第113話 アーミーアント・アイスクイーン
「暗いね…ジュン、明かりを点けてよ」
「うん。『ライティング』」
人間大のアリの巣はかなり大きく。
洞窟と呼べる広さで歩くのに支障ない高さと幅のある道が続いていた。
障害物も無い為、魔法で全体を明るくした今、良く見える。
「全体を明るくしてよかったの?サハギンの時は気づかれないように灯りは周囲だけだったのに」
「どうせ気づかれてるし。それにアリは確か視覚が殆どないんだよ。代わりに嗅覚が非常に発達してるとかなんとか」
「へぇ。そうなんだ」
「ジュン様、物知りですぅ」
現代地球のアリと同じなら、という注釈がつくけども。
それよりも今の『ライティング』で残りの魔力が残り三割を切ってしまった。
「魔力を回復しとこう。ユウも魔力回復薬、飲んでおいて」
「うん。あんまり美味しくないんだよね、これ」
まぁ、薬だしね。
ボクも美味しいとは思わない。
しばらく歩くと、アリの死骸が点在し始めた。
水で流されてここで感電死したのだろう。
足元には水がまだ多少流れている。
「それにしても、上手く倒せたみたいだね。殆ど死んでるんでしょ?」
「ああ。外に出ようとしてたのが仇になったんだな。こうやって稀に引っ掛かってるヤツ以外は巣の一番奥で死んでるみたいだ。あとアリの巣って普通は簡単には水没しないようになってるらしいけど、余りに一気に水が浸入したせいか巣全体に水が行ったみたいだ。上手くいったな」
「ねえ、そんなに浸水してこの巣は大丈夫なの?崩れたりしない?」
「大丈夫だろう。壁を叩いてみな」
アイがガントレットを付けたままの手でガンガンと壁を叩く。
そこそこの硬さがある壁だ。
「硬い。土じゃないの?」
「どうも岩盤をくり抜いて作った巣らしいな。相当分厚い岩盤らしい。で、岩盤の下には空洞があって水はそこに抜けたみたいだ」
「岩盤をくり抜いてって…アリにそんなの出来るの?」
「出来るんだろうなぁ。まぁ。魔獣だしね」
常識の範疇では捉える事は出来ないだろう。
あの繁殖速度にしたって常識を超えてるし。
「ジュン様、ここまで生きたアリは出てこないが。アリの動きはどうなってる?」
「ん~。どうも生き残ったアリは皆、クイーンの周りに集まってるみたいだ。新しいアリは増えてる様子は無い」
「生き残った戦力で防備を固めてるのかぁ。アーミーアントって呼ばれるだけあって統率がとれてるね」
「女王を守る為、最後の抵抗を試みるわけですか。まるで私達の方が悪人のようですね」
まあアリからすればそうだろうな。
生き残ったアリが騎士達で、ボク達が女王を殺すために侵入した敵国の尖兵なわけだ。
「こっちだ」
「よくわかるね。内部構造を完璧に把握出来てるの?」
「魔法で隠蔽とかされてなきゃね。罠の類まではわからないし」
探査魔法を改良というか強化というか。
洞窟や建物の内部構造も把握できるようになった。
これも訓練の成果というわけだ。
「そろそろクイーンのいる部屋だ。気を引き締めて」
「了解。生き残ったアリはどれくらい?」
「二百くらいだ。部屋もかなり広いから一斉に襲ってくるぞ。でも魔法での攻撃は控えよう。少なくとも派手に爆発するようなのは。特に火は厳禁だ。余り派手に燃やすと一酸化炭素中毒になるぞ。空気の流れは悪いからね」
「いっさんかたんそちゅうどくって何ですか?ジュン様」
「何か怖そうな響きだな」
「危なそうな言葉なの」
「聞いた事のない言葉です」
「…今度教えてあげるから、今は火は余り使わないようにってだけ覚えておいて」
「「「「は~い」」」」
ティナ達メイド四人組は火を使う怖さを知らなさそうだ。
大人組はある程度は知ってるけど、中毒の事とかは知らなさそう。
その辺りの知識もこの世界は遅れているようだ。
「この先だ。敵の数は多い。一人で突出して動かないように。ティナ、ニィナ、ルー、クーは四人でリリーにアリが行かないよう守って。リリーは後方でひたすらアリを攻撃。残りは前に出て。クイーンは最後だ」
「「「了解」」」
「じゃあ、行くよ」
一斉に飛び込んだ部屋の中には生き残ったアリが総勢約二百で整列を組んで待ち構えていた。
一番奥にいる巨大で白いのがアーミーアント・クイーンだろう。
通常のアーミーアントが人間大ならクイーンはシロナガスクジラか。
「うわぁ…気持ち悪い…夢に出そう…」
「うん…クイーンて白いんだな。気持ち悪いな、本当に…」
あのサイズで真っ白で腹部?が異常に発達したアーミーアント・クイーン。
多分大量にアリを生む為にそうなったんだろうけど、正直気持ち悪い。
「ジュン様、不味いかもしれん」
「セバスト?どうかした?」
