第197話 アンナ・イレーヌ・ヴェルリア
フランコ君とクローディアさんの結婚式から二週間。明日はダーバ王子とオリビアさんの結婚式だ。
「すまないな、ジュン殿。今回も宜しく頼む」
「はい。任せて下さい」
結婚式の前日。
約束した通り、ヴェルリア王家を迎えに来ていた。
参加者は国王陛下に、カタリナさんは代わらず参加。そして初めましてな人が三名。
「初めまして。第三王妃のアンナ・イレーヌ・ヴェルリアです」
この人が第二王女と第四王女、第三王子の母。
何と言うか…十四、五歳の子供にしか見えない。
下手すれば十二歳…背も低いし。
140無いんじゃないだろうか。
「あの…」
「うむ。言いたい事は分かる。だが余は変態では無いぞ。アンナが第三王妃なのは事実だ。その見た目で四十だ」
「え」
「事実ですよ。私、先祖返りというやつらしくて。先祖に小人族がいたらしいんです」
なる程、小人族。
確か、一応は魔族として認識されている種族で、背が低く長寿である以外は人族と変わらない種族だ。
「失礼しました、アンナ様。ジュン・エルムバーンです。よろしくお願いします」
「こちらこそ。ジュン様にはお会いしたいとずっと思っていたの。カタリナちゃんへの求婚事件は笑わせてもらったわ」
「はははっ…」
こちらとしては忘れて欲しいんですが…一生イジられる気がする。
「そうそう、次は子供達を紹介しないとね。レティシア」
「はい。レティシア・ララ・ヴェルリアです。よろしくお願いします、ジュン様」
「第三王子のシルヴァン・ナルシス・ヴェルリア…です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
レティシアさんは十五歳くらいか。
母親のアンナさんと並ぶと姉妹にしか見えない。
レティシアさんは普通の人族のようだし、レティシアさんが姉に見える。
美人というよりは可愛いといった感じだ。
アンナさんは茶髪だがレティシアさんは金髪。
髪は父親譲りらしい。
ちょっと気弱そうなシルヴァン君は確か十二歳。
だが体格はかなり大きい。
身長は170はあるだろうか。
とてもアンナさんの子には見えない。
「ふ~ん…貴方が将来私の夫になるのね?」
「え?」
「ぼ、僕の御義兄さんになるんですか…」
「え?」
「おいおい、二人とも。まだその話は決まってないぞ。私かもしれないんだしな」
「え~…」
いや、カタリナさんから聞いてはいましたけどね?
ボクにその気は…
「因みにアスラッド様とエリザ様はジュンがいいなら構わないそうだ。君が断ったら絶対に駄目だそうだが。口説き続けるのは構わないとも」
「…念の為に聞きますけど、最後のセリフはどっちが言ってました?」
「エリザ様だよ」
「デスヨネー」
ママ上…勘弁してください。
ボクが婚約者を増やしたくないのは知ってるでしょうに。
「なーに?貴方、私とカタリナ姉様に不満でもあるの?」
「婚約者は既にいますから。これ以上増やすつもりがないだけですよ」
「まぁ、それは良くないわ。ジュンちゃん程になれば沢山娶らないと」
「はい?」
最初は様付けだったのに急にちゃん付け。
レティシアさんも最初だけだったし。
いや、それは別にいいんだけど、距離感がわからない。
ていうか沢山娶れ?
「どうして沢山娶らないといけないんです?」
「あら、知らない?今、各国の王族は女性の方が多いの。だからって誰でもいいとはならないし。ジュンちゃんに嫁げれば以前と変わらない処か以前よりいい生活が出来るでしょうし。まだ結婚してないジュンちゃんは王族の未婚女性の垂涎の的なのよ」
「えぇ~…」
「その点、ヴェルリアはまだマシだけど。大国だから。でも親としてはやっぱり最高の相手に嫁いで欲しいじゃない?」
「ボクは最高とは程遠い男ですよ」
「君は自己評価が低すぎないか?君より上の男なんているか?」
「そうねぇ、中身は出会ったばかりだから断定は出来ないけど、少なくとも悪くはないわ。礼儀は知ってるし、民に対し慈悲深い。能力も高く、大国エルムバーンの次期魔王。オマケに美形。これより上の男って何?神様?若しくは全世界の支配者かしら」
「……」
客観的に評価されるとボクってそうなるのか?
