第199話 王族の結婚とは
ボク達は今、グンタークでもあった結婚式前日のパーティーに出席している。
そしてやっぱり沢山の人に挨拶をしたりされたりなわけで。
「御初に御目にかかります、私は―――」
「ジュン様、御相談したい事がございますの。二人きりで御話ししたいのですが―――」
飽きもせずよくもまぁ…あの手この手で。
グンタークで娘を紹介してきた人も今回は違う娘を連れてきたり。
パーティーに病気の娘を連れて来るのはまだいい。
人助けだし、断る気は無いけど、せっかく治った娘さんをその場でボクに差し出そうとするのは間違いでしょ。
「それで?今日もなんですか、イーノさん」
「だっだって…恥ずかしいんですもん…」
グンタークの時と同じく、イーノさんはボクの後ろに隠れてる。
同じドレスで来ているのに、まだ恥ずかしいらしい。
「堂々としてればいいんですよ。自信を持って胸を張ればいいんです」
「無理ですぅ~」
「今日もイーノは隠れているのか?君も挨拶に行かねばならんだろうに」
「あ、カタリナ」
「ああ、カタリナさん。挨拶は終わりました?」
「うん。何時もの事だが、疲れるな」
「そうですね。とても覚えきれませんしね」
「全くだ。それで、アイとユウはどうした?」
「あっちです」
「ん?アンナお母様と話してるのか」
「ええ」
早速仕掛けてきたらしい。
挨拶に周ってる間に、いつの間にか離されてしまった。
シャクティとセバストも傍に付いてるので丸め込まれたりはしないだろう。
ユウもアンナさんに負けず劣らず賢いのだし。
ボクの傍にはノエラがいる。
アイシスは食事に夢中でセリアさんはアイシスに付き合っている。
「また何か悪巧みしてるのかしらね、お母様は」
「え?あ、パメラ姉さん。レティシアにシルヴァンも」
「挨拶も終わったし、姉弟で話そうと思って、連れて来たの」
「パ、パメラ姉さんに会うの久しぶりだしね…」
「あ、じゃあボク達は席を外しましょう。イーノさん、行きましょう」
「あ、お待ちください。御二人共行かないで、御話ししましょう?」
「宜しいんですか?折角なのに」
「姉さんもこう言ってるんだ。構わないさ。それに姉さんはジュンと話がしたいんだろう?
「カタリナは相変わらずねぇ。もう少し女の子らしい喋り方は出来ないのかしら」
この人がサンドーラ王国の第一王子に嫁いだ元ヴェルリア王国第二王女。
パメラ・エルヴィール・サンドーラ。アンナさんと同じ茶髪でショートカットの知的美人さんだ。
挨拶周りした時にサンドーラの国王とは話していて、その時に第一王子とも挨拶していてパメラさんともその時に挨拶は済ませている。
「ところで、ジュン。あんたの後ろに隠れてる人は誰?」
「ちょっと、レティシア。もう少し丁寧に。それに呼び捨てはダメよ」
「あら、いいじゃない。カタリナ姉さんだって呼び捨てにしてるし。いいわよね?」
「ええ、構いませんよ。こちらはレンド魔王国の魔王女、イーノ・レンドさんです。ドレス姿が恥ずかしいそうで、隠れてるんですよ」
「あ、えっと、初めまして、イーノ・レンドです」
「ふうん?初めまして、レティシア・ララ・ヴェルリアです」
「初めまして、シルヴァン・ナルシス・ヴェルリアです」
「それ、前と同じでエリザ様のドレスだろう?また勝負に負けたのか?」
「違うよ。ジュン殿ったら酷いの。約束を破ったペナルティだって言ってこれよりもっと恥ずかしいドレスを着せられて…」
「ドレスを選んだのはお母さんであってボクじゃないですよ。それに約束を破ったのは間違いないでしょう?」
「約束って?」
「勝負に負けたイーノさんはボクの前ではちゃんと女性の服装をするって約束だったんですよ」
「じゃ、じゃあ普段は女性の服を着てないんですか?」
「あ、はい…私は普段は男性の恰好を…」
「え~?どうして?そんなに美人でスタイルいいのに、勿体ない」
ですよね。
ボクもそう思います。
今度、勝負する事になったら水着になってもらおうかな。
「男の恰好なんてしてたら結婚出来ないわよ、イーノさん」
「い、いいんです、私は。それに私はジュン殿と結婚しますから」
「と、イーノさんが勝手に言ってるだけですけどね」
「ジュン殿ぉ」
また泣くぅ。
ほんとこの人、服装以外男っぽいとこ無いな。
「あんた、本当にモテるのね」
「殆どの人は、ボクとの結婚で付いて来るオマケに魅力を感じてるだけの人達ですよ。あ、レティシアさん、口元にソースが付いてますよ。はい、とれた」
「あ、ありがとう…」
「また君は…本当に自覚が無いのか?」
「はい?何の話です?」
「いや、いい。その答えでわかった」
「はぁ…」
何の事だろう?
