第125話 扉の先にある物
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「ほう、あの時の娘か。やはり勇者だったんだな」
「はい、初めまして。アイシス・ノーヴァです」
アストラバンでの用事を終え。
アイシス達とヴェルリア王国の王都ヴェルサイユに向かう前に、あの場所へアイシス達を連れて行く許可を貰いに、エルムバーン戻って来た。
先ずはアイシス達と父アスラッドの面会だ。非公式ではあるが。
「アイシスの祖父、バルトハルト・ノーヴァです。お久しぶりですな、アスラッド陛下」
「ん?バルトハルトさんはお父さんと面識が?」
「ええ。私が聖騎士団団長だった時に、公務でお会いしたことがありましてな」
「うむ。十年前だったかな」
なるほど。仕事で会った事がね。
流石、前聖騎士団団長。国の偉いさんと会う事なんてしょっちゅうか。
「フランコ・ルーベルトです。ヴェルリア王国ルーベルト子爵家の次男です」
「ルーベルト?ああヴェルリアの財務大臣の」
「…父を御存知なんですか」
「ああ。あまりいい噂は…おっと、失礼した」
「いえ、構いません。父はきっと、その噂通りの人ですから」
「(フランコ君は父親と仲がよくないの?)」
「(うん…ちょっとね)」
そうなのか。
アイシスも言い難そうだし、他人様の家庭事情に首を突っ込む事もあるまい。
今はおいておこう。
「セリア。よろしく」
「ちょっと、セリア。もう少しちゃんと…」
「ん。よろしくお願いします」
「うむ。アイシス殿、今は公の場ではないからあまり気にする事はない」
「はい、ありがとうございます」
セリアの無口と対応はボクの時と変わらないのだけど、流石に魔王相手には不味いと思ったのか、アイシスがフォローする。
セリアは小さな商家の娘らしく、平民だ。
貴族や王に対する礼儀作法など受けていないのだろう。
「それで、用件はあの場所に彼女を連れて行くこと、か」
「はい。いいですか?」
「勿論だ。だが連れて行く者はこちらで限らせてもらうぞ。よろしいかな?アイシス殿」
「えっと…どういう事でしょう?」
「貴女を連れて行くのはエルムバーン魔王家に口伝でのみ伝わる場所。そこに何があるのかは伝わっていないが、余り他国の者に踏み入って欲しくはないのだ。理解してもらいたい」
「えっと…はい、わかりました」
あの場所に何があるのか。
それはわからないけど、物によっては勇者であるアイシス達が所有権を主張するかもしれない。
だが、あの場所はエルムバーンの所有地でシャクティの家が代々守って来た地。
アイシスが欲しがってもおいそれと渡す訳にはいかないのだ。
その為に、連れて行く者は限る、ということだろう。
「無論、アイシス殿を危険な目に合わせるつもりはない。安心して欲しい」
「はい、そこは心配してません。ジュンを信じてますから」
「ほ~う」「へぇ~」
何ですか、パパ上ママ上。
そのむかつく笑顔。
「も~う、ジュンたら~。今度は勇者まで落としたの?将来は何人の女の子に『お義母様』って呼ばれるのかしら~」
「さぁ。何人でしょうね。ていうかアイシスとはそんな関係じゃないですよ」
「そ、そうです。僕達はまだそんな関係じゃないです」
「あら~”まだ”なのね~そうなのね~」
ちょっとアイシスさん?
