第192話 女神の祝福
「初めまして、ジュン殿。私は―――」
「今度、エルムバーンに支店を出す事になりましてな。ぜひ御贔屓に―――」
フランコ君とクローディアさんの結婚式当日。
前日入りしなかった招待客達やグンタークの商人達の挨拶周りに追われていた。
商会の売り込みはまだいいけど、相変わらず縁談の申し込みが多い。
昨日来た人もまた来てるし。
そんなにエルムバーンの魔王子という肩書は魅力的なのだろうか。
「お疲れのようだな」
「カタリナさん…そりゃ疲れますよ。似たような話ばかり…よくもまぁ自分の娘や孫を道具のように売り込み出来るもんです」
「それは仕方ないだろう。私も父が次期国王を指名したら、直ぐに縁談を組まれるだろう。王族としては既に遅いくらいだしな」
「それは…何と言いますか…カタリナさんが納得出来る相手だといいのですが」
「何を他人事のように。父が考えている私の縁談相手は君だぞ」
「「「え」」」
「父が君を気に入っているのもあるが…ま、前回のアレが効いているのは間違いない。妹のレティシアに話が行く可能性もある。妹なら今すぐでも構わないしな。何なら二人共でも構わないとまで言っていたぞ」
「ボク、そこまで気に入られる程の事しましたっけ」
全く心当たりがない。
強いて言うならヴェルリアの国民を治癒魔法で癒した事くらいか。
前回のアレというのは求婚事件の事だろうけど。
「私もそうだが…アイシスもバルトハルトも父に会う度に君の事は褒めていた。実際に会って真偽の程もわかっただろうしな。今回のフランコの結婚も君が居なければ無かった話だろう?」
「今回のフランコ君の結婚ってヴェルリア王国にとってそんなにいい話なんですか?悪い話ではないとは思っていましたが」
「エルリック兄さんがグンタークにした事は聞いているだろう?その一件の御蔭でグンタークとは疎遠だった。それが大臣の息子との結婚で国交が修復、以前より良くなったのだ。父は上機嫌だったよ」
なんか、エルリック殿下の尻拭いをしてるから好感度が上がってるような。
あの人の尻拭いなんてしてるつもりは無いんだけどな。
「それに君の転移魔法だ。君と仲良くなっておけば色々楽だ。そしてこの結婚式の御蔭でヤーマンの勇者、ダーバ王子とも知り合えた。今回の結婚は父にとって…いや国とって大いに利益のある話だったのさ」
「確かに、その通りだがな。それだと余が利益でしか動かない人物に聞こえて来るでは無いか、カタリナ」
「あ、父上。聞いておられたのですか」
「ユーグ陛下。おはようございます」
「「おはようございます」」
「うむ。おはよう、ジュン殿。ユウ殿にアイ殿も。昨晩の話は聞いたぞ、ジュン殿。何でも天気を変えたそうじゃないか。何故、そんな事をしたのかは知らないが…エクトルとフランコの和解に絡んでいるのだろう?」
「え、いや…どうでしょうね?」
「何だ、秘密か?ま、次に何かする時は余にも一枚噛ませてくれ。余も悪巧みは大好きだからな。アッハッハッハッ」
「ハハハ…わかりました。その時は是非に」
「うむ。楽しみにしていよう。では、挨拶の続きに行って来ようか。カタリナ、お前も来い」
「はい。ではな、ジュン。アイにユウも」
「はい。また後で。あ、そう言えばイーノさんは?」
「ん?イーノさんもここに来ている。彼女も挨拶周りの最中だろう。それじゃ」
「じゃあね、カタリナ」
「いってらっしゃい」
カタリナさんの言うように、ヴェルリア国王には気に入られてるようだ。
昨日、初めて顔合わせをしたばかりなのに。
まぁ嫌われているよりはいいよね。
「(ジュン様、来ました)」
「(来たか。どこ?)」
「(あちらです)」
ノエラが示した方向には…居た。
実は今回の結婚式には気になる人物が来る事になっていた。
正直、招待しているとは思わなかったのだが…
「(あの白髪の男がエスカロン・ガリア。ガリア魔王国の魔王です)」
そう、グンタークの第一王子に加担し内乱を援助したと噂されるガリア魔王国の魔王だ。
あくまで噂、証拠はないので責任を追及する事も出来ないのだが…
「(見た目の第一印象で黒と判断してしまいそうだ。見た目は白一色なのに)」
「(ウチも。何か爬虫類みたい)」
「(うん。細いし、白いし。白蛇みたいね)」
ユウの言う通り、動物に例えるなら白蛇を彷彿させる男だ。
「(皆に伝えて。彼が本当に黒だったとしても、今日この場で何かするとは思えない。だけど警戒は怠らないように、と)」
