第170話 村を救おう 6
「さて、と。行くよ、ノエラ。しっかり掴まってて」
「はい」
宿の窓から飛行魔法で飛び出す。
既に魔法で姿を消しているので身内以外にはバレていないはずだ。
それにしても…
「ノエラと二人だけで行動するの、久しぶりだね」
「そうですね。ジュン様はいつも沢山の人に囲まれてますから。中々独り占め出来ません」
「ハハハ。ボクも今はノエラを独り占めだね」
「はい…」
何だか妙に汐らしいな…。
それにしても沢山の人に囲まれてます、か。
そういえば前世の死に際には沢山の人に愛されたいと願った。神様は転生後の自分次第と言われたけど…実は神様が何かしたんじゃないかな。
自称愛の女神だし。
充分あり得る話だ。
「あの…ジュン様?」
「ん?何?」
「私を独り占めしたい時は…部屋に呼んで下さい…夜でも構いません」
「か、考えておきます」
「はい…」
いつもより密着した状態でいつもと違う迫り方されると…ちょっとドキドキしてしまうな。
まぁノエラは美人だし?
正直誘惑に負けそうな時は何回かあったけど…立場を利用してる気がして、どうしても手は出せない。我ながら損な性格だと思うが…仕方ない。
「と、着いたか」
「はい。どう侵入しますか」
「先ずは窓から中を見て無人の部屋を探して…あった」
そこへ目視の短距離転移魔法で侵入する。
実に簡単な侵入方法だ。
魔法で対策してなければ転移での侵入は防ぎようが無い。
「(このように侵入します。で、ここからは小声で会話ね)」
「(はい)」
この部屋は書斎かな?
とりあえず、侵入は上手くいった。
後は騎士団長を見つけて接触する…んだけども。
「(どうやって騎士団長見つけようか)」
「(地道に探すしか無いとは思いますが…騎士団長がいる場所となると限られてくるのでは?)」
騎士団長が居そうな場所…自室、執務室、会議室、練兵場とか?
「(そうですね…この屋敷は騎士団の宿舎も兼ねているのでしょう。かなり大きな造りですので。恐らくはこの屋敷の中にいるでしょう)」
あ、この屋敷から出てる可能性は考えて無かったな。
ま、まぁノエラは居るだろうと言ってるし、良しとしよう、うん。
「(じゃあ、先ずはこの部屋から出よう。あの扉の向こうに人の気配はある?)」
「(ありません。…ところで、ジュン様。私、重くないですか?)」
「(大丈夫、重くないよ。…今日のノエラは何時もと違うね。何?まだ照れてるの?)」
「(て、照れてません)」
「(温泉に全裸で入ってきたりしたくせに)」
「(あの時とはまた別で…いえ、照れてません。今もあの時も)」
「(変なとこで意地張るなぁ。こんな状況だけど素直にさせたくなっちゃうね)」
「(や、やめてください。騎士団長を探しましょう)」
「(はいはい)」
今日のノエラは可愛らしいなぁ。
いつもこんな感じならいいのに。
さて、と。
そろそろ真面目に探そう。
「(ノエラ。ドアを)」
「(はい。ゆっくりと開きます)」
ノエラに音もなく、静かにドア開けてもらう。
こうまで音もなく開けられるのは訓練によるものなのだろうか。
ドアから廊下へ出て、ドアをゆっくりと閉めてもらう。
廊下に出ても人の気配を感じない。
妙に静かだ。
「(侯爵が居る屋敷にしては…静かだね。もっと人が居そうなイメージだけど)」
「(そうですね…恐らく人手不足なのでしょう。先ほどの部屋もそうですが、この廊下にも所々に汚れが残っています。騎士団の宿舎も兼ねているだけあって広いですし、手が回らないのでしょう)」
「(なるほど。流石ノエラだね。ボク達の城の掃除は行き届いてるもんね)」
「(あ、ありがとうございます…)」
「(う~ん、照れたノエラが見れないのは残念だなぁ)」
「(照れてませんから、顔が見れても見る事は出来ません。そ、それより早く調べましょう)」
「(そうだね)」
今日はなんかついついノエラをイジっちゃうな。
さて、と先ずはこの階から調べて行くか。
