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第234話 ステンナ

「……」


「アイシス、まだ怒ってるの?」


「だって……」


「アイシスが自分で脱いだ。ジュン様は何もしてない」


「と、セリアさんも皆も言ってるじゃない」


「うぅ~……本当に何にもしてない?」


 宴会を開いた昨日、そのままジドさんの家に皆で泊まる事に。

無駄に広い家でベッドも人数分あるから泊まって行けというネネさんの言葉に甘えて泊まらせてもらった。

で、アイシスはお酒を飲んでハイテンションになっていたのでセリアさんとボクとでベッドまで運んで寝かせたのだが、翌朝裸になってる自分を見てボクが何かしたんじゃないかとアイシスはお怒りなのだ。

自分で夜中に一人で脱いだくせに。


「実は……」


「じ、実は?やっぱり何か……」


「無理やりベッドに押し倒し」


「ええ!」


「服の中に手を入れ」


「そんな!」


「胸を弄られた」


「やっぱり!……弄られた?」


「アイシスにね」


「僕がやったの!?ジュンに!?」


「ボクだけじゃなく、セリアさんもね」


「うん。危なくアイシスに奪われる処だった」


「何を!?ハッ!殺気!?」


「アイシス…ウチのジュンに手を出すなんて…」


「勇者といえど許される事ではありませんよ?」


「ましてお兄ちゃんに冤罪を被せようなんて…」


「お仕置きが必要ですぅ」


「悶絶擽り地獄の刑ですねー」


「アッー!」


 アイ達によって寝室に連行され、お仕置きを受けるアイシスの叫び声が聞こえる。

アイシスにはそろそろ自重と反省をしてもらわないと。


「朝からすいません、騒がしくて」


「アッハッハ!いいよいいよ!賑やかで結構さね!普段は二人だけだから静かなもんだしねぇ!」


「……」


「ああ、あの子…アイシスちゃんはヴェルリア王国の勇者なんですって。あの子の剣も神様の祝福を受けた剣なんですよ。後で見せて貰うといいですよ」


「……」


「いえ、誰の作かまでは。もしかしたら神様が造った物かもしまれませんね」


 相変わらず、ジドさんとステファニアさんの会話が成立してるのが謎だ。

何にも喋ってないように思うんだけど…


「あの、それでジドさんに御伺いしたい事があるんですが。魔法に対する防御能力のある魔法道具や転移魔法を封じる魔法道具等はありませんか」


「……」


「あ、はい。勿論私も作れますし、作りました。でもジュン様が追ってる相手は相当強力な魔法を使うらしく。転移魔法も使うのでより強力な魔法防御効果を持つ物が必要だそうです」


「……」


「え?そんな技術が出来ていたのですか。それを私に教えて貰えるんですか?」


「……」


「それはいいですね。久しぶりに師匠と合作と行きましょうか。よかったわね、ジュン様。魔法防御の魔法道具は何とかなりそうね」


「はい?何とかなるんですか?」


「ええ。聞いてなかったの?」


「いえ…すいません、正直何故ステファニアさんとジドさんの間で会話が成立してるのかさえわかりません」


「え?…ああ~そうかもね。私は師匠と付き合いが長いからわかるけど、初対面のジュン様じゃわかんないかもね。師匠ってば無口だから」


 そういう問題だろうか。

一言も発声してないと思うのだが。


「えっとねぇ、師匠が言うには新しい技術で魔法道具でも同調魔法と同じような効果を生む事が可能になったの。勿論、本当の同調魔法程じゃないけど、魔力障壁を張る魔法道具なら既存の魔法道具より高い効果が望めるらしいわ。師匠が一度一緒に作ってくれるそうだから、数を揃えるのはエルムバーンに戻ってから私が造るわね」


 そんなに長文喋ってたの?

