…一度ボクと一緒にタリスまで戻ってください。そしてわざと騎士達に見つかって欲しいんです。そしたら、転移魔法でまたすぐ此処に戻りますから、危険はありません」
「何故、そのような事が必要なのですか?」
「二人が居なくなったと知ったら計画を変更するかもしれないわ。魔獣の殲滅に絶対の自信があるから、別の手で来られるよりはそのまま実行して貰った方が対処しやすい。そういう事ね」
「わかりました。よろしいですね?ベルナデッタ様」
「……うん。嫌だけど」
警戒だけじゃなく、ボクに対して怒ってるというか、嫌悪してる感じだ。
なんでだろう?本当にわからないな。
「あの、ベルナデッタさん?ボク、何かしました?何だか嫌われてるような気がするのですが…」
「ベル?一体どうしたの?」
「…返して」
「返す?何をでしょう?」
「パメラお姉ちゃんを返して」
「はい?」
返す…サンドーラ王国にパメラさんを戻せと?
離婚したパメラさんがサンドーラに戻れるかというと…無理があるだろう。
クラース殿下と再婚でもしない限り。
それはかなり難しいだろうと思われるが…というか、何故ボクに言う?
「ベルナデッタ様、その御話しは前にも言いましたが、ジュン殿に言ってもどうにもならないと思いますよ?」
「あの、ルシールさん。どういう事でしょう?」
「その…ベルナデッタ様は結婚とか離婚とかまだよくわかってなく…パメラ様がサンドーラを出たのはエルムバーンの魔王子に略奪されたんだという噂を鵜呑みにしてしまって…」
「ナンデヤネン」
何故、そんな話になる。
そりゃパメラさんは離婚後はエルムバーンに滞在していたけども。
「それとパメラ様からのお手紙の内容がとても楽しそうでしたので。噂を助長した形に…」
「パメラさん?」
「へ、変な事は書いてませんよ?」
だとしてもベルナデッタさんが信じてるのは確かか…うう~む…
「ベルナデッタさん。パメラさんは確かにエルムバーンに居ますけど、それはボクが攫ったとか無理やりだとかではなく、パメラさんの意思で来てるので、ボクが返すとかそういった事では無いんですよ?」
「…でも…」
ダメか。サンドーラの件が解決するまでは顔を合わせる機会は多い筈だし、嫌われたままじゃやりにくいな。
「アンナさん、パメラさん。御二人でベルナデッタさんの誤解を解いてもらえませんか」
「う~ん…私としては誤解を真実にしてしまうのがいいと思うんだけど?」
「お母様っ。任せてください、ジュンさん」
「御願いしますね。ほんと。さて…先に、タリスに行って姿を見せに行きましょう。その後にお願いしますね」
子供に嫌われるってやっぱり嫌だな。
何とか誤解を解いて欲しいものです、はい。