誤解を生まないようにしてくださいねっ。
「んんっ。とにかく行きましょう。誰を連れて行くんです」
「そうだな。アイシス殿の共は一人だけにしてもらいたい。誰を連れていくかは、好きにしていい」
「はい。じゃあ…」
「私が行こう。フランコとセリアはここで待て」
「…仕方ないですね。わかりました」
「ん。わかった」
勇者パーティーからはバルトハルトさんか。
立場的にも強さ的にも適任だろう。
「うちからは、わしとエリザ。ジュンにユウ。アイとシャクティだ」
エルムバーン魔王家とあの場所を守護してきた一族の出であるシャクティか。
厳密に言えばアイはまだエルムバーン魔王家ではないのだが。
「あの…魔王様。ユウ様やアイ様はわかるのですが、何故シャクティまで?」
「今は言えん。戻って来て言えるようなら教えてやる」
「…わかりました」
ノエラは自分ではなくシャクティが共に行くことが不満らしい。
前からどこに行くにも付いて来たがったけど、アーミーアントの時の一件でますますその傾向が強くなったし、今回も行きたくてたまらないのだろう。
ノエラにしては珍しく不満が顔に出ている。
「心配しないで、ノエラ。危険な事はないから」
「…本当ですか?」
「うん。仮に危険な事になったら直ぐに転移で逃げて来るよ」
「約束ですよ?かすり傷でも怪我してきたら、今度こそ、どこに行くのも一緒ですからね」
「今も大概一緒だけどね…」
これ以上一緒となると、本当に寝る時も風呂もトイレも一緒になってしまう。
一人でいるのが好きなんて言わないが、一人になれる時間も偶には欲しいものだ。
「さて。じゃあ行きますか。皆はここで待機。お客さんをもてなしてて」
「畏まりました」
転移でシャクティの故郷。例の扉がある洞窟の入り口まで移動する。
一気に扉の前まで転移も可能だったが、明るいとこでもないし危険かと思ってやめておいた。
「ここは?暖かいし、海がある」
「エルムバーンの領土でもかなり南方のようだな」
「ああ。詳しい場所は言えんが、ここはエルムバーンの南方にある島だ。シャクティの故郷でもある。シャクティはこの場所を守る一族の出なんだ」
「ああ、それでシャクティが選ばれたんですね」
「そういう事だ…うん?」
「あ、シードラちゃん」
海を見ると、シードラちゃんが顔を水面から出してこちらを見てる。
相変わらずシードラちゃんの眼は何か感じるものがあるな。
「シードラちゃん?あれ、シードラゴンだよね」
「シードラちゃんは、この島の守護神なんです」
「襲ってこないから、安心して。さぁ、行こうか」
もし、あの扉を開けたらシードラちゃんは何処かに行ってしまうのかなと、チラっと思った。
それはちょっと寂しい気もするな。
「この扉は…それにあの紋章…」
「そろそろ説明してもらえますかな?魔王様」
「うむ。この場所は初代魔王様が作った場所。そして初代魔王様は公式では勇者を倒した、とあるが、実は勇者と恋仲になってな」
「「はい?」」
「表向きは勇者は死んだ事になってるが、実は初代魔王様の妻の一人になっていた、というわけだ。その初代魔王様と妻となった勇者との何かがある、と予想はしてるが、中に何があるのかは本当に知らん。実のとこ、初代魔王様の名前も、妻となった勇者の名前も伝わっていないからな」
「え、そうだったんですか?表向き死んだ事になってた勇者の名前はともかく、初代魔王様の名前もですか?」
「ああ。どういうわけか、初代魔王様に関する資料なんかはまるで残っておらん。数千年も前の人だし、無理もないのかもしれんがな」
それにしたって…どういう事だろう?
「ま、それは置いといて、だ。ここにアイシス殿を連れて来た理由はわかってもらえたか?」
「はい。この扉の先に何があるかはわからないけど、扉を開けるのに僕の紋章が必要だって事ですよね」
「そういう事だ。では開けてくれ」
「はい」「はい」
ボクとアイシスとで扉の紋章部分に触れる。
今回は鍵がちゃんとはずれ、扉が開いていく。
中にあったのは…
「これは…お墓?」
「そうみたい、だね…」
中にあったのはお墓。
それと魔法道具と思しき水晶。
水晶は大き目の台座に載っている。
「お墓に文字が書いてるね。『我が愛する妻アイシス。ここに眠る』…ん?僕と同じ名前?」
「んん?偶然か?」
偶然にしては出来すぎなような。
察するに初代魔王様の妻になった勇者のお墓なんだろうけど…。
いや、もしかしてアイシスの前世がそうなのか?