そんな長文喋ってるような間隔なかったけどな。


「そ、そうですか。しかし、よろしいんですか?ステファニアさんの御話しでは鍛冶屋の仕事は引退したと聞いてますが」


「あ、そう言えば。昨日訪ねた時も鍛冶工房にいましたけど、引退したんじゃなかったんですか?」


「……」


「ああ、引退したって、店を閉めたって意味ですか」


「そうさ、この人は代表としての仕事がなきゃ今でも鍛冶してんだよ。御蔭で無駄に武具が溜まっていってね」


 ええと…鍛冶屋として店は閉めたけど鍛冶は辞めてないと。

だから構わないって事かな。


「えっと…じゃあお願いします。御代はお支払いしますので」


「……」


「材料費だけでいいそうよ、ジュン様。それで師匠、転移魔法を封じる魔法道具の方は?」


「……」


「ええ!ステンナにですか…」


「……」


「いや…しかしですね。昨日もステンナは来てましたけど、ずっと不機嫌な顔して睨んでるだけでしたよ?無理なんじゃないですかね…」


「……」


「は、はぁ…わかりました…」


「ええと…ステンナさん?」


「ええ…師匠が言うには転移魔法を封じる魔法道具は無いけど、その手の事ならステンナに相談しろって言うのよ」


「ステンナさんですか」


「ええ。昨日の宴会にも来てたけど、ずっと不機嫌な顔してた娘がいたでしょ?あの子がステンナ。私と一緒に師匠に弟子入りした同期で…魔法道具の作成は私と肩を並べるわ。ステンナは最近では魔法の研究にも手を出してるらしいから、きっと力になってくれるって師匠は言うのよ。でもね…」


 本当にそんな長文喋ってます?

とてもそんな長く喋ってる間隔無かったですよ。


「何か問題が?」


「ええ…ステンナと私は喧嘩別れしててね。私が乙女として生きると決意した事が未だに不満らしくて。まぁ当時も色々となんやかんやと有ってドワンドを出る事を決めた時に大喧嘩したままだったのよね。昨日の様子からしてまだ怒ってるみたいだし。もう百五十年も前の話なのにねぇ。しつこいったら」


