第152話 幽霊とセバスト 1
レヴィさん達がエルムバーンに来て約一週間。
アイシス達もエルムバーンの戻り、少し皆の怒りも治まった頃。
アイの提案でまたピクニックに行った。
皆、少しばかり心も荒んでいたし必要だったと思う。
アイはいつもこういう時に必要な提案をしてくれる。
非常に有難いと思う。
その御かげあって、皆普段の自分に何とか戻れた五月初頭。
勇者の遺物の情報も、神獣白猿(雌)の情報も無いので、それぞれ少しの間好きに過ごす事になった。
皆、好きに過ごす中、ボクはというと。
次に奴に会った時、逃がさないように奴の転移を封じる術を考えていた。
転移を封じないとまた逃げられてしまう。
普段自分が使ってる魔法だが、敵が使うと厄介極まりない。
それに、いつかボクも転移を封じられる事があるかもしれない。
転移を封じる術を考える事で、その対策も考えられるはずだ。
その為に魔法を封じる何か、を調べている所へセバストがやって来た。
「ジュン様、冒険者ギルドから呼び出しだ。指名依頼だそうだぞ」
「指名依頼?誰から?」
「ギルドマスターからみたいだ」
「激しく嫌な予感がする…」
「行かないのか?」
「いや、行くよ…」
行かないとギルドマスターが城に来るだけだろうし。
とにかく話を聞こう。
ハティとティナ達を除いた何時ものメンツで冒険者ギルドへ向かう。
ハティはセリアさんと遊ぶらしい。
ティナ達はレヴィさんを王都に案内するそうだ。
ティナ達にとってレヴィさんは初めて出来た年下の後輩のようなものなのだろう。
先輩顔したいのかもしれない。
ボクとしては年も近いし友人になってあげて欲しいとこだ。
「こんにちは、ウーシュさん。指名依頼が入ったという事で来たんですが、ギルドマスターはいますか?」
「あ、ジュン様。こんにちは。ギルドマスターならいますよ。ジュン様達が来たら部屋まで通すように言われてます。どうぞこちらへ」
ウーシュさんの案内でギルドマスターの部屋へ。
そう言えばギルドマスターの部屋に入るのは初めてかな?
「ジュン?どしたの?」
「いや…何だろう。ギルドマスターの部屋に近づくにつれ嫌な気配というか…ボクの何かが激しく警鐘を鳴らしてるんだけど。あの部屋に入るなって本能が告げてるんだけど」
「魔獣でもいるのか?」
「いや…それとは別の…」
「冒険者ギルドのギルドマスターの部屋に危険な存在なんていないでしょ。とにかく入ろうよ、お兄ちゃん」
「どーしたんですかぁ?開けますよ?」
「…はい」
この感覚は多分、きっとアレ。
ボクが最も苦手とするアレ。
「おう。来たか。今日はこいつを成仏させて欲しくてだな――」
「さよなら!」
やっぱりだよ!
このガチムチ親父め!人が幽霊苦手なの知ってて指名依頼なんてしおってからにぃ!
て、うぉおう!
「ぶ!」
「はいはい、落ち着きなさい、ジュン」
「転移で逃げるのも禁止ね、お兄ちゃん。話が進まなくなるから」
「おいいいい!この裏切り者!」
転ばされた挙句、押さえつけられてしまった。
どうして二人が敵に回るのさ!