「(はい)」
今日の結婚式には父アスラッドと母エリザの護衛と世話役のメイドや執事も来ている。セバスンも居るので言われずとも警戒するだろうけど。
ボクの親衛隊もクリステアだけでなく隊長のカイエンも来ている。数名はフランコ君とクローディアさんの傍につかせている。
毒物に関しては毒物耐性のアイテムを二人だけでなく皆に持たせてあるので大丈夫だろう。
即死するような強力な毒でも耐性があればボクの治癒魔法で治せる。
杞憂に過ぎなければそれでいいんだけど。
っと、こっちに来たか。
「初めまして、ジュン・エルムバーン殿。私はエスカロン・ガリア。ガリア魔王国の魔王です」
「…初めまして。ボクの事を御存知で?」
「勿論です。そちらは妹君のユウ・エルムバーン殿に婚約者のアイ・ダルムダット殿ですね。初めまして」
「「初めまして」」
ボクだけじゃなく、ユウとアイの事も知っている、か。
こちらの事を調べてるのか。
「どうしてボクの事を?勿論と仰っていましたが、誰もがボクの事を知ってて当然なんて事はありませんよ?」
「これはこれは。失礼ながら、ジュン殿は自分が如何に注目されている存在か、御存知ない?貴方は世界に治癒魔法使いを増やす為の礎、その基礎を築いたお方。自身も優れた魔法使いであり剣士でもある。どの国も貴方が欲しくてたまらないでしょうね。勿論我が国も」
「それは買い被りですよ。ボク自身は別に大した奴ではありません。魔法に関しては多少の自信はありますが」
「フフフ。御謙遜を。時には不遜に、時には強欲になられてもいいのでは?貴方はそれが許されるでしょう?」
「それは傲慢という物です。時に必要だと言うなら理解は出来ますが、それが許される身であるなんて思っていませんよ」
「フフフ、そうですか。やはり貴方は大した御方だ。それでは、他の国の方々にも挨拶して参りますので、失礼します。またいずれ」
「はい。またいずれ」
エスカロンと従者達が離れていくのを見届けて警戒を解く。
ボクだけでなく、アイにユウ、ノエラやセバスト達も警戒していた。
エスカロンも普通じゃないが、護衛に付いてる騎士も何か普通じゃなかった。
フードを深く被って顔は見えないのだが、雰囲気が普通じゃない。
肉食獣が傍にいるかのような感じだった。
「どう思う?」
「ウチの直感では黒。証拠が無いから黒に限りなく近いグレー」
「私も同じ。眼がずっと獲物を見る眼だったよ」
「ボクも同意見。やはり警戒は必要だね」
それから何人かの人と会話して、待つ事数十分。
結婚式が始まるようだ。
指定された席にて、新郎新婦の入場を待つ。
前世でも結婚式には何回か出たが、ここまで盛大で大人数が参列する式には出た事が無い。
グンタークでは新郎と新婦が同時に入場する手順のようだ。
荘厳な音楽が流れ始め、大聖堂の扉が開く。
フランコ君とクローディアさんの入場だ。
二人は腕を組みながら女神像の前にいる神父?でいいのだろうか。
どこの宗教の神父なのか神官なのかわからないが…その人物の前まで歩き、止まる。
神父さんが長い祝詞を述べ最後に二人に変わらぬ愛を女神に誓えるか問う。
「「はい、誓います」」
「それでは指輪の交換を」
二人は互いに指輪を指に嵌め合う。
すると…
「これで二人は夫婦に…え?」
指輪の交換が済んだ途端。
二人の指輪が輝き出した。
女神像も…女神イシュタルの像も輝いている。
これは一体?
「これは目出度いな。二人は女神様に祝福された夫婦になったんだ」
「お父さん、今のが何か知ってるんですか?」
「ああ。今のは二人の結婚が女神に祝福された証だ。中央の女神像が光っていたから祝福したのは女神イシュタルだな。あの二人の指輪には女神イシュタルの名が付いたはずだぞ」
それってボクの【フレイヤ】や【アトロポス】と同じ?
何か特殊な能力が付与されたのかな。
「女神に祝福された夫婦は決して別れる事は無く生涯幸せに暮らせるって言われてるの。そして二人の仲を裂こうとした者には女神の怒りにふれ神罰が降ると言われているわ。女神に祝福された夫婦はとても珍しいの。私も聞いてはいたけど、実際眼にしたのは初めてよ」
それは凄い。いい事だ。
と、普通なら思うのだろうが…何故だろう、あの自称愛の女神が絡んでる気がしてならない。
時々ボク達の事を見てるようだし…まぁ女神の加護があるというのは今のグンタークには必要な事かも知れない。いい事だとしておこう。
…でも、今度神様通信で確認しよっと。