「……」


「いえ、師匠。私は構いませんけど、ステンナにその気が無いように思うんですけど…」


「……」


「はぁ…わ、わかりました。行って来ます。ジュン様、先にステンナの所に行くわ。その間に師匠が必要な道具を揃えておいてくれるそうだから」


「わかりました。じゃあ行きましょうか」


「え?ジュン様も来るの?」


「ええ。何となく二人きりじゃ気まずいんじゃないかと思ったんですけど」


「私も行くよ、師匠」


「そ、そう。そうかもね。じゃあ行きましょ」


「はい。セリアさんはどうする?」


「付いて行く。アイシス達はどうするの?」


「……置いて行こう。お取込み中みたいだし」


「ん」


 セリアさんとセバストを御供にステンナさんの家へ。

ユウ・アイ・ノエラ・リリー・シャクティはアイシスのお仕置き中。

クリステア・ルチーナ・ハティ・バルトハルトさんは二日酔いでダウン中だ。


「此処よ。ステンナ!居るー!?」


「……反応ありませんね」


「あの子も結構飲んでたから、まだ寝てるのかしら」


「ステンナさんは独り暮らしなんですか?」


「私が此処を離れてる間に結婚でもしてなきゃね。まぁあの子を嫁に貰うなんてよっぽど奇特な人だけだろうし、独身でしょ」


「大きなお世話だ!」


 突然ドアが開いたと思ったら最初から怒ってる、寝間着姿の女性が出て来た。

この人がステンナさん。長くて多い髪の毛を一本にまとめてるだけの髪型で寝起きなのかボサボサのままだ。背はドワーフらしく低い。


「おいこら、スティーブ。急に帰って来たと思ったら、私に何の挨拶もしないし、家に来たと思ったら喧嘩売りに来たのか」


「違うわよ。用事があって来たのよ。昨日話し掛けなかったのは、あんたがずっと不機嫌な顔して睨んでるから、わざわざ喧嘩する事も無いと思っただけよ」


「ふん!そ、それで何の用だ。私は忙しいんだ。用事があるなら早くしろ」


「それはいいんだけど、私の他にも客がいるんだし、とりあえず家に入れて頂戴な。それと貴女も着替えてらっしゃいな」


「客?…誰だ、あんた達。そっちの子はドミニーか?大きくなったね」


「こんにちは、ステンナさん。この人はジュン・エルムバーン様。エルムバーンの魔王子様だよ」


「ああ、スティーブが打った剣の持ち主か。…まぁいいさ。入んな」


「はい。御邪魔します」


 ステンナさんの家にお邪魔する。

魔法の研究をしてるという話だったから、もっとこう物が溢れてるかと思ったけど、家の中は綺麗に片付いていて掃除も行き届いている。


「相変わらず、綺麗好きなのね。粗雑な性格してるのに」


「うっさい。それで用事は?言っとくけど、昔あんたに言った事なら謝らないよ」


「いいわよ、それは。それより師匠に聞いたのだけど、あんた魔法の研究も始めたんだって?」


「まぁね。勿論、魔法道具の作成の為にね。それがどうかしたのかい」


「ジュン様の御要望なんだけどね、転移魔法を封じる魔法道具とか作れる?」


「転移魔法を封じる魔法道具?どういう事だい?詳しく話てみな」


「はい。実はですね、ある犯罪者を追っているのですが、そいつは大魔導士の紋章を持っていて転移魔法の使い手なのです。ですので捕まえようにも転移魔法を封じない限り逃げられてしまう。そこで転移魔法を封じる手段を探しているんです」


「ふうん…残念だけど、私にはそんな魔法道具は用意出来ないね。だけど王都エルドにある魔法研究所に私の知り合いが居てね。ティータってエルフの子だ。その子を訪ねてみな。紹介状を書いてあげるよ」


「ありがとうございます。そのティータさんはどのような研究をされているんですか?」


「あんたが求めてる物にピッタリな研究をしてるよ。魔封じの紋章って知ってるかい?」


「はい。魔法を封じる、或いは魔法の使用を妨害する紋章ですね」


「うん。結構希少な紋章さね。ティータが研究してるのは魔封じの紋章と同じ効果を魔法で再現出来ないかって研究さ。魔法を封じるのに魔法を使おうってのは何とも矛盾した話に思えるんだけどね」


 それは確かに、ボク達が探してる物にピッタリな研究だ。

研究が実ってるといいんだけど。


「よかったわね、ジュン様。ありがとうね、ステンナ。邪魔したわね」


「待ちな。せ、折角来たんだ。もう少し話してもいいだろう」


「私はいいけど…あんた忙しいんじゃないの?」


「い、いいから!座れ!」


「はいはい…相変わらずよくわかんないとこで怒るわねぇ」


「べ、別に怒ってなどいない。…あ、あ~ちょっと待ってろ、御茶とお菓子を用意して来る」


 何かステンナさんてステファニアさんを意識してる感じだけど…もしかしてステファニアさんの事が好きなのかな?それでオカマになった事を怒って、ドワンドを出て行った事を怒ってるのかな。

いや、だとしてもオカマになった時点で諦めるだろう。普通なら。


「ステンナさんは変わってないね。百五十年も会ってなかったのに」


「確かに変わってないわね。もう少し女らしくなれないのかしら。家事とか意外に出来るのにねぇ」


「そういうんじゃないよ、師匠。師匠も乙女を自称するならもうちょっと乙女心を理解しなきゃ」


「自称って何よ。私は立派な乙女ですぅ」


「はいはい。それより師匠、大師匠にステンナさんと仲直りするように言われたんでしょ?ちゃんと仲直りしなきゃダメだよ」


「う…う~ん…そうなんだけどね。中々切っ掛けというモノがね…」


「そんなの簡単だよ。仲直りしようって言いだすだけでいいんだよ。ステンナさんの性格だと、ステンナさんからは言い出さないだろうから、師匠から切り出してあげてね」


 これは…やっぱりステンナさんはステファニアさんが好きなのかな。

それをドミニーさんも気付いてて、ステファニアさんは気が付いてない、と。

オカマになっても、百五十年も会って無くても想いが変わってないとしたら、大したモノだ。

それだけ想ってるって事だろう。


「ま、待たせたね」


「いえ。ありがとうございます」


「ああ。ほら、スティーブ」


「ありがと。ていうか、私は今はステファニアだからね。間違えないでちょうだい」


「うっさい、バカ。私がお前をどう呼ぶかなんて私の自由だ」


「はぁ…私が乙女になったのがどうしてそんなに気に入らないのか。いい加減教えなさいよ」


「う、うるさい。オカマに女の子を育てさせるなんて教育上良くないと思っての事だ」


「オカマ言うな。そんなの今更でしょ。大体見なさいよ、ドミニーを。立派な大人の女になってるじゃないの」


「…確かに、一見して普通の女だね」


「アハハ…」


 まぁ確かに、オカマのステファニアさんに育てられたにしてはドミニーさんは普通の女性の感性を持ってるように見える。あまり深い付き合いではないので実は裏でとんでもない女性に育ってるという可能性もあるかもしれないが。


