第166話 村を救おう 2
「成程。聞いていたより状況は悪いようだな。それで、お前は村に食糧を援助して回りたいんだな?」
「はい。問題ありませんか?」
「構わん。その程度の数の村に配る食糧くらい今の備蓄で何とでもなる。だが、備蓄を持ち出すだけじゃないんだろう?」
「はい。それでアイシス達には狩と採集を頼みたいんだけど…いいかな?」
「勿論だよ!お腹が空くのは辛いからね!助けてあげよう!」
グンターク王国で一つの村を救った…と言うとおこがましいかもしれないが…出来るだけの事をしてから一度、城に戻って備蓄を持ち出す許可と相談を父と母、アイシス達を交えて行っている。
「でも、ボク達は狩をするだけでいいの?そっちに行かなくて大丈夫?」
「うん。グンターク王国では、村人が必死で狩をしてるから動物が余りいない。アイシスにはエルムバーンで狩を頑張って欲しいんだ。ダーバ王子達にもエルムバーンで狩をしてもらおうと思ってる」
「ふむ…ではジュン殿。我々はヴェルリア王国…ノーヴァ領に一度送ってください。僅かですが備蓄を提供できるでしょうし、狩も向こうで行います。勇者パーティーが二つもエルムバーンで狩を頑張っては、今度はエルムバーンの狩人達が困ってしまうでしょう」
「そう…ですね。お願いできますか」
「承りましたぞ、ジュン殿」
備蓄の持ち出し許可も貰えたし、アイシス達の協力も取り付けた。
後は…
「グンターク王国には断りを入れる必要がありますかね、やはり」
「そうだな…既に事後承諾になるが…一応、国から正式に連絡を入れておこう。多少時間が掛かるが」
「お願いします」
「ああ。見返りは求めなくていいんだな?」
「はい。勝手にやってる事ですしね」
「え?」
「ん?どうかした?フランコ君」
「いや…見返りを求めないのか?」
「うん。特に何も無いし…あ、勇者の遺物の情報でもこっそり聞いてもらおうか?」
「い、いや…それは…もっとエルムバーンの利益になる要求をすべきだ」
エルムバーンの利益…利益ねぇ。
何かあるかな。
「ん~…お父さん、何かあります?」
「直ぐには思いつかんな…だいたい、既にやってるわけだからなぁ。勝手にやっといて何か寄越せなんて言えんだろう。今回はせいぜい相手に恩を感じてもらえばそれでいい」
「そう、ですか…」
まぁ、それでいいだろう。
フランコ君は何かショックを受けてるように見えるのが気になるな。
「うふふ~」
「どうしたんです?お母さん」
「またジュンの美談が追加されるのね~。他国の民を救う為に動く。そこに見返りは求めない!かっこいい~!またジュンのファンが増えちゃうわね~」
「…またって…美談とかありましたっけ?」
勘弁して欲しい。恥ずかしすぎる。
「見返りは求めない…そうですね。人助けに見返りなんて…」
「フランコ君?」
「あ、いや…何でもない。行動に移ろう、ジュン殿」
「ああ、うん…」
何だか暗い表情のままだけど…アイシス達も何も言わないし、今は止めておこう。
「じゃあ、先ずノーヴァ伯爵領へ行きましょう」
「うん。夜に迎えに来てね」
アイシス達を送った後、城の備蓄を運び、中庭の林檎を収穫中のノエラ達の下へ。
「どう?林檎はどれくらいになりそう?」
「ジュン様。現在樽で四つです。全部で五つにはなるでしょうか」
「そうか」
一つの村に樽二つくらい配るとして…村二つ分か。
ダン君の村にももう樽一つ置いて行こう。
「それから…野菜も育てて持って行くか」
種をまいて【フレイヤ】の力で育てる。
【フレイヤ】の力でも完全に無から植物を育てる事は出来ない。
野菜や果物を育てるには種や木が必要なのだ。
それと…収穫が終わった林檎の木にもう一度林檎を実らせておく。
「…収穫をお願い」
「はい。…お疲れのようですが、大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫だよ」
【フレイヤ】の力は魔力だけじゃなく体力も僅かに吸うのか?
