第139話 レヴィと雛
主人公視点じゃありません。
少しの間レヴィ視点で続く予定です。
「ちょっとレヴィ~。薪が切れちゃったの。森から枯れ木を拾って来てくれない?」
「は~い」
私はレヴィ。十二歳の女の子。
小さな国の小さな村にお父さんとお母さんとで三人暮らし。
「こんにちは、レヴィ。今日も元気だね」
「あ、隣のおばちゃん。こんにちは」
私は今でこそ元気だけど、昔は大きな病に罹っててずっと寝たきりだった。
でも、私が五歳の時にエルムバーンの魔王子様が治癒魔法で治してくれるって噂を聞いてお父さんとお母さんが村の皆から借金して、エルムバーンに連れてってくれた。
御かげで魔王子様に治してもらえて私の病は治った。
きっと大金を要求されると思ってたけど、魔王子様は一切の御金を取らなかった。
それどころか、病のせいで痩せこけてた私に甘いお菓子までくれた。
神様っているんだなって思った。
「お母さん、持って来たよ」
「ありがとう。あ、ついでに火を点けてくれる?」
「うん」
病が治ってから、私は弓と魔法の訓練を始めた。
家が貧しかったから狩をして稼ぐために。
今まで私の為に無理をしていたお父さんとお母さんを助けたくて。
幸い、私には魔法の才能があったらしくて今では村で一番の魔法使いだ。
「ただいま」
「あ、おかえり、お父さん」
「お帰りなさい、あなた」
お父さんは農作業の合間に弓で狩もしている。
毎日休みなく働いてくれている。
私も狩をするようになって随分楽になったと言ってくれた。
「晩御飯が出来たわよ~」
「は~い」
今日の晩御飯はパンと鳥肉の入ったシチューだ。
この鳥肉は私が狩った鳥だ。
やっぱり肉は最高だと思う。
「そうだ、レヴィ。今日、ブランタ爺さんから聞いた事なんだがな」
「うん?どうしたの?」
ブランタさんは村で一番の狩人で、自警団のリーダーだ。
弓使いの紋章を持ってる。
「最近、南の方で誰も見た事のない魔獣の目撃情報が多いらしい。それも段々目撃情報から察するに北上してるらしい。まだこの辺りでは誰も見てないようだが、お前も森に入る時は注意しろよ」
「うん、わかった。見た事のない魔獣ってどんなの?」
「さぁな。何でも人に近い姿をした魔獣らしいが。あくまで聞いた話だからな」
人に近い姿の魔獣…。
オークとかゴブリンの新種とかかな?
だとしたら近くに巣があるのかも。
やだなあ。
お父さんから魔獣の話を聞いた日から数日。
今日は村の北東にある森に狩に来た。
美味しい山鳥が二羽、ウサギが一羽狩れた。
中々の成果だと思う。
「あ…アレは?何だろう…」
森の中にある小さな泉の傍に何かいる。
お父さんが言ってた魔獣じゃないようだけど…。
「鳥?大きい…燃えてる?」
火を体に纏った鳥…もしかして伝説の神獣フェニックス?
だとしたら凄い!
「でも、何か弱ってる?フェニックスが伝説通りの存在なら死なないはずだけど…」
身に纏ってる火がどんどん弱くなってるし…。
なんだか呼吸も弱弱しいように見える。
近づいても大丈夫かな?
