第161話 勝負
「お断りします」
「そうですか。ありがとうござい…て、あれぇ?ダメなんですか?」
「はい。無理です。駄目」
何で貰えると思ってたのこの人。
それにしても【フレイヤ】と【アトロポス】が欲しい?
まさか二本の能力を知ってるってわけじゃないだろうな。
「ほらぁ、やっぱり駄目じゃない。そんな簡単にくれる筈が無いじゃないの」
「いや、だって…私は勇者だぞ?勇者のお願いは聞くのが王族じゃないの?」
「そんなの聞いた事ない…」
「そうねぇ…せめて対価を用意しないと」
「対価か…よし、作戦会議だ。ジュン殿、ちょっと時間を下さい」
「はぁ。どうぞ」
ダーバ王子一行は円陣を組んでからしゃがんで話し合いを始めた。
あれが作戦会議…?
「やはり、ここはカトリーヌの色気で堕とすのがいいんじゃないか?」
「あら~、でも魔王子様は貧乳好きかも知れないわよ?だったらマルちゃんの方がいいんじゃない?」
「どういう意味よ!」
「いや、ジュン殿が貧乳好きの可能性はあるがマルレーネには色気が無い。有るのは食い気と暴力だけだ」
「大きなお世話よ!」
「じゃあ、ロリっ娘のターニャちゃん推しで」
「わ、私、カトリーヌより年上…」
「合法ロリか…ありっちゃ有りだな」
会議の内容は丸聞こえだ。
ていうか、ターニャさんがカトリーヌさんより年上?嘘だろう?
「三人で堕とせばいいじゃろ。巨乳・貧乳・ロリの三タイプで迫れば」
「それだ!流石爺さん、年の功!」
「待ちなさいよ!あたし達の意思はどうなるのよ!それに見なさいよ、ジュン様の周り。美人だらけじゃない。今更あたし達の色気でどうにかなる相手じゃないわよ」
うん、まあ。その通りだと思います。
これでも数々の誘惑を乗り越えて来たし。
「いや、私が掴んだ情報だとジュン殿はかなりの女好きらしい。きっと食いつく」
「え…そうなの?あんな人の良さそうな顔して?」
「人は見かけに寄らない…」
「ターニャちゃんが言うと説得力があるわねぇ」
「そうね…でも外見と中身がミスマッチの人って早々居る?あたしは見た目通りの人に見えるんだけど」
「マルちゃんは男を見る目が無いから、あまり信用出来ないわねぇ」
「そんなこと無いわよ!じゃあカトリーヌはどうなの!」
「そうねぇ…というかジュン様は男性なのよね?ジッと見てると自信が無くなって来るのだけど」
「魔王子様なんだから、男性でしょ。婚約者がそこにいるアイ・ダルムダット様なんでしょ?」
「その通りだ。まぁ知らないと女性だって言われたら信じてしまいそうだが。歴とした男性だ」
何だろう、喧嘩売られてんのかな。
喧嘩売ってるよね、これ。
「ジュン、どうどう」
「悪気はなさそうだし…褒め言葉もあったし抑えて、お兄ちゃん」
褒め言葉なんてあったか?
あ、美人だらけか?
褒められたのは君達だよね、それ。
「ブロイドも何か言いなさいよ。黙ってないで」
「…男好きかもしれない…」
「え…いやいや、流石にそれは…ねぇ?」
「あ、ああ。流石にそれは…女好きとは真逆だし…なぁ?」
「う、う~ん…私からは何とも…」
「両方イケるクチかもしれんぞ。それなら見た目通りじゃ」
「あ、そうかも…」
「そうだとすると…全員で迫るのがいいのかしら?」
「わ、私は止めておく…色気ないし…」
「いや、ターニャはやれ。私は止めておく」
「何よそれ!あんたの剣の為でしょうが!」
「ばっか、お前!ヤーマンの王子が男色に走ったなんて噂が出たら不味いだろが!」
「あのーすいませんが皆さん!そろそろツッコんでもいいですかぁ!?」
黙って聞いてれば言いたい放題…誰が男色だ。
「あ。き、聞こえてました?」
「そりゃあね!そんなとこでそんなデカい声で話してたらね!」
「ばっか、お前ら!怒らせてどうする!」
「何よ!あたしは何も言ってないわよ!」
「私も言ってない…」
「私もよ。ダバちゃんじゃないの?」
「な~に言ってんだ!私じゃないぞ!爺さんだろ!」
「はて?記憶にないのう。ブロイドはどうじゃ?」
「無い」
「ふんぬー!!」
「お兄ちゃん、落ち着いて!」
「ジュン、どうどう」
やっぱり喧嘩売ってるよね!
どう考えても売ってるよね!