セリアの前世が勇者の仲間で、同じ預言者の紋章を持っていたように。
「どうやら、この部屋全体に状態保存の魔法が掛かってるな。数千年以上もどうやって持たせてるんだか」
「お兄ちゃん。この水晶は音声と映像を記録する魔法道具みたい。再生するよ」
「うん」
再生すると水晶から立体映像のような物が出て一人の男性が映し出される。
誰かに似ているような…
「誰だろう、誰かに似てる気がするんだけど」
「何言ってるの。ジュンにそっくりじゃない」
「間違いなく、お兄ちゃんにそっくりだよ」
「ええ?ボクぅ?」
そうだろうか。
そんなに似てるかな?
でもまぁ言われてみれば?そうかもしれない。
『この場所へ訪れたという事は、私と同じように私の子孫と仲のいい勇者が出来たという事だと思う。その前提でメッセージを残す』
「声も似てる」
「そう?」
前世でも自分の声って喋ってる時に聞こえる声と、機械を通して聞く声は違って聞こえた。
ましてや、この映像の人物は別人なのだ。自分では同じようには思えない。
『ここは私の妻となった勇者アイシスの墓地だ。敵対してる国の勇者が魔王の妻になったなど、とても表沙汰には出来なかった。故にこのように隠すように墓を建てるしかなかったのだ』
なるほど。
だから、魔王家にも口伝のみで伝わっていたのか。
『私とアイシスの間には子が出来なかった。故にここを訪れた私の子孫にはアイシスの血は入っていないはずだ。だが、これからもこの地を守って欲しい。この島はアイシスが気に入って、その人生の最後を迎えた地だ。どうか頼む』
「え…」
この島で亡くなったのか…。
それでこの島にお墓を…。
『それから、私の子孫と仲良くなった勇者へ餞別がある。アイシスが現役時代に使っていた服が台座の中にしまってある。女物だから、もし訪れたのが男の勇者だったら、すまないが諦めてくれ。そして、また次の勇者がここを訪れた時の為に、使わなくなったらここに戻してほしい。それが妻アイシスの願いだ』
「どれどれ…これか」
「白を基調にした女物のサーコートだね」
「中々高級な素材が使われてそう。魔法も付与されてるみたいだし。流石勇者の服」
『最後に、ここを訪れた私の子孫へ。ここに入れたという事は私と同じく、魔王の紋章と魔神の紋章を持ってると思う。そして私と同じように勇者と繋がりを持ったお前には、アイシスが使っていた聖剣を贈ろう。宝物庫に入っているはずだから好きに使うといい。私が折ってしまったのでそのままでは使えないだろうから、新しい武器の素材にするといい。これは息子達にも伝えてる。もしかしたら既に使われてるかもしれないが』
ああ~。
すみません、既に使っちゃいました。
でも、事後承諾のような形になったけど許可を貰えたので良しとしよう。うん。
「折れた聖剣かぁ。メーティスが無かったら欲しかったかも」
『まぁ、わいがおったらいらんわな!折れた聖剣なんて』
「うおぅ!何だその剣!喋れるのか?」
「あらあら~?珍しいわねえ。知恵のある剣?