いやいや、中身は前世から数えたら五十超えのオッサンだ。
元一般市民のボクが最高の訳がない。
「…過大評価ですよ。ボクはそんな大した奴じゃありません。さぁ、そろそろ行きましょう」
「う~ん…エルリックちゃんみたいに自己評価が高すぎるのも問題だけど、低すぎるのも問題ねぇ」
「まだ一度も女を抱いた事がないから自信が無いのではないか?自信がつけば変わるであろう」
「あら、経験談?」
「…違う。男として一般的な意見を述べただけだ。では行こう、ジュン殿」
「そうしましょう」
これ以上、この話を続けるのは危険だ。
言いくるめられてしまう気がする。
転移で向かった先は勿論、ヤーマン王国。
転移で訪れた為、ボク達が来た時のような踊りや音楽は無いが王族総出でお出迎えだ。
「ようこそ、ヤーマンへ。ヴェルリア国王ユーグ殿」
「御招待頂き感謝申し上げる、ヤーマン国王、ヨハン殿」
「御息女のパメラ殿は既に到着されて部屋で休んでおられますよ。案内しましょう」
これが、ヤーマン王国の結婚式には第三王妃のアンナさんとその子供達が来た理由だ。ヴェルリア王国の元第二王女のパメラさんはヤーマン王国から近い国の王子に嫁いでいる。明日の結婚式に参列する為、ヤーマンに来る事になっていた。
「そうですか。では早速、会いに行くとしましょう。ではジュン殿、助かった。帰りも宜しく頼む」
「有難うね、ジュンちゃん。また後でね」
「ええ、また後ほど」
グンタークの時と同じく、前日入りしている国賓を歓迎する宴があるしい。パメラさんとはその時に会うだろう。
「ああ、ジュン殿!」
「何です?」
アイやユウ達、エルムバーンの皆が待ってる部屋に戻ろうとするとダーバ王子に呼び止められた。
「イーノの奴が既に来て部屋で待ってますから、そのおつもりで」
「イーノさんが?え?まさか招待したんですか?」
「招待しない訳にも行きませんし。呼ばなくても来ますから。それに結婚式を見たらオリビアの事は流石に諦めるでしょ?」
「鬼ですか、あんた」
「いえ、人族ですが…」
種族が何かって意味じゃないけどね。
実際に鬼族がいるこの世界では通じなかった。
「ただいま」
「「お帰り~」」
エルムバーン組の部屋に戻ると、先に送っていたフランコ君とクローディアさんも部屋に来ていた。
それにヴァルターさんとレナータさんも。
あと初対面の男性が二人。
「初めまして、ジュン殿。オーグ・レンドです。姉が御迷惑をおかけしたようで、すみません」
「初めまして、ウーゴ・レンドです。姉同様、仲良くしてください」
「初めまして、ジュン・エルムバーンです。よろしくお願いします。イーノさんの件は気にしないでください。悪い人は別にいますから」
本当に。
少なくともイーノさんがボクに絡むようになったのはダーバ王子のせいだから。
そしてこの二人がイーノさんの弟。
二人とも悪魔族かな。
黒髪で品のある感じだ。
小さい頃はオリビアさんのスカートを捲ったりしてヤンチャな一面もあったようだが。
「そう言ってもらえると助かります」
「ところでそのイーノさんが見えませんが?」
「ああ、姉さんはなら、そこに」
オーグ君が指差したのは…窓?
いや窓からロープが出ている。
もしかして…
「あ、やっぱり」
「ンー!ンー!」
簀巻きにされたイーノさんが窓から吊されていた。
一体何があった。
「前回と同じよ。いきなり入って来て騒ぎ始めたからヴァルターさんが簀巻きにして吊したの」
「またか」
反省をするという事が無いのだろうか。
それともいよいよオリビアさんが結婚するとあって気が気でないのか。
「あの…ヴァルターさん?」
「はい。そろそろいいでしょう。オーグ、ウーゴ」
「はい。姉さん、今から引き上げて解きますけど、また騒いだら今度は裸で逆さ吊りですからね」
「ンー!」
泣きながら引き上げられるイーノさん。
家族に愛されてるのかいないのか…やっぱりちょっと可哀想になるな。
「うう…皆、酷い」
「いや…イーノさんも少しは反省しましょうよ」
「そ、それよりもジュン殿!早く私を…」
「おっと、その前に。イーノさん、何ですか、その服装は」
「え?」
「ボクの前では女物の服を着る約束でしょう。約束を破ったペナルティです。今日は前よりセクシーなドレス姿になってもらいましょう。というわけで出番です、お母さん」
「任せて!腕が鳴るわぁ!さぁ行きましょ、イーノちゃん!」
「え、ちょっと!あの約束ってまだ有効なんですか!?」
「もちのろんです。さ、行ってらっしゃ~い」
「ま、待ってください!前よりセクシーって!あれ以上なんて着れません!」
「それ以上騒ぐなら裸吊りですよ、姉さん」
「う、うう…オーグゥ~」
「さぁさぁ、行くわよ~イーノちゃん!」
ママ上にドナドナされて行くイーノさん。
ちょっと可哀想だけど約束は守ってもらわないと。
イーノさんが着替えに行ってすぐ。
誰かが訪ねて来た。
「失礼します」
「あれ?アンナさん。お一人ですか?」
「アンナ様!どうされたんですか?」
「あ、アイシスちゃんにセリアちゃん。フランコちゃんもいるのね。お久しぶり~」