この階の部屋はどうも侯爵家の人が使う部屋が並んでいるようだ。
ただ、どれもあまり使用されてる感じがしない。
そう言えば侯爵の家族構成を知らないな。
「(ご安心を。私が聞いておきました。侯爵は独身です。両親とは既に死別。将来は弟の子が侯爵家を継ぐ予定だそうです)」
「(それはまた。好色なのに?結婚してなくても、子供とかそこらで無計画に作ってそうだけど)」
「(この国では同性愛は認められていませんので。結婚すれば美少年を愛でる事が出来なくなるからだとか。それと子供が生まれたら色々と面倒だからと、作らないようにしてるとか)」
「(計画性があるんだか無いんだか…)」
しかも理由がどうしようもないし…
弟の子というのがまともな人物である事を願おう。
「(ん…中から声が…この部屋は…)」
「(中に複数の人の気配がします。恐らく、先ほどの映像で見た侯爵が居る部屋でしょう)」
「(ふむ…騎士団長が戻ってまた話をしてるのかもしれないし、確認しとこうか。ノエラ)」
「(はい。ほんの少しだけ開けます。隙間から中を窺ってください)」
ノエラにまた音も無くドアを開けてもらう。
薄っすらと開いた隙間から見えたのは…
「あ…う…」
「ドゥフフ~ドゥフ~ドゥフフフ~」
豚が少女を弄んでいる光景だった。
少女の眼は何もかも諦めた眼をしているし、周りの子達も同様だ。
見たく無かった…少女の方はともかく豚侯爵のあんな姿。
言葉にすらしたくない。
「ドゥフ………グオォ~ガフゥ~」
「……?あの…侯爵様?眠られたのですか?」
つい魔法で侯爵を眠らせてしまった。
いや、正直言うと攻撃魔法で吹き飛ばしてやろうかとも思ったのだが。
なんとか自重した。
「(ジュン様?どうされるのですか?)」
「(うん…せっかくだしあの子達から情報を引き出せないかな、と)」
「(危険ではないですか?仮にも彼らは侯爵側の者。私達は侵入者です。騒がれでもしたら…)」
「(その時は彼らも魔法で眠ってもらおう。それに、多分大丈夫だよ。多分)」
「(はい。ジュン様の仰せのままに)」
「(それじゃ、彼らから話を聞くとしよう)」
ドアを開き中に入ってドアを閉める。
少年少女達は勝手に開いたり閉じたりするドアに驚いて警戒している。
それが普通の反応だろう。
何らかの戦闘技術も持っていないようだし。
「驚かせたようですまない。今から姿を見せるから、どうか騒がないで欲しい。君達に危害を加えるつもりはない。無論、侯爵にも。少し君達から話を聞きたいだけなんだ。騒がないと約束してもらえるだろうか」
少年少女達は互いに顔を見合わせて…頷く。
受け入れてもらえたかな?
「わかりました。騒がないと約束します」
「ありがとう。じゃあ姿を見せるから、驚かないでね」
ノエラは一旦背中から降りてもらって、魔法を解除する。
姿を見せても彼らは意外と冷静で落ち着いているように見える。
少年少女達は四人。
少年二人に少女二人。
どの子も十二~十四歳といった年頃か。
ロリコンでもあるんだな、この変態豚侯爵は。
「あ、貴方は、あの時の…」
「侯爵様を殴った人…?」
やはりこの子達はあの時、馬車の中に居た子達か。
どうやらボクの事を覚えていたらしい。
「な、何をしに来られたんですか?侯爵様を暗殺しに来たんですか?」
「違うよ。さっきも言ったように侯爵にも君達にも危害を加えるつもりはない。っと…ノエラ、この部屋に誰か来ないか注意してて」
「はい」
「な、なら何しに来たんですか。私達に一体何の用が…」
この女の子が四人で一番年上なのかな?
他の子の前に出て庇うようにしている。
「そんなに怯えなくていい。聞きたい事があるだけだよ。先ず…君達は侯爵の何だ?どうして侯爵の…その…」
「私達は皆、孤児です。家族も家も、何もかも失って行先が無くなって途方に暮れてたのを侯爵様に拾われたんです。衣食住を保証して貰う代わりに…その…御奉仕をする事になってます…」
衣食住の保証って…食と住はともかく衣は保証されてなくないか?
