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第249話 家出王女 3

「わー!降ってきた降ってきた!」


「ジュン!早く早く!」


「はいはい」


 夕方近くになった頃、ぽつりぽつりと雨が降り出したので今日はここで野営する事に。

馬車を片付けてる間に本降りになったので、マジックハウスに入るまでにびしょ濡れになってしまった。


「ふい~。もう十月だし、雨に濡れると寒いね」


「全くだ。それにしても…なんだこの家は。いや、屋敷だな、もはや」


「本当。これって野営とは言わないんじゃない?」


「あ、僕も最初これを見た時、そう思ったよ」


「良いじゃないですか、便利なんだから。それよりも、早く体を拭いて着替えた方がいいですよ」


「そうだな。部屋はどれを使っても構わないのか?」


「ええ。十分にありますから」


「ふう。びしょ濡れになってしまいました」


「私もですわ。鎧がいつもより重いです」


「ああ、ユリア。リディアも。ここで鎧を外しちゃ駄目…遅かったか」


「「え?」」


 鎧の下の服は当然濡れてるわけで。

少し透けて見えてる。

ユリアは赤。リディアは意外にも黒だ。


「きゃあ!」


「し、失礼しました!」


「いいから、落ち着いて。部屋で着替えておいで」


「「はい!」」


 バタバタと部屋に駆け込む二人。

いいものを見せて頂きました。


「ジュン…あんた…」


「ジュンのスケベ」


「不可抗力だよ、今のは。ほら二人も早く着替えないと、風邪引くよ」


「わかってるわよ」


「覗いちゃ駄目だよ」


「前科持ちのアイシスに言われたくないなぁ」


「前科?」


「何でもない!」


 女性陣が着替えに行ってる間に男性陣は風呂に。

男性陣は四人しかいないので一度に入れる。

女風呂にもお湯を入れて置こう。


 皆がお風呂に入ってから夕食。

そして夕食の席で明日の予定を少し話しておく。


「今日は早く寝て、明日は朝早くに出発しよう。今日は予定より進めてないから、遅れを取り戻さないとね」


「はーい」


「そんなに急がないと駄目なの?お兄ちゃん」


「次の長距離馬車が出る迄には間に合うって話なんでしょ?」


「王女が何処にいるか、はっきりとは解んないし、長距離馬車を使うのも予想でしかないから。それにもしかしたら、魔獣の異常発生が治まるまでは長距離馬車は運休するかもしれない。そうなったら無謀な挑戦をするかもしれないしね」


