第221話 マンイーター
森を抜けて、グリムモア魔道国に入った。
と言っても、まだグリムモアの北端の街、ノルドに着いたばかりだ。
「ここ、本当にエルフの街?」
「木の家じゃないんだ」
「レンガか石造りの建物ばっかりだね」
何だかイメージと違うなぁ。
森の人、エルフが住むって感じを受けない。
普通の街だ。
「エルフは植物を必要以上に傷付けるのを避ける種族だしな」
「特に世界樹があるこの大陸の木々は全て、世界樹と繋がっていると考えているらしく、木々の伐採は毎年決められたごく僅かな量だけ。必要な木材はその殆どを輸入に頼っている国です」
だから石造りかレンガの家になる、と。
理屈は分かったけど、どうもイメージに合わない。まぁ、勝手なイメージなんだけども。
でも王都のシルヴィさんの家は木造だったし。
「それにしても詳しいね、セバスト、ノエラ」
「そうでもないぞ?」
「主要な国家や種族の事は一度は調べましたし。でも、エルフに関しては有名だと思いますよ?」
そう言えば、幼児の頃に色々調べた時にグリムモアは木材を輸入に頼っているのは調べてたな。
エルフの国らしくないって思ったのを覚えてる。
「住人はエルフが一番多くて、魔族はちらほら。人族はそこそこ。ドワーフもそこそこ。妖精が居ないね」
「妖精は基本森や山の中にいるしな。それに何と言ってもこの国は世界樹のお膝元だ。世界樹の周りに集まってるらしい」
「なるほどね。アレにね…」
森を抜けてからうっすらと見えていたけど…アレが世界樹か。とてつもなくデカい。
雲より高いのではなかろうか。
「それで、ここからどうするの?すぐにこの街を出てドワンドに向かう?」
「一応、魔法道具店に行ってみようか」
ノルドの魔法道具店は複数あった。
その全ての店を覗いて見たけど…
「ステファニアさんの店の方が全て上だねぇ」
「そうね。流石、全ドワーフの中でもトップクラスの腕前だけあるね」
「何でエルムバーンにいるのかな」
「何でもオカマのドワーフにはドワンドは居辛い場所らしい。で、故郷を飛び出して、流れに流れてエルムバーンに辿り着いたらしい」
「昔、そんな話をしてましたね」
「その言い方だと、オカマのドワーフが他にも居る感じだけど…」
「居るらしいですよ?」
それはちょっと嫌だな。
別にステファニアさんを嫌ってはいないが…オカマドワーフに迫られたら恐怖でしかない。
ドワンドには居辛いらしいから会わないで済みそうだが。
「オカマドワーフさんに出会ったら、相手はバルトハルトさんにお願いします」
「わ、私ですか?何故…」
「きっとボクやセバストより、バルトハルトさんの方がオカマドワーフさんの受けがいいですよ」
「そうだな。オレもそう思うぜ」
「いや、しかし…私は至ってノーマルなのですが?」
「別に付き合えなんて言いませんよ。上手くボク達の隠れ蓑になって頂ければ」
「身も蓋もないね、お兄ちゃん」
「心配しなくてもウチらが守ってあげるのに」
ある意味ではアイ達の方が危険な時があるからな。
口に出して言わないけど。
「それでどうするの?真っ直ぐドワンドに行くの?」
「そうだね。昼食を食べたら街を出ようか」
「エルドには行かないの?」
ユウの言うエルドとはこの国の王都だ。
この国の魔法技術の研究所がある場所だ。
「ドワンドで探し物が見つかれば行かない。お忍びで来てるしね。王都に行って、身分がバレたらまた面倒くさい事になりそうだし」
今回もボク達は冒険者として来ている。
Sランクになってから初めての他国訪問だったのだが、街の入り口ではえらく驚かれたけど、すんなりと入れた。
Sランク冒険者とはやはり信頼が高いらしい。
適当な店に入って昼食を採る。
若干、肉や魚を使った料理が少ないように思うけど、特にエルフっぽさは感じない。
「結構美味しいね」
「うん。特に野菜や果物が」
「エルフは野菜や果物の栽培に関しては凄いからな。エルフの作る野菜や果物はどれも一級品だ」
そこはエルフっぽいな。
でも農作業をしてるエルフは何だかイメージ出来ない。
「この後はもう街を出るんだよね?」
「うん。あ、いや。冒険者ギルドで付近の情報を集めてからにしようか」
「了解」
昼食の後は冒険者ギルドへ。
エルフの国だけあってギルドの職員は全員エルフだ。
そして全員美形。何だかキラキラしてる気がする。
特に他のギルドと違う点は無い。
少々、冒険者の数が少ないように感じる程度だ。
依頼を貼り出してる掲示板も見てみる。
特に変わった依頼は無いが、畑を荒らす害獣の駆除依頼が多いように思えた。
見学はこれ位にして、受付で話を聞こう。
「失礼。宜しいですか?」
「はい。何でしょうか」
「この街には初めて来たのですが、この辺りで危険な魔獣や気をつけなければならない事とか、あれば教えて頂けますか。あ、北の森については大丈夫です」
「そうですね…先ず川辺に近付く時は注意して下さい。魔獣ではありませんが、大きなアリゲーターがいます。我々くらいなら軽く一呑みです。西の森にはそんなアリゲーターを一呑みにするギガンティックスネークがいます。西の森で一番危険なのがこの蛇ですから、こいつが平気なら後の魔獣は問題無いでしょう」
ここにもいるのか、ギガンティックスネーク。
ブーダンビルの無人島以来だな。
別に会いたいワケでも無いし、西の森に行く予定も無いけど。
「それから…今、南の街道は封鎖されています。危険な魔獣が出ましたから」
「え?街道が封鎖?」
それは困った。
ドワンドに行くには南の街道を行くしかないんだけど。
「どんな魔獣が出たんです?」
「マンイーターです。ご存知ですか?」
マンイーター…大型の植物型魔獣。
触手を使って人を襲い捕食する。
植物の癖に移動能力が有り獰猛。
確かに危険な魔獣だけど…マンイーターの討伐難度はC。
街道を封鎖する程じゃないはず。
まさか魔獣とはいえ植物だから倒せないってんじゃないよね?
「知っていますが…街道を封鎖する程ですか?」
「現れた場所が問題でして。奴等は穀倉地帯の直ぐ側に群生してしまったのです。一体だけなら火を使えば簡単に倒せますが…群生してますから火を使えば周りに燃え移ってしまうかもしれません。まだ収穫前の穀物に燃え移ってしまったら大変な被害を受けますから」
マンイーターは植物だけあって火には弱い。
だが他の攻撃には強い。先ず再生能力が高く、冷気にも強い。
剣で斬ったり魔法で凍らせたりは効果が薄い。
ボクの魔法なら凍らせる事は出来ると思うけど、周りに被害を出さずにとなると難しいかもしれない。
「今、ギルドマスターが主要な冒険者と会議中です。頭を悩ませていると思いますよ?」
「そうですか…因みにマンイーターの数はどれ位で?」
「凡そ百だそうです」
「百…分かりました。有難う御座います」
「いいえ。というわけですので南の街道には行かないで下さいね。封鎖が解除されるまでお待ち下さい」
そういう訳にもいかず。
ドワンドに行くには南の街道を通るしかない。
さてどうしようかな。




