第126話 王家の事情
「成程、勇者の墓が…」
「敵同士が夫婦に。素敵」
城に戻って来たボク達は、城で待ってた皆に説明中だ。
黙っておく、という選択肢もあったのだが、フランコ君とセリアさんに説明するのにノエラ達には秘密にする、というのがどうにも嫌だったので、一緒に聞いてもらっている。
勿論、秘密厳守を言い聞かせた上で。
それにしても、セリアさんの反応は意外にも乙女だ。
「それで、今後の予定は?。今日はこのまま城に泊まるとして」
「いいの?城に泊まって」
「いいよ。非公式だから歓迎の宴を開いたりはできないけどね。いいですよね?お父さん」
「ああ。あまりウロウロされては困るがな。バルトハルト殿の縁者なら、その辺りは弁えているだろう?」
「勿論です。心配要りませんぞ」
「うむ。では、今日はゆっくりするといい。部屋は直ぐに用意させよう。セバスン」
「畏まりました。直ちに」
話は終わり、とりあえず皆をボクの部屋に案内する。
「へぇ~。ここがジュンの部屋?」
「意外に普通」
「意外?どんな部屋だと思ってたの」
「ん~?もっとこう…特殊な感じの…」
セリアさんの中のボクってどんなイメージなんだろうか。
特殊な自室を持ってるようなイメージなのか?
「それで今後の予定は?王都ヴェルサイユに向かう、でいいのかな?」
「ああ。アストラバンまで転移で戻って、馬車で王都まで二週間くらいか。いや、そちらのゴーレム馬車を使わせてもらえるなら、もう少し早いか」
ゴーレム馬車なら十日くらいかな。
もう少し早いかもしれない。
「夜はここに戻って来るの?ジュン様」
「ん?野営する必要がないなら、そうなるね」
「あ、そっか。ジュン達と一緒に行動するなら、僕達もジュン達と一緒に快適な旅が出来るんだ」
「うん。毎日ベッドで寝れる。素敵」
「ああ。寝るとき虫の対策しなくていいのは嬉しいな」
「毎日、酒を飲んでもいいのか。なんたる至福」
勇者パーティーの面々は純粋に喜んでいるようだ。
やっぱり旅って大変だよね。
「しかし、いいのか?ジュン殿」
「うん?何が?」
「私達を此処に泊めて。遺物を探す旅が終わるまでは此処で暮らすようなものだろう?」
「ああ。まぁ構わないよ。あとで城内を案内するから、入っちゃダメな場所も説明するし、そこに入らなきゃ問題ないよ」
しばらくは監視も付くだろうし。
「それもあるが…滞在費用の問題もあるだろう。特にうちにはよく食べるし、よく飲む人がいるからな」
「ああ。なんだ、そんな事。この城に泊まるのに費用なんて取らないから安心して。同じ冒険者パーティーの仲間になったわけだし、仲間を家に泊めたからって御金を取ったりしないよ」
まぁ、四人の滞在費用なんてたかが知れてるし、国の予算で問題無く出るだろう。
もし、問題があればボクが払ってもいい。
新装備の費用で今まで貯めたお金の殆どがふっ飛んだけど、それでも四人の滞在費用を払うくらい問題無い。
「後悔する事になると思うが…」
「そんな大袈裟な」
まだ数日しか一緒に旅をしてないけど、そんな問題視するような人はいなかった。
と、思っていたのだが。
「セバストさんの料理はやっぱり美味しいね!おかわり!」
「あ、ああ」
「いや~メシが美味いと酒が進みますな!それにいい酒です!国産ですかな?」
「ええ、まぁ…」
今日は宴会と言うほどではないけど、好きなだけ飲み食いしていいと宣言したのがいけなかったのか。
アイシスは一人でもう十人前は食べている。
鶏の丸焼きなんて物も出て来たのだが、ペロリと食べてしまった。一人で。
バルトハルトさんも異常だ。
テーブルの上には空の酒瓶が二十本。
全て生で飲んでしまった。一人で。
「(ちょっとフランコ君。これはどうなってるの。旅の間はあそこまで凄くなかったよね)」
「(だから言っただろう、後悔する事になると。あの二人は旅の間、野営では多少自粛してるが街では食べるし飲む。私達の旅で最もお金がかかったのは飲食費だ)」
「(でもアストラバンの宿では…)」
「(あの時は君達は早々に部屋に戻って寝てしまったが、あの二人は遅くまで飲み食いしていた。それに野営中は自分でこっそり持ってる食べ物や酒を飲み食いしてるんだ、あの二人は)」
それほどなのか。
そして自粛を止めるとああなると。
「(アイシスが大食いなのは理由がある。勇者の紋章は消耗が激しい。その為に食事の量は多くなる。紋章を使わなくてもな。使った日は更に沢山食べるが)」
今日は使ってないから、アレで通常だという事か…。
「(武闘会の時の食費、とんでもない事になってたんじゃない?)」
「(ああ。優勝賞金が無ければ私達の旅はあそこで終わってた)」
「(バルトハルトさんの酒は?)」
「(あの人のアレはただの酒好きだ。理由はない。何故あれだけ飲んで平気なのかはわからん)」
まぁボクも多分平気だけども。
ヴェルリア王国はロシアと同じように厳しい寒さの国。
だからお酒をよく飲むし、強いんだろうけど。
「止めなくていいの?」
「止めておけ。あの人は気分よく飲んでる時に酒を止められるのを一番嫌う。理不尽なまでに怒られるぞ。酔ってるから理屈は通じないし」
