第209話 何かが海からやって来る 7
ガウル様が言ってた通りだ。
まさかまさかの好きなだけ子作り許可。
しかも、アデル様を含む魔王家全員も。
種族特性上必要な事なのは理解出来るけども。
「あら?女は御嫌いですか?女好きとも聞いていたのですが」
「ああ…やっぱりその噂も流れてるんですね。この際、それはいいです。ですが婚約者の前でそのような話をされても困ります。それにボクは女に困ってはいないので。ほら、ね?」
隣に座っていたアイを抱き寄せ、ノエラとリリーに目を向ける。
普段なら人前でこんな事、絶対にしないが…いや、人前じゃなきゃしてるわけではないけども。
「ボクにはアイだけじゃなく、他にも婚約者がいます。ボクには彼女達だけで十分です。彼女達との仲も良好ですし。ね、アイ」
「う、うん。エヘヘ、エヘヘヘヘヘ」
「「…」」
ノエラとリリーからの視線が痛い気がするが…ここは空気を読んで欲しい。
にこやかにして下さい、お願いします。
「そうでした、婚約者の方の前でする話では無いですね。ですが先ほどの事は取り消しはしません。ジュン様の御好きなように。アイ殿には申し訳ありませんが、誘惑もさせてもらいますね」
「アデル様、それは…」
「アイ殿には申し訳ありませんが、この国には必要な事ですので。ああ、娘達とは婚約でも構いませんよ。二人共まだ婚約者はいませんので」
エミリエンヌさんは話から推測するに十三歳か十四歳。
見た目通りの年齢だろう。
シャンタルさんも見た目通りの年齢だとして十六~十八歳。
そんな年齢の娘に子作り要求とか…勘弁してください。
「ハッハッハッ!ボクは今までも数々の誘惑を跳ね除けて来ましたから!簡単には落ちませんよ!ミズンさん達の誘惑だって耐えきりましたし!」
「ミズン?あ!そうでした、私とした事が。ジュン様、我が国の騎士を御救い頂いた事、深く感謝致します。申し訳ありません、先ず初めに言うべき事でしたのに」
「いえ。それはお気になさらずに。治癒魔法を掛けただけですから」
「ありがとうございます。それと、迎えに行った騎士達も歓待して頂いたと。正直、凄く羨ましかったです」
「そうですか?それほど特別な事はしていませんが」
「私はこのセイレン魔王国から出た事が無いのです。娘達もですが…そう言った意味では仕事とはいえ世界各国に赴く事が出来る護衛騎士団の者達も羨ましく思います。ですが本当に羨ましいのは、ジュン様との…」
「お母様、城に着きました。御話しの続きはまた後で」
「あら、もう着きましたか。ではジュン様、慣れぬ船旅でお疲れだった事でしょう。先ずはゆっくり休んでください。夜には宴を開きます。そこでお会いしましょう」
「はい。あ、アデル様。エルムバーンから妹や友人、従者達を連れて来てもよろしいですか?転移魔法ですぐさま来れますので」
「はい、問題ありません。御自由になさってください」
「ありがとうございます」
皆にはボクに迫って来る女性達を遠ざけてもらおう。
それにギガロドン退治の相談もしたいし。
というか、歓待の宴を開く前にギガロドンについて話し合わなくていいのだろうか。
まだ報告が伝わっていないのかな。
部屋に案内してくれているメイドさんや、すれ違った女性達が皆熱い視線を送って来るのに頭を悩ませながら部屋に着いた。
部屋に着いて早速、皆を迎えにエルムバーンへ。
連れて来たのは何時ものメンバー…ではなく。
セバストは今回は残りたいと懇願されたので認めた。
確実にセバストも狙われるだろうし、自分の身を守るのに手一杯になりそうだし。
正直、同じ男として助けてくれとも思ったのだけど。
代わりにアイシスとティナ達が来た。
バルトハルトさんも今回は何となく怖いから遠慮するとの事だった。
イーノさんやパメラさんはまだエルムバーンに滞在中で、一緒に来たがったがギガロドンの事もあるので我慢してもらった。
「それは聞いてた以上かもしれないね。ジュンの貞操が危ない…」
「全く、兄さんは。こういう時こそ、兄さんの出番でしょうに」
「いや、ノエラさん。それはちょっとセバストさんが可哀そうというか…」
「セバストさんも、守ってあげなきゃ可哀そうなの」
「セバストさんを犠牲にしてもジュン様を狙う女性が減るとは限りませんし」
「無意味な犠牲に終わるかもしれないですよね」
確かに。
むしろ飢えた女性達にエサを与えるだけの結果に終わりかねない。
「あー…それは皆にガードしてもらうよ。お願いね」