「ね、ねぇ?フェニックス…さん?大丈夫?」
私が近づくと、フェニックスは目を開けて大きく翼を広げて威嚇してくる。
『キュイィィィ!!』
「キャ、ご、ごめんなさい」
何か気に障っちゃったかな。
それとも怖いのかな。神獣なのに。
「あ!血が…怪我してるのね。薬草もってこようか?」
私がもう一度近づくと、フェニックスはまた威嚇して距離を取る。
そして…
『下がりなさい!!』
「え?きゃぁああ!」
大きな火柱を上げて爆発するように消えてしまった。
地面は焼け焦げた跡が残ってる。
「嘘…死んじゃったのかな、フェニックスが…」
それともあれは不死鳥とも呼ばれる神獣フェニックスじゃなかったのかな。
でも言葉を話せるなんて、少なくとも魔獣じゃないし…
「あ、あれは…卵?」
フェニックスが消えた場所に一つの卵がある。
もしかして、これがフェニックスの転生なのかな。
フェニックスは年老いて寿命を迎えた時、新たに生まれ変わる事で再び寿命まで生きる、って聞いた事がある。
もしかして、これがそうなんじゃないかな。
でも…
「いつ孵るんだろう?こんな場所に置いといたら食べられるか潰されちゃうよね」
この森は魔獣はいないけど、動物は沢山いる。
鳥の卵が好物なヘビだっているし、いくらフェニックスでも卵の時に食べられたら無事じゃすまない気がする。
「仕方ないよね。私が持って帰るしかないよね。だって他に誰もいないし。うん、仕方ない」
誰に言い訳するわけでもないけど、実際そうするしかないと思う。
好奇心もあるけど…。
卵を拾い上げて背嚢に入れる。
卵は凄い暖かい。
ううん、熱いと言っていいかもしれない。
あんな大きな鳥、フェニックスが残した卵とは思えない大きさの卵。
手の平サイズだけど、不思議と重い気がする。
「あ、おいレヴィ!森にいたのか!」
「無事か?何か爆発したような音が聞こえたけど、何かあったのか?」
森から出たら村の大人の人達が駆け寄って来た。
近くで狩をしていた人達がフェニックスの爆発音を聞いて来たのだろう。
「うん、何か爆発したみたいだから近くまで行って見たけど…泉の傍に焦げ跡があっただけで他には何にも無かったよ」
「焦げ跡?それだけか?」
「うん。何だか怖いからすぐ帰って来ちゃったし」
嘘をつくのは気が引けたけど、卵の事は秘密にした方がいい気がする。
フェニックスの卵を持ってるなんて知られたら、どんな騒ぎになるかわかったもんじゃないし。
「泉の傍か…わかった。我々で見て来る。レヴィ、お前は村に戻って自警団の連中に同じ話をして来てくれ。森を調べるのに、応援と警戒をするようにと伝えてくれ」
「うん、わかった」
何も見つからないと思うけど…ごめんね?
村に戻って自警団の人達に頼まれた通りに、焦げ跡の話と伝言を伝える。
ブランタさんが数人連れて直ぐに向かうそうだ。
「そう、そんな事があったの」
「お前に怪我は無いんだな?」
「うん、全然。ビックリはしたけど」
晩御飯時にお父さんとお母さんに自警団の人達にした話と同じ話をした。
お父さんとお母さんには本当の事を言うべきかもしれないけど…卵が孵るまでは秘密にしておこうと思う。
家に帰って卵を確認したら、熱いくらいだった卵は人肌くらいに落ち着いてた。
卵だし、やっぱり温めないとダメかなって思って布で包んでお腹に巻いてある。
バレないように少し大きめのダボついた服を着てる。
隣のお姉ちゃんのお古をもらっておいてよかった。
寝てる時はうっかり割っちゃいそうで怖かったけど、この卵は結構丈夫みたい。
普通の卵よりも硬い。
うっかり落としても大丈夫そう。
怖いから落とさないけど。
卵を温め始めて三日目の夜。
遂に卵が孵化するみたい。
「ぴ、ぴぃぴぃ」
「わぁぁぁ、生まれたぁ」
よかったぁ、ちゃんと孵化してよかった。
神獣フェニックスの卵を台無しにしたら、どう責任とっていいかわからないもの。
誰にとる責任なのかもわからないけど…。
「て、あれ?」
フェニックスの雛がもう目を開けて私を見てる。
もう立ち上がってるし、やっぱり神獣の雛だけあって普通じゃないのかな。
卵から三日で孵化する事も普通じゃないか。
「とにかく…無事に生まれて良かったね」
「ぴゅい」
これが私とフェニックスの雛との出会い、物語の始まりだった。