厄介な…。
しかし、これじゃ宴会と変わらないな。
バルトハルトさんに付き合って酒を飲んでた父アスラッドと母エリザはとっくに潰れている。
アイシスと一緒に食べてたユウ達も早々にギブアップ。
今はアイシスが一人で食べている。
結局、バルトハルトさんは潰れるまで飲み続け。
アイシスは鶏の丸焼きをもう一度食べて、デザートで〆た。
そして翌朝。
「いや~面目ない。流石に昨日は少し飲み過ぎました」
「僕も昨日はちょっと食べ過ぎたかも。少しの間、お腹が張って苦しかったよ」
「あれでちょっと何ですね…」
今朝はセバストじゃなく、城の料理人がご飯を作っている。
昨日、アイシスの為に料理を続けたので疲れきってまだ寝てるらしい。
無理もない。
「朝食が済んだら、今日はアストラバンから王都ヴェルサイユに向かうんだよね」
「うん。そうだよ」
「ヴェルサイユって、どんなとこ?」
「綺麗なとこだよ。水が豊富にあって水の都って呼ばれてる」
「ふ~ん。ねぇ、ヴェルサイユにいる間は、やっぱりウチらは冒険者として来てるって事にしといた方がいいの?」
「そうだな…その方がいいだろう。王城にも入らない方がいい。必ずバカな貴族が接触して来るだろうからな」
「そうだな…王都にある我がノーヴァ家の屋敷に滞在されるといい。歓待しますぞ」
「お忍びの方がいいなら、ボク達は転移で戻って、後日合流でもかまいませんよ?観光はしたいから王都内には入りますけど」
「ん~多分カタリナが会いたがると思うんだ。だからうちの屋敷に居て欲しいかな。あそこならカタリナも来やすいから」
「カタリナさんか…分かった。そうさせてもらうよ」
久しぶりに会うし、治癒魔法使いの育成と学校の設立がどうなったか、聞いておきたい。
「でも本当にいいの?」
「うん?何が?」
「挨拶に行かなくて。幾らお忍びでって言っても、ウチらは魔王女と魔王子なわけだし」
「そうね。国民はともかく、軍事や政治に携わってる人にはバレるだろうし」
ヴェルリア王国にも諜報機関はあるだろうしね。
アイシス達のように顔を隠すくらいしないと。
「問題ありません。国王陛下には、私から話しておきます」
「それに王城には本当に行かない方がいい。バカな貴族だけじゃ無いんだ、警戒すべきは」
「ちょっと、フランコ」
「黙っておくべきか、悩んだけどな。これからも行動を共にするなら、知っておいてもらった方がいい」
「何の話?」
「今、ヴェルリア王国では跡目争いが起きてるんだ。まず第一王子のエルリック殿下。次に第二王子のマークス殿下。それから第三王女のカタリナ殿下」
「あれ?第一王女と第二王女は?」
「第一王女アウレリア様と第二王女パメラ様は既に他家に嫁いで王位継承権は放棄されている」
「ふ~ん。それで?どうして跡目争いが?普通なら第一王子のエルリック殿下で決まりでしょ?普通なら」
「うん…エルリック殿下は第二王妃の御子なんだよ。そしてカタリナとマークス殿下は正妃の御子なの」
「加えて、エルリック様は王としての器はない。国民にも人気はないし、王家の権力をかさにきてやりたい放題だ。対してカタリナ様は国民に人気だし、器もある。マークス様もカタリナ様程ではないが国民に人気だ。それにカタリナ様がマークス様を次期国王に推してるんだ。自分よりもマークスの方が相応しいと言って」
「あれ?じゃあマークス殿下で決まりじゃないの?」
「ところが、マークス様はカタリナ様を支持してるんだ。そうやってバランスを取らないと危険だからな」
「危険って…まさか…」
「マークス様の支持が断トツになると、暴走したエルリック様の手によって暗殺…何て事もあり得るからだ。それを防ぐ為にバランスをとってるんだ。そして、王城に行くと、そのバランスを崩すためにエルリック様がジュン殿達に近づく可能性がある、という事だ。というか間違いなく何かしてくるだろうな」
「ウチらに近づいて何になるの?別にウチらヴェルリア王国の王位継承に口出し出来る立場にないんだけど」
「拍付けじゃないのか?エルムバーンの魔王子と仲良くやってます、自分が国王になったらエルムバーンとはこれからも仲良くやっていけますよ、って感じで」
「あとはユウ殿を妻に迎えようとするかもしれないな。エルリック様には婚約者が既にいるから、第二王妃になるだろうが」
「ううわっ。ぜっったいヤダ」
確かに。少なくともエルリック殿下には近づかない方がよさそうだ。
すっごい面倒くさい事になりそう。
それにしても兄弟で殺し合う可能性があるとか…イヤすぎる。
そんなのは物語の中だけで十分だ。
「王城には近づかない方がいいね」
「そうしてくれ。本当ならジュン殿の言うように、後で合流の方がいいのだろうが…」
「カタリナ様もお疲れであろうし、少しは羽を伸ばして頂きたいので。話し相手になって頂ければ」
「わかりました」
以前の約束もあるし、お忍びで話を聞くくらいなら。
「それじゃ、準備が終わったら出発しましょう」
ヴェルリア王国の王都ヴェルサイユへ。
何事も無ければいいのだけど、何となく平穏に過ごすのは無理っぽい気がする。
気のせいだと思いたい。




