第165話 村を救おう 1
「マスヒーリングオール!」
村の怪我人や病人を集め一気に治す。
病人はそれ程いないが怪我人が多い。
特に大人の、働き盛りの男性が。
というより大人の男性は全員、大怪我をして寝たきり状態の人ばかりで、ベッドから動かせない人も居るらしい。
「どうしてそんな事に?」
「この国で内乱があった事は御存知ですか?」
村長の奥さんが言うには、この村の男性は反乱を起こした第一王子に無理やり徴兵されたらしい。
そして王子は敗れ、徴兵された男性は大勢死に、戻って来た者も五体満足の者は少なく、まともに働けない者ばかり。
更に村の食糧も大半が徴収されてしまった。
直ぐに食糧は足りなくなり、動ける男達で狩をしたが直ぐに近辺の動物は狩り尽した。
ならば後は魔獣を狩るしかないと魔獣狩りを行ったのだが…
「結果は悲惨なものでした…生き残った男は僅か。それも大怪我をした者ばかり。私達の息子も死に村長である主人は病に倒れ…もう奪うしかないとダンが…」
「そうでしたか…」
やはり、相当に追い込まれたが故の行動だったらしい。
ダン君も苦しかっただろう。
「兎に角、残りの怪我人も治療して行きましょう。それが終わる頃には料理が出来てますよ」
そして村全体の治療を終えて。
村の中央で炊き出しをしてるセバスト達の下へ。
既に大勢の人が集まっている。
「ご苦労様、セバスト。量は足りる?」
「今回は何とかな。だが根本的解決にはならないぞ。オレ達が持ってる食糧を渡せば、数日は食いつなげるだろうが…」
「うん。分かってる」
城に戻って備蓄を持って来ないとな…父に許可を貰わないと。
それに【フレイヤ】はここで使うわけには行かないから、城で使おう。
「あ、あの!」
「ん?ああ、ダン君か」
「さっきはすみませんでした!おれ…」
「いいよ。事情は聞いたから。君もお腹空いてるだろ?セバストからご飯を貰うといい。ランちゃんもお食べ」
「う、うん!」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
ダン君もようやく笑ってくれた。
ずっと辛かったのだろう。よく頑張ったと思う。
「ただいま、ジュン」
「今戻ったよ、お兄ちゃん」
「ご主人様、ただいま~」
「三人とも、おかえり。ダーバ王…ダーバさん達も、お疲れ様でした」
「何の何の、これくらい」
「狩にはすっかり慣れましたから」
「それで成果は?」
「それがさ、普通の動物は見つからなかったから魔獣を狩ったんだけど、よかった?」
「普通の動物は村の人が狩り尽したらしいから。食肉に出来る魔獣を狩って来たんだろ?」
「うん。ただ、ちょっと…」
「どうかしたの?」
「うん。気になる事があって…もしかしたら村の人には刺激が強すぎるかも…」
どうゆう事かわからないな。
兎に角出してもらおう。
「魔法の袋に入れてあるんだろ?見せてよ」
「うん…じゃあこっちで…」
炊き出しをしてる場所から少し離れた位置へ。
食事をしてるとこに魔獣の死体を出すのを避けたのかな?
「先ずは…問題無さそうなのから」
アイが袋から獲物を取り出していく。
猪型の魔獣に鹿型の魔獣。
併せて五頭。充分な成果だろう。
ここまでは問題無さそうだけど?
