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第121話 ベヒモス 1

「「「……」」」


谷底に着いたボク達は大きな岩陰に潜み、谷底を歩く存在を見ている。

上から見たら霧が濃いように見えたのだが底の方はそれほど霧は溜まって無くそこそこ見通せる。


谷底にいた存在は討伐難度S。

黒いライオンに角が生えたような、巨大な魔獣。

ベヒモスだ。

谷底はそこそこ広いのだがベヒモスがいると狭く感じる。


谷底を歩く存在はまだいる。

ベヒモスを一回り、いや二回り小さくしたレッサーベヒモス。

小さくした、と言ってもボク達からすれば充分大きい。

討伐難度A。

こちらは数頭。ベヒモスがこの群れのボスなのだろう。


「(一度上に戻ろう)」


「「「(了解)」」」


幸い、まだこちらの存在はベヒモス達にバレていない。

小声で一度対策を立てる為、谷の上に戻るよう指示を出す。


「いや~ヤバいね、アレは。ウチらの協力が必要な理由がわかったよ」


「うん。アレを見るまで別に私達いらないじゃんって思ってたけど」


「うん。僕も正直そう思ってた」


ボクもそう思ってました。

しかし、あれは想定を遥かに超えるなあ。


「何であいつらあんな何もないとこにいるの。他の魔獣はおろか普通の動物もいないじゃん。食べる物が無いのに何でとどまってるの」


「それは多分、あの霧のせいだ」


「霧の?」


「ああ。あの霧はやはり普通じゃない。魔力を帯びてる。ベヒモス達はあの霧を取り込む事で食事が出来てるんだ。狩をせずに食事が出来るものだから、ボク達が谷底に降りても気が付かない。勘は鈍ってるようだな」


「霧が食事って…仙人みたいだね…」


「本当にな。しかし、まあなるほど。あれじゃあ勇者の遺物を、誰かが持ち去ってるなんて事はないわな」


「ああ。そこにあるって知ってる我々のような存在ならともかく、何も知らずにあそこに行けば、まず逃げ出すだろう」


だろうなあ。

知ってても遠慮したい気分だもの。


「それで。どうするの?」


「ベヒモスを倒さないと、遺物を探すのは無理だよね」


「いくら霧が食事になってるとはいえ、時折来る魔獣はエサになってるみたいだったしな。見つかれば襲われるだろう」


他の魔獣もあの霧に惹かれてやってくるのだろう。

そういった魔獣はベヒモス達がいるのを知らず、エサになったようだ。

他の魔獣と思しき骨がいくらか転がっていた。


「じゃあ、倒すとして。どうやって倒す?」


「アリの時みたいに、大量の水を流し込むのは?」


「ダメだな。あの谷を水で満たすには広すぎるし、直ぐに水は流れていくだろう。それに遺物がどうなってるかわからない以上、迂闊な事はできないな。下手すれば遺物も流されてしまう」


「じゃあ、谷の一部を崩すのも…」


「同じくダメだね」


「あの霧の発生源も気になる。地形を変えるような真似はしない方がいいと思う」


「発生源?あの谷底にあると思ってるの?」


「うん。魔獣が食事として代用可能なほど濃密な魔力を帯びた霧なんて、自然発生し続けるなんて有り得ない」


少なくともボクの知識にはそんな現象を起こす自然現象は無い。


「フランコ君、この辺りは一応ヴェルリア王国の領土なんだよね?何か情報は無いの?」


「確かに王国の領土だが…ごらんの通りの無人地帯。更に南にはドラゴンが住む地帯。この辺りを開発する計画も無いし、古い情報しかなかった。その中にこの霧に関する事は無かったし…。バルトハルトさんはどうですか?」


「私も知らないな。この辺りが戦場になった事も無いし…」


グゥゥゥ、とバルトハルトさんの言葉を遮って誰かのお腹が鳴る。

見渡すと顔を赤くして俯くアイシスが。


「え、エヘヘ。あの、お腹空かない?そろそろお昼にしない?」


「はぁ…アイシス、君って子は…」


「私もお腹空いた」


今は13時くらいか。

ちょっと遅い昼食になってしまったな。


「じゃあ食事にしよう。セバスト、お願い」


「ああ。ノエラ」


「はい。お茶の用意は私が」


食事を摂り、話し合いを進める。

結論は…


「真向勝負ね…」


「そうなるな。奇襲ぐらいは出来るだろうけど」


奇襲をかけたら真っ向勝負とは言えないかもしれないけど。


「おい、勝てるのか?私は正直撤退も視野にいれるべきだと思っていたが」


「確かにヤバい相手だけど…何とかなるよ。数はそれほどいないし」


「ほう…」


今までも何度か難度Sの魔獣とはやり合ってる。

ベヒモスは強敵だけど、多分何とかなると感じている。


「じゃあ作戦だ。まずはレッサーベヒモスの始末だけど、ユウとアイ、セバストとノエラ、ハティとバルトハルトさんがメインで頼みます。リリー、フランコ君、セリアさんは援護。クリステア、ルチーナ、シャクティはリリー達の護衛。ボクとアイシスでベヒモスを倒す」