「僕に任せて!ジュンは必ず僕が…」
「あ、アイシスはセリアさんと一緒に休んでていいから」
「何で!?」
『そりゃ、マスターのこれまでの行動を考えたらなぁ。当然の判断ちゃうか』
メーティスの言う通り、思春期真っ盛りのアイシスにこの手の事を任せるのは不安過ぎる。
むしろアイシスも暴走しかねないし。
「それよりも、ギガロドン討伐についての意見を―――」
「失礼します、皆様」
話の途中でミズンさんとミズリーさん達がやって来た。
船の上では水中戦を想定した重みの無い服装だったけど、今はメイド姿だ。
「どうしたんです?その恰好は?」
「はい。魔王様より、私達は引き続き、皆様の護衛と身の回りの世話をするように仰せつかりました。何かありましたら、なんなりとお申し付けください」
顔見知りが傍に居た方が気が楽だろうと、気を使ってくれたらしい。
確かに、全く知らない人が付くよりは気が楽だ。
「そうですか。よろしくお願いします。それで、ギガロドンについてはどうなりましたか?」
「はい。先程迄会議が行われていて、私達も参加していました。結果、皆さんが仰っていたメガロドンに毒を仕込んで毒殺を試みるそうです。勝手ながら提案させて頂きました」
「そうですか。それはいつ実行されるので?」
「明日です。それと明日の朝、傷病人を街の中央公園に集めます。ジュン様にはそこで治癒をお願いしたいと、魔王様よりの伝言です」
「わかりました。治癒の件はそれで構いません。ギガロドンの方は他に何か情報はありませんか?」
「特には…あ、あの魔獣は正式にギガロドンと呼称する事が決定しました。ジュン様の、アレはメガロドンの変異種であるという見解と共に冒険者ギルドに通達が行っています」
意図せず、新種の魔獣の名付け親になってしまった。
まぁ、問題は無いのだが。
「しかし、他に情報が何も無い、か。毒殺が上手く行けばいいんだけど」
「そんなにヤバいの?そのギガロドンって」
「さっき言った通りだよ。大きさだけ聞いてもヤバいでしょ?」
「ん~…今一つ、実感が湧かなくて。やっぱり見てないからかな」
まぁ、確かに漠然と100m~200mって言われても分からないか。
そう思ってるのはアイシスだけじゃなさそうだ。
「アレはもはや動く山だね」
「正しく、動く山だね。しかも、獰猛で危険極まりない山だね」
ギガロドンがもし、クジラのようにブリーチング?をしたなら。
それが陸地の近くだったなら、それだけで津波が発生して大きな被害が出てしまいそうだ。
「もし毒殺が通じなかったら、どうするの?」
「どうしようかな…今の所、有効な代案は浮かばないよ」
「シーサペントの時見たいに、地上に連れて行けないの?」
「無理。あの巨体だから、一ヵ所に留まっていなくても、接触は容易だと思う。だけど、あの質量の巨体を転移させるのは無理。魔法陣による補助があればいけるかもしれないけど、海に魔法陣を描くのは無理だし」
「じゃあ、シードラちゃんにお願いするのはどうですか?今回は海産物の被害とか言ってられなさそうですし」
「確かに、そうなんだけど…でも、駄目」
「え?何でです?」
「シードラちゃんを失いたくないでしょ?」
「え…」
「ジュンはシードラちゃんよりギガロドンの方が強いって考えてるの?」
「何せ、シードラちゃんを一口で飲み込めちゃうくらい大きさに差があるしね」
「でも…シードラちゃんにはドラゴンブレスが…」
「確かにドラゴンブレスは有効な攻撃手段だと思う。だけど、ギガロドンにも何か特殊な能力があると思う。あると思って対策を練った方がいい」
ミズンさんが言ってた話…あの巨体にぶつかられるまで接近に気づけなかったのと、眩暈。
この辺りに何か秘密がある気がする。
アーミーアントクイーンの変異種にも普通のアーミーアントクィーンには無い能力を持っていた。
あのギガロドンにも有ると考えるべきだろう。
「シードラちゃんが死んじゃうのは…嫌ですね」
「ボクも嫌だよ、シャクティ。だから別の何かを考えよう」
「はい、ジュン様」
「ねぇ、もしもこの辺りのメガロドンが全滅したら…あいつ、どこか別の場所に行くよね?」
「だろうね。北上したらシードラちゃんと鉢合わせする可能性が高い。南下したら、いずれはダルムダットまで行くだろうな」
「決して他人事じゃないって事だね」
「セイレン近海で倒すのが一番いいって事かぁ…」
結局のところ、毒殺が一番良さそうだ。
上手く行くといいのだけど。
はてさて、どうなるやら。