ノエラも何だかツンとしてる気がする。
「ん、んんっ。えっと…お、王族の結婚なんて普通そんなものでしょ?」
「話の続きですか?そうですね、そうかもしれませんが…それで結婚しても不幸な結果を招くならしない方がいいでしょ?そうなる前に離婚出来ればいいですけど」
「離婚…離婚ですか…」
あ、しまった。
パメラさんは夫婦の仲が上手くいってないんだった。
確かに、挨拶の時も王子は幼馴染の妻を先に紹介して、パメラさんはついでのように紹介していた。
「あ…えっと…そういえばパメラさんはボクに何か話があったんですか?」
「あ、はい。ジュンさんの事はカタリナの手紙で聞いていました。カタリナに勘違いで求婚した事件の事も。以前から会ってみたいと思っていました」
「あ、アハハ…その件は本当に無かった事にしたいんですが…」
「無理だな。諦めたまえ」
「と、カタリナさんが忘れてくれそうにないんですよ」
「うふふ、カタリナは忘れないでしょうね。好きな人との思いでだもの」
「ね、姉さん!」
「うふふ…カタリナの手紙にはジュンさんの事がよく書いてあって…それで私も御話ししてみたかったんです」
「そうですか。どんな事が書いてあったんですか?」
「概ね褒めてましたよ。悪口があったとすれば…彼はしょっちゅう胸を見てるとか。転移魔法が使えるくせにちっとも遊びに来ないだとか」
「ちょっと?カタリナさん?」
「し、仕方ないだろう、本当の事だし。褒めてもいるんだから、いいじゃないか」
そりゃ、あんまり褒めちぎられても困りますけどね。
会った事も無い人におかしな先入観を与えないで欲しい。
「それにお母様がカタリナとレティシアにジュンさんとの婚約の話をしてると仰っていたので。どんな人なのか、私も興味が出てきまして、それで」
「実際会ってみてどうだ?姉さん。私の言った通りだろう?」
「そうね。貴女の言うように素敵な人だと思うわよ。眼がとっても優しい。それで…ジュンさん。お聞きしたいのですけど…」
「はい、何でしょう?」
「先程、離婚出来ればいいと仰っていましたが…ジュンさんは王族が離婚するのは実際どう思います?肯定的なのだとは思いますが…」
「ね、姉さん、それは…」
「ごめんなさい、カタリナ。結婚式の前日のパーティーにする話ではないと、分ってはいるの。だけど…」
これは…実は相当こじれてるんじゃないだろうか。
ボクが何か言ってもいいんだろうか。
「…ふぅ。ジュン、姉さんの質問に答えてくれるか」
「いいんですか?無責任な事を言うかもしれまんよ?」
「いいさ。姉さんがこれから何か行動を起こしたとしても、君に責任を求めたりしないさ。それに…私も君の考えを聞いてみたい」
「はぁ…じゃあ、あくまでボク個人の考えですが…王族だって離婚は選択肢に入れて構わないと思いますよ。そりゃ平民より簡単には出来ないでしょうが」
「というより出来るわけないじゃない。王族が離婚なんて。色んな人に迷惑が掛かるし」
「色んな人、ですか。例えば誰です?」
「え?そりゃ…」
「せいぜい自分の家族と相手の家族くらいでは?」
「いや…他にもいるでしょ。家臣とか…国民とか」
「迷惑かかります?家臣や国民に」
「だってがっかりするじゃない?折角相手の国と仲良くなれたのにって」
「それは何とかなるでしょう?離婚したからって仲悪くしなきゃいけないわけじゃない。国同士の仲は良好な関係を続ける事は出来るはずです」
「それは…そうかもだけど」
「国の為、家族の為。自分を殺して仮面を被り仲のいい夫婦を演じ続ける。それが必要で、それが出来るならいいでしょう。子供が生まれて、子供の為に我慢出来るというならそれもいいでしょう。でも、もしも夫婦であり続ける必要が何も無かったなら、自分の為に行動してもいいのではないですか」
「でも…やっぱり家族に迷惑を掛けるのは…」
「そうですね。家族には迷惑を掛ける事になるかもしれません。でもボクなら、愛する家族が不幸なままでいるのは嫌ですね。夫婦生活が辛いものでしかないのなら帰って来いと言います。相手の家族?知ったこっちゃないですね」
前世でも離婚した友人夫婦はいた。
親だって…。
そりゃ当時は親の離婚を不満を抱いていた。
でも、親だって不幸でいたくないだろう。
お互いの幸せの為に結婚するのなら、お互いの幸せの為に離婚する事もあるだろう。
今ではそう思う。
「でも…離婚された王族の女なんて…その先、幸せになれるとは…」
「離婚された、場合もあるでしょうけど、こっちから離婚してやったって場合もあるのでは?それに一度離婚したくらいが何だって言うんです?よく知りもしない連中から何か言われたって知らんぷりしてればいいんです。あんたにゃ関係ないってね」
「でも…死別なら再婚出来るかもしれません。でも、離婚となると、やはり…」
