第220話 グリムモア魔道国へ
「この森に来るの、随分久しぶりだよね。四年ぶりくらい?」
「そのくらいかな。ボクが冒険者になった年だから」
「インジブルバードの捕獲に来たんだったね。シャルルさんとユニコーンに会った森だね」
ボク達は今、フレムリーラの南方にある森に来ている。
以前、インビジブルバードを捕獲した森だ。
この森を超えて、グリムモア魔道国へ行く為だ。
「あるかなぁ。勇者の杖に対抗出来るような魔道具」
「あと、転移を封じる手段もね」
グリムモアに行く理由はアイとユウの言うように、あのマッド爺と勇者の杖【イシス】を持った敵と戦う時の備えをする為だ。
もしかしたら、マッド爺が【イシス】を使っている可能性もある。
その場合の備えもしなければならない。
勿論、ステファニアさんだけでなくシルヴィさんとも相談したのだが、それならグリムモア魔道国に行くのが一番だという結論に至る。
あそこならエルムバーンには無い魔道具もあるし、何か新技術もあるかもしれない。
ステファニアさんとの約束もあるし、グリムモア魔道国に行く事になったのだ。
「またあのユニコーンに会えるかな」
「シャルルさんもね」
「そう言えば、この森、討伐難度Aの魔獣が居るんだっけ」
「うん。コカトリス。結構厄介な魔獣だよ」
コカトリス。鳥の身体と蛇のような尾。コウモリ、或いはドラゴンのような翼をもつ3~5mの大きさの魔獣。毒を持ち、毒を受けた肉体は徐々に石化する。完全に石化してしまえば助かる手段は無い。
現代地球の伝承やゲームにもよく登場する魔獣だ。
「コカトリス用の毒消しは用意してあるから、そこまで心配はいらないけど。まぁ毒は貰わないようにするのが無難だね」
「ふぅん。他には何が居るの?」
「他には…グレートホーンって言う大型の鹿型の魔獣がいるね。アイとアイシスの好みの魔獣なんじゃない?」
「何でさ」
「肉が美味らしいよ」
「よし、今夜の御飯は鹿肉だね」
「異議は無いよ、アイ」
「そう上手く出会う事が出来ればいいけどね。あとトレントは勿論居るんだけど、噂ではトレントの上位種、エルダートレントも居るらしい。無害な…いや益獣だから殺すのは禁止。でもエルダートレントの実は高価で売れるし、そのまま食べても美味らしい。魔法薬の材料にもなるから見つけたらラッキーだね」
「この森、ユニコーンもいるし、ある意味では宝の山なのね」
「ユニコーンも狩っちゃダメだけどね。さて、進もうか」
吸血鬼の村に行った時の森も広く、深い森だったけど、ここは更に広い。
でも、ここの森は穏やかな森とか静かな森というイメージだ。
ユニコーンがいる森だからだろうか?
「魔獣の匂いが一杯するね、ご主人様」
「そうかい?」
ボクには全くわからない。
周りに気配も感じないし。流石はハティだな。
「リリーはどう?何か聞こえる?」
「遠くには居るです。いえ、離れて行ってるですぅ。多分、ハティちゃんが怖いんだと思いますぅ」
なるほど。
ハティにビビってるのか。
そうなると、グレートホーンに出会う事は無いかな?
と、思いきや。
進む事一時間でグレートホーンはやって来た。
というより、何かから逃げて来たという感じだったが。
「アイシス、任せた」
「え、僕?いいけど、何で?」
「アレがグレートホーンだよ」
「よっし!任せて!」
一瞬だけ勇者の紋章を使用し、オーラフラッシュでグレートホーンの首を飛ばすアイシス。
紋章の使い方がどんどん上手くなってるみたいだな。
技の威力と射程も増してるようだ。
「へっへ~お肉お肉~♪」
「今夜は鹿肉のステーキね!」
鹿肉ってステーキに向いてるのかな?
