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第140話 レヴィとヒーノ

「そうだ、名前。名前を決めないと」


「ぴ?」


最初から思ってたけど、私の言葉を理解してるみたい。

思えば爆発する前にも喋っていたし、言葉を理解して当たり前なのかな。

例え孵化したばかりの雛でも。


『名前は不要です』


「わっ、びっくりした。もう喋れるの?」


『実際に声を出して喋っているわけではありません。念話です』


「念話?」


『精神魔法の一つです。心の声を対象に聴かせる魔法で貴女にしか聞こえません』


「もう魔法が使えるの?凄いね」


『そうでもありません』


「え~?だって生まれたばかりなのに」


『私は転生前の記憶を引き継いでますので。魔法の知識も当然引き継いでます』


「あ、そっか。フェニックスだもんね」


記憶があれば生まれたばかりでも使えるものなのかな。

経験がないから分かんないや。


「それで、名前は不要って何で?名前が無いと不便じゃない」


『不要です。私はここから出て行きますので』


「え?何で?私何かやっちゃった?」


『貴女に不満があるとか問題があるとかではありません。私の問題です』


「問題?そういえば森にいた貴女は怪我してたよね」


『…私はある人族に捕まっていたのです。そこから逃げ出す時に、負傷しました』


神獣に傷を?

誰だか知らないけど、相当に強いに違いない。

それ以前に神獣を捕まえるなんて。


『恐らく追手を放っているでしょう。此処にいれば貴女にも迷惑をかける事になる。世話になりましたね。この恩はいずれ…』


「待って!どこか行く宛があるの?」


『ありません。私は元々、一つの場所に余り長く留まる事をしないので』


「そうなの?どうして?」


『それは…特に理由はありません』


何だか嘘っぽいけど、今は追及しないでおこう。


「でもさ、追手から逃げ切れるの?いくら魔法が使えるって言っても、今の貴女は弱いよね?」


歩いて部屋から出ようとしてるあたり、まだ飛べないみたいだし。


『それは…』


「だったら、せめて自分で自分を守れるようになるまでここにいるといいよ。私も少しは戦えるからさ」


『分かりました…貴女の言う事は尤もです。少しの間、世話になります』


「うん!よろしくね!じゃあ早速名前を決めよう!あ、名前って実は既にある?」


『ありません。私には不要ですし』


「いや、名前が無いと不便でしょ?大丈夫。私、魂の名前を視る魔法を使えるから」


『はぁ、まぁ無理だと思いますが…』


「無理?どうして?」


『まぁやってみてください。その方が納得いくでしょう』


「う、うん」


言われた通りに魔法で魂の名前を視る。

でも、全く視る事が出来ない。

どうして?


『視えましたか?』


「ううん。どうして?」


『私は一度も名前を付けられた事が無いので』


「あ、そっか。生まれ変わっても記憶が残ってて、名前が無いって言う事は」


『私がこの世に初めて生を受けた時から一度も名前で呼ばれた事が無いという事です。強いて言うならフェニックスですか。ですがフェニックスは種族名であって個体名では無いので』


「ふ~む、なるほどぉ」


名前で呼ばれた事が無いから、魂に刻まれた名前が無いなんて。

何だかちょっと…寂しい気がする。

自分の事じゃないから想像、勝手な思い込みかもしれないけど。


「よっし!私が名前を考えてあげる!」


『は?私には不要ですと言ったではないですか』


「だって不便でしょ?」


『はぁ…まぁいいでしょう』


「素直に喜んでいいのに。えっと、フェニックスだから…フェニ…もしくはフー…」


『考えて頂いてる所恐縮ですが。追っ手がいる以上フェニックスを連想させる名前は止めてください。此処が何処で貴女が誰と暮らしてるのかも知りませんが、周りには出来るだけ私がフェニックスだど悟られないようにお願いします』


「え?追っ手はともかく周りの人にも?」


『フェニックスだと知られるとよからぬ事を考える、そんな人を沢山見てきました。欲望とは怖ろしい物です』


そういえばフェニックスの血を飲めば若返るとか、フェニックスの肉を食べたら不老不死になるとか聞いた気がする。


『先に言っておきますが、フェニックスに纏わる不老不死の類の話は全てデタラメです。ですが、私がそれを説明しても信じない者ばかりでした。貴女は違うようですが、貴女の周りにいる人もそうだとは限らないでしょう?』