「「は~い」」


「「「ハッ」」」


「わかったよ」「引き受けましたぞ、ジュン殿」「わかった」


「ベヒモスの相手をアイシスとジュン殿がするのか?二人だけで大丈夫なのか?」


フランコ君以外は納得してくれたようだ。

フランコ君は純粋にこちらを心配してくれているみたいだ。


「まぁ大丈夫だよ。そっちが終わったらこっちを手伝ってくれればいい。逆にこっちが先に終わるかもしれないけどね」


「…わかった」


「大丈夫だよ、フランコ。ジュンの実力は知ってるでしょ。少なくとも僕と互角かそれ以上なんだから」


「しかし…それは二年前の武闘会の時の話だろう。あれから君は強くなってる。互角という事はあっても君以上なんて…」


「そうだけど、あの時ジュンは魔法を使ってないし。逆に僕は大した魔法を使えないしね。それに今は持ってる剣に大きな差があるし」


「それほどなのか?あの剣は…」


アイシスが今持ってる剣は武闘会で折れた剣と大差ない物だ。

いい剣なのは間違いないだろうけど、【フレイヤ】と【アトロポス】に比べたら大した事はない。


「うん。お祖父ちゃんが持ってる剣と比べても遥か格上だよ」


「うむ。これはノーヴァ家に伝わるアダマンタイト製の名剣だが…ジュン殿の剣には及ぶまい」


バルトハルトさんが持ってる剣はアダマンタイト製の大剣。

中々の一品のようだが、それでもボクの剣の方が上だ。


「そう言えばさ、アイシスの剣の師匠ってバルトハルトさんなんでしょ?」


「そうだけど。それがどうかした?」


「それにしてはさ、持ってる剣が違い過ぎない?バルトハルトさんの剣は大剣としては普通の大きさだけど、アイシスのは随分大きいじゃない?」


アイが疑問に思うのもわかる。

アイシスが持つのはバルトハルトさんが持つ剣の二倍は幅が広く、長さも違う。

剣の師匠と使う剣の違いが大きいというのは違和感がある。


「ボクの勇者の紋章は正確には『剣の勇者の紋章』なんだ。そして昔から『剣の勇者の紋章』はこのサイズの剣を持つんだってさ。だから遺物の剣もこのサイズになる。それを見越してこの剣を使ってるの」


なるほど。

そう言えば、エルムバーンに伝わっていた折れた聖剣もアイシスが持つ剣と同じくらいの大きさだった。

そして、そうなると気になる事が一つ。


「アイシス、勇者の紋章を見せてくれない?」


「え?ど、どうして?」


「ちょっと気になる事があって、お願い」


勇者の紋章に種類があるのなら。

あの島の扉の鍵となるのはアイシスの紋章ではないかもしれない。

勇者が使ってた剣がエルムバーンに残されていた以上、同じ剣の勇者であるアイシスと同じだとは思うが、一応確認はしたい。


「ん~…ダメ」


「どしーて?」


まさか断られるとは思わなかった。

何か不味いのだろうか。


「だって、胸にあるんだもん。ボクの紋章は…」


「何かすみません!」


なるほど。それじゃ仕方ない。


「ユウ」


「うん。アイシスさん、私に見せて。向こうで」


「ウチもー」


「う、うん…」


少し離れたとこへ移動し、こちらに背中を向けるアイシス。

ノエラとリリーがこちらとの間に立って壁になる。

確認が終わったようで戻って来る。


「どうだった?」


「うん。ウチと同じくらいだったよ。三年後には勝てる!」


「なー!」


「何の話だ、何の」


アイの発言に過剰な反応をするアイシス。

何の話か分かったのか。

まぁ大体わかるけどさ。


「(で?どうだった?)」


「(大丈夫。あの扉の鍵と同じ紋章だったよ)」


そうか。

ならこの件が終わって落ち着いたら、あの場所へアイシスを案内しよう。


「それじゃ、そろそろ行こうよ。日が暮れる前にケリをつけたいし」


「うん。行こうか」


話も終わったので再び谷の底へ。

勇者の遺物を拝みに行こう。

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