「し、しかしだ。やはり女親が居た方がいいんじゃないか?」


「だから私が母親代わりなの。必要だとしたら父親よ。というわけでどう?セバストちゃん」


「辞退させてください」


 指名されたセバストは実に真剣な顔で辞退した。

普段はボクにも敬語じゃないのにステファニアさんには敬語だもんね。

距離を感じさせる。


「ツレないわねぇ」


「いや、当たり前だろう…な、ならドワンドには戻らないのか?お前の目標だった神様に祝福された武具は出来たわけだし。凱旋出来たじゃないか」


「そうはいかないわよ。エルムバーンに店はあるし、愛着も思い入れもあるしね。良い国だし、あそこは。これでもエルムバーンで一番の腕だって言われてるのよ」


「そ、そうか…」


 これはもう確定かな。

ステンナさんはあからさまに落ち込んでいる。

やはり、ステファニアさんを好きなのか。

失礼かもしれないけど、意外だ。

ステファニアさんを好きな女性がいるなんて…


「……ステンナさんもエルムバーンに来れば?」


「え?」


「師匠と私の家に住めばいいよ。部屋なら空いてるし。研究の為の機材も一式揃ってるし、ここのを持って行ってもいいし」


「ちょ、ちょっとドミニー?そんな事簡単に言うもんじゃないわよ」


「いいじゃない、師匠。私、ステンナさんからも色々教わりたいなぁ」


「い、いや…そんな簡単にエルムバーンに引っ越しなんて…ここの機材を持って行くにしても限られてしまうし…」


「その点は大丈夫だよ。これ、魔法の袋。ジュン様と師匠の合作なんだけどね、これがあればこの家の中の物全て持ち運べるよ。エルムバーンにはジュン様の転移魔法で連れてってもらえるから。ね、いいよね?ジュン様」


「え?ああ、はい。ボクは構いませんよ」


「転移魔法?君自身も使えるのか…ん…んん~む…」


「ほらほら、師匠。ステンナさんに言う事あるでしょ」


「こ、このタイミングで言うの?無理が無いかしら?」


「いいから!早く言う!」


「わ、わかったわよ…ステンナ、あのね…昔貴女と喧嘩した事はもうお互い忘れて仲直りしましょう?私は謝らないけど、貴女にも謝れなんて言わないから」


「う、うむ。わ、わかった。そうしよう」


「よかったね。それでどうする?ステンナさん。引っ越す?私達はエルムバーンに帰るから、そしたらまた何にも進まないままになるんじゃない?」


「う…」


「何の話?ステンナの研究の話?」


「師匠、今は黙ってて」


「何なのよ…」


 ドミニーさんはステファニアさんとステンナさんをくっつけるつもりなのか。

オカマさんを女性とくっつけようとか、中々のチャレンジャーのような。


「此処に戻って来たい時もジュン様に頼めば直ぐだよ。流石にしょっちゅう急に頼めば嫌がられるだろうけど、事前にちゃんとお願いすれば大丈夫だよ。ねぇ?」


「え?ああ、はい。構いませんよ?」


 何だかドミニーさんに便利屋のごとく扱われてるけど…なんか眼で「協力しろ」って訴えて来てるし。いや、いいんだけどさ。


「ね?ステンナさん、エルムバーンに来て私に色々教えて欲しいな」


「し、仕方ないな。そこまでドミニーに頼まれればな。嫌とは言えんな」


「やったぁ!よろしくね、ステンナさん!」


「いや、貴女、ドミニーとそこまで親しくも無いでしょうに…」


「はい、師匠!余計な事は言わない!早速引っ越しの準備準備!あ、私はステンナさんの手伝いに残るから、師匠とジュン様達は大師匠の家に戻っていいよ!新しい魔法道具を作るんでしょ?」


「はいはい…もう好きになさい…」


 ステファニアさんは全くステンナさんの気持ちに気が付いてないんだな。

オカマのステファニアさんを射止める事が出来る日は来るのだろうか。

セバストとセバスン的にはぜひ頑張って欲しい処だろうけども。

まぁボクもステンナさんは応援するとしよう。

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