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第119話 勇者様はイチゴが好き

「おはよう…」


「「「「おはよう」」」」


「アイシス、遅い」


「熟睡しちゃった…」


家具も高級品が揃ってますしね。

中々の寝心地のよさのベッドだよね。


「そして朝起きたら朝食が並んでいる…」


「アイシスで最後だから早く食べるんだな」


「セバストさんの御飯、美味しい」


セリアさんはセバストの料理が気に入ったようだ。

セバストも褒められて満更じゃなさそうだ。


「森の中で野営してるはずなのに、美味しい御飯食べて、御風呂に入って快適なベッドで寝て…何これ。旅ってこんなのだっけ」


「まだ何か不満なのか?」


「だって…野営の厳しさを少しでも教えようとしたのに…これじゃまるで逆…」


勇者様御一行の皆さまには気に入って頂いたようで何よりで。


「それで、今日の予定は?」


「今日は山賊のいる山を越えて、目的の山の手前で野営かな。全然野営ぽくないけど…」


拘るなあ。

そんなに今までの野営は苦労のしっぱなしだったのだろうか。

まあ魔獣とか盗賊とかがいる世界で野営だと、そうなるだろうか。


「ねえ、ヴェルリア王国から支援とかないの?王国に伝わる魔法道具を貸してもらうとか」


「無いかな…資金援助は受けてるけど。王国がこういう野営に便利な魔法道具を持ってるかどうかもわかんない」


「ノーヴァ伯爵家の方は?」


「持ってない。そもそもこんな凄いの、エルムバーンくらいしか持ってないよ、きっと」


果たしてそうだろうか。

世界中探してこの一個だけって事はないだろう。

それにお祖父ちゃんとお祖母ちゃんがもう一個持ってるし。

ヴェルリア王国なら持ってそうなのにな。


「そもそもどうして今、勇者の遺物なの?その遺物が何時の時代の物か知らないけど、アイシスよりも前の勇者はどうして探さなかったの?」


「勇者の遺物があるってわかったのが、私の代になってからだもの。それに最初は本当に現存してるかわからない物に出す資金はないとか言ってたし」


「だが実際に遺物を発見してからは、王国政府の連中の態度が急変した。それに勇者の遺物が必要になるかもしれないってなって、大急ぎで見つけるようにとまで言ってきた。現金な連中だ」


「必要になるかもしれない?」


「ヴェルリアの南の小国群、そこが同盟を組んでいるのは知っているな?」


「ええ。エルムバーンとも多少は関わりあるし、私とお兄ちゃんも何度かその国の使者と会ってる」


「その小国で近年不穏な動きが見られるようになった。だから勇者の遺物を確保しておきたいんだそうだ」


「それって、戦争になるかもしれないって事?」


「まだ決まったわけじゃない。だけど備えておこうって話だ」


「不穏な動きって?」


「その小国同盟の盟主がガリア魔王国の魔王、エスカロン・ガリア。彼は中々に過激な思想の持主で同盟各国に軍備の増強を迫ってる。実際に彼の言葉に従って増強を始めた国は多い」


ガリア魔王国。

魔族が治める小国で、現代地球で言えば中国の北部辺りに位置する。

小国群の中で言えば一番力のある国と言えるだろう。


「エルムバーンでは何も掴んでいないのか?」


「ガリアの魔王に注意が必要だって事は聞いてる。後は特に。何も仕掛けられていないし。強いて言うならボクとユウに小国群から婚約の話がいくつか。全て断ったけど」


「ふうん。政略結婚なんていくらでもある話だし、それだけじゃ何とも言えないか」


実際にはスパイをさせるつもりだったのかもしれないけど。


「まあ、いまは兎に角、遺物の回収だ。アイシス、早く食事を済ませろ。君が最後だ」


「あ、うん。あ、お祖父ちゃんは?」


「バルトハルトさんなら外だ。久しぶりに時間が取れる朝だから、と素振りをしてる」


流石剣聖。旅先でも時間があれば訓練か。

機会があれば稽古をつけてもらおうかな。


「それじゃ、出発しよう。忘れ物はないかー」


「「「はーい」」」


アイシスの準備も終わったのでマジックハウスを出る。 


「じゃあマジックハウスを片付けるよ」


マジックハウスは便利なのだが忘れ物をすると残念な事になる。

万能な物などそうは無いのだ。


「あ」


「どしたの、アイシス」


ボクがマジックハウスを片付けている後ろでアイシスが声を上げてる。まさか、何か忘れ物?

