第237話 アースワーム討伐 3
「じゃ、先に進もう。アイシス、ここから先は背後に十分注意して。ゴブリンは体が小さい分、隠れるのは得意だから」
「大丈夫、任せて!」
『わいも居るし、心配無用やで!』
「頼んだよ」
ナイトゴーレムをゴブリンが来た方向に進ませ、ボク達は最深部までの最短ルートである反対の方へ。
「セバストさん、先頭を代わります。もう大丈夫です」
「私も大丈夫です」
「ん?いいのか?」
「クリステア、ルチーナ。二人とも無理しなくていいんだよ?」
「いえ、大丈夫です。私なら多少速度を上げて進んでも問題ありませんから。不意打ちを受けても防いで見せます」
「私がフォローしますから、急ぎましょう」
「別にそこまで急がなくても…」
「いいえ。ジュン様の誕生日をこんな薄暗い穴倉で迎える訳にはいきません」
「そうですよ。なのにゴブリンまで出たんです。多少の無理は通してみせます。急ぎましょう」
「あの…私も明日誕生日…」
「判ってますよ、シャクティ。大丈夫、貴女の分のプレゼントも用意してありますから」
「えっ、本当ですか?ありがとう御座います!」
「私も用意してるよ。…誰かさん達は用意してなくて余計に焦ってるみたいですけど」
「「「うっ」」」
「オレもちゃんと用意してるぜ」
「私も」
「ルチーナさんもセバストさんもセリアさんも、ありがとー!」
忘れてたのは…アイ・ユウ・ノエラ・リリー・アイシスか。バルトハルトさんは…どっちか分からない。いや、別にそれくらいで怒ったりしないが。自分でも忘れてたんだし。
「くっ…ウチとした事が…一生の不覚…」
「私も…お兄ちゃんの誕生日を忘れるなんて…一度も無かったのに…」
「私もです…兄さん、覚えてたなら言ってください」
「リリーも…毎年覚えてたのに…」
「僕は今年初めてプレゼントを贈るから気合入れてたのに…ええい!まだ間に合うよ!急ごう!」
「そうね、急ごう!」
「よーし!次は左ね、クリステア!」
「はい。進みます」
理由はともかく気合とやる気は十分なようだ。しかし…
「なんか、奥に進む程にゴブリンとの遭遇率が上がってるような?」
「確かに…」
最初にゴブリンと遭遇した場所から更に進む事、数百M。
既に五十はゴブリンを倒した。
「ジュン、もう最深部は探査魔法の範囲に入った?」
「入った。今調べてるんだけど…妙だなぁ」
「何が?」
「アースワームらしい存在が五匹。それと一緒にゴブリンらしき存在が千五百程、同じ場所に居る」
「それは確かに妙ですな」
「セバスト、アースワームはゴブリンを捕食しないの?」
「いや、そんなことは…むしろよく狙う筈だ」
となると…考えられるのは…
「もしかして、アースワームとゴブリンが戦闘中なんじゃない?」
「だとしたら楽」
アイシスの考えはボクも浮かんだけど…でも違うな。
「それにしてはゴブリンの数が減ってない…て、嘘ぉ」
「どしたの?ジュン」
「ボクの探査魔法が急に阻害された。どうも結界を張られたみたいだ」
「「「え」」」
ボクの探査魔法を感知して、結界を張る。
そんな事がゴブリンに?
「ゴブリン・スペルハウラ―まで居るという事ですな」
「スペルハウラ―?何ですか、それ?バルトハルトさん」
「一度だけ出会った事があります。ゴブリンの魔法使いの中でも最上位の存在です。ゴブリンキングと並んで稀な存在ですが…そうですな、エルムバーンの魔法兵団に入団出来る強さだと思って間違いないでしょう」
マジっすか。ゴブリンが?
いや、でもそれぐらいじゃなきゃ今みたいな真似は出来ないか。
「えっと?どういう事?」
『つまりやな、アースワームだけやなくゴブリンもかなり厄介な相手かもしれんちゅう事や、マスター』
「それは解ったけどさ。アースワームとゴブリンが一緒に居る理由は?戦闘中じゃないなら何?」
『そりゃあ…考え難いけど、ゴブリンがアースワームを従えてるっちゅう事ちゃうか』
「ゴブリンが?そんな事出来るの?」
出来る…んだろうな。
状況を鑑みるに、それしかなさそうだ。
アースワームには知能と呼べる物は無いそうだから、アースワームがゴブリンを従えてるって事は無い。
「どうされますか、ジュン様」
「…討伐難度Aのワースアームが五匹。ゴブリンが最低千五百匹。加えて、此処は鉱山の中。派手な広範囲攻撃魔法は使えない。そしてアースワームとゴブリンが居る最深部はそこそこ広い」
「広いって…ゴブリンは千五百も一ヵ所に固まれるくらい広いの?」
「えっと…ユウ、地図を」
「あ、うん」
「ゴブリン達は…ここ。大きな縦穴になってる処にいる。縦穴から横に伸びてるのは坑道で、そこにもゴブリンはいる。一番下の広場になってる場所に一番沢山居て、アースワームもそこだ」
「この地形なら…一斉に襲われる事は無さそうですな」
「ええ。ですが最初に出くわした奴らのように別動隊がいるかもしれません。ナイトゴーレムが倒してくれていれば楽なんですけどね」
「最深部に行く道は一つ?」
「ううん。ほら、これ。ここから私達が来た入口とは別の入口…塞いだ方に繋がってる」
「なら、此処の道と私達が来た道を守っておけば挟撃は防げそうですな」
「ええ。ナイトゴーレムも今はこの辺りに…」
「ジュン?」
「ジュン様?どうかされましたか?」
「ナイトゴーレムを感知出来ない。破壊されたみたいだ。さっき出した十体全部」
「「「え」」」
どういう事だ?