一日にここまで連続使用したのは初めてだから気が付かなかったのか…。
検証が足りなかったか。
翌日。
他の同じような状況にある村を村長さんに教えてもらう。
その数は合計で七つ。
「私が倒れる前の情報ですので…その時既に、村を放棄して中央の街に移民する事も検討してる村もありましたから、どこまで正しいか…」
「十分です。有難うございます」
あとは近くの村から順に周っていくだけだ。
ここから一番近い村には急げば夕方には付く。
「ジュン様」
「何、セバスト」
村長さんと話してると、セバストがやって来た。
声に緊張の色が混じってるような…
「盗賊だ。いや…恐らく次に向かう予定の村人が武装して村を囲んでる」
「そんな…どうして!」
隣の村も奪う事を選んだか…それほどに追い詰められているらしい。
それも同じ状況にあるであろう村を襲う程に。
「数はわかる?」
「ざっと二十。どうする?」
「無力化して捕らえる。出来る?」
「勿論だ」
今回、ダーバ王子達はエルムバーンで狩を頑張ってもらっているので、代わりに親衛隊から数名来てもらっている。
相手は素人が武装しただけの集団だし、大丈夫だと思うけど…。
外に出て皆が集まってる場所へ。
「状況は聞いてる?」
「うん。どうするの?」
「無力化して捕らえる。怪我をさせても治せるけど…出来るだけ無傷で捕らえて。当然、皆も怪我しないようにね」
「「「はい!」」」
「それから…あ~リディアは待機で。君にはまだ無傷で捕らえるってのは難しいだろう」
「はい…」
シュンッと落ち込むが、こればっかりは仕方ない。
彼女の紋章は、そういう器用な事をさせるのには向いていないのだから。
数分後。
碌な訓練もした事ない、衰弱した村人を相手には苦戦する事も無く。
難なく全員捕縛出来た。
「彼らに見覚えのある人いますか?」
「あ、はい。徴兵された時、同じ部隊に配属された奴が…確かに隣村の奴です」
昨日、治療した男性がそう答える。
なら、彼らに案内して貰うか。
「君達の代表は誰だ?話がしたい」
「俺だ…話とは何だ。今回の事は俺達の独断だ。村は関係ないぞ」
「そうじゃない。君達は食糧を奪いに来た。そうだな?」
「…そうだ。もう村に残された食糧は…女房の乳も出なくなって、このままじゃ俺の子は…頼む!食糧を分けてくれ!お前達、その様子からしてまだ食糧があるんだろう!?」
「何故、最初からそうやって頼まなかった?奪う事…犯罪を犯す事を最初から考えていたようだが?」
「それは…先月来た時には既にこの村にも余裕が無い事はわかっていた。だから…」
「なら何故、この村を襲う?余裕が無いとわかっていたなら…」
「例え僅かでも必要だったんだ!もう奪うしか…無かったんだ…」
この人達も追い詰められたが故の暴走…か。
「事情はわかった。じゃあ、君達の村に行こうか」
「何?報復するつもりか?」
「そうじゃない。そもそもボク達はこの村の者じゃない。彼らが元気なのはボク達が食糧を援助したからだ。怪我人や病人も治癒魔法で治した。徴兵された時の顔見知りが居るなら、怪我が治ってる人がいるだろう?」
「あ…確かに。そっちのあんたは確か、足を切断されたよな。でも…足が…ある…?」
「今日は元々、この村から一番近い村…つまり君達の村に行く予定だったんだ。食糧を持ってね。それと…君達の村にも怪我人や病人が居るだろう?その人達も治療しよう。だから村まで案内してくれないか?」
「ほ、本当か…?あ、ああ!案内する!するとも!」
「よろしく頼むよ。じゃあ出発…の前に」
ゴーレムを数体。
村の護衛に残しておく。
彼ら以外にこの村を襲うような存在はいないと思うが念の為だ。
「兄ちゃん!またな!」
「お兄ちゃん、また来てね!皆を助けてくれて本当にありがとう!」
すっかり元気になったダン君とランちゃんに見送られて次の村へ。
こちらに協力的になった男たちの御かげで次の村はスムーズに事が運び。
無事に食糧を渡すことが出来た。
そうやって次の村も、その次の村も。
順調にいっていたのだが、最後の村で問題が起きた。