もう手遅れだけど。


「下着、忘れて来ちゃった」


「え」


「まあ、いっか。次もどうせ使うんでしょ」


「いやいや、アイシス君。ちゃんと説明したでしょう。忘れ物したら残念な事になると」


「え?あ~そう言えば。マジックハウスに茫然としてて、うろ覚えだけど」


「マジックハウスを小さくする時に、中にある物も小さくなるけど、それは魔法が掛かってる物だけ。外から持ち込んだ物は小さくする時に中に残ってると、ペシャンコになると」


「え。じゃあ…」


「手遅れだね」


「え~…気に入ってたのに、アレ…」


「仕方ない。君が悪いんだし」


落ち込むアイシスに、ノエラが近づいて、そっと何かを差し出す。


「ご安心を。私が回収しておきました」


「わあああ!ここで出さないでよ!」


シュバッとノエラからひったくるアイシス。

察するにアイシスの忘れ物の下着だろう。


「見た!?」


「大丈夫。見えなかったよ」


「ああ。見えなかったぞ」


「そ、そう。ならいいけど。あ、ありがとう、ノエラさん」


「いえ。しかし、勇者様の下着がイチゴ柄とは。少々意外です」


「どうして言っちゃうの!?」


イチゴ柄かぁ。

多分、ユウとアイがデザインしたやつだな。

随分子供っぽい下着がお気に入りなのね。


「何か言いたそうだね、ジュン」


「いや、特に何も」


「いいでしょ、別に!好きなんだもんイチゴ!」


「何も言ってませんがな」


どうすりゃいいのさ。

褒めるのも変だし。


「いいから、出発するぞ。今日中に山を一つ越えるんだろ」


「そうだね。予定より出発が遅れてるし、急ごう」


「ちょっとー!」


まだ何か言いたそうだが、聞いてると出発出来なくなりそうなので放っておく。


そして問題の山に入ってしばらく。

やはり山賊が現れたようだ。


「ジュン様」


「うん。囲まれつつあるね」


「人数は分かりますか」


「ざっと五十。情報通りなら総出でお出迎えみたいだね」


包囲が完成した所で、山賊の頭と思わしき男が出てくる。


「お前らが俺達を討伐に来た勇者一行だな!何時の間にこんなとこまで来やがった!」


「どういう事だ?」


「お前らアストラバンから来たんだろう!森の中に入った所までは確認した!森の中で野営したんだろ!だが森中探したが見つからなかった!一体何処に隠れてやがった!」


「あー、つまり夜襲をかけようとして夜通し探したけど見つからなかったと」


「だから皆、なんか疲れた顔してるんだ。可哀想に」


マジックハウスには隠匿結界…結界内の存在に気付けなくなる結界が張ってある。

仮に気付けても、侵入妨害の結界にゴーレムの防衛を彼らに突破出来たとは思えないけど。

それより問題は別にある。


「アイツら、ウチら…じゃなくて勇者様御一行が来るって知ってたみたいだけど」


「うん。まぁ想像はつくよ」


冒険者ギルドに山賊の手先がいるって事だろう。

そしてそいつは…


「居るんだろう!グレイグさん!」


「何だ。バレてたのか」


予想通り、山賊達の中から出て来たのアストラバンの冒険者ギルドで話しかけて来た男、グレイグだ。


「何でバレた?」


「半分は勘。なんか視線が値踏みするような視線だったから」


「もう半分は?」


「あんたDランクでソロの冒険者なんだろう?それにしちゃ装備が良すぎるんだよ」


山賊の情報を追加で貰った時、グレイグの情報も貰っておいた。

つまり街で情報を集め山賊に流し、金を受け取っていたのだろう。或いは装備品を。

しかし、腑に落ちない事が一つ。


「あんた、ボク達と勇者一行が来るって報せたんだろう?なのに何で逃げてない?まして迎え撃つなんて」


「はっ、笑わせるな。勇者はともかく、お前らはまだガキの集まりじゃねぇか。しかもメイドと執事なんて連れてる。いいとこの坊ちゃんと嬢ちゃんの集まりなんだろう?そんなんを護衛に選ぶ勇者もたかが知れてらぁ」