それは…そうかもしれない。

欲にまみれてフェニックスの雛を奪い合う人なんて見たくないし、盗賊や国の権力者に目を付けられても困る。

この子がフェニックスの雛だとは極力知られない方がよさそう。

仮に村の皆が味方になってくれたとしても、村の誰かの口から追っ手にバレるかもしれないし。


「でも、完全に何もかも秘密にするのは難しいよ?」


『では…私はヒノトリという事にしておいて下さい。フェニックスによく似た種で幻獣です。火を操る能力も似通っていますし』


「それよりもっと別の、全く似てない種にした方がよくない?」


『かもしれませんが、それだと私の能力が全く使えませんし。自衛の為にも火を使う能力位は使えるようにしておきたいですね』


「そっか。わかったよ。じゃあ貴女はフェニックスじゃなくヒノトリという事で…名前は…ん~ 」


『…そんなに悩まなくても…』


「いやいや、悩む所でしょ。ん~ヒノトリだからヒーノ…ヒノリン…ヒノッチョ…」


『ひ、ヒノリン?ヒノッチョ?』


「ヒノータス…ヒノキオ…ん~…ヒノッチョがいいかなぁ」


『ヒーノにしましょう!シンプルでいい感じです!』


「あ、そう?何か物足りない感じがして一番無いかなって思ったんだけど」


『そんな事はありません!』


「そう?まぁ貴女がいいなら…あ、貴女は女の子でいいの?声の感じは女の子っぽいけど」


『はい、まあ…性別は雌です。あまり性別に意味はありませんが』


意味が無い?

どういう事か気になるけど、今はいっか。


「そっか。あ、私はレヴィね。十二歳の女の子だよ!よろしくね!」


『はい。いつまでかはわかりませんが、よろしくお願いします。ところでレヴィ。貴女は魔法が使えるようですが、召喚魔法は使えるのですか?』


「うん。一応基礎は。まだ契約した魔獣はいないけど」


『ならば私と契約して下さい。その方が信憑性が増します』


「信憑性?」


『私がヒノトリだという話に、です。こう言っては失礼かもしれませんが、貴女は普通の女の子です。神獣と契約したなどと誰も信じないでしょう』


「幻獣のヒノトリなら信じられるって事?」


『少なくとも神獣よりは。それに契約で縛っておかないと不安に感じる人も居るのではないですか?』


それは確かにそうかも。

今は普通の鳥の雛にしか見えないけど、火を使う場面を見られたら危険に思われるかもしれない。


『あと、ここに居る間は貴女に食事を用意してもらわないといけません。契約を結べばその点も解決出来ます』


「えっと…ごめん、どういう事?」


『契約を結べば貴女と私の間に繋がりが出来る。そうすれば貴女の魔力を戴く事が出来ます。ご存知だとは思いますが、私達には普通の食事はあまり意味が無いですから』


「うん、わかったよ。でも、それならここを出てどうするつもりだったの?」


『…この姿でも狩れる弱い魔獣を探すしか無かったでしょうね…後はトレントの実ですが…この姿では同じく実を食べに来た魔獣に狙われたら逃げ切れないでしょうね』


「結局、ここに残るのが一番いいって事だね」


『そうかも知れません…』


神獣と言っても、雛だとか弱い存在なんだなぁ。

あれ?でも転生の度にこんな感じなのかな?


「ねぇ、転生の度にそんな感じなの?だとしたら今までよく無事だったね」


『いえ…本来であれば雛には…卵にまで戻りません。少なくとも普通の鳥くらいの大きさで転生します』


「じゃあ今回は何で?」


『それは…私を捕まえていた人族に体中をいじくられた影響でしょう。何分初めての事ですので推測ですが』


「いじくられたって…何の為に?」


『私の…フェニックスの血や肉を食べても不老不死にはなれません。ですがフェニックスは不死に近いと言えます。その秘密を知ろうとしたのでしょう。実際には秘密なんてありはしないのですが』


フェニックスの体を調べて不老不死になろうとしたって事?

非道いことするなぁ。


「そっか…つらかったね…」


『…貴女は欲しくないのですか?』


「ん?何を?」


『不老不死を、です。先ほども言いましたが貴女は私が見て来た欲望に塗れた者達とは違うようです。過去に貴女と同じ者が居なかったわけではないですが…大抵が欲望に塗れた者達でしたから』


「そっか…それで同じ場所に長く留まる事をしなかったんだ」


『…そういう事です。それでどうなのですか?貴女は不老不死になりたいとは思わないのですか?』


「うん。思わないかなぁ」


『それは何故です?』


「ん~…私ねぇ小さい頃、重い病に罹ってたんだぁ」


『…とてもそうは見えませんが、それはむしろ不老不死を欲しくなる理由ではないのですか?』


「ん~ん。重い病に罹ってたから、私は大人になる事もなく死んじゃうんだろうなって思ってたの。でも優しい人に治してもらえて…こんなに元気になれた。年をとって普通に生きて行けるんだもの。これ以上を望んだら、きっと罰が当たっちゃう」


『そう、ですか…貴女は今、幸せなのですね…』


「うん、まぁね。あ、でも欲が無いわけじゃないよ?美味しい物をもっと沢山食べたいし、お金を稼いでお父さんとお母さんを楽させてあげたいし…あと素敵な旦那さんも欲しいし…」


『フフッ。それくらいなら欲望に塗れてるとは言えませんね』


「そうかな?ま、それよりも契約してもう寝よっか。もう大分夜遅いし」


『そうですね』


こうして私とヒーノは契約を結び、友達になった。

成長したらヒーノはここを離れる事になるけど、その時が来なければいいのにと、私は今から思わずにはいられなかった。

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