第167話 村を救おう 3
「ジュン様、次の村が見えたぞ」
「そう。予定では最後の村だね…」
約二週間。
六つの村を周り、次が七つ目。
連日の長距離移動と治癒。転移魔法でアイシス達の送り迎え。
それから【フレイヤ】の使用で疲労がかなり溜まっているのが自覚出来る。
「ジュン様、食糧を運ぶのや傷病者を集めるのは私達にお任せください。ジュン様は少しでも休んで戴きたく…」
「大丈夫だよ、ノエラ」
確かに疲労は溜まっているが、それでも倒れるほどじゃあない。
次の村が終わったら、数日は休ませて貰うつもりだし。
「ジュン様、村に着いた。オレが話してくるから、まだ休んでてくれ」
「大丈夫だよ、セバスト。ボクが…」
「はいはい、ジュンはまだここ。セバストさん、お願い」
「了解だ」
アイに無理やり引き止められてしまった。
そんなに疲れているように見えるのかな。
「大丈夫なんだけどな…」
「何言ってるんだか。ジュン、この短期間でちょっと痩せてるよ?眠っても疲れ取れてないでしょ?」
「あ~…全くとれてないわけじゃないよ」
「つまりだんだん疲労が溜まっていったんでしょ。いいからお兄ちゃんは休んでて」
「わかったよ… 」
あまり意地を張って心配させる事もないか。
お言葉に甘えて休ませてもらおう。
すこしするとセバストが村の代表…村長との話を終え食糧の運び入れが始まる。
といっても魔法の袋から出していくだけなのだが。
それから傷病者を集め終わったとの事なのでようやく馬車から出る。
「ああ…ありがとうございます!」
「神よ…!」
何時ものように治癒魔法で癒す。
感謝されるのはいいんだけど神様扱いはやめて欲しい。
次にベッドから動かせない重症の人の治癒も終わり。
これで全部終わった、と思ってた時にそいつはやって来た。
「セバスト、何だか騒がしいけど、何かあった?」
「ああ。何でもこの辺りの領地を治める領主がやって来たらしい。何故か兵を連れて」
「兵を連れて?…治安が乱れてるから護衛を連れてるのはわかるけど…ちょっと多くない?」
「そうだな…五百はいるか。村を視察するにはちょっと仰々しいな。領主とは今は村長が話してる」
一体何しに来たんだろ?
村に食糧を持って来たとかならいい事だけど…どうもそうじゃなさそう。
まさかボク達に用があるのか?
女王にはボク達が食糧支援してる事はもう伝わってる頃だと思うけど。
「あの…」
「ああ、村長。ジュン様、この人が村長だ」
「初めまして、ジュン・エルムバーンです。何かありましたか?」
「はい…どうも領主様は貴方様に用があるそうでして…」
「領主、というとあちらの方ですか?」
「はい。あちらのふとっ…いえ恰幅のいい髭を生やされた方です」
あれか。
肥え太った体に成金趣味な服装。
厭らしい笑いを浮かべた中年の男。
見た目で判断してしまうが、好きになれそうに無い。
「どういう方なのか、村長さんは御存知ですか?」
「いえ、あの方は最近領主になった方で…反乱を起こした第一王子についた前領主に代わって領主になられたのです。村に来たのは今日が初めてで…名前はボラボ・ボークラン侯爵様です」
「ボラボ?ボルボじゃなく?」
「は?いえ、ボラボ様ですが?」
「あ、そう…」
まぁ、この世界に車なんて無いし。
あったとしても何の関係も無いのだが。
「とにかく、ボク達に用ならボクが話をしてきます。セバスト、付いて来て」
「了解だ」
でも、なんか嫌だな。
ボクは男だが、何となく生理的に受け付けないというか…何だ、あいつのボクを見る目は。
「ドゥフフ~ドゥフ~」
何だ、ドゥフフって。
笑ってるのか?喉にまで脂肪がついてまともに発声出来ないんじゃないだろうな。
「あ~…えっと…ボク達に何か御用ですか?」
「ドゥフフ~お前達が私の領地で勝手に商売してる者達だな~?」
「商売?村の人達からは一切の対価は受け取っていませんよ?」
「私が商売と言ったら商売で~私が違法と断じたら違法なのだ~。よって~お前達は捕縛~犯罪奴隷行き~と言いたいとこだが~お前達が私の妾になるなら奴隷行きは見逃してやる~」
何言ってんだ、こいつ…
それにこいつ今…ボクを上から下まで見てからノエラ達を見たな。