「ま、早く着くに越したことは無いでしょう」


「そうだな。久しぶりに酒を飲むかな。ジュン、後で一杯だけ付き合いたまえ」


「いいですよ」


「(早速今夜仕掛けるのね?)」


「(う、うむ。アンナお母様の命令だ。仕方ない)」


「ん?なんです?」


「いや、何でもない」


「大した事じゃないわ」


 何だろうな、何か悪巧みをしてる気がする。

まあ、酒に酔わせようって作戦ならボクには通じないけど。


「それにしても凄いな、この家は」


「本当。見張りもゴーレムがやってくれるんでしょ?」


「そういえば騎士のようなゴーレムが配置されてましたね」


「結界も張ってありますから、ちょっとやそっとじゃ突破されませんよ。危険な存在が近付いたら、ハティが起こしてくれますし。ね、ハティ」


「うん!任せて!」


「そっか。フェンリルなんだっけ、その子」


「うん。寝ててもハティなら強敵が来たら直ぐに気が付いてくれるから、安心だよ」


「凄いんですね、ハティさんは」


「ニヘヘ」


 皆に褒められて満更でもないらしい。

尻尾がブンブン振られてる。分かり易いなぁ。


「にしても、よく降ってるね」


「朝には止んでて欲しいね」


「そうですね…ひゃっ」


 ピカッと光ったと思ったら直ぐにゴロゴロと轟音が。

どうやら雷が近くに落ちたらしい。


「ビックリしたぁ。随分近くに落ちたみたいだね」


「…ナイトゴーレムは片付けてロックゴーレムに変えておくよ」


「え?ああ、そっか。ナイトゴーレムに落ちたのかぁ」


 ここは周りに何もない街道沿いの草原。

そこで激しい雨の中、鉄製の鎧を着たゴーレムが立ってたら、そりゃ雷も落ちるか。


「結界を張ってるし、家は大丈夫だけど。これじゃ五月蝿くてたまんないしね。…イーノさん?顔が真っ青ですけど、大丈夫ですか?」


「駄目です…私、雷は昔から苦手で…」


「弱点多いですね、イーノさん」


「ジュ、ジュン殿…今日は一緒に寝てもらえませんか?」


「ダメでしょう、それは」


「ジュン殿ぉ…」


「イーノさん、私と一緒に寝ましょ」


「い、いいの?パメラ…ありがとう」


 イーノさんは女性陣の中では最年長の筈だが…まぁ何も言うまい。


「それはそうと…ずっと聞きたかったんだがな、セリア」


「ん?」


「セリア…急に胸が大きくなって無いか?」


「そういえば…夏に見た時より格段に大きい…」


「だろう?アイシスより大きくなってるじゃないか」


「う!カタリナ、酷い…」


「夏に見た時から二カ月ちょっとしか経ってないのに。一体どうやって…」


 うーむ、拙い。

いやまぁ、流石に気付くよね。

どうにか上手く切り抜けて欲しい。

頑張って、セリアたん!


「秘密」


「それはズルいだろう。私ももう少し大きくしたいんだ。頼む」


「そうよ、教えなさいよ!」


「ダメ,秘密。ジュン様との約束だから」


 あ、セリアたん。

それを言っちゃ…


「ジュン、どういう事だ。説明してもらおう」


「セリアの胸が大きくなったのに、あんた関係してるの?」


 ほらー矛先がこっちに来るじゃないの。

う~む…嘘をつくのは簡単だけど、此処は…


「すみませんが、事情があって言えません」


「事情?」


「何よ、あんた友達に隠し事するの?」


「そう言われると辛いですけど、本当に言えない事情があるんですよ。そうですね…一つ言えるのはセリアさんの胸が大きくなったのは、かなり特殊な例だと思いますので御二人が同じようにしたとしても、胸が大きくなるとは限りません。可能性は低いと言わざるを得ません」


「「むぅ~…」」


 いや、本当に。

力が目覚めるかもとか美容と健康と長寿に効果があるとは言ってたけど、体型が変わるとは…


「ほら、二人共、ジュンさんを困らせちゃダメよ」


「いや、しかしパメラ姉さん。これはとても無視出来ない事ですよ」


「そうよ。パメラ姉さんだって、胸大きくしたいでしょ?」


「私は別に…」


「でもジュンは大きな胸が好きなんでしょ?」


「誰がそんな情報を…」


「あ、それは私です、ジュン殿」


「ちょっと?イーノさん?」


「いや、ほら。私が2位なんでしょう?ジュン殿から見てスタイルのいい女性は」


「あ、リリーが3位ですぅ。エヘヘ」


 あの御風呂での話の事か。

う~む…全くの的外れじゃないんだけども。


「大丈夫だよ、カタリナ。レティシアも」


「お兄ちゃんはどっちかというと大きなおっぱいが好きってだけで、おっぱい好きには変わり無いから。…前にもこんな話した気がするね、お兄ちゃん」


「そんな気がするね。さぁ、食事も終わったし、早く寝よう」


「…わかったわよ」


「仕方ない。だがいつか話せる時が来たら話してくれるか?」


「そうですね。その時が来たなら、御話しします」


 食事を終え、約束通りカタリナさんに一杯付き合う事に。

そこにレティシアさんも加わったて来た。


「カタリナさんは、飲むと直ぐ寝ちゃうんじゃなかったですか?」


「うむ。だから一杯だけだ」


「レティシアさんはお酒はどうなんです?」


「人並よ。あんたはどうなの?」


「ボクはまぁそこそこですかね」


「なら、これを飲んでみたまえ。アンナお母様から貰った酒だ。…少々強いらしいが」


「はぁ。アンナさんが」


 もしかして、酒に酔わせようって?。

まぁ酒なら多少強くても…


「これ…少々なんてもんじゃないですね。かなりキツい酒じゃないですか。美味いですけど」


「そ、そうか?なら、私は飲まない方がいいかな。私はこちらを飲むとしよう」


 それ、一見ワインですけど…香りからして、ただの葡萄ジュースじゃ?