下着だけじゃん、君達。
「君達は嫌々侯爵の傍にいるわけではないという事かな?」
「嫌に決まってるじゃないですか!でも、他に行く宛も無いし…拾われる前の生活に比べたらまだマシだし…」
「そうか…君達の他に同じような子は居るのかい?」
「いえ…私達だけです」
「なら…君達、ボクのとこへ来るかい?」
「え?」
「ボクはジュン・エルムバーン。これでも魔王子だ。君達を雇うくらい、わけないよ。城で働いてもらう事になると思うけど、どうだろう?」
「行きます!連れてってください!」
四人全員同意のようだ。
よかった、ボクの勝手な思い込みじゃなくて。
「わかった。あとで必ず連れ帰るよ。次の質問だけど、騎士団長は何処にいるかわかるかい?」
「騎士団長なら…この時間なら執務室に居ると思います」
「場所は何処かな」
「えっと…この部屋を出て―――」
少女から詳しい場所を聞き騎士団長の場所はわかった。
あとは…
「ありがとう。騎士団長と話を終えたら、ここに戻って来る。侯爵はまだ数時間は眠ったままだから安心するといい。荷物とかあるなら取っておいで」
「「「「はい」」」」
少年少女達と別れ、再び魔法で姿を消し騎士団長の執務室へ。
上手い具合に騎士団長一人のようだ。
「どうぞ」
「失礼します」
ノックすると直ぐに返事があったので入室する。
騎士団長はボクとノエラを見て驚いているようだ。
一目見てだれかわかったらしい。
「貴方は、まさか…」
「お察しの通りだと思います。あらかじめ言っておきますが、争いに来たわけではありません。平和的に解決出来るように貴方に協力をお願いしたく。話を聞いてもらえますか?」
「平和的解決、ですか?」
「ええ。このままでは侯爵どころか貴方も騎士団も不味い事になる。下手をすれば蜥蜴のしっぽ切にされかねない。それどころか国が滅ぶ事になりかねない。そう考えてらっしゃるのでは?」
「……御話しを伺いましょう」
「まずは名乗っておきましょうか。ボクはジュン・エルムバーン。エルムバーンの魔王子です。証拠が必要ですか?」
「いえ…必要ありません。偽物がここまで来る理由も技量もないでしょう。申し遅れました。私はこの領地の騎士団団長を務めています、アッシュ・グーマーと申します」
「グーマーさんですか。ああ、彼女はノエラです。ノエラ、御茶をお願い」
「畏まりました」
ノエラは魔法の袋にいつでも御茶を入れれるように用意している。
実にメイドらしい。
「…そんな物をメイドに持たせるなんて、本物以外有り得ないでしょうな」
騎士団長はこちらの意図を読み取ってくれたらしい。
証拠は必要ないって事だけど、念の為にね。
騎士団長の分の御茶を用意してもらって本題に入る。
「さて、本題ですが。グーマーさん、貴方には時間稼ぎをして頂きたいのです」
「時間稼ぎ、ですか」
「はい。今、信頼できる人物が女王陛下に会いに行っています。侯爵の所業を伝えに。その後はどうなるか、わかりますよね」
「侯爵は処刑…でしょうね…」
「処断はグンタークにお任せしますが…こちらとしてはそこまで望むわけではありません。南部の村の人達を救済してもらえれば。せめて邪魔しないでもらえれば」
「止めはしたのですが…申し訳ございません…」
「いえ。それでどうでしょう?最低四日ほど時間を稼いで欲しいのですが。協力して頂ければ貴方や部下の方々が処罰の対象にならないよう女王陛下に口添えを約束します」
「…わかりました。お任せ下さい」
「…よかった、お願いします。それから侯爵の周りにいた四人の子供達…あの子達はこちらで保護したいのですが」
「!…よろしいのですか?」
「はい。むしろ無理やりでも連れ去った方がいいんじゃないか、とさえ思っていましたよ」
「ぜひ、お願いします。私もあの子達が不憫で…あの子達があのまま侯爵の下に居ても幸せになれるはずがありません。いつか必ず捨てられるのが目に見えてます。脱走し、行方をくらませたと報告しますので…これも時間稼ぎの材料にできるでしょうし」
「わかりました。ボク達はこの街の宿…この屋敷が見える位置にある宿に居ます。何かあればそこへ」
「はい。…村を救って頂いた事、感謝申し上げます」
「…貴方のような人が居てくれてよかった。では」
騎士団長の部屋を出て子供達が待つ部屋へ。
これで何とかなる、かな?
今度こそ問題無く行くといいのだけど…どうかなぁ。




