第247話 家出王女 1
ユウの謹慎が解けた日、どこかに腕試しに行こうと相談中、パメラさんが訪ねて来た。
「失礼します、ジュンさん。少しよろしいでしょうか?」
「はい。どうかされましたか?」
「実はお母様から、連絡がありまして。一度戻って来るようにと」
「そうですか。転移で送ればいいんですね?」
「はい。それと、ジュンさん達にも頼みたい事があるそうなので。皆さんで来て欲しいそうです」
「皆さんで?皆さんというと…」
「ウチと」
「私。それからいつものメンバーでいいんじゃない?」
「僕達もかな?」
「そうだろうな。ヴェルリアの事であれば私達も行かねばな」
「ん」
「御願いしますね」
という事で準備を整え、出発する事に。
転移した先はヴェルリア王都のノーヴァ伯爵家。
此処から使いを出してから王城に行く事に。
「で。どうしてイーノさんまで?」
「私が一緒に来て欲しいとお願いしたんです。恐らくはまだ、エヴァリーヌお母様は私の事を怒ってますから。友人のイーノさんが一緒に居てくれれば私としては助かるので」
「というわけです。ちゃんとドレスを着ているし、問題無いでしょう?」
「ええ、まぁ。しかし、もう二ヵ月以上経ちますけど、まだ怒ってるんですか?」
「エヴァリーヌお母様は執念深い所がありますから。一度受けた屈辱と恨みは決して忘れないでしょうね」
そうなのか。しかし、屈辱に思う事も恨みに思う事もない案件のはずだけどなぁ。
そりゃあ面子に泥を塗ったと言えるかもしれないけど、身内の幸せは考えないのだろうか。
「皆さん、王城より使いの者が参りました。行きましょう」
「はい」
今回はいつもより対応が早いな。
まぁ、向こうから呼んだのだし、そりゃそうか。
アンナさんが絡んでるなら尚更。
「お帰り、パメラちゃん。ジュンちゃん達も、ごめんね。急に来てもらっちゃって」
「ただいま戻りました。お母様」
「こんにちは、アンナさん。ボク達に何か頼みたい事があるとか?」
「そうなの。ちょっと困った事になっちゃって、。実はね…」
「その前に、お母様。お父様はどうされたのです?それとカタリナやレティシア、シルヴァンも挨拶に来ないのですか?ジュンさんやイーノさんが来てるのですから」
「カタリナちゃん達はもうじき来るわ。シルヴァンちゃんはマークスちゃんと一緒にエルリックちゃんを抑えてくれてる。ジュンちゃん達に余計な事しないようにね。イーノちゃんを見たら、イーノちゃんにも何か言うでしょうしね」
「側室に来い、とかですか?」
「そんな事言われたら殴ってしまいそうです。ジュン殿、守ってくださいね?」
ボクが守る必要は無さそうだけど…まぁ見捨てはしない。
「ユーグは今は会議中。軍を出す事になったからね。忙しいのよ」
「軍?戦争が始まるんですか?」
「国同士の戦争じゃないわ。同盟国のサンドーラ王国から協力要請があってね。魔獣の異常発生が起きたから、討伐に協力して欲しいってさ」
「サンドーラ王国というと…」
パメラさんの元嫁ぎ先…それでパメラさんが呼ばれたの?
そしてボク達には魔獣の討伐を手伝えって事だろうか?
