第219話 一方その頃
前半は南の島でのバカンス中のユウ視点の御話。
後半はギガロドン討伐時のセバスト視点の御話です。
――ユウ――
遂に…遂に完成したわ。
ミザリアから教えてもらった秘伝の媚薬が!
これの完成には苦労したわ…なんせ材料が高価で希少な物ばかり。
本来であれば媚薬なんて、サキュバスの私には必要無い物だったはずなのだけど…こういう物が必要だと判明したのは三年前に、シャクティの故郷の島に遊びに行った時。
シャンゼ様が…
「大変よ!ユウちゃん!ジュン君にサキュバスの催淫が効かないの!」
「え!?いきなり何です!?」
夜にいきなり私とアイの部屋に来たと思ったら。
詳しく聞くと、お兄ちゃんをサキュバスの能力で催淫しようとしたけど、効かなかったのだとか。
「私の催淫はエリザ様の教えで並のサキュバスより強力なのよ?でも、まるで効果が無かったの。童貞かどうかを見分ける能力も通じなかったから、もしかしたら、とは思っていたけど…」
そうなのだ。お兄ちゃんにはサキュバスの能力が通じない可能性があるのはわかってた。
私の力でも見れなかったし。
「というか!シャンゼ様!抜け駆けしようとしましたね?」
「う!だ、だって~…昼間にジュン君の裸体を見てたら、ムラムラしちゃって…ジュン君ももう十二歳。少年から大人に変わる手前の今しか味わえない瑞々しい肉体…催淫したくもなるじゃない?」
「同意を求められても困ります…」
本当はわからなくも無いけど…でも、お兄ちゃんにサキュバスの催淫が効かないのは困った。
最終手段が使えなくなってしまったのだもの…
「困ったわね…」
「困りましたね…」
「う~ん…ウチは最悪、寝技で勝てると思うし…何とかなるかな?」
「アイ…それ犯罪じゃない?」
「催淫だって似たようなモノじゃない」
「う…」
とまぁ。こんな事があって。
催淫に代わる、最終手段を用意しなければいけなかった。
それを探している時に、ブーダンビル魔王国との一件でミザリアと出会い、超強力媚薬のレシピを貰ってからというもの、アイにノエラやクリステアは勿論、シャンゼ様にシャクティ、リリーやティナ達も巻き込んで媚薬の材料集めに協力して貰って約半年。
ようやく人数分の媚薬が完成した。
材料集めはひっじょーに大変だった。
御金も掛かるし、何より手に入れる事が出来る場所がバラバラで。シャンゼ様の協力は不可欠だった。
ドラゴンの鱗や爪。亀型魔獣の血。
これらはまだ何とかなった。
でも、世界樹の葉。これは本当に苦労した。
旅に出る度に色んな場所で探したけど、結局手に入れたのはフレムリーラで行われたオークションで、シャンゼ様に落札してもらって、ようやくだった。
ミザリアは一体どうやってこれらの素材を手に入れたのか…
「それで後は効果を確認するだけなんだけど…」
「誰かに使うしかないって事だよね」
「そうね…問題は誰に使うか、ね」
「まさかいきなりジュン君に使うわけにもね。かといって女の子に使うわけにも…」
ミザリアみたいに丁度いい家臣もいないし…ここはやはり使っても問題無い間柄の人達に試してもらうしか…
「と、いうわけで。お父さん、お母さん。これを使って感想を聞かせてください」
「ユウ…お前…流石エリザの娘だな。十二歳でそんな物…」
「ユウもジュンと同じで、滅多に頼み事なんてしないから、協力はするけど~。何の為にそんな物が必要だったの~?」
「エリザ様、ジュン君にはサキュバスの力、催淫が通用しないんです。理由は解りません」
「あら?そうなの?という事はシャンゼちゃん、ジュンを催淫しようとしたのね?」
「あ」
「あ、いいのよ?婚約者だもの。でも…そう、それでこういう物が必要になるのね。わかったわ」
