第240話 窮地
アースワーム討伐を終え、エルムバーンに戻り誕生日を祝ってもらった二日後。
一日ゆっくりしてから、再びグリムモア魔道国の王都エルドにやって来た。
「まだ二度目だけど…やっぱり綺麗な街ね」
「本当に。エルムバーンもこんな風に出来ないかな?」
「ん~…真似出来てもフローティングライトを夜に浮かべるくらいじゃないか?」
この街が綺麗なのは世界樹の影に入ってるのと精霊や妖精が集まってる点が大きい。
その点を真似するのは難しい気がする。
「それで、真っ直ぐ研究所の方に行くの?」
「紹介状を書いてもらえたんでしょ?」
「うん。ティータさんて人。真っ直ぐ研究所に行ってみようか」
セラフィーナ殿下に会うとまたなんかややこしい事になりかねないし。
会わずに済むならそれに越した事は無い。
黒幕の件はディジィさんを通して報告すればいいし。
「と、思ってたんだがなぁ」
「門前払いだったね」
「紹介状意味ないじゃん」
そこらへんを歩いてる人に適当に道を聞いて、研究所まで行って受付で紹介状を出した結果。
散々待たされた後、とにかく宮殿に行ってくれとの事だった。
「でも、何だろう。ボクの名前を聞いて様子が変わったような?」
「あ、ウチもそう思った」
「それから皆を見てたね。何か確認してるみたいだった」
「そうですな。何か隠し事もある感じでしたし…それに気づいておられますかな?」
「ええ。尾行されてますね」
研究所を出た後、複数名に尾行されている。
襲って来る気配は無く、監視に留めてる感じだけど…
「如何されますか、ジュン様」
「捕まえて尋問するか?」
「ん~…」
研究所での受付の人の対応。研究所を出てすぐに監視。
状況から考えて、この監視はグリムモアの諜報員か。
つまり相手はグリムモア魔道国。
「やめておこう。監視だけで敵意は無いみたいだし。少なくとも今はね。だけど用心はして」
「「はい」」
宮殿に着くまで監視は続き、門番に用件を伝えるとすぐさま案内された。
本来、宮殿に入る時はもう少し手間というか時間が掛かるものなんだけど…
「やっぱり、なんか根回しされてるね」
「セラフィーナ殿下が自分に会いに来るようにしてるのかな」
「だとしても監視を付ける必要は無いと思うけど…というかなんか嫌な予感がビンビンする」
宮殿に入ってから通された部屋で待つ。
監視は宮殿に入る迄かと思ったけど、まだ続いてるようだ。
「監視される理由に心当たりがある人いる?」
「無いよ。護衛がつくならわかるけど」
「そうよねぇ。私達って短期間で二回もグリムモアを危機から救った英雄でしょ?オマケに人攫いから国民を助け王族まで救出してる。そりゃあお忍びで来てるんだし、大っぴらにするつもりもないけど」
「礼を尽くした対応を期待してたわけでは無いですが、些か不快な対応と言わざるを得ませんな」
「そう言われても仕方ないな…すまない」
少しの間待っていると、部屋にやって来たのはセラフィーナ殿下と殿下の侍女さん三人だ。
「ああ、セラフィーナ殿下。単当直入に聞きますけど、これは一体どういう事なんです?」
「ウチらは研究施設に入る許可が欲しいだけなんですけど」
「セラフィーナ殿下が許可してくれるんですよね?」
「それもすまない…私は確かにそう言った。だが…御祖母様が君達を連れて来るように命令を出したのだ。此処に確実くるように根回ししたのも、監視を付けさせたのも御祖母様だ」
御祖母様…世界樹様の巫女であるテレサ様だったか。
女王以上の権力を持つという…
「テレサ様でしたか。ボク達に何の用事なんです?」
「わからない。一体君達に何の用があるのか…だが、私や女王である姉のエヴァは君達を害するつもりはない。それにマザーマンイーターやドワンドの鉱山の一件は既に聞き及んでいる。君達は我が国の恩人と言ってもいい存在だ。決して君達を害させはしない」
だといいんですけどね。
それにしても、だ。世界樹様の巫女がボク達に何の用だ?
全く思い浮かばない。
それにセラフィーナ殿下を最初に送った時には何にも無かったのに、今回はこの対応って事は…ドワンドに行ってから何かあったのか?