「あのクイーンは恐らくは変異種だ。となると通常のアーミーアント・クイーンより強いと考えたほうがいい」
「変異種?どこか普通のアーミーアントと違うの?」
「ああ。まず大きさだ。普通のクイーンはあそこまでデカくない。次に色だ。普通は白じゃなく兵隊アリと同じ黒だ」
「アーミーアント・クイーンの変異種が発見された例は今まで聞いた事がありません。恐らく新種です」
クリステアも通常のクイーンの事は知ってたらしい。
目の前のクイーンは新種だと言う。
「となると、だ。いざという時は転移で逃げる。指示を出したら直ぐにボクの周りに集まって」
「「「了解」」」
「それから、ゴーレムも出しておこう」
ロックゴーレムを五体出しておく。一体はリリーの護衛にしよう。
「とりあえずはさっきの指示通りに。クイーンの動きには皆も注意を払っておくように。じゃあ行くよ!」
「「「はい!」」」
行動を開始する。
こちらが動き始めるのを待っていたのか、アリも一斉に動きだす。
「頭を潰すか落とすかして、確実に殺せ!こいつらは弱いが虫だけあってしぶとい!油断するなよ!」
セバストの言う通りでアーミーアントは弱いがしぶとい。
脚を斬り飛ばしたくらいじゃ怯みもしない。
確実に殺すには頭を潰すか落とすか、或いは胴体を吹き飛ばすかくらいしないとダメだ。
「フゥゥゥ、フッ!」
アイは問題無いな。
一撃で確実にアリの頭を潰し仕留めている。
ジェットブーツで高速で動き、すり抜ける一瞬で仕留めたり、闘気を込めた攻撃で仕留めている。
アイの拳聖の紋章の能力は、闘気を込めて殴った場所に闘気を浸透させ、内部から破壊するという恐るべき能力で、剣気や盾気等を込めた武具で防ぐか避けるかしないと防げない。
ただ防いだだけでは盾だろうが鎧だろうが人体だろうが。
内部から破壊されてしまうのだ。
まるで某一子相伝の拳法の継承者のようだ。
「せい!たぁ!」
ユウも上手く戦えている。
残りの魔力が少ないので魔法の仕様頻度は少ないが、魔力の刃を出して首を切り落としている。
ユウもこの二年の訓練で「拳士の紋章」を獲得している。
魔法の腕も格段に上がった。
「ニィナ、上!」「うん!」「クーちゃん!」「あたいは左から行く!」
ティナ達メイド四人組も問題無さそうだ。
四人の連携は見事で隙を作る事なくアリを仕留めている。
壁を伝って天井から襲って来たアリにも対処出来ているし、周りをちゃんと見れてる。
セバストとノエラは黙々とアリを仕留めている。
あの二人、何らかの紋章を持ってると思うんだけど、秘密にしたまま教えてくれない。
新装備の方は問題なさそうだ。
リリーも黙々と矢を放ちアリを仕留めている。
その矢は正に百発百中で確実にヒットしている。
稀に矢を避けるアリがいるのだが、避けても魔法の矢であるために軌道を修正。
命中させている。まるで自動追尾のミサイルのようだ。
「ふんふんふ~ん♪」
鼻歌を歌いながら戦っているのはシャクティだ。
相変わらずどうやってるのかサッパリな糸を武器にアリを仕留めている。
壁や地面から糸を飛ばしアリを捕らえバラバラにしている。
「ルチーナ、右です」「わかってる!」
クリステアとルチーナも心配要らないだろう。
武闘会の時は獲得したばかりで使いこなせていなかった紋章の力も、今では使いこなせている。
「シールドオーラバッシュ!」
クリステアの使ったシールドオーラバッシュとは、盾気を纏った盾でシールドバッシュをし、そのまま盾の形をしたオーラが前面に飛び、更に敵を吹き飛ばすという技だ。
多数の敵を相手にする時に向いてる技だと思う。
「地裂斬!」
ルチーナの地裂斬とは戦斧を地面に真っ直ぐに斬り付け斧気と共に衝撃波を発生させ敵にぶつける技だ。
アリを三匹まとめて吹き飛ばしている。
で、ボクはと言うと。
一言で言えば無双していた。
「やー、なんかもうアリ程度なら何の抵抗も感じる事なく斬り裂けちゃうな!」
熱したナイフでバターを切るかのように、何の抵抗も無くアリを斬っていく。
蛇腹状にした【フレイヤ】でも同時に二匹貫いたりしてるし、魔力でできた刃を伸ばした【アトロポス】でも出来た。剣気を使わずにこの切れ味。最高だ。
剣気を込めて飛ばすあの技、オーラフラッシュと呼んでいるけど、あれの威力もかなり上がった。
蛇腹状になった【フレイヤ】の剣先からも出せるし汎用性も高い。
そして、それだけなく剣に魔法を纏わせるあの技。
日本のゲームや漫画でもよくあった魔法剣と呼ばれるあの技もこの二本の剣ならば可能だ。
皆に言ったように火は使えないので雷属性の魔法を纏わせて斬り付ける。
斬撃と同時にスタンガンのような効果でアリを倒す。
完璧だ。完璧に理想の剣だ。
ありがとう、ステファニアさん!
