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第232話 黒幕

「ようやく着いたか」


「凄いねえ、正に世界樹のお膝元」


「上の方何てまるで見えやしない」


 人攫いからセラフィーナ殿下達を救出して二日。ボク達は王都エルドに到着した。


「それではジュン様、皆さん。お世話になりました」


「ありがとうございました、ジュンさん。よかったらうちの商会に来てね」


「はい。その時はよろしくお願いします」


 王都エルド着いて直ぐ。

セラフィーナ殿下達以外の人達と別れた。


「どうだ、王都エルドは。美しい街だろう?」


「はい、とても」


 王都エルドは世界樹の枝の下に作られた街で、さぞ自然に溢れた街だろうと思っていた。

しかし、実際はそうでは無く。

先ず建築物は他のグリムモアの街と同じく、石造りとレンガ造り。

そして思ったより植物は少ない。

これは世界樹の枝の下では普通の樹木を育てる事が出来ない為らしい。

街路樹なんかも無い。

その代わりと言って良いのか解らないが、植木鉢に植えられた花や小さな木は沢山ある。

そして何より眼を引くのは街の至る所で浮かんでいる妖精や光る玉だ。


「あの光る玉は?精霊ですか?」


「いや、違う。あれはフローティングライトと言う魔法道具で、ただ空中に浮かんで光るだけの玉だ。世界樹様の枝があるから日の光がここまで届かない。だからあれが無いと薄暗い街になってしまうんだ」


「精霊も混じってますけど、精霊は無軌道に飛び回っていますから。見分けるのは簡単です」


 フローティングライトは白く光っている。

そして赤や黄色、青や緑。白や黒。様々な色で光って飛び回っているのが精霊みたいだ。

そしてフローティングライトや精霊に混じって妖精も飛んでいて、妖精が飛ぶと光る鱗粉のような物が散る。

それら全てが相まって、実に幻想的な光景が広がっている。

魔法なんて存在する世界に転生したが、これ程に幻想的な光景は初めて見た。


「妖精や精霊は昼も夜も関係なく飛ぶからな。フローティングライトもそうだから、王都エルドは『光の都』と呼ばれている」


「確かに。その通りの光景ですね」


 正しく光の都だ。

観光旅行がもっと気軽に出来る世界なら、さぞかし人気の観光名所になっただろう。


 そんな光の都、王都エルドを世界樹の方へ進む。

直ぐに宮殿は見えてきたが…かなり変わった形をしている。


「あれが宮殿ですか…」


「うむ。宮殿というより、壁だろう?」


 そう、壁だ。

中央には宮殿と呼べる建物がある。

だが左右から世界樹を囲むように壁が伸びている。

いや、実際に囲んでいるのだろう。

壁の上には兵士がいるし、壁の中も移動出来るようだ。

壁には窓があり、窓から人影が見える。


「それでは、ジュン殿、世話になった」


「いえ。ああ、そうだ。誘拐の黒幕に関してはどうされるのです?」


「無論、調べる。だが明日、あの村に来るであろう輩を捕らえるのは無理だ。どの街から兵士を派遣しても間に合わんからな。貴殿の協力があれば別だが、お忍びで来てる以上、それは出来んしな」