「では、付いて来てくれ。謁見の間で女王と御祖母様が待っている」
う~ん…嫌な予感がするから正直遠慮したいけど…行かなきゃ何にもならんか。
「(最悪、転移で逃げるから。皆、そのつもりで)」
「「「(了解)」」」
そして到着した謁見の間。
玉座には女王陛下と思しき人が。そしてその隣に威厳たっぷりの…エルフの民族衣装だろうか?これまでに見た事のない、神秘的な服装をした女性。この人がテレサ様だろう。
そして周りには騎士が多数。パっと見では見えない位置にも控えているようだ。
まるでこちらを警戒して…いや、警戒しているのだろう。
かなり緊張している様子だ。
「ようこそグリムモアへ。私がこの国の女王、エヴァ・ヘルヴィ・ラ・グリムモアです。そして隣にいるのが…」
「テレサ・マーレト・ラ・グリムモア。世界樹様の巫女である」
エヴァ様はセラフィーナ殿下と同じ金髪に長い髪。姉妹だけあって似ている。
姉という事はセラフィーナ殿下より年上なのだろうが、やはり二百歳以上には見えない。
テレサ様は銀髪の女性でとても厳格そうな印象を受ける。
というか鋭い目つきで睨まれてる。
そんな目で睨まれる覚えは無いんだけど…
「初めまして、エヴァ様、テレサ様。ボク達の事はセラフィーナ殿下から聞いておられますか?」
「ええ、ジュン・エルムバーン殿。我が国にお忍びで来た目的も聞いております。ですが…いえ、何よりも先ず礼を述べねばなりませんね。皆さん、我が国の民を助け、魔獣を討伐してくださった事は聞いております。それに妹のセフィ…セラフィーナを助けて頂き、女王として、姉として、感謝申し上げます」
「いえ。冒険者としてやった事ですし、報酬は頂いてますから、気にしないでください。それでボク達に一体何の御用でしょう?」
「はい…それは…」
「私が話そう。貴様、女神フレイヤ様に祝福された剣を持っているそうだな。どういう能力を持っている」
! どこでそれを…ドワンドでも極一部の人にしか、祝福した神様の名前は伝えてないのに。
「何の事でしょう?」
「とぼけても無駄だ。グリムモアの各地には私の手の者を放っている。その者達からの情報だ。マザーマンイーター討伐戦では剣が妙に光っていたり、ドワンドではその剣の製作者と共に凱旋したそうじゃないか」
なるほど。
でも、それだけで何故女神フレイヤの祝福を受けた剣だと断定できる?ドワーフの人達には口止めしてあるし…鑑定眼の持ち主でもいたのか?
「仮に、そうだとして。それが何か?」
「先ずはこちらの質問に答えてもらおう。その剣の能力は何だ?女神フレイヤ様の祝福ならば植物に関した能力を与えられたのではないのか」
どうするか。
何か分からないけど…決めつけてるし、実際にその通りだけど…正直に認めるのも嘘を言うのも不味い気がする。
疚しい事は何もないし…ここは正直に認めておくか。
「はい。確かに植物に関する能力を持っています」
「やはりそうか。こちらに渡してもらおう」
「は?何故です?」
「この所、世界樹様が不調を訴えておられる。お前達が何かしたのだろう!」
「いえ、何にもしていませんが?というか何を根拠にそう決めつけているのです?女神フレイヤ様に祝福された剣を持っているからってだけで何かしたと思われるのは甚だ迷惑なのですが?」
「世界樹様が仰ったのだ!女神フレイヤ様に関わりのある者が来る、その者を連れて来いと!故に私は密偵を各地に放ち情報を集め、そしてお前達がやって来た!これ以上ない証拠だ!」
いやいや。何だそれ。
世界樹様が仰ったって…何?世界樹って喋るの?
もしくは神託とか、占いの類だろうか。
それに女神フレイヤ様に関わりのある者?
それってもしかして、女神フレイヤに祝福された剣を持つ者じゃなく、女神フレイヤによって転生したボク達三人の事を指してるんじゃ…
「お、お待ちください、御祖母様。仮にもジュン殿は我が国の恩人、そしてセフィの恩人です。それにエルムバーンの魔王子を相手に、そのように決めつけては…」
「そうです、御祖母様。ジュン殿の話をちゃんと聞いてください!それにジュン殿は何もしていないと断言したではありませんか」
「お前達は黙っていろ!世界樹様は確かに仰ったのだ!女神フレイヤ様に関わりのある者が来れば問題を解決出来ると!さぁ、渡してもらおう!」
「剣を渡す事が何故、問題の解決になるのです?世界樹様の不調とは関係がありませんよ?」
「それはこちらが決める!それに植物に関する力を持つなら世界樹様の不調を治す事も可能かもしれん!今後同じような事があった時の為にも必要な物だ!さぁ大人しく渡してもらおう!こちらとて手荒な真似をしたいわけではない!本当に世界樹様に何もしていないのであればセフィや民を助けてもらった恩義もある。剣を頂く代わりに相応の対価を支払おう!さぁ渡してもらおう!」
ダメだー視野狭窄に陥ってるのか、こちらの言い分は聞かず自分の要求を先ず押し通すつもりだ。
どちらにせよ、【フレイヤ】を渡すわけにはいかないし…何とか穏便に済ませたいのだが…
「申し訳ありませんが【フレイヤ】を渡すわけにはいきません。世界樹様の不調に関してはボク達が何かしたわけではありませんが、力になれる事があれば仰ってください。出来る限りの事は…」
「世界樹様に長く仕える我らに出来ぬ事が貴様らに出来るわけがなかろう!その【フレイヤ】があれば話は別だろうがな!これが最後だ!剣を渡せ!」
何か、ちょっと腹が立って来たな。
なんでそんなに高圧的なんだ。
「渡せません。これ以上は無駄のようですので、失礼します」
「そうはいかん!世界樹様に仇なす者め!多少手荒にしても構わん!奴らを捕らえろ!」
「御祖母様!おやめください!」
「御祖母様!戦争を起こす気ですか!ジュン殿、ここはいいから逃げたまえ!」
「そうします」
これ以上、ここに居てもこじれるだけだ。
本当に戦争になりかねないし。
さっさと転移で…あれ?
「ジュン?どうしたの?」
「早く転移で帰ろうよ。腹立って来たし、あんな奴無視して帰ろう?」
「て…転移魔法が使えない…」
「「「え?」」」
「無駄だ!貴様らは転移魔法を封じる術を探して研究所に来たらしいな!喜べ!その術は既に完成している!貴様らはもう逃げられん!」
まさかあのマッド爺の転移魔法を封じる術を探して此処まで来たのに、先ず自分で体験するはめになるなんて。そしてそのせいで窮地に陥るとは…どうする?