「なんだ、お前まだ幽霊が苦手なのか?いい加減克服しろよ」
「うっさい!バカ!アホ!ハゲ!ロリコン!」
「誰がハゲだ、こらぁ!ロリコンでもないぞ、俺は!」
「うっさい!剃り込みハゲ!人が幽霊苦手にしてるの知ってるくせに二度も指名依頼なんてしくさって!」
「仕方ないだろう!つうか今回はお前がメインじゃ無くてセバストがメインだ。お前のパーティメンバーでお前がリーダーだからお前さんに指名依頼って形になったが」
「え?じゃあ最初からセバストだけ呼んだってよかったんじゃないの?」
「まぁな。だが一応は神聖魔法が使える奴にも控えてて欲しいんだわ。そこでお前に――」
「だから何でわざわざ苦手にしてる奴選んでんだよ!ハゲ!」
「だからハゲじゃねえ!お前にとっても無関係な話じゃないだろうが!お前の部下でパーティメンバーへの依頼なんだから!それにこいつはエルムバーンの国民だぞ!幽霊になっちまったがな!魔王子様なら協力しやがれ!」
「くっ…痛いところを…」
「とにかく話を最後まで聞こうよ、お兄ちゃん」
「メリールゥと同じで怖い感じなんてしないから。足が透けてる以外は普通の女の子だよ」
「ほれ、とにかくそこに座れ、な」
「三人とも覚えとけよ…」
兎に角、話が出来ればいいなら…
「アイはそこ、ユウはここ。ノエラはボクの後ろ。正面はクリステアで。リリーはここ。ルチーナはここ。シャクティはここ。セバストはギルドマスターと話をして。ボクはここで聞いてるから」
「どんだけ怖がってんだよ、お前…」
「許されるならギルドマスターごとここを吹き飛ばして逃げ出したいくらいですけど?やっていいですか?」
「オッケー、わかった。そのままでいい。じゃあ、セバスト。話を聞いてくれ」
「あ、ああ…」
「依頼の内容はこいつが成仏するための協力だ。こいつは元冒険者のシンシア。ジュンが冒険者になった日のほんの数日前に冒険者になった奴だ。知ってるか?」
「いや…悪いが知らないな」
「あの、私…ジュン様が冒険者登録をした日にパーティーを組みませんかってお誘いした者です。覚えてませんか?」
「え?」
そう言えばそんな事もあったような?
あの時の女の子か…確か三人組だったと思うけど。
「思い出したよ。確か三人組だったよね?他の二人はどうしたの?まさか…」
「会話するなら顔見てやれよ…」
ハゲマスターが何か言ってるけど、スルーする。
「はい…お察しの通り、私達のパーティーは全滅しました。私は強い未練があったのでこうして浮遊霊としてここにいますけど…」
「その未練に俺が関係してるのか?悪いが俺はお前さんと何かあった記憶が無いんだが」
「あ、はい。会話をしたのも今が初めてです。でも私…セバストさんが好きなんです!」
「「「え」」」
未練があって浮遊霊になって…セバストが好き。
つまり、想いを遂げたいと?
「冒険者ギルドでジュン様と一緒にいるセバストさんを見てて…かっこいいなあってずっと思ってて…思いを伝える前に死んじゃって…それで…」
「ま、待て待て。あんたが俺を…あ~好きだってのは光栄な話だがちょっと待て。想いを告げてそれで終わりじゃないんだよな?その先がまだあるんだよな?」
「はい…わ、私と…デートして下さい!」
「「「デート?」」」
出来るの?幽霊が?
いや、まぁ会話も出来るし移動も出来るなら…何とかなる、かな?
「つまり、だ。生前に想いは告げられなかったがせめてデートくらいはしたいと。そうすれば成仏出来るってんだな?」
「はい!あ、でももう一つ…未練というか心残りが」
「な、何だ?」
「仲間の…サラとステラの遺品を回収して家族に届けてあげて欲しいんです。出来れば仇も…」
「シンシアさんの分はいいの?」
「はい。私には家族はいませんでしたから…」
「シンシアさん達の仇って…相手は何?」
「わからないんです。死ぬ寸前の事は思い出せなくて…すみません」
「というわけだ。受けてやってくれないか?死んだとはいえ同じ冒険者からの頼みだ。俺からも頼む。報酬はちゃんと――」
「受けましょう。セバストはデートしてあげなさい。ノエラは残ってボクとの連絡役。ボクはシンシアさんの敵討ちに行ってくるから」
「え?いや…神聖魔法を使える奴が残ってくれないと…」
「その為にノエラに残ってもらいます。何かあれば魔法道具で連絡を。転移ですぐ戻るから」
「ジュン様、私はジュン様とご一緒したいのですが」
「ノエラは前回危険な目にあったばかりだしね。今回は安全な方で。それにセバストはノエラのお兄さんでしょ?」
「…はい、わかりました」
「仕方ねえな…」
二人共、渋々ながら受け入れてくれた。
よかった、これで幽霊から離れられる。
シンシアさんには悪いけど、仇は討つから許して欲しい。
しかし、向かった先に居たのがアレとはこの時のボクは想像もしていなかったのである。