「そうですか…」


「だから貴殿達が捕まえたならここに連れて来てくれ。破格の報酬を約束しよう」


「捕まえるつもりだ、なんて言ってませんよ?」


「そうか?まぁ、どちらにせよドワンドで用事が終わったら、宮殿に来てくれたまえ。助けてくれた礼はしたい。婚約の話もしなければならんしな」


「婚約の話は全く必要ありませんね。黒幕を捕まえる事に関しては出来る限りはやってみます」


「ふふっ、まぁいい。気長にやるさ。ではな」


「御安心を、ジュン様」


「セラフィーナ様は私達で止めますから」


「私達の為にも。必ず」


 ここに来るまでの間に、セラフィーナ殿下の侍女さん達は味方に付けた。セラフィーナ殿下の暴走は彼女達が止めてくれるだろう。


「お前達、どっちの味方だ」


「言った筈ですよ」


「この件に関しては、ジュン様の味方です」


「取りあえず、女王陛下には報告しますね」


「くっ…」


 そんな会話をしながら、セラフィーナ殿下達は宮殿に入って行った。次に会う時には、諦めてて欲しいものだ。


「さて…予定が変わってドワンドより先に王都エルドにきちゃったわけだけど。取りあえず観光しようか」


「賛成。やっぱり魔法道具店から行く?」


「先に食事にしない?僕、お腹空いちゃった」


「ご主人様、あたしもお腹空いた」


 アイシスとハティは昼食を希望か。

皆も異論は無いようだし、先ずは昼食にするか。


「じゃあどの店がいいかな」


「フンフン…僕の嗅覚はあの店から美味しそうな匂いを感知したよ」


「匂いって…犬か」


 まぁ別に文句も無いのでアイシスが選んだ店に。

まだ昼食には少し早い時間だからか、客は少な目だ。


「いらっしゃ~い。お好きな席にどうぞ~」


 店のウェイトレスさんは牛人族の女性だ。

間違いなく看板娘だろう。

牛人族の女性はウーシュさん以外では初めてだけど、彼女も胸が大きい。ウーシュさんに負けず劣らず。

牛人族の女性は皆そうなのだろうか。


「この店はアタリだと確信してしまった」


「ああ、アタリだな」


「間違いなくアタリですな」


 セバストとバルトハルトさんも同意見のようだ。

そして店内に居た別の男性客達から、無言のサムズアップ。

言葉が無くても分かり合える。

それを可能にさせる偉大なるアレ。

なんと素晴らしき事かっ。

…あれ?以前も同じ事言った気がするな。


「はぁ…おっぱいが好きなのは解ったから、早く席に着こう」


「ほら、お兄ちゃん。あっち空いてるよ」


 確かに、いつまでも立ってたら迷惑だな。

席についてそれぞれ注文してから、ウェイトレスのお姉さんにちょっと質問してみる。


「あ、お姉さん。ちょっとお聞きしたい事が」


「はい?あ、デートの申し込み?ん~君可愛いからいいよ?」


「…違います。この街で一番良い魔法道具店は何所にありますか?」


「なぁ~んだ、残念。魔法道具店ならこの店を出て真っ直ぐ行って最初の十字路を左に曲がった処にある『ハータイネン魔法道具店』が良いと思うわ」


「ありがとう御座います」


「いいよ。じゃあね」


 ユッサユッサと揺れるアレを背中越しに見送ってたらアイとユウに左右から抓られた。

仕方ないじゃない、アレは見ちゃうよ。どうしても!


「ところで、ハータイネンってさ」


「うん。リッチェルさんとこの店だろうね」


 人攫いから助けたリッチェルさんのフルネームがリッチェル・ハータイネン。お父さんが会長の商会の名前が『ハータイネン商会』らしいから、まぁ先ず間違いないだろう。

遠慮せずに最初から頼って聞いておくべきだったかな。


「いらっしゃいませ」


 昼食を終えて教えて貰った魔法道具店へ。

流石にリッチェルさん達は居なかった。


「流石に本場の魔法道具店だけあるけど…」


「うん。品数も品種も豊富にあるし値段も安めだけど」


「目的の魔法道具は無いね」


 魔法に対する防御対策の出来る魔法道具は幾つかあった。

でも今持っているステファニアさん作の魔法道具以上の物は無かった。やはりドワンドに行って新技術で作られた物に期待するしかなさそうだ。


「そもそもな話さ。今持ってる以上の魔法道具ってかなり難しいんじゃない?」


「お兄ちゃんの魔力を込めた魔力障壁を展開する魔法道具だもんね。現時点では最高だよね」


「でも何とか用意しないとね。これじゃあの爺の魔法は防ぎきれないってノエラが身を以て確認済みだし」


「……」


 ノエラが申し訳なさそうな顔をしているが、ノエラは悪くない。むしろ魔封じの紋章を持ったノエラだったからこそ、大魔道士の紋章を持っている事が解ったのだから。


 それから、念の為に他の魔法道具店を覗いて見たが成果は無く。翌日に例の黒幕を捕まえる為に廃村に戻って来た。

今は皆で倉庫内に潜んで居る。


「そろそろ盗賊が言ってた時間だ、皆気を引き締めて…」


「シッ、来たよ、ジュン」


 倉庫内にある魔方陣が光りだした。

魔方陣が起動した証だ。

そして転移して来たのはフードを深く被った騎士風の男二人。

仮面も着けてるみたいだ。

一応、盗賊の首領が言ってた外見と一致する。


「…誰も…居ない…?」


「…いや…そんな筈は…無い…こちら…の…魔方陣も…起動可能…状態だったから…こそ…転移…出来た…のだ…」


 何だか、少し言葉が不自由な感じの喋り方だ。

いや、上手く声を出せないのか?


