第226話 救出 1
ノルドの街、南に続く街道をゴーレム馬車で走り続けて三日。
街を一つ通過したがドワンドはまだまだ遠い。
「長閑だねぇ…」
「そうだね。他の国も街の外は自然豊かだったけど…グリムモアは森ばっかりだね」
街道はあるにはある。
しかし、馬車が二台通れるギリギリの幅しかないし、街道の直ぐ傍は深い森だ。
殆ど森の中を走り続けている。
「もう少し開発しないのかしら」
「そりゃしないだろうな、ユウ様」
「エルフは自然を傷付ける事を極力避けようとしますから。ノルドの街も、家こそ石造りかレンガ造りでしたが、街中に木々は残っていましたでしょう?街を作る際にも、その場所にあった木々は出来るだけ残すようにしてるのです」
それはまぁ悪い考えでは無いと思うし賛同も出来る。
しかし…
「街道でこうも魔獣に襲われちゃあねぇ」
「もう少し街道と森の間に距離が欲しいよね…」
アイの言う通り、街道の直ぐ傍は森。
時折…いや、しょっちゅう木に隠れてた魔獣が襲って来るのだ。
御蔭でボク達は馬車の屋根の上で臨戦態勢だ。
「しかも、戦闘でやむなしだとしても自然破壊が発覚したら罰金だって言うんだものね」
「徹底してるねぇ」
故に、このグリムモアでの移動は冒険者の護衛が必須。
商人同士で寄り合い、一団となって移動する事が多いそうだ。
「ハティが居る御蔭で大分襲撃の数は減ってると思うけど。他の旅人はもっと襲われてるんでしょうね」
「そうだろうね」
ハティが放つ気配にビビッて近づいて来ない魔獣が居るのは間違いない。
ただ鈍い奴やそれなりに強い奴は襲って来る。
しかも、倒したからといってその場で解体とかしてると、血の匂いに誘われてどんどん魔獣がやって来る。キリが無いので、仕留めた魔獣は魔法の袋に即座に収納してあとでまとめて処理する予定だ。
「というか、この道本当に使われてるの?」
「街道っていっても何とか道って分かる程度で、雑草だらけだし」
「他の馬車とすれ違わない」
「もしかしたら地元民が知ってる安全な道が他にあるのかもね」
とはいえ、地図を見る限りこの道が最短だ。
他の道も地図上では森が傍にあるし。
「森の終わりが見えたぞ~」
「ようやくか…丁度昼時だし、昼食と休憩を取ろう」
「やった~!僕もう限界だよ」
「アイシス、果物食べてた」
「う…だって戦闘続きだったんだもん」
森を抜けた先はまた草原だった。
魔獣も人の気配も無い、穏やかな空気が流れている。
「天気もいいし、外で昼食にしようか。セバスト」
「了解だ」
青空の下、食べる昼食。
冒険者になってからというもの、しょっちゅうやってる事だが悪くない。
「今、どの辺りまできたのかな」
「まだまだ遠いよ、ドワンドは。せいぜい三分の一くらいかな」
「うへぇ~」
グリムモア魔道国は現代地球で言えば南アメリカ大陸の北半分を国土とする国だ。
だが、その大部分は開発せずに手付かずの自然。
故に人が住まない魔獣の領域となっている。
ドワンドはそのグリムモア魔道国で唯一の鉱山都市でもある。
グリムモアの南南西に位置する。
「さて、そろそろ行こうか」
「ジュン様、誰か助けを呼んでますぅ。あっちの方から聞こえますぅ」
「助け?」
リリーが指差した方にあるのは森。
森の方から確かに誰かが走って来る。
ボクの耳には何も聞こえないけど…
「誰か来るね。一人かな」
「いや…その後ろに数人いるな。どうやら追われてるようだな。どうする、ジュン様」
「ん~ここからじゃ、どっちが悪人が判断しづらいな。兎に角近づこうか」
「ん?追われてる人を助けるんじゃないの?」
「追われてるからって善人とも被害者とも限らないでしょ。確認は必要だよ」
「むむ~?そっかなぁ」
「アイシス、盗賊や山賊が返り討ちにあって追われてるのかも」
「ああ、そっか!」
ようやくアイシスも納得したようなのでこちらからも近づくとしよう。
しかし、全員で行くと向こうの方が人数が少ないし、警戒しちゃうかな?