お父さんとお母さんの協力の結果。
媚薬に問題は無いようだった。
ここまで来たらあとは実行あるのみ…だったのだけど。
「まさか、全員同じタイミングでジュンに媚薬を盛るとはね…」
「過剰摂取するとああなるのね…」
「幸い、何があったのか、お兄ちゃんは覚えてないし気づいてもいないみたいだけど…この媚薬は皆、暫くは使わないように。というか絶対にお兄ちゃんにバレないように!」
「「「はい…」」」
全員がお兄ちゃんの夕食に媚薬を盛った結果。
お兄ちゃんは鼻血を吹き出して倒れてしまった。
翌朝、眼を覚ましたお兄ちゃんは何も覚えておらず。
ただ遊び疲れて寝てしまったと思ってる。
危なかった…やっぱり、これは最終手段にしておこう。
皆にも言い聞かせておかないと。
後、他にも何か策を用意しとかないと…
――セバスト――
「エリザ様、今少しいいですか?」
「あら?セバスト。何かしら」
オレは今、セイレン行きを辞退し、エルムバーンに残っている。
表向きは、セイレンの女達が危険だからという事になってるが、本当の目的はそうじゃない。
以前からジュン様に出された命令、「魔王子様シリーズ」の作者を探っていて、ようやく作者が誰か思い至ったのだ。
オレも暇を見て本を読んでみたのだが…確かに作中の登場人物のモデルはジュン様で、オレと思しき人物も出ていた。それどころかノエラやリリーとも似た人物が書かれていた。
ここまでくると作者はかなり絞られる。
ジュン様や、オレ達の事をよく知っていて、オレ達の捜査から逃れる事の出来る人物。
「『魔王子様と女騎士』等の魔王子様シリーズと呼ばれている作品の作者は…エリザ様ですね?」
「あら?バレちゃった?」
やっぱり…まぁ実はエリザ様より先に魔王様に聞いていた。
認めはしなかったが明らかに態度がおかしかったし、魔王様も口止めされてるんだろう。
「エリザ様、ジュン様は魔王子様シリーズの魔王子のモデルが自分である事を好ましく思っておられません。というか、アレは殆どジュン様そのものじゃないですか。今まで世に出てしまった作品は仕方ないにしても、せめて新作はモデルを変えて頂けませんか」
「今更無理よ~。知っての通り、人気シリーズだし。今度はヤーマン王国とレンド魔王国でも販売が決まったのよ?これから益々頑張らないといけないし~」
「そこまで凄い人気なんですか…」
ヤーマンとレンドでも販売が始まるって聞いたら、また嫌がるだろうな、ジュン様。
本音を言うとオレも登場させて欲しくないんだが…
「ではせめて…作風は純愛物に限ってもらえませんか。クリステアが好きな『魔王子様と女騎士』のような過激な内容の物や…オレをモデルにした執事との絡みがメインの『魔王子様と執事』のようなジュン様の人格なんかを歪めて捉えてしまいそうな話は…恐らくはアレがジュン様が一番嫌がってる理由ですし」
重ねて言うがオレも嫌だ。
いくら敬愛する主であるジュン様でも、抱かれるつもりも抱くつもりも無い。
オレにそんな趣味は無い、断じて。
「ああ…アレね。アレはまだ手探り状態の時に書いたやつで…色々試してた時期の作品だから。今はちゃんと純愛物がメインよ。ジュンの人格を全くの別物に変えたような作品では無いから、安心して」
まぁそれでもジュン様は嫌がると思うが…だがエリザ様相手にオレが出来るとしたらこの程度の陳情くらいだ。強引な手段に出るわけにもいかないし、バラすわけにも…
「本当に、ほどほどにお願いします」
「わかったわ。セバストもジュンには秘密にしておいてね?暫く、お給料に色付けてあげるから」
「はい…」
すまない、ジュン様。
ジュン様の命令は絶対だが、エリザ様の命令にも従わなければならないんだ。
今はこれで勘弁してくれ…




