第172話 村を救おう 8
ダーバ王子達と別れて四日目の朝。
予定では今日戻って来る筈だ。
女王の言葉を伝える使者と一緒に。
このまま何事も無く終わればいいけど。
「いや、何事もって。強盗が来たじゃない」
「それも二回。四日で二回って。治安も人心も乱れてるわね」
確かに。
聞いていたより治安は悪いようだ。
しかし、治安の回復までは何とも出来ない。
そこまで無断でやってしまえば内政干渉になる。
難しく考えず、救ってしまえばいいじゃないかと思わなくも無いけど。
「ジュン様、騎士団長アッシュ・グーマー様より使者が参りました」
とか考えてたら、何かあったらしい。
騎士団長本人じゃなく、使者か。
「分かった。通して」
「はい、畏まりました」
入って来た使者は女騎士だ。
歳は二十二、三くらいか。
アイシス達以外は皆、この部屋に集まって使者の女性を囲んでいる。
「お初に御目に掛かります。騎士団長アッシュ・グーマーの使者として参りました。トリッシュ・グーマーと申します」
「グーマー?という事は?」
「はい。アッシュ・グーマーの娘です」
なるほど、言われて見れば面影があるような。
髪の色も同じだ。
「それで、何かありましたか?」
「はい。侯爵様は今日、騎士団と兵に出陣を命じました。父は今、最後の時間稼ぎをしています」
「出陣?準備が整ってしまったのですか?」
「いえ。しびれを切らした侯爵様は全軍出陣の予定を変更し、半数の出陣を命じたのです。侯爵様は準備状況を正確に把握していたらしく…確かに現状でも半数なら出陣可能なのです」
そういえば意外にも仕事はちゃんとやってるらしいって父アスラッドとマルレーネさんも言ってたな。
厄介な…
「でも、一体何処に?ボク達の居所を掴んだわけじゃないんでしょう?」
「はい。侯爵様はいなくなった従者の子供達はジュン様がお救いになられた村に居ると思い込んでいるようで…探し出すついでに林檎も集めて来いと」
「目的はボク達じゃないという事ですか?」
「いえ…子供達を探し出した後に村に火を点けるつもりらしく…そうすればいずれ皆様が燻り出されて来るだろうと…」
「信じらんない!自分の領地に火を点けるなんて!」
「侯爵様は子供達が居なくなった事に怒り狂っていまして…それもこれも元凶はジュン様にあると思っているらしく…」
「つまり、理由の半分は八つ当たりか」
「はい。侯爵様の中では正当なのでしょうが…」
やはり、まともじゃないな。
幾ら怒りで我を忘れているとしても、自分の領地に火を放つなんて。
「それで?貴女方は本当に侯爵の命に従い村に火を点けるつもりなんですか?」
「そんな事は決してしませんし、させません。例え反逆者になろうとも、です。ですが…」
「出来る事なら、我々に侯爵を止めて欲しいと?」
「はい…」
「なにそれ。元々はこの国の…」
「アイ」
「だってさ」
「言いたい事は分かるけど、侯爵の暴走の原因はボクも一枚噛んでる。悪いけど協力してくれ」
「あ、いや…ジュンが責任を感じる事なんてないから。悪いのは侯爵だから。どう考えても」
「そうだな。でも何もしないわけにもいかないだろ?」
「わかった…」
「トリッシュさん、そういう事ですんで、こちらでも出来る限りの足止めを行います。どうやるかは何も決まってないので言えませんが…上手く合わせて下さいと、騎士団長に伝えて下さい」
「わかりました。出陣は正午過ぎになる予定です。…どうか、よろしくお願いします…それでは」
自分の主を止める事が出来ない歯痒さなのか、他人を頼らねばならない悔しさなのか。
複雑な顔持ちでトリッシュさんは出て行った。
トリッシュさんが帰った後、アイシス達にも集まってもらって、どう対応するか相談を始める。
「出来れば足止めに留めたいんだけど…兵士や騎士団に怪我人を出さずに」
「この前、魔法でビビらせたみたいに今回も魔法で追い払えば?」
「その場合はボクが姿を見せる必要があるわけだけど…そうなったら侯爵はボクの捕縛を命じるだろう?それでもビビって逃げてくれたらいいけどさ」
もし、向かって来られたら戦闘になるわけで。