まぁセバストなら美味い料理を作ってくれるだろう。
楽しみだ。
「で、こいつは何から逃げて此処迄来たのか、だけども」
「あっちから何か来るよ、ご主人様」
「リリーの耳にも聞こえますぅ。数は一体ですぅ」
ハティが指差した方向から来たのはコカトリスだ。
ハティにビビって逃げずに近づいて来るヤツだから、それなりに強い奴なのは予想してたけど。
「次は誰がやる?」
「毒があるから、万一を考えると遠距離で仕留めるのがいいよね」
「じゃあ、リリーかな?」
「あ、私がやります。こういう物が沢山ある森の中とか、私の糸の最も活躍出来る場なので」
「あ、そう?じゃあ何時でも援護に入れるようにしてるから、やってみて、シャクティ」
「はい!」
相変わらず、どう操作すればああなるのか分からない糸を操り、あっさりとコカトリスを捕まえるシャクティ。確かに、木や岩がある森の中だと、獲物を吊り安いらしい。
四方八方から糸で縛り上げ、吊るし。
ピンッとシャクティが糸を弾くとバラバラになるコカトリス。
某仕事人のようだ。
「相変わらず、どうやってんのかサッパリだね、シャクティのそれは」
「私も口で説明するのは、難しいですね。結構、直感でやってる部分もあるので」
仮に口で説明出来ても理解出来なさそう。
「コカトリスはどうするの?食べれるの?」
「いや、コカトリスの肉は毒があるからダメだよ。討伐証明になる部位だけ持って帰ろう」
「そっか」
それから更に奥へ進み。
シャルルさんとユニコーンと出会った泉までやって来た。
前回は此処でシャルルさんが水浴びをしてたのだけど…流石に今回は誰も居なかった。
「そう言えばさ、何で此処に転移しなかったの?」
「転移した先の状況は分からないからね。魔獣が居るかも知れないし、また誰か水浴びしてたら気まずいだろ?」
「水浴び?」
「気にしないで」
そう言えば前回はアイシス達は居なかったか。
他にもクリシテアとルチーナ。ハティとシャクティもか。
「此処でユニコーンと出会ったんだけど…今日は居ないね」
「ううん。いるよ、ご主人様。あそこ」
「あら、ほんと」
木の陰からユニコーンが出て来た。
シャルルさんの友人のユニコーンだろうか?
こちらを警戒してる様子は無いけど…今は泉の水を飲んでいる。
「以前会ったユニコーンかな?ボクには分からないんだけど」
「多分、そうじゃない?」
「近づいても逃げる様子も無いし、私達の事を覚えてるんじゃない?」
「ふむ…えっとシャルルさんの友人のユニコーンでいいのかな、君は。お久しぶり」
挨拶をしてみると…こちらに向き直して頭を下げブルルと鳴いてみせるユニコーン。
どうやら前回会ったユニコーンみたいだ。
「やっぱり、前に会った子で間違いないみたいだね」
「そうみたいだな。どう?元気してた?」
元気だったよ、とばかりに頷く、ユニコーン。
正しくこちらの言葉を理解してるようだ。
「あ、そうだ。ねぇねぇ、また祝福くれない?」
「貰ってどうするんだ?今日は特に必要な理由も無いだろ?」
「あの時のリベンジがしたいの!あの時よりウチも大分大きくなってるから!」
「そう言えばそうだったわね。私もリベンジを果たさなきゃ」
「何の話ですか?」
「多分、知らない人は知らないままの方がいい類の話」
何かもう、オチが見えてる気がするし。
「まぁ兎に角!良かったら祝福を頂戴、ユニコーン」
アイの御願いを聞く事にしたのか、前回と同じように、一人ずつ眼をジッと見つめていくユニコーン。
全員の眼を見つめ終わった後、祝福が貰えたのは…ボク・リリー・シャクティ・クリステア・ハティだ。
うん。予想通りだ。
「くぅあぁあ!またしても!」
「まだ足りないのね…」
「……」
「あ、アハハ…」
ガックリと項垂れるアイとユウ。
ノエラの眼も何だか死んでる。リリーは居心地が悪そうだ。
「ねえ?今のは何?説明してよ」
「あ~…今のはユニコーンの祝福。祝福が貰えると普段より魔法能力や身体能力が上がるんだ。効果時間は一日」
「へ~。貰えた人と貰えなかった人の違いは?」
「…ユニコーンが気に入った人にはくれるらしいよ」
「え~?何それ。僕の何が気に入らないのさ」
「姉さんは気に入られて私はダメ?一体何故…」
「ハティは良くて私はダメ。何で?」
「…さぁね。じゃあ、行こうか。ありがとうね、ユニコーン」
「ちょっと、ジュン?何か隠してない?」
「いや、別に。ほら、アイとユウも項垂れてないで、行くよ」
「「は~い…」」
「ちょっと~?」
アイシスがしつこいけど、少なくとも今この場で教えない。
ユニコーンの命が危険な気がするし。世の中知らないままの方がいい事は確かにあるのだ。
因みにボクとユニコーンの巨乳判定ラインは同じらしい。
それがボクが祝福を貰える理由だったりして。
…なんてね。




