第216話 復讐者
「同行ですか…何故、見ず知らずのボク達に?」
「聞こえて来た会話には帰る手段について相談してなかった。君達は帰る術を持ってるんじゃないか?」
この喧噪の中でボク達の会話を正確に拾っていたようだ。
耳がいい?いや聴覚を上げる魔法でも使っているのか?
「場所を変えて話しませんか?この喧噪ですので心配はいらないかもしれませんが…あ、すみませんが昼食が終わるまでお待ち頂いても?」
「ああ、構わない。俺も食事が終わってないしな。終わったら声を掛けてくれ」
こちらを騙そうとか、罠にかけようという気配は感じない。
向こうは完全に一人のようだし、警戒は必要無いかもしれないが…
「(さて、どう思う?)」
「(敵ってわけじゃないと思うよ。僕の勘では)」
「(ウチも同じ。でも何か訳ありって感じかなぁ~)」
「(訳あり?どうしてそう思う?」
「(あの森に何が居るのか知った上で、向かおうとしたんでしょ?それも見た所一人で。それだけで訳ありとしか思えないじゃない?)」
「(ふむ。なるほど)」
皆の意見を聞いてみたけど、話くらいは聞いても問題無いだろうという結論だった。
こちらが何者なのか知った上で近づいて来たわけでもなさそうだし、話は聞くか。
昼食を終え、森まで馬車で向かう。
青年の話は道中、馬車の中で聞く事になった。
「そう言えばまだ名乗っていなかったな。俺はディノス。ミトラス王国出身だ」
ミトラス王国…確か、ヴェルリア王国南の小国群同盟参加国の一つだ。
取り立てて目立った特徴も無い、今まで特に関わりの無い国だ。
「ボクは…ジュン・エルムバーンです」
身分を隠す方がいいかとも思ったのが、隠さずにおいた。
ボクの身分を知って尚、態度に変化も動揺も無いのなら、彼はとりあえず悪意を持って近づいて来たのでは無いと判断していいだろう。
「ユウ・エルムバーンです」
「アイ・ダルムダットです」
ボクの意図を把握したのか分からないけど、皆、身分を隠さず名乗っていく。
彼…ディノスさんに特に動揺は見られない。いや、驚いてはいるみたいだが後ろめたい事がある感じではない。
「へぇ。君が噂のエルムバーンの魔王子様なのか。おっと、魔王子様ですか」
「今は冒険者として行動してますから、言葉使いは気にせず、普段通りでいいですよ」
「そうかい?助かるよ。育ちはあまり良くないもんでね。それで、君達も気になってると思う。俺の目的と君達に同行させて欲しい理由だが…先ず同行させて欲しい理由は簡単だ。俺にはあの森の結界に入ったら出る術が無い。君達には有るなら便乗させて欲しいんだ」
「なるほど」
まぁ予想の範囲内だ。
一番最初に思い付いた理由だ。
「次に目的だが…ある吸血鬼を追っている。と言えば、大体わかるだろう?」
「復讐、ですか?」
「ああ。これ以上詳しくは、話す必要があると判断した時にさせてくれ。それでそっちは?自分の目的を最優先にさせてもらうが、手伝える事なら手伝うよ」
「そうですね…」
話す、話さないはアイシスの判断に任せよう。
此処に来た理由はアイシス達に有るんだし。
「僕達はある物を探してるんだよ。何を探してるかは、まだ言えない。ごめんね」
「気にしないでくれ。素性の知れない相手を警戒するのは当然だからな。それで、どうだろう?君達は帰る手段があるんだろう?」
「ええ。ボクは転移魔法が使えますから。転移魔法でなら、結界から出る事が可能らしいので」
「その話なら俺も聞いた。そうか転移魔法を…なら特に制限も無いだろう?頼むよ」
ボクは構わないと思うが、皆は…問題無さそうだ。
「いいでしょう。ですが、ボク達は相手が吸血鬼だからといって問答無用で殺したりはしません。襲われたら反撃はしますが極力殺さない方針です。ディノスさんの復讐を邪魔するつもりはありませんが…それは理解して頂きます。よろしいですか?」
「構わない。俺も奴以外の吸血鬼に興味は無い。元々そのつもりだったしな。君達が同じ考えで安心したよ」