「先ずはボクとクリステア、ルチーナ。アイシスで行こう。皆は馬車で待機。呼んだら来てね」
「「「はい」」」
どうやら追われているのはエルフの少女のようだ。
怪我をしてるように見える。
後ろの追手は…見るからに悪人でござい、という感じの人相も風体も悪い人族と魔族の男達だ。
「あ、た、助けて!助けて下さい!」
「ええっと…貴女は?」
「後ろの男達に攫われて…何とか逃げ出して来たんです!お願い、助けて!」
ふむ。
何と言う王道イベント。
いやいや、いかんいかん。
人の命が掛かってるのにイベント感覚はいかんな。
「何だぁ!てめぇら!邪魔すんな!」
「いや、待て。よく見ろ。いい女ばかりじゃねえか。どいつもこいつも高く売れるぞ」
わかりやす~い。
実に分かりやすい悪人のセリフだ。
しかし、まぁ一応念の為。
「念の為お聞きしますが。こちらの少女が被害者で、貴方達は悪人という事で間違いないですかね」
「は?何言ってんだ、てめぇ。俺らが善人に見えっかよ」
「ていうか、お前、男かよ。まぁいいさ、そっちの趣味の奴に高く売れるだろうぜ。ガハハハ」
「そうですか。ありがとうございます」
「は?ありがとう?」
「わかりやすくて、助かります」
「何が…魔法か!気を付け…ふぁふぬっ…」
あっさりとスリープの魔法にかかった。
こっちが弱そうにでも見えたのか、酷く無警戒だった。
魔法を放つ寸前まで気づかなかったし。
「さて、と。クリステア、ルチーナ。こいつら縛っておいて。アイシスはセバストに馬車ごとこっちに来るように言ってくれる?ボクはこの子を治癒しておくから」
「「はい」」
「わかったよ」
この子、とは言ったが…エルフも魔族と同じで見た目で年齢が読めないからなぁ。
一見してこの十四歳くらいに見えるエルフの少女が実は百歳とかあり得るわけで。
「えっと…もう大丈夫だよ。魔法で怪我を治すからジッとしててね」
「あ、は、はい…」
「ボクはジュンといいます。冒険者で、仲間達とドワンドまで旅をしています。貴女は?」
「私はリッチェルです。家族と王都に帰る途中で皆、捕まって…私だけ逃げる事が出来たんです」
「皆?つまり他の家族がまだ捕まってるんですね?捕まってるのは家族の方だけですか?」
「え?わ、わかりません。でも、護衛に雇っていた冒険者さん達は皆、殺されてしまって…御願いします!私を近くの街まで連れてってください!騎士団を派遣して貰わないと!」
今度は人攫いか。
放って置くわけにもいかないな。
しかし、またしてもトラブル。
どうしてこう、トラブルが向こうからやって来るのか。
「家族の方が捕まってる場所に案内出来ますか?」
「はい?出来ますけど…まさか貴方達が助けに行ってくれるんですか?」
「はい。安心してください。ボク達は見た目より強いですから。それにアジトまで行けばボクが転移魔法で騎士団を連れて行けますから。そっちの方が時間を短縮出来ますし」
「て、転移魔法?そんなの使える冒険者さんなんて聞いた事が…」
「御疑いなら、後で見せてあげますよ。こいつらから情報を聞き出したらどこか適当な街の冒険者ギルドか、兵士詰所に突き出しますから」
「は、はい。御願いします」
さて、まだドワンドまで長いし、サクサクと片付けよう。