「結婚だけが幸せというわけじゃないでしょう?結婚してなくても幸せに生きてる人はいます。それに離婚経験がある相手は結婚対象にならないなんて言う輩はきっと相手をよく知ろうともせずに判断してるのでしょうから、そんな奴はこっちから願い下げだって言ってやればいいんです」
「…でも…」
「パメラさん、貴女は離婚したいんですか?」
「はい…あそこに私の居場所は無い。そう思えてならなくて…でも、怖くて。ヴェルリアに戻っても私の居場所が無くなってたら。そう思うと…」
「ボクが見る限り、そんな事は無さそうですけどね。カタリナさんも、レティシアさんも、シルヴァン君も貴女をきっと一人にさせない。少なくともアンナさんがさせませんよ。そうですよね、アンナさん」
「え?」
「あら、凄い。何時から気が付いてたの?」
「最初から気が付いてましたよ。ずっとボクとイーノさんの後ろで聞き耳たててたでしょう?」
アイとユウも後ろにいる。
シャクティとセバストも。
途中から気配を消して近づいて来てるのはわかってた。
「パメラさん、今の状況を変えたいと思ってるなら一度、御家族に相談してみてはどうです?ボクの無責任な意見を聞くより、きっといい。それと…もしもサンドーラにもヴェルリアにも居場所が無いってなったらボクがパメラさんと友達になりますから、エルムバーンに遊びに来てください。イーノさんのとこでもいいかもしれません。ね、イーノさん」
「え?あ、はい!勿論!パメラさんと私はもう友達です!はい!」
「いいんですか?本当に…」
「友達を家に招待するくらい、普通でしょ?問題ありませんよ。さ、早速家族会議をしてみては?」
「はい。ありがとうございます、ジュンさん」
「大した事は言ってませんよ。気にしないでください。さ、アンナさん」
「ええ。カタリナちゃん、ユーグにも声を掛けて先に部屋に行ってて。パーティーは途中退席になるけど構わないわ。私は少しジュンちゃんと御話ししてから行くから」
「わかりました。さ、行こう姉さん。レティシアとシルヴァンも」
「ええ」「は、はい」
遠くで談笑中だったユーグ陛下を連れてカタリナさん達は部屋に戻って行った。
柄にもなく色々言ってしまったな。
おかしな影響を与えてなきゃいいけど。
「で、話とは何です?言っておきますけど、離婚を勧めたわけじゃありませんからね?」
「わかってるわ。ただ御礼が言いたかったの。パメラちゃんて、昔から我慢する子だったから…本当は最初からサンドーラには行きたく無かったのよ。でも、国の為とか迷惑をかけたくないからとか。そんな事ばかり考えてて…自分の幸せを考えて無かった。私も王族に生まれた者として間違ってないと思ってた。でも…」
「悩んでいる我が子を見て後悔した、ですか?」
「本当にジュンちゃんて大人ねぇ。実は私より年上だって言われても信じちゃいそうよ」
まぁ実際、精神的には年上なんですけどね?
言わないけど。
「でも、これであの子も本音を言ってくれると思う。それからどうするかはよく話合う事にするわ。家族だもの、あの子が辛い思いをしてるなら助けてあげなきゃね」
「ええ、そうしてあげてください」
「うん。ありがとうね、ジュンちゃん。いやぁ、ますますジュンちゃんを娘の夫に欲しくなったわ」
「それは諦めてもらえます?」
「無理ね。娘の幸せの為に頑張っちゃう。じゃ、行ってくるわ。結果はちゃんと教えるからね」
「はい、行ってらっしゃい」
話合いの結果、ヴェルリアとサンドーラの仲がどうなるかわからないけど…丸く納まってくれる事を祈ろう。ボクに飛び火しませんようにとも祈っておこう。
「ジュン殿の結婚観とはあんな感じなのですね。少々意外です」
「そうですか?」
「ウチも、ちょっと意外だったかな。離婚なんて認めないと思ってた」
「ボクがまだ愛してるのに一方的に離婚を突き付けられたら、そりゃ反発するだろうね。何とか離婚を回避しようとすると思うよ」
「納得できる理由があったら?」
「それは…その時になってみないとわからないかな。でも、もしもボクと居る事がその人にとって不幸でしかないのなら…別れるかもしれない。凄く辛いけど」
「ジュン…安心して!ウチはジュンの傍から居なくなったりしないから!」
「私も!お兄ちゃんの傍に居て不幸になるなんて有り得ないから!」
「私もです!島を出てジュン様の傍で暮らすようになって毎日が楽しいです!」
「そっか。ありがとうね。ところで三人共、アンナさんと何話してたの?」
「え?な、内緒」
「何でさ」
「乙女の話は秘密が多いモノなのよ、お兄ちゃん」
「じゃあ、乙女じゃないセバスト君。報告したまえ」
「済まない、ジュン様。オレもまだ死にたくはないんだ…」
一体何の話をしてたんだ。
セバストを脅して口止めをする必要がある話とか。
「えっと…リリー?」
「リリーも乙女ですから、秘密ですぅ」
「デスヨネー」
やっぱりダメか。
普段の皆なら、そう警戒しなくてもいいんだけど、アンナさんが関わってるなら話は別だ。
怖いなぁ、やだなぁ。