「ジュン様、もうすぐ食事の用意が…どうかしたのか?」
「セバスト…いや、別に…」
そうだ、落ち着けボク…流石にここでヤーマンの王子を殴ったりしたら問題になる…いや、ならないか?非公式の訪問だし。
ならないよね?
「というわけで、一発ずつ殴っても?」
「「「すみませんでした!」」」
全員が頭を下げて来たのでとりあえず拳を納める。
しかし、確かに変わり者だね。
王子だけじゃなく、王子様一行全員が。
「食事の用意、随分早かったね、セバスト」
「料理長が早めに準備してたからな。アイシス殿がいるから。追加で大量に作るよう頼んでおいた」
「そっか。ありがとう。それじゃ、皆さん食堂へ行きましょうか。昼食の用意が出来ましたので」
「ああ、ありがとうございます!いやぁ実は最近碌な物食べて無かったんですよ!」
「何よ!あんた私達の料理に不満があるっての!?」
「そうじゃない。けどここんとこ、獣を狩って捌いて塩振って焼いただけの飯ばっかだったじゃないか」
「そうねぇ…お肉も嫌いじゃないけど、そればっかりじゃあねえ」
「私、果物が食べたい…」
「わしは酒じゃのう」
「まぁ…確かにね。爺さん、昼間っから酒は駄目よ」
「堅いのう。マル嬢ちゃんは。堅いのは胸だけにしというた方がええぞ。のうブロイド」
「知らん」
「爺さん…あんたねぇ…」
本当に騒がしい連中だな。
まぁ憎めない連中でもある。
食堂についてアイシス達とダーバ王子達が互いに自己紹介を済ませ。
食事を摂る。
「いやぁ、エルムバーンの料理は美味しいですね!これならいくらでも食べれそうです!」
「本当、美味しい。あ、スープの御代わり貰えます?」
「果物も美味しい…」
「ターニャちゃん、他のも食べないとダメよ。ほら、野菜も食べて」
「カトリーヌ…それカトリーヌが嫌いなやつでしょ…」
「よく食べる人達だねぇ」
「彼らもアイシスにだけは言われたくないだろうな」
「アイシスの方がよく食べる」
本当にね。
これ、食費幾らになるんだろう。
「いやぁバルトハルト殿もお好きですなぁ!実に通好みの酒をお持ちで!」
「何のゴードン殿こそ!これはヤーマン王国の酒ですかな?実に旨い!」
年長者の二人は持参した酒で酒盛りを始めてしまった。
昼間っから。
「あ~…それでそろそろ本題に入りませんか。何故ボクの剣を欲したのです?剣が欲しい理由はわかりますが、何故ボクの剣を選んだのかがわかりません」
「はひ、それふぁでふね」
「喰いながら喋るんじゃないってば!」
「んぐっ、失礼。ええと、剣が欲しい理由はお察しの通りだと思います。勇者の力に耐えられる剣が欲しい、というわけです。そして私の勇者の紋章は、正確には『双剣の勇者の紋章』です。故に勇者の紋章の力に耐えられる剣を二本探して旅をしていたのですが…道中、ジュン殿が素晴らしい剣を持ってると噂で聞きまして。それも私と同じで双剣使いだとか。これだ!とピンと来まして。譲って頂こうと参上した次第です」
「なるほど…」
どうやら【フレイヤ】と【アトロポス】の能力を知って来たわけではないらしい。
だからと言って譲るわけじゃないんだけど。
「しかし、ボクは譲るつもりはありませんので。諦めてください」
「そう仰らず!チャンスをください!」
「無理です。それにボクの剣じゃないとダメという理由も無いでしょう?新しく作る事だって可能な筈です」
「無理ですよ。勇者の力に耐えれる剣となると最低でもアダマンタイト製。出来ればオリハルコンです。そんな物作る御金はありません!」
「情けない事を堂々と言わないでよ…」
「事実だし、仕方ない。父は私の剣は自力で手に入れろと言って金を出してはくれませんでしたし。それに私は少しでも早く国に帰りたいんですよ」
「何か事情があるんですか?」
「はい!私が勇者に相応しい剣を持ち帰ったら妹と結婚する事になってるんです!」
「「「はい?」」」
「はぁ…ほらぁやっぱりおかしな事なのよ。兄妹で結婚なんて。いくら法で認められてるからって」
「あの…どういう事なんです?」
剣を手に入れる事と妹と結婚する事がどう繋がるのだろう。
「ええと、ですね。王子が勇者の力に耐えれる剣を手に入れて帰ったら、王位を譲ると、現国王ヨハン様は仰いまして。そして王子が王になると同時に妹…オリビア姫と結婚する事になっているんです」
「それは…よく認められましたね」