「じゃ、私も同じの頂戴」


 レティシアさんも同じでお酒を飲まない、と。

やっぱり、お酒に酔わせようって作戦ですか。

何回目だ、これ。


「つまみにこれ食べます?ただの干し肉ですけど」


「うむ。頂こうかな」


「私も。…へぇ。美味しいわね」


「セバストの特製ですから」


「あの人の料理美味しいとは思ってたけど、こんなのも作るんだ」


「他にも色々作ってますよ。調味料なんかも自作してましたし」


「ほう。それは凄いな。…ジュン、そんなに飲んで大丈夫か?」


「はい。ボクは平気ですよ?」


「強いのね…」


「まぁボクは酔いつぶれた事は無いですね。バルトハルトさんに付き合って飲んでも大丈夫ですよ。でも、お酒はあんまり好きではないのでそんなに飲まないんですけどね」


「バ、バルトハルトに付き合えるのか」


「(いや、でも姉さん。あのお酒、バルトハルトでも一本空ければ確実につぶれるってお母様が…)」


「(確かにそう言ってたが…全然平気そうじゃないか?もう半分は空けてるぞ)」


「何です?」


「「いや、何でも」」


「そうですかぁ?」


「そ、それはそうと。セリアの胸が大きくなった秘密、教えなさいよぉ」


「ダメ。話せる時が来たら話すってば」


「むむ~」


「レティシア、やめておけ。しつこいと嫌われるぞ」


「…は~い。あ、そうだ。パメラ姉さんの手紙に書いてあったんだけどさ。あんた、作曲までしてるんだって?」


「…イイエ?シテマセンヨ?」


「何よ。そんな事まで隠す気?」


「照れてるんだろう。だがジュン。パメラ姉さんも手紙で、『ジュンさんは恥ずかしがっているけど、とてもいい歌だった』と言っていた。私達にも聴かせてくれないか?」


「イヤです。勘弁してください」


 本当に。アレはボクの作詞作曲じゃなく、現代地球の歌手や作曲家さん達の作品なので。

好きな歌を忘れないように歌ってただけなんで。


「何でよ。パメラ姉さんには聴かせて、何で私達にはダメなのよ」


「聴かせたわけじゃなくて、パメラさんに盗み聞きされただけなの」


「盗み聞き?あのパメラ姉さんが?」


「へぇ~意外。でもほら、一曲くらいいいじゃない。ね?」


「今度、気が向いたら、ね。じゃ、お酒も一本空けた事だし、そろそろ寝ます」


「え?あ!」


「いつの間に…」


「御二人も、早く寝た方がいいですよ。おやすみなさい」


「う、うむ…おやすみ」


「…おやすみ」


 カタリナさんの部屋を出て扉を閉めた後、「失敗したー」と声が聞こえる。

まぁこの程度の作戦なら、可愛いモノだからいいけど、だんだん過激になっていくのかな。

アンナさんの事だし、まだ何か策を二人に授けてそうだ。

ま、今は寝るとしよう。




 そして翌朝。

雨は止んで快晴。雨上がりの冷えた空気の中、移動を開始する。


「二日酔いになってないの?ジュン」


「ボクは二日酔いになった事は無いよ」


「ううむ…酒には弱くていいのに…」


 ボクが酒に弱かったら、今頃どうなっていたか。

婚約者の数、二桁に及んでたりしそうで怖い。


「ジュンを酔わせようってのは無謀ね」


「失敗すると思った」


「なら言ってくれればいいじゃないか…」


「何です?カタリナが何かしたんですか?」


「何でも無いのよ、イーノさん」


「それよりイーノはちゃんと眠れたのか?」


「うん。パメラの御蔭で」


「うふふ。おっきな赤ちゃんみたいでしたよ」


「パ、パメラァ」


 パメラさんは包容力ありそうだもんね。

さぞ安心して眠れたに違いない。


 そうして二日目の行程は順調に進み、一日目の遅れを取り戻せた。

そして三日目。もうすぐ問題の街、サンドーラ王国東端の街タリスに到着するという所で異変が起きた。いや、起きていた。


「ジュン様。進行方向に、魔獣が沢山いるみたいですぅ」


「私の千里眼でも確認しました。街のすぐ傍で魔獣と駐屯兵が戦闘中です。劣勢のようですね」


「どういう事だ?森にいる魔獣は軍が包囲してる筈だが…」


「包囲網を破ってこっちに流れて来たって事ですかね。兎に角、加勢するよ」


 あの街にベルナデッタさんが居ようが居まいが。

見捨てるわけにも黙って見てるわけにもいかないだろう。

力を試す、いい機会でもあるしね。

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