そうなったら五百人全員を無傷で無力化は難しい。
「無傷に拘る理由は何だ?ジュン殿なら治せるんだから多少の怪我なら問題無いだろう。前はいざとなれば無力化させるつもりだったじゃないか」
「そうなんだけどね。せっかく騎士団長を味方に付けたんだ。出来るだけ遺恨が残らないようにしたい」
「いや、しかし…」
「フランコ、ジュン殿は正しい。それにこちらは少数。五百人相手に手加減して勝てると考えて挑むのは間違いだ」
「はい…」
そう、こちらは少数。
手加減しながらじゃ、ボクやアイシスはともかく、リリーやセリアさんにフランコ君は囲まれたら終わりだろう。
こちらに犠牲が出ても意味は無いのだ。
手加減なしなら勝てるんだけど。
「いつかの山賊みたいに眠らせるのは?」
「五百人を一気に眠らせるのは無理。魔法で眠らせても起こせないわけじゃないし」
「ん~…となると…出陣の理由を無くすとか?」
「出陣の理由は…ボクと子供達と林檎か」
その中で時間稼ぎに使えそうなのは…ボクだけか。
子供達は絶対ダメだし。
「ならボクがわざと捕まって…」
「ダメです!」「ダメだ!」「絶対ダメですぅ!」
「親衛隊副隊長としても容認出来ません」
「私も姉さんと同じで容認出来ません!」
秒速で却下されてしまった。
声に出していない者も同様らしい。
「ジュン様。自分の主を敵にわざと渡すなんて論外だ。とても認められん」
「いや、大丈夫だよ。ダーバ王子が戻って来るまでの間だし。向こうの騎士団長は味方だしさ」
「ダメです。いいですか、ジュン様。騎士団長は確かに人格的には信頼出来る人物かもしれません。ですが能力的には信頼出来ません。彼が本当に優秀なら、このような事態にはなっていないのですから」
「む…」
それは確かに…。
騎士団長が優秀なら最後まで時間稼ぎが出来た筈だし、そもそも村への略奪や治安の回復だって…この国や領地の内情を正しく把握しているわけじゃないから断言は出来ないが。
「それにダーバ王子が戻って来るのが明日だったらどうするのです?丸一日、あの侯爵の下にいたらジュン様の貞操は…」
「その場合は逃げ出すよ。全力で」
そりゃあもう、侯爵の屋敷を吹き飛してでも。
「ジュン殿。ダーバ王子とは連絡を取れないのか?ダーバ王子が上手くやって出陣より前に戻って来るなら、時間稼ぎをする必要も無いだろう」
「あ。そりゃそうだ。流石フランコ君。勇者パーティーの頭脳」
「いや…落ち着いて考えれば誰でも思い付くだろう…」
まぁ確かに時間稼ぎをするという考えにとらわれすぎてたかな。
それにダーバ王子が失敗してたら時間稼ぎもあったもんじゃないし。早速、魔法道具で連絡を取ってみよう。
『はい、こちらダーバ』
「あ、ダーバ王子ですか?ジュンです。そっちは上手くいきましたか?」
『ああ、ジュン殿ですか!いやぁ~それが不味かったですねぇ』
「え?まさか、失敗したんですか?」
『はい~不味かったです。グーテンベルクで食べた料理。エルムバーンで食べた料理はあんなに美味しかったのに』
「は?」
『きっとエルムバーンで舌が肥えちゃったのよ、ダバちゃん』
『ああ~そうかもしれんなぁ。いやぁエルムバーンの料理を早く食べたいです』
「そうじゃなくてですね!女王との会見は上手くいったんですか!?」
『ああ、そっちですか。勿論、上手くいきましたよ。今そっちに向かってます。大物を連れて、ね』
「大物?誰です?」
『それは会ってからのお楽しみで。そうですね、このペースだと…あと五時間ほどで着きます』
「あと五時間…」
出陣前には間に合わない、か。
でも、二時間ほど時間を稼げばいいだけだ。
『何かあったんですか?』
「侯爵が村へ向かって出陣を決めました。正午過ぎに。こちらで時間稼ぎをしますが、出来るだけ急いで下さい」
『何と!一大事じゃないですか!暢気に料理の話をしてる場合じゃないですよ!』
「あんた、本当一回殴っていいかな!?」
『冗談です!わかりました!可能な限り急ぎます!』
「お願いしますね!本当に!」
全くもう…。
とにかく、これで二時間だけ時間を稼げば良い事は判った。
どうやって稼ぐか…