「お久しぶりです、アンナ様」
「バルトハルトさんも、お久しぶり~」
「はい。お久しぶりです」
「ねぇ、ジュン。こちらは?」
「アイシス達の様子から見てヴェルリア王国の人みたいだけど」
「ああ、こちらは…」
アンナさんが誰かを説明。
皆、ボクと同じ感想を持ち、同じ説明を聞いて納得していた。
誰でも最初は同じ感想になるよね、これ。
「それで、どうされたんですか?パメラ様と会っていたのでは?」
「ええ。でもパメラちゃんとはまた後で話せるし。今はジュンちゃんと話がしたくて」
「話、ですか」
「うん。予想出来てるみたいだけど、やっぱりレティシアちゃんとカタリナちゃんをお嫁さんにするのは嫌?」
やっぱり、その話か。
アンナさんの考えは理解出来るけど…
「アンナ様、それは…」
「ごめんね、アイシスちゃん。今は黙ってて。で、どう?ジュンちゃん」
「申し訳ありませんが、ボクはこれ以上婚約者を増やす気はありませんよ」
「どうして?レティシアちゃんとカタリナちゃんは、親の欲目を抜きにしても魅力的だと思うのだけど」
「魅力が無いから断るわけじゃありませんよ。ボクにその気が無いってだけです」
「う~ん…ねぇジュンちゃんて本当に今、十五歳?確か今年十六歳だったかしら」
「はい?どういう意味です?」
「ほら、私も見た目こんなだから。昔から見た目よりずっと大人っぽいって言われて来たの。実際にそうだし。逆に他の誰かをそんな風に思った事無かったのよね。今まで会った人、皆年相応の人ばっかりだった。でもジュンちゃんと話してて初めてそう思った。見た目よりずっと大人っぽいって。そりゃ魔族の人は見た目と年齢が合わない人が多いけど、ジュンちゃんは見た目通りの年齢のはずよね?」
鋭い。
かなりドキッとしてしまった。
しかし、流石に前世の記憶がある事まではバレてはいないだろう。
「昔から何度か言われてますよ。子供っぽくないとか大人びてるとか」
「それだけじゃなくて…ねぇ、ユーグはジュンちゃんが女を抱いた事が無いから自信が無いんだろうなんて言ってたけど…ジュンちゃん、経験済みでしょ」
「は?」
ザワッと。
皆から擬音が聞こえた気がする。
ヤバい。何かわからんがヤバい。
「突然何です?何を根拠に…」
「だってさ、普通ジュンちゃんくらいの歳の男の子ってさ一日中エッチな事ばっかり考えてるモノなのに。あんな美人との婚約の話を悩む事無く断るなんて。十五歳の童貞の男の子に出来るとは思えないなぁ」
「ど!どどどっ、どういう、どういう事ですか、ジュン様!一体いつ!何処で!誰と!何を!何故!どのように!」
「落ち着きなさい、ノエラ」
ここまで動揺…いやパニック状態のノエラは初めて見るな。
そこまで衝撃的な事でもなかろうに。
いやきっちり5W1Hで聞いてるあたり案外冷静?
「ちょっと姉さん?どうしたの、しっかり!しっかりして!」
「そんな…ジュン様が…そんな…」
クリステアもか…眼から光が消えている。
そんなに重要な事じゃなかろうに。
「ジュン…どういう事か、キリキリ吐こうか…」
「怖いよ、アイシス…とりあえず勇者の紋章を使うのは止めなさい」
かつて無い迫力だ。
何故、浮気が発覚した亭主のような立場に立たされ無ければならないのか。
「やっぱり、おかしいわね。普通十五歳の男の子が童貞かどうかの疑問をぶつけられたらもっと動揺するわよ?」
「そこはそれ、色んな人に鍛えられましたから。ボクの周りエロい人や残念な変態が多いんで。その御蔭か、あるいは反動じゃないですかね」
「そんなモノかしら?じゃあ大人びてるのは?」
「これでもエルムバーンの魔王子、次期魔王ですから。しっかりしないとって思ってるだけですよ」
「う~ん…」
イマイチ納得してないみたいだけど…これ以上は突っ込んでは来れないだろう。
「うわぁぁん!ジュン殿ぉ~!」
「イーノさん?うわぁお」
「このドレスは勘弁して下さい~!いや、これは最早ドレスとは呼べません~!」
隣室から突然戻って来たイーノさんが着てるドレスは…スケスケの…一応はドレスだ。
下着は着けて無いのも分かるくらいにスケスケだ。
大事な箇所だけ隠されているというだけのスケスケドレスだ。
「どう?ジュン。最高でしょ?」
「流石、御母様。最高で御座います」
「ジュン殿ぉ~!」
「イーノさん、このドレスでパーティーに出ましょう。主役になれますよ。確実に」
「いやいや、ジュン。それはダメでしょ」
「パーティーの主役はダーバ王子とオリビアさんじゃないと」
「ん~…オリビアさんは兎も角、ダーバ王子からは主役を奪っても問題無くないか?」
「それには賛同出来ますけどぉ!ジュン殿ぉ~!」
「仕方ないですねぇ…御母様」
「泣かれちゃ弱いわねぇ。じゃ前回と同じドレスにしましょ」
「もうそれでいいでずぅ~!」
再びドナドナされるイーノさん。
いや、いいモノ見せてもらいました。
心から有難う御座います!
「今初めて、ジュンちゃんの年相応な部分を見た気がするわぁ」
「アレを見て何も感じないのは植物くらいですよ」
アレを見れただけでも今日ここに来てよかった。
心からそう思います。