「問題は次。一番の大物なんだけど…」
アイが取り出したのは大きな熊型の魔獣。
立ち上がったら小さな家くらいありそうだ。
これだけデカければ相当な量の肉になりそうだ。
美味いかは知らないけど。
「これが?何が問題なの?これだけデカければ村の人は喜ぶんじゃない?」
「それが、その~…」
「こいつは巣に居る所を見つけて倒したんですがね。巣には人骨と思しき物があったんですよ」
言いにくそうにしてるアイに変わってダーバ王子が答えてくれる。
なるほど、つまりこいつが…
「村の人達を殺して喰ったやつなのか…」
「やっぱり、そうなんだ…どうしよっか…」
う~む…まずこの熊を殺した、というのは伝えてもいいだろう。
敵を討ったわけだし。
しかし、この熊を喰うとなると…
「どうしよっか…」
「本当、どうしよ…」
「「「う~ん…」」」
「兄ちゃん達、どうしたんだ?あ!そいつは!?」
「あ、ダン君?」
しまった、見つかってしまった。
何て言おう…
「もしかして、キラーベア?父ちゃん達を殺した奴か!兄ちゃん達が敵を討ってくれたのか?」
「ああ、ボクじゃなくてそっちの人達がね」
「ありがとう!兄ちゃん達!」
「ああ、いや。で…こいつ、どうする?」
「どうするって?」
「あ~その~…私達は要らないから、君達が食べるか?食べたくないなら私達で処分するから」
「いいの!?欲しい!」
「ああ、やっぱり要らないよなって…欲しいの?」
「うん!これだけ肉があれば次の収穫期まで何とかなるよ!村の皆も絶対喜ぶ!」
「そ、そうか?ならこっちの猪と鹿もあげるから、村の人達で分けるといい」
「いいの!?ありがとう!本当にありがとう!皆に言って来る!」
ダン君は分かって居るのかな…親を食べた熊かも知れないって事。
村の人達も大丈夫かな…。
と、不安に思っていたのだが。
「ありがとう御座います!ありがとう御座います!」
「これでこの村は救われます!」
「敵を討って貰った上に肉まで戴けるなんて!感謝の言葉しかありません!」
まさかの大喜びだった。
まあ、飢えてたのだから食べ物の確保が最優先になるか…。
でも肉ばっかりだし、後で野菜や小麦粉とか取ってこよう。
今はもう少し、詳しい話を聞きたい。
「すみません、少しいいですか?」
「はい?」
比較的、元気そうな中年女性から話を聞く。
聞きたい内容は他の村について、だ。
「何処も似たような状況だと聞いています。特に酷いのはこの村と同じで第一王子に占領された地帯の村だと…」
「それは具体的にどの辺りになるのですか?」
「国の中央にある王都グーテベルクから南。つまり国の南半分になります」
「北半分は大丈夫ということですか?」
「そうらしいです。それと、南にある村でも王都に近い位置にある所は大丈夫だと…大きな街も治安が乱れてはいても飢えてはいないとか。酷いのはこの村のように王都から遠く離れた村で…」
「そうですか…」
新しい女王は国を安定させる為に中央から安定させていったのだろう。
そして女王は自分に味方した北半分の国民達を優先した。
無理やりとはいえ、反乱を起こした王子に味方した者達を優先するわけにはいかず。結果、南にある王都から遠く離れた村は見捨てられたのだろう。
それは女王として苦渋に満ちた決断だったのかもしれない。
だけど、見捨てられた方はたまったもんじゃない。
「ここと同じような状況の村の位置を把握してる人はいますか?地図があれば尚良いのですが」
「それなら村長が、多分…」
村長さんか…
病気が治ったばかりだし、まだ安静が必要だけど…明日なら話ぐらいは出来るかな?
話をしてくれた女性に礼を言って別れる。
先ずは城に戻って野菜や小麦粉を取って来よう。
「セバスト、ここは任せた。ノエラ、リリー、シャクティは一緒に来て。城に戻って食糧を取りに行く」
「了解だ」「畏まりました」「はいですぅ」「はい」
「ウチは?」
「お兄ちゃん、私は?」
「ここで待ってて。直ぐに戻るから。じゃあ…」
「お兄ちゃんはお城から来たの?」
あ?ランちゃん?
今の話を聞いてた?まず…くは無いか。
最初に名乗ったしな。エルムバーンて。
「うん。まぁね」
「お兄ちゃん、ジュン・エルムバーンて名前なんだよね?それにお城から来たって…もしかしてエルムバーンの魔王子様?」
「うん。実はそうなんだ。でも余り大っぴらにはしたくないから他の人には…」
「凄い!凄い凄い凄い!すごーい!皆!聞いて聞いて!お兄ちゃんはエルムバーンの魔王子様なんだって!」
「魔王子様?」「エルムバーンの魔王子様って…あの本の?」
「あ、私持ってる!『魔王子様とメイド』!」
興奮したランちゃんによってボクの正体はあっという間に広まってしまった。
ていうか、今聞き捨てならない言葉が。
まさかこんな遠く離れた国の村にまで知られてるの?
どんだけベストセラーなんだ、魔王子様シリーズ。
なんか女性達が熱を帯びた眼で見てきてるし…兎に角、一旦離れよう。そうしよう。