「まぁ…ダーバ王子とオリビア姫が相思相愛…重度のシスコンとブラコンなのは見てわかりますから。既に手遅れと誰もが思うくらいに。ヨハン様も早々に諦めてしまいました」
「それは筋金入りですね」
「はい!筋金入りです!というわけで剣を譲ってください!」
「御断りしまーす」
理由と事情はわかったが、それはそれ、これはこれ。
剣を譲るつもりは無い。
「素晴らしい!素晴らしいですね!」
「え?ユウ?」
「兄妹で結婚!いいじゃない!愛し合っているなら!なんて羨ましい!」
「あ~…はいはい…」
ミザリアさんに続き…ユウの同志が現れてしまったか…。
「わかっていただけますか!」
「ええ!ぜひ応援させて頂きます!」
「あ~えっと~…」
「つまり~ユウ様もブラコンって事じゃないかしら?」
「そうみたい…?」
「ああ、なるほど。そっか。じゃあジュン様は…ユウ様と結婚するんですか?」
「しませんよ」
「するよ!決定事項です!」
「認めた覚えはないぞー」
流石に本気なのはもう伝わってるが…ボクにそのつもりはない。
しかし、多いな兄妹結婚。
「なるほど…ユウ殿の想いはジュン殿に届いていない、と。わかりました。ユウ殿、私もユウ殿を応援させて頂きます!」
「はい!ぜひ!」
「はい、食事が終わったなら、お引き取りくださーい」
ダーバ王子一行には早々にお引き取り頂こう。
ユウと混ぜてはいけない。
混ぜるな危険である。
「まぁまぁ、お兄ちゃん。協力してあげようよ、ね?ヤーマン王国の次期国王に恩を売るのは悪い事じゃないって」
「いや、ダーバ王子の要求がボクの剣である限り無理だろう」
【フレイヤ】と【アトロポス】は渡すわけにはいかないんだから。
それは絶対だ。
「ううん、お兄ちゃん。ちょっと違うよ。ダーバ王子が欲しいのは勇者の紋章の力に耐える事が出来る剣であって、お兄ちゃんの剣が必ずしも欲しいわけじゃないんだよ?ですよね?」
「え?ええ、まぁ」
「同じ事だろ?」
「いやいや。お兄ちゃんの予備の剣でも目的に叶ってるんじゃない?」
「予備の剣って…」
アダマンタイトとミスリルの合金製の剣にオリハルコンを少量混ぜた長剣と小剣の二本の剣の事か。
あれもステファニアさんの力作。立派な名剣だ。
確かにあれでもダーバ王子の目的には叶うだろうけど…。
「ユウ、あれは確かに予備の剣だけども…それでも相当な金額の剣なのはわかってるよね?今日会ったばかりの人に無償で譲る事は出来ないよ?」
「そんな、ジュン殿!私と貴方の仲じゃないですか!」
「どんな仲なの?ターニャちゃん」
「せいぜい知り合い…」
「そうね。友人ですらないわね」
「お前らどっちの味方だ!」
それにどっちかというと心象はマイナスだしね。
嫌いとまで言うつもりは無いけど。
「え~と…じゃあ何か交換条件を出してあげようよ。剣を渡す代わりに何かしてもらえばいいじゃない」
「ん~?何かって言われてもなぁ…」
「そうだ!ジュン殿!我々と勝負しませんか?我々が勝ったら剣をください!」
「勝負ですか?ボク達が勝ったら?」
「私達が一つだけ何でも言う事聞きます!」
「ちょっ、ちょっと王子!何で私達まで!」
「私一人じゃ賭けの釣り合いがとれないだろう?なーに勝てばいいんだ、勝てば」
「そうだけど~負けたら私達どうなるのかしら」
「きっと…妾コース…」
「それは困っちゃうわねぇ。いい暮らしは出来そうだけどぉ」
「あんた達、ボクに対するイメージを一度明確にしてもらえます?」
ほんと好き放題に…。
ボクだって怒る事はあるんだけどな。
「それで、どうでしょう?勝負して頂けますか」
「勝利の報酬に魅力を感じないので、御断り…」
「受けましょう!」
「うぉおおい!」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん!勝てばいいんだから!私も全力で協力するから!」
「今回に限っては全く信用出来ないなあ!」
「決まりですね!勝負方法は私達が決めてよろしいですか?こちらは六人だけですし」
「はぁ…わかりましたよ。ですが誰が勝負するかはこちらで決めさせてもらいますよ。そうだなぁ…城の中にいる者から好きに選ばせてもらいます」
「ふむ…いいでしょう。ただし、アイシス殿達は除外で。彼女達はヴェルリア王国の人ですしね」
「…いいでしょう」
チッ。
どんな勝負でもアイシスなら勝てそうだと思ったのに。
そこまで甘くないか。
こうして、何故かよくわからないうちにダーバ王子一行と勝負をする事になったのだった。




