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第137話 ミザリアは怖ろしい子

ブーダンビル魔王国周辺の島々の調査を突貫作業で終わらせた後、ブーダンビル本島にある未調整領域に来ていた。


ブーダンビル本島は河川が多く、水棲系の魔獣や水場を好む魔獣が多くを占めていた。

蛙人族も水場を好む種族なので、河川の多いこの島に住み着いたのだろう。


「御父上…ケロン様にはまだ気付かれてはいないのですか?」


「流石に怪しまれてはいますね。ただジュン殿達と行動してるとは気付いてはいないはずです」


「大丈夫。私との逢瀬を楽しんでると思うように偽装してるから」


「それ、本当に大丈夫?」


自分の息子と娘が逢瀬を重ねてる…普通の親ならまず間違いなく止めるはすだが。


「大丈夫じゃないですね。何やってんのお前」


「大丈夫大丈夫。ママも協力してくれてるから」


「母上…」


母親は子供の味方なのか。


「御母上は戦争回避にも協力的という事ですか?」


「あ、はい。実は戦争もやむなしと考えてるのは父上と一部の家臣だけですから」


「え?そうだったの?」


それは初耳だな。

じゃあ、もっと簡単に戦争回避出来そうに思えるけど。


「ブーダンビルでは…いえ、魔王国では魔王の権力は絶対ですから。周囲がどれだけ反対しても魔王が決めたら戦争は始まります。あまりに強引だと、家臣も国民も付いてこないのである程度は周りの意見を聞きますけどね、父上は」


それはまぁそうか。

エルムバーンもそうだし。

ていうかボクが将来、エルムバーンの最高権力を持つんだよな。

柄じゃないんだけどなぁ。


「ジュン様、魔獣だ」


先頭を歩いていたセバストが魔獣を発見する。

あれは…カニ?


「あれは『シザーズクラブ』ですね。爪が鋭利な鋏になっていて鉄くらいなら簡単に切り裂きます。爪にさえ気を付けていれはそれ程危険な魔獣ではありません。因みに美味ですよ」