「そうですか。じゃあ、これから少しの間、よろしくお願いします」
「こちらこそ。よろしく頼むよ」
それから程なく。
目的の森に到着する。
森はかなり広く、大きい。
背の高い木が生い茂った、かなり深い森だ。
「ここが…ねぇどんな魔獣が出るんだっけ?」
「討伐難度Cのマラカイトスパイダー。マラカイト鉱石を身に纏った大型の蜘蛛で倒せばマラカイト鉱石が手に入る。勿論、鉱石を身に纏ってるだけあって硬い。次にレインボウオウル。難度Dの中型の鳥で夜行性。単体で行動する奴だからそれほど脅威ではないが幻覚を見せる精神攻撃を仕掛けてくる。羽が虹色で人気があり、高価で買い取ってもらえる」
「御金になる奴が多いの?」
「詳しいんですね、ディノスさん」
「あ…あぁいや。すまない、長く一人旅をしてると先ず金になる獲物を優先的に狙う癖がついてしまってて。他には難度Dのポイズンモス。鱗粉に毒を含んだ蛾だ。あとは…難度Dの一角猪もいる。こいつは肉が美味いんだ。後は君達も聞いただろうがグリーンドラゴンがいるらしい。こいつは手だし無用だな」
一人で森に入るつもりだっただけあってよく調べている。
ずっとこうして、標的の吸血鬼を追い続けて来たのだろう。
「ここは元々はここまで大きな森じゃなかったんだが…マドニア王国が滅ぼされてから千年以上。人の手が入らない土地になり。広大な王都の周りにあった森が育ち、城ごと森に沈んだんだそうだ」
「そして、その城に吸血鬼が住んでいる?」
「どうかな…一番頑丈な建物だろうから、可能性は高いだろうとしか。ただ、吸血鬼は血を吸わなくても生きてはいけるが食事はしなくては生きていけない。森の何処かで拠点を作って狩をするなり作物を育てるなりしてるかもしれない。何にせよ、王都があった場所に行ってみるのがいいんじゃないか」
特に異論も無いのでディノスさんの言うようにかつて王都があった場所へ。
森は深く、昼間だというのに少々薄暗い。
「このまま真っ直ぐ行けばいい筈だ。獣道くらいしかないが」
人の出入りが無い森だけあって整備された道などない。
しかし、大型の獣が多数生息する森だけあって獣道はある。
「金目の魔獣が居るのに他の冒険者の姿が見えないね」
「普通の人は結界は眼に見えないからね。うっかり入ったら出てこれない、なんて自体は避けたいんだろうね」
「普通の人は?ジュンは見えるの?」
「うん。最近、魔力の流れも眼で見えるようになったんだ」
以前、メーティスが言ってたように、眼に上位紋章である魔神の紋章が宿っている効果だろう。
魔力の流れが眼に見えるようになり、結界の存在や、魔法で隠蔽された物、隠れた存在も見破る事が出来るようになった。
「それは便利だな。流石は魔王子様だな。おっと」
一角猪が襲いかかって来た。
ディノスさん目掛けて突進する一角猪。
慌てる事なくディノスさんは剣を抜き…
「シッ!」
一閃。
一撃で仕留めた。
中々の腕のようだ。
「早速、今晩の食材を確保出来たな」
ディノスさんは素早く、一角猪を手際よく木に吊るし、血抜きをし、解体をしている。
その手際の良さから、かなり長く旅を続けているのが伺える。
そして少し、気になったのが…見える範囲では彼には傷跡がまるでない。
治癒魔法を使えば傷跡も残さず綺麗に治せるが…彼は治癒魔法が使えるのだろうか?
「ディノスさん、中々御強いみたいですね。誰かに教わったんですか?」
「ん?あぁ、冒険者の先輩にな。色々教わったよ」
「なるほど。ディノスさんは魔法の方は?」
「一応、一通り使える。と言っても治癒魔法と神聖魔法なんかは使えないがな」
魔法もそこそこ使えるようだが…治癒魔法は使えない?
ずっと一人で旅していたなら、どこかで怪我くらいすると思うのだが…余程気を付けて生きていたのだろうか。それとも見えない部分にあるだけだろうか?
何故か少し気になるな…