なるほど、それで甘くみたか。

情報収集役のくせに見る目がないな。


「まあ、それでも念には念を入れて夜襲をかけようとしたんだがな。今度はこっちの質問だ。何処に隠れてた?」


「別に。結界を張ってただけだよ」


「結界?隠匿結界か何かか。チッ、厄介な。流石に勇者一行だけあるか」


いや、結界張ったのはボクですけどね。

勇者一行もちょっとばつが悪そうだ。


「まあいい、ここで捕まえたら同じだ。おい、ガーンズ」


「ああ。お前ら!かまえろ!」


山賊の頭の名前はガーンズと言うらしい。

ガーンズの言葉に従って、木の上や茂みから弓を構えた山賊達が姿を現す。魔法使いも数名いるようだ。


「どうだ!これだけ完全に囲まれれば、いくら勇者でも何ともできんだろう!命が惜しければ武器を捨てて投降しろい!」


「だそうですよ、勇者様?」


「一昨日来やがれって感じ?」


「言ってる事が本当、三流よねー」


「間違いなく三流ね。私達をただの子供だと思ってるなんて」


「黙れガキ共!よーし、お前ら、女は出来るだけ殺すなよ!足や腕を狙ってうおお!?」


最後まで聞く気は無かったので、【フレイヤ】の力で山賊達を木からぶら下げたり、地中に首だけ出して埋めたりして無力化する。会話中に何時でも拘束出来るように準備を進めておいたのだ。

自然豊かな山の中だったのが幸いした。

殺さずにこれだけの人数を楽に無力化出来た。

被害も無いし上出来だろう。


「クソ!なんだこりゃあ!」「動けねぇ!」


「全員大人しくしろ。お前達は冒険者ギルドに連れて行く。抵抗しなければ殺しはしない」


「こ、殺さねぇのか?山賊の俺達を?」


「殺して欲しいわけじゃないんだろ。大人しく捕まれ」


「う、嘘だ!大体この人数をどうやって街まで連れて行くつもりだ!」


「ボクは転移魔法が使える。一瞬で済む」


「て、転移魔法?あんた、ジュンて名前だったよな。それに女みたいな顔…もしかして、エルムバーンの魔王子!?」


「女みたいは余計だ」


「マジかよ…勇者と魔王子が一緒に攻めて来るなんて有りかよ…」


まぁ別にお前達を捕まえに来たわけじゃないんだけどね。

訂正する必要も無いのでそのまま進める。


「で?どうする?死にたいなら望み通りにしてやるが?」


「待ってくれ!俺は投降する!」「俺も!」「俺もだ!」


全員大人しく投降してくれるようだ。

よかった。やはり人殺しなんてやらずに済むならその方がいい。


大人しくなった山賊達を、アストラバンまで転移で連れて行く。

クリステアとルチーナ、それからアイシスにも来てもらう。

アイシスがいた方が話がスムーズに進むだろうと思っての事だ。


山賊を全員移送して、駐屯兵に突き出し、冒険者ギルドで事情を説明。グレイグが山賊の仲間だった事も伝えてある。

念の為、他にも山賊の仲間がいないか、調査するそうだ。

するべき事は終わったし、皆のとこへ戻る。


「ただいま」


「「お帰り~」」


皆に迎えて貰い、直ぐに移動を再開する。

大分時間をロスしてしまった。

日が暮れる前に山を越えたい。


「急がないと、途中で日が暮れるな」


「そだね。急ごう」


「ねぇ、ジュン。さっきは聞かなかったけどさ、あの植物を操る能力、魔法でも魔法道具でもないよね。一体どうやったの?」


「秘密」


「な~んで~。いいじゃない、教えてくれてもー!」


「あまり人に知られたくないんだよ。それにアイシスはうっかりばらしそうだし」


だからあの仮面を着ける事になったんだろうし。


「失礼な!勇者の僕に向かって!」


「と、勇者様は仰ってますが、どうですか?セリア君」


「ジュン様に一票」


「セリア、酷い!」


「まあ、否定は出来んだろう」


「うむ。武闘会の時の仮面の件を聞けば妥当な評価だろう」


「フランコもお祖父ちゃんも、酷い!」


そうして会話しながら進み。

何とか日が暮れる前に山を越える事が出来た。

明日はいよいよ勇者の遺物が眠る山だ。


そして山の麓でマジックハウスで野営。

夕食に保存していたイチゴを提供したらアイシスに怒られた。

好きだって言うから出したのに。

解せぬ。

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