現代地球で世界最大の大きさを持つタスマニアキングクラブよりもデカい。少なくとも水族館で見たやつよりは。

だって子鹿くらいの大きさをがあるもの。


「今日は蟹鍋だな」


「いいね」「締めは蟹雑炊だね」


あの大きさだと、普通の鍋じゃ胴の部分は入らないな。

脚もいくつかに切り分けないと。


「ジュン様」


「ここはあたい達に任せてくれ!」


ルーとクーがやる気のようだ。

シザーズクラブはそれ程強く無さそうだし、それに数は二体。

任せていいだろう。


「わかった。やってごらん。但し危ないと感じたら、即座にボクが介入するからね」


「「はい!」」


二人でいい返事をして、シザーズクラブに向かって駆けて行く。

セバストとノエラも、何時でも二人のフォローに入れる位置に着いている。


「島の調査の時から思っていましたが、エルムバーンではメイドも戦えるのですね」


「全員ではありませんけどね。あの二人は優秀なんですよ」


本当に。

とても元は奴隷だったとは思えない。

ルーとクー。ティナとニィナの四人は今年十四歳。

より一層、大人っぽくなってきた。

あと数年でかなりの美人さんになるだろう。


「やった!」「勝った!」


危なげなく勝てたようだ。

二人共、怪我も無いようだし。


「二人とも、よくやったね」


「えへへ」「へへへ」


褒めながら頭を撫でると子供のように喜ぶ。

やっぱりまだ子供かな。


「ご主人様!次はあたしがやるね!」


ルーとクーが褒められてるのを見てヤキモチを妬いたのか、今度はハティがやる気を出す。

ハティはまだまだ子供だね。


それからも調査を続ける事、数時間。

魔獣とは何度か遭遇しているが、鉱脈等は発見出来ていない。

日が傾いてきたし、今日の調査はここまでかな。


「ジュン様、アレを見てください」


撤収する寸前に、クリステアが何か見つけたようだ。

クリステアが指差す方向を見ると、川から煙りが出ている。


「あれはもしかして…」


「ああ、温泉ですね。この辺りは温泉地帯なんですよ」


「温泉…入れる温泉ですか?」


「え?さぁ…我々には温泉に入る習慣が無いので…」


詳しく聞いて見ると。

蛙人族には温かい風呂に入る事は無く、何時も水風呂だそうだ。

冬でもヌルい水風呂らしい。


「入らないというより、入れないという方が正しいですね。我々は熱いお湯が苦手な種族なので」


「そうなんですか」


それはちょっと気の毒。

温泉気持ちいいのに、入れないなんて。


「ユウ、鑑定できる?」


「うん、大丈夫。人体に有毒な成分はなし。温度も適温」


「じゃ、せっかくだし入ってく?」


「いいね。入ってくか」


「「え?」」


「あ、お二人と護衛の方は入らないならただ待つだけになっちゃいますね…。今度にしようか」


「いえ、待つのは構わないのですが…」


「ここ、外だよ?外で裸になるの?」


そうか、温泉に入るという風習が無いなら露天風呂の風習も無いのか。

実に勿体ない。


「大丈夫ですよ。水着がありますから」


「でも、どこで着替えるんです?脱衣所なんてありませんよ?」


「それも大丈夫ですよ」


魔法の袋から馬車を取り出す。

マジックハウスを出してもよかったけど、着替えるだけなら馬車で充分だ。


「何でもありなんですね…」


「そこまでして温泉に入りたいの?エルムバーンの人ってわからないわ…」


驚きと呆れが混じったような声を出す二人には悪いけど、少々時間をもらって温泉に入るとする。

旅先で必要になるかもしれないと、水着を魔法の袋に入れておいてよかった。


「ふふ…水着有りなのは残念ですが…念願のジュン様との混浴です。たっぷりと堪能しなくては」


「姉さん…他所の国の人が居るんだから自重して…」


全くだ。

普通に温泉を堪能なさい。


「ところで、ミザリアさんに聞きたい事があるんだけど」


「ん?何?」


「ミザリアさんはロミリオさんと結婚するつもりなんだよね?」


「うん!そのとーり!というか、つもりじゃなくするの!決定事項です!」


「いつ決まったんだ、いつ」


「でもさ、ロミリオさんとジュリエッタさんの結婚は認めるの?なんか応援してるように見えるんだけど」


アイはロミリオ君のツッコミはスルーして話を続ける。

それはボクもちょっと気になるなぁ。


「ん?ん~…まぁお兄ちゃんを独占したい気持ちは確かにあるけど…お兄ちゃんの気持ちも尊重したいし。幸い一夫多妻制が認められてるしね。あたしはお兄ちゃんと結婚出来ればそれでいいよ」


「ミザリア…お前…」


「まぁ結婚後はお兄ちゃんの一番をジュリエッタさんから奪って見せるけどね!」


「ミザリア…珍しく殊勝な事を言ったかと思えば…」


「いいわ、ミザリア。その通りよ!貴女なら出来るわ!頑張って!」


「煽らないで下さい、ユウ殿。ミザリア、何度も言うけどお兄ちゃんにはお前と結婚するつもりはないからな」


「と、ロミリオさんは言ってるけど?」


「ふふん!大丈夫よ!我に絶対の秘策あり!」


「ほほう。その策とは?」


「これよ!」


ミザリアさんが取り出したのは一つの小瓶。

何故だろう。危険物な気がしてならない。


「お前、それ…まさか…」


「そう!我がブーダンビル魔王家に伝わる秘伝の媚薬です!」


「「「!!!」」」


あ、やっぱり危険物だったよ。

ハティを除く女性陣全員が反応したもの。


「これを飲んだら例え干涸らびた枯れ木のような老人でも!発情期の犬猫のようにハッスルするという!」


「お前、それ一部レシピが失伝されてたはずだろ。どうやって作った」


「あたしが自分で研究して!」


「優秀過ぎるのも困ったもんだな、おい」


うん、ロミリオ君に完全同意。

ミザリア…怖ろしい子…。


「ねぇミザリア。効果は確認してるの?」


「もちろん!ばっちりよ!」


「どうやって確認したんだ?まさか、お前…」


「自分で使ったりはしてないよ。ほら、最近あたしのメイドの一人が結婚したじゃない?」


「ああ、あの騎士団長と結婚した。て、お前まさか…」


「そう!この媚薬のおかげです!」


「堅物で有名だった騎士団長がいつの間に、と思っていたが…お前ってやつは…」


「あたしは恋に悩む家臣の背中を押しただけだも~ん。それに二人とも幸せそうだし、いいじゃない」


本当に怖ろしい子だな。

ロミリオ君の貞操が危険だ。


「でも安心して、お兄ちゃん。これは最終手段にしておくから」


「うん、全く安心出来ないけど。せめてそうしてくれ」


「ねぇ、ミザリア。それ譲ってくれない?」


譲ってもらってどうするつもりだ、妹よ。

いや、だいたい解るけど。


「ダメよ。これ、高価で希少な材料をいっぱい使ってるから。そんなに量は無いの。レシピを教えてあげるから自分で作りなさい」


「うん、ありがとう!」


「ユウ様、材料集めには私もお手伝いします」


「私も。ですので…」


「分かってる。皆まで言う必要はないわ」


あ、これ、ボクも危険だわ。

早くなんとかしないと…。

どうしたものか…。

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