こいつボクを女だと思ってるのか…
「色々言いたいのですが、まず…ボクは男ですからね。それと…」
「ん~?お前が男なのはわかってるぞ~?私は美しいモノが好きなのだ~」
「ヒッ」
こいつ、ツオーレ三兄弟と同じで何でもアリか…。
こいつが乗って来た馬車…よく見ると中に少年と少女が一緒に乗ってるようだけど…まさか…。
うわぁ…あの子達が全て同意の上なのかどうか知らないけど、すっごい助けたい。
無理やりでも誘拐するのが正義な気がしてならない。
「う~…ええと、ボク達の行動はグンターク王国に報せが行ってる筈です。事後承諾にはなりましたが、国から正式に行った報せです。確認して頂きたい」
とにかく、多分こいつはエルムバーンからの報せを知る前に此処に来たのだろう。
確認しに戻ってもらおう。そして永遠に会わないでおこう。
「ドゥフフ~?商人が何処から何の報せを送ったのか知らないが~?。そんな事~私には関係な~い~」
「商人?」
「(ジュン様、そう言えばこいつにまだ名乗ってないぞ)」
そういえばそうだ。
まずボク達が誰かを分からせてからになるか。
「あの、ボクの名前は…」
「あ~それと~お前達が持ってる林檎も~全て寄越せ~。あれは~平民なんぞにくれてやるには~あまりに勿体ない~。他の村から~集めた分だけでは足りない~。あれは実に美味だ~」
今、何て言ったこいつ。
あの林檎が美味?
村から集めた?
「集めた?村から林檎を奪ったんですか?飢餓状態にあった村から?」
「奪ったのではない~回収したのだ~。この辺りの村は私の領地~だから領内にある物全て私の物、ぶひっ」
「もういい。喋るな」
今まで何もせずに、見放しておいて…
更に散々飢えに苦しんだ人達から食糧を奪うなんて。
許されざる行為だろう。
「き、貴様!侯爵様に何をする!」
「黙れ。ボクの名前はジュン・エルムバーン。エルムバーン魔王国の魔王子だ。ボク達の事はグンターク王国には既に報せがいってる筈だ。さっさと気絶してるそこのバカを連れて確認に行け。それから他の村から集めた林檎はちゃんと返しておけよ」
侯爵の傍にいた騎士が何か言ってるが、まともに相手をする気など無い。
とっとと帰ってもらおう。
「え、エルムバーンの魔王子?そ、そんな人物がこんな村にいるはずがあるか!貴様ら!この者共を捕らえろ!」
認めたくないのか、思考停止か。
主が主なら家臣も家臣なのか。
どちらにせよ、こちらには相手をする気はない。
「フェニックススピリッツ!ブルードラゴンスピリッツ!」
武闘会以来の久々の登場だ。
こういう奴らを帰らせるにはビビらせるのが早い。
「「「ヒッ!!!」」」
「さっさと失せろ。そこのデブを忘れるなよ」
「「「は、はいぃぃ!」」」
ようやく帰ったか。あんな奴を領主にするなんて、新女王は本当にやり手なのか?
全く…ん?
「「「……」」」
あ…村人まで怖がらせてしまったか。
いかんいかん。
「みなさ~ん、大丈夫ですよ~!これはボクが出した魔法ですから~!ほら、消えますよ~」
「は、はぁ…でも…大丈夫なのですか?侯爵様を殴ってしまって…」
「大丈夫ですよ、村長さん。この村にはご迷惑をおかけしませんから、ご安心ください」
「いえ…それもそうなのですが、ジュン様達が困った事になるのでは…」
「ははは…大丈夫ですよ!なんてったってボクはエルムバーン魔王国の魔王子ですから!アッハッハッ!」
「そ、そうですか…なら、いいのですが…」
はっはっはっ…とは言ったものの…どうしよっかな。
問題になるかな、これ。
他国の侯爵を殴ったら普通、問題になるよね。
「ごめん、皆。我慢出来なかった…」
「大丈夫。ウチだって同じ事してたよ。惚れなおしたし!」
「私も。私はお兄ちゃんの味方だし!惚れなおしたし!」
「何も問題ありません、ジュン様。惚れなおしましたし」
「ああ。むしろあれだけですんで感謝すべきだ、あいつは。オレも惚れなおしたし」
皆はそう言ってくれたけど…父アスラッドには報告に行かないとダメだろう。
この村で最後、終わったら数日は休もうと思っていたのに…まだしばらくは休めなさそうだ。