そういえば二人にはメーティスの事、話して無かった。
城では空気を読んでか、ずっと黙ってたし。
『それでは、私と子孫と未来の勇者よ。君達が私とアイシスのような、隠れて愛し合わなければならないような、そんな関係じゃなく堂々と付き合えるような関係である事を願っている。さらばだ』
まぁ、それは大丈夫でしょう。
ヴェルリア王国は友好国だし、アイシスとは仲良くできそうだし。
初代魔王様と同じように妻にするつもりは今のとこ無いけども。
「記録された映像はここまでのようだな」
「ここには魔王に負けて死んだはずの勇者の墓と遺物があったわけね…なるほど、隠すわけだし、守らせるわけだね」
「そしてこれからも、この地を守って欲しい、か」
「私の一族も、シードラちゃんも。お役御免とはいかないようですね。まぁ一族に関しては仕事が無くならずに済んでホッとしました。シードラちゃんは、なんだか縛り付けるようで、ちょっとあれですけど…でも、シードラちゃんがいなくなるのも寂しいですし、よかったです」
「うん、そうだね」
シードラちゃんには確かに悪い気がするけど、このまま島の守護神でいて欲しい。
ボクもシャクティと同じようにシードラちゃんがいなくなったら、少し寂しい。
「あの、魔王様。この服…」
「ああ。それはアイシス殿が使うといい。初代魔王様の言葉だしな。だが…」
「はい。使わなくなった時が来たら、ヴェルリア王国ではなく、ここに戻します。お約束します」
「ならいい。約束を違えるなよ。もし、そうなったらエルムバーンとヴェルリアの間で戦が起きかねん。それだけの品なのだ、それは」
「は、はい。肝に銘じます」
それだけの物…なんだろうな。
もし、初代魔王様と勇者の事まで漏れたらどうなるやら。
当時、勇者が所属していた国が今も残っていたら。
その国とエルムバーンの間で戦が起こるかもしれない。
少なくとも何らかの諍いは起こるだろう。
その証拠に成り得る品なのだから。
初代魔王様と勇者の関係がバレなければ、戦利品で誤魔化せるかもしれないけど。
「あとこの場所の事だが、ヴェルリア王国にも秘密にしてもらいたい。その服の事も含めて。城で待ってるツレの二人には説明の必要があるだろうから認めるが…」
「はい。勿論です。前世の僕のお墓ですし。ここが荒らされる事態にはさせません」
「んん?前世?」
やっぱり、そうなのかな。
セリアと同じように。
「うん。何となく、わかるんだ。ここは前世の僕のお墓だって。それにスッキリしたし」
「何が?」
「ジュンと初めて会った時、どうしてジュンに懐かしさを感じたのか。僕とジュンは前世で夫婦だったからなんだって。ここに来てわかったんだ」
「ええ?つまりボクの前世は初代魔王様だと?」
「うん。間違いないよ」
それはどーでしょー。
だって少なくともボクの前世は日本人で一般市民だし。
そもそも世界が違うし。
前世の前世という可能性はあるけれど…
「ええ~そう~?確かにちょっ~と似てる気はするけど~。前世って確信が持てる程、似てなくない?」
「だよね~。むしろ全然似てないよね~。赤の他人くらい違うよね~。結婚前のモンジェラさんと、結婚後のモンジェラさんくらい似てないよね~」
「ちょっとちょっと!さっきと言ってる事が違うじゃない!結婚前だろうと結婚後だろうと同じモンジェラさんなら同じ顔でしょ!?ていうかモンジェラさんて誰!?」
うん。流石に結婚前のモンジェラさんと結婚後のモンジェラさんとの違いに比べたら、あの映像の人物とボクは似てると思うよ?
そしてアイシスには結婚前のモンジェラさんを見せてあげれないのが残念です。
「何?僕とジュンが前世で夫婦だったのが気に入らないの?」
「べっつに~?ていうかアイシスはどうか知らないけど、初代魔王様はジュンの前世じゃないし~」
「そだね~。お兄ちゃんの前世は私のお兄ちゃんだし~」
うん、まあ二人とも嘘は言ってない。
言ってないけども。
アイシスにその話してもわからないでしょうに。
「まぁ、そろそろ城に戻ろう。皆待ってるし」
「む~…わかったよ」
「「は~い」」
洞窟を出て、シードラちゃんに挨拶してからボク達は城に戻った。
初代魔王様の妻となった勇者アイシスのお墓か…。
今度行く時はお花でも持って行くとしよう。
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