「見ろ…壁が…崩れて…いや…斬られて…居る…」


「そして…誰か…潜んで…いるな…つまりは…」


 感付かれたか!

全員に行動開始の合図を出し、一斉に飛び出る。


「敵…!」


「破壊…しろ!」


 ん!こいつら…先ず魔方陣を破壊したか。

背後関係を知られるのを避けたか。

だが、お前達を捕まえれば問題無い!


「シャアァァァァ!!!」


「ガァァァァ!!!」


 二人の男達は魔方陣を破壊して直ぐに攻撃に転じて来た。

一人はボクに、もう一人はバルトハルトさんに向かって来た。


「シャア!シャア!シャア!!!」


 こいつら…結構強い。

剣技はそれほどでもない。

しかし、身体能力がかなり高い。

だけど…


「ガッ!!」


「勝てない程じゃ無いな」


 男の腹と足を斬り、動きを止めた。

人を斬ったのは初めてだが…何故だろう?

初めて斬った感じがしない。

魔獣を斬った時と似てるような…


「さて、そのまま大人しくしてもらおうか。大人しく捕まるなら傷は治してやる」


「……」


 さて、バルトハルトさんの方は…既に決着してたか。

しかし…


「バルトハルトさん…」


「すみません、ジュン殿…私とした事が…手加減出来ませんでした…」


 バルトハルトさんが相手をした男は両断されて既に息絶えている。バルトハルトさんが手加減出来ずに殺すしか無かった?

それほどの手練れだとは思えなかったが…


「ジュン様!」


「え?あ!」


「が…ふ…」


 ボクが相手した男もナイフで首を切り、自決してしまった。

何の情報も聞き出せなかった…くそっ、嫌な気分だ…


「…仕方ない…何か持ち物を探ろう。何か判るかもしれない」


「ジュン様、こいつらの顔を見てくれ」


「うん?」


 セバストに言われ顔を見る。

着けていた仮面は外れ素顔が見えている。


「こいつは…悪魔族?いや獣人族か?どっちだ?」


「わからんが…そっちの奴も同じ感じみたいだぞ」


 バルトハルトさんが殺した奴も同じ感じで悪魔族の顔に獣人族の特徴が混じったような…手足の防具を外してみると手足にも同じような特徴がある。

悪魔族と獣人族が合体したような…そんな姿だ。


「なるほど…私が感じた異常の正体はこれですか…」


「異常?」


「ええ。今まで感じた事の無い気配でした。人を相手にしている筈なのに何処か獣を相手にしているような…」


 確かに、それはボクも感じた。

でも、以前にもこの気配は感じたような気が…


「あ。思い出した」


「ウチも。こいつらと同じ気配を以前感じてたと思ってたの」


「ほう?それは一体?」


「フランコ君とクローディアさんの結婚式だよね?アイ」


「うん。エスカロン・ガリアが連れて来ていた従者。そいつらと気配がよく似てるよ」


「確かに…言われみれば…」


「ああ、確かに」


 ノエラとセバストも同意見らしい。

二人もあの時、エスカロンと会っている。


「それにお兄ちゃん、こいつら…多分…」


「ああ。あのマッド爺の研究成果…かもしれないね」


「!あの男の…」


「それは…あの男の研究が完成したという事ですか?」


「どうかな…もし予想通り、こいつらの後ろにいるのがエスカロン・ガリアで、あのマッド爺と繋がっているとしたら、だけど。今回、エルフを欲しがった理由も想像出来ない?」


「あ…」


 多分、研究の実験体にするつもりなのだろう。

相変わらず、人を人と思わぬ行動だ。

反吐が出る。


「一度、エルムバーンに帰ろう。そして各国に、エルフが狙われる可能性があるって警告して貰おう」


「「「はい」」」


 思わぬ形であのマッド爺とエスカロンの繋がりが見えて来た。

やはり、エスカロンは黒だ。確証は無い。だが確信は出来た。


 あのマッド爺と次に会うのはガリア魔王国になる。

そんな予感がする。

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