ナイトゴーレムならゴブリン程度に破壊されたりは…かなりの数が居たのか?
「ジュン、考えるのは後にしよ」
「そうですな。ナイトゴーレムが破壊されたという事は、背後からも敵が来るという事」
「はい。一旦戻って先に背後の敵を潰しましょう」
このままでは挟み撃ちにされかねない。
ボク達がいる事は探査魔法を阻害する結界を張られた事からバレている。
いや、最初のゴブリンが逃げ出した時点でバレてるか。
見逃さず、倒すべきだった。
「ジュン様、足音が聞こえますぅ。前と後ろから。数は…沢山としかわからないですぅ」
「!遅かったか…」
ボク達が現在いる通路…その前と後ろからゴブリン達が姿を見せる。
その数はおよそ…五百くらいか。
「ユウ、ゴーレムを出して。セリアさんにメーティスも。リリーとセリアさんはゴーレムの影から援護射撃」
「はいですぅ」
「ん、了解」
『了解やで』
「ユウ?返事は?ユウ?」
「あ、うん。了解。でも、お兄ちゃんあのゴブリン達、よく見て」
ユウに言われた通り、ゴブリンを観察すると…ユウの言いたい事がわかった。
「こいつら…全部ただのゴブリンじゃなく…上位存在か」
ただのゴブリンを一般兵だとしたらホブゴブリンが上等兵。
ゴブリンナイトとゴブリンメイジが文字通り騎士と魔法兵。
今、姿を見せたゴブリン達は全てがホブゴブリン以上。
極めつけに前後のゴブリン達を指揮する存在と思しき、ゴブリンにしては一際大きな体躯を持つ存在。
「アレは…ゴブリン・ジェネラルですな。ゴブリンの中で魔法系の最上位存在がゴブリン・スペルハウラーなら、ゴブリン・ジェネラルは戦士系の最上位です。ゴブリンキングほどの統率力と指揮能力はありませんが、こうやって前線部隊を指揮する程度の能力はあります」
なるほど、ナイトゴーレムがやられる訳だ。
それにしてもこの数…いくらゴブリンでも挟み撃ちされた状況では少々危険だな。
「ジュン様、矢を撃ってくるぞ!」
「全員ゴーレムの影に!結界も張る!」
一斉に遅い掛かって来るかと思ったけど…ジリジリと距離を詰め弓で攻撃して来た。
挟み撃ちにしたり、慎重に弓で攻撃してきたり…ゴブリンでも知恵を使うと脅威だな。
ボク達以外のパーティーなら此処で全滅してたかもしれないぞ。
「ジュン、どうする?」
「あっーもう!時間も押してるのに!」
「落ち着け。…仕方ない。まさかゴブリン相手にとっておきのゴーレムを披露する事になるとは思わなかったけど…」
「え?まだ何か新型ゴーレムが?」
「ある。とくとご覧あれ!」
新たに出したのは二体のゴーレム。
人の上半身に馬の下半身を持つゴーレムにランスと盾、鎧を着せたモノ。
そう所謂、ケンタウロスの姿をしたゴーレムだ。
大きさは馬車馬よりも二回りは大きいか。
「何それ!かっこいい!」
「ナイトゴーレム・ケンタウロスタイプ。武具はアダマンタイト製でそれなりの御値段がするので使い捨てには出来ないけど…」
言葉途中でゴーレムに前と後ろのゴブリン達へ攻撃を開始させる。
ランスと盾を構え勢いよく走りだすゴーレム。
普通の騎士もやる騎馬に乗ってのランスチャージという奴だ。
尤も、ナイトゴーレム・ケンタウロスタイプの方が普通の騎士よりずっとパワーもスピードもある。
加えてかなりの重量と質量だ。
それがアダマンタイト製の武具を付けて突進してくるのだ。
一度の突進でゴブリン達は総崩れ。
もう一度突進させてから、ボク達も攻撃を開始。
前後に居たゴブリンの部隊は殲滅出来た。
勿論、全員無傷だ。
「ジュン!凄いね、これ!よく作ったね、こんなの!すっごいかっこいい!」
「気に入ったようで何より」
アイシスはケンタウロスタイプを気に入ったようだ。
そういえばこの世界にもケンタウロスっているのかな?
ま、それは今度調べるとして、だ。
「じゃ、次は最深部にいるゴブリン達の排除だな。行こうか」
「うん。アースワームの討伐に来たはずなのに、ゴブリン討伐に来た感じになっちゃってるね」
それはボクも思ったけど…どっちにしろやらなきゃならないんだし、気にせず行こう。
「大分時間をロスしてる!急ぐよ!皆、気合い入れてこう!」
「うん!さぁクリステア!」
「はい。進みます」
だから誕生日の事は気にせずともいいのに。
というか実はもう…まぁいいか。
今は言わないでおこう。