「それで私を呼び戻したのですか?ですがあの国とはもう…」
「そうじゃないわ。まるで無関係でも無いけど」
「それではボク達は?その魔獣の討伐に協力したらいいのですか?」
「それも違うわ。実はもう一つ問題が起きててね。サンドーラ王国の第三王女、ベルナデッタ・ユヌ・サンドーラ。彼女が家出しちゃってね」
「え…」
「家出?王女がですか?」
「そ。ベルナデッタちゃんはパメラちゃんによく懐いてたらしくて。パメラちゃんがサンドーラ王国から去るのを最後まで反対してたの。それで遂に、パメラちゃんに会いに行くって書置きを残して家出しちゃったらしいの」
「ベル…あの子が…」
それはまた、何とも行動力のある王女様だな。
「ベルナデッタさんは一人で行動してるんですか?」
「いいえ。ベルナデッタちゃんの側近で、幼馴染でもある侍女が一人、一緒にいるらしいわ。でも無謀な事には変わり無いわね。サンドーラ王国から此処まで、随分あるもの。女二人だけで旅なんて危険極まりないわ。そこへ更に魔獣の異常発生だもの」
「もしかして、魔獣の異常発生が起きた場所と…」
「そうなの。サンドーラ王国とヴェルリア王国の間。街道を通るなら、かなり近くを通る事になるわ。家出の後に異常発生が起きたから、ベルナデッタちゃんはその事を知らない可能性があるの」
それは拙い。
ベルナデッタさんやその侍女に戦闘能力があったとしても、二人で魔獣の群れを相手には出来ないだろう。一刻も早く、保護する必要がある。
「そこで、ジュンちゃん達にはパメラちゃんと一緒に、ベルナデッタちゃんの捜索をお願いしたいの。勿論、ヴェルリアからも出すし、サンドーラ王国からも出す。間にある国にも捜索依頼は出てるわ。でも、パメラちゃんが行くのが一番いいと思うの。それに魔獣の件があるから、捜索にあまり人数を割けないの」
つまり、捜索に協力しつつ、パメラさんの護衛をして欲しいという事か。
人助けだし、それは構わないが…
「ベルナデッタさんの容姿とか、ボク達は知らないんですが、似顔絵とかありませんか?あと魔獣の異常発生についても情報を頂きたいのですが」
「勿論、用意してるわよ。ベルナデッタ・ユヌ・サンドーラ、十一歳。身長145cm。紫の髪に白い肌。特に秀でた能力は無く、弓を多少扱える程度。側近の侍女は元騎士だったらしくて、そこそこの強さは持ってるらしいわ。名前はルシール。金髪のショートカット。二十歳の女の子だそうよ」
十一歳の女の子が、家出をして他国にいる人に会いに行こうとしてるのか。
随分とまぁ無謀な…お転婆娘って奴か。
「ですが…信じられません。あのベルが家出なんて…確かに私の事を慕ってくれてはいましたけど、それでもあの子が城を出るなんて…」
「え?というと?」
「あの子…ベルはとても大人しい子で、城から滅多に出ないし、城での生活も殆どが自分の部屋で完結した生活を送ってて…とても私に会う為だけに家出をするような子じゃないんです」
それは所謂、引きこもり?
引きこもりの王女様か。
「それだけ、パメラちゃんが好きだったって事じゃない?魔獣の異常発生については…」
「私が話しましょう、アンナお母様」
「あ、来たわね、カタリナちゃん。レティシアも一緒ね。魔獣の情報は集めてくれた?」
「ええ。やぁ久しぶりだな、ジュン。アイにユウも。イーノも一緒か」
「久しぶりね。パメラ姉さんも、お帰りなさい」
「お久しぶりです」
「おひさ~」
「やっほ~」
夏のバカンス以来か。
ユウとアイはレティシアさんとも仲良くなったらしい。
気軽な挨拶を交わしてる。
「それじゃ、カタリナちゃん。魔獣の異常発生について御話しして」
「はい。魔獣の異常発生が起きたのは、サンドーラ王国の東部。そこにある深い森だ。発生した魔獣の種類は雑多で、数は特定できそうにないらしい。原因も特定できていないが、過去にも似たような事例があった」
「もしかして…」
「うむ。君の予想通りの答えじゃないかな。ダンジョンがそこにある可能性が高い」
ダンジョン…つまりその深い森の中に遺跡か洞窟があってそこに魔獣が住み着いたか。
そして既に、ダンジョンから溢れる程に魔獣が集結してる可能性が高いと。
「急いだ方がよさそうですね」
「ええ。御願い出来るかしら」
「はい。ボク達はベルナデッタ王女の捜索、それからパメラさんの護衛をすればいいんですね?」
「パメラちゃんだけじゃなく、カタリナちゃんとレティシアちゃんも連れてって欲しいの」
「え?何故です?」
「カタリナちゃんとレティシアちゃんもベルナデッタちゃんとは会ってるから、面識があるもの。ジュンちゃん達はベルナデッタちゃんとは会った事が無いでしょ?なら向こうが警戒して隠れる可能性もあるけど、二人ならベルナデッタちゃんから寄って来るかもしれないわ。何せパメラちゃんの妹なんだから」
「なるほど。わかりました」
「よろしく頼むよ、ジュン」
「私はか弱いから、ちゃんと守ってよね」
「ジュンちゃんが襲うのはアリよ?何日か掛かる旅だし、チャンスはあるから。何ならそのままエルムバーンに連れ帰ってもいいわ」
「何にもよくありませんねー」
やっぱりまだ諦めていないか。
そっちが主目的じゃないだろうな…