「ジュン!クイーンが何かしてくるよ!」
おっと、女王様が何かするつもりのようだ。
クイーンは口から何か飛ばして来た。
これは…糸?
「糸で捕らえて身動き取れなくさせるつもりか」
「それだけじゃないみたいだよ、お兄ちゃん」
「ジュン様、アレを」
ユウとノエラが指さす場所を見ると、クイーンの産卵が再開されたようだ。
次々と卵を産み、すぐに孵化している。
そして生まれたばかりの幼虫が襲い掛かってくる。
「生まれたばかりの幼虫だけあって、更にザコだ。ザコの始末はオレらでやるから、ジュン様はクイーンを頼むぜ」
「わかった」
ザコは皆に任せてクイーンと対峙する。
クイーンは糸を吐く攻撃とはまた別の攻撃をしてきた。
「これは魔法?じゃないな。クイーンが持つ固有能力か」
クイーンの周りに尖った氷柱のような物が浮かんでいる。
流石変異種、厄介な能力を持っている。
「氷が飛んで来るぞ!気をつけろ!」
皆に注意を飛ばしたすぐ後、氷柱の弾丸が飛んで来る。
中々の威力だ。ロックゴーレムは今ので全て破壊されてしまった。
「皆、無事か」
「大丈夫みたい。でも何、あれ。アリがあんな能力持ってていいの?」
「流石変異種だよね。さしずめアーミーアント・アイスクイーンってとこか」
少々長い名前だが。
「呑気に名前何てつけてないで。そろそろ決着付けようよ」
「そうだよ。私の魔力、もう殆ど残ってないし。お兄ちゃんも厳しいんでしょ?」
「そうだな。再び三割切ったよ」
そろそろ決着をつけるとしよう。
「リリー、援護射撃をお願い。アイは右から、ユウは左から。ボクは正面から行く」
「はいですぅ」
「任せて」「うん」
「じゃあ、行くよ!」
クイーンに向かって突撃する。
アイが右から攻撃し前脚を吹き飛ばし、ユウも左から前脚を攻撃。
リリーは矢でクイーンが打ち出す氷を迎撃してくれている。
そしてその隙にクイーンの顎の下に飛び込む事が出来た。
「でええい!」
剣気を纏った【フレイヤ】と魔力で刀身を延長した【アトロポス】で回転するようにクイーンの首を斬り、クイーンの首を落とす事に成功する。
「やったか!」「お見事です、ジュン様」
セバストとノエラの賛辞を受けながらクイーンが動かないか、確認する。
産卵も止まってるし、動かない。
どうやら仕留める事に成功したようだ。
「ふい~。終わったか」
「ようやく終わったね。早くここから出ようよ」
「そうしたい所だけど、もう少し確認しないと。生き残ったアリと卵が無いか確認しよう」
「うへえ~」
「ほら、文句言わない」
渋るアイとユウを焚き付け確認して周る。
探査魔法でも確認したが生き残ったアリは巣の中にはいない。
外での戦闘も終わってるだろう。
アーミーアントの討伐は成功したようだ。
「ジュン様、これを見てくれ」
「何?」
「このアリの卵なんですが…」
アリの幼虫が出たあとの卵の殻を見せて来るセバストとノエラ。
グレーで鈍く光ってるようだけど、別段おかしいとは思わない。
アーミーアントの卵の殻なんて初めてみたし。
ダチョウの卵のようなサイズがアリの卵としてはおかしいなと思うくらいだ。
「これがどうかしたの?」
「これ、恐らく銀です」
「え」
「奥にも卵の殻が沢山ある。その全てが恐らく銀だ」
マジでか。
そりゃ二万匹以上いたんだから卵の殻も大量にあるだろうけど。
「そりゃ、とんでもないお宝だね。ちなみに普通のアーミーアントの卵は?」
「もちろん銀で出来てなんかいない。変異種ならではだろうな」
だよね…。しかしこの数の卵を回収するのはボク達だけじゃ時間が掛かるな。
「どちらにせよ、今回討伐に参加した人達に分配する必要があるし、回収を手伝ってもらおう。ノエラ、セバスト。二人で外に出て報告と応援をお願いして来て。もう外の戦闘は終ってるだろうし」
「了解だ」「畏まりました」
二人が応援を呼びに行ってる間に、少しでも集めて置く。
しかし、金の卵ならぬ銀の卵を産むアリか。
害が無ければ飼育する人とかいそうだな。
ボクには気持ち悪くて無理だけど。
それから応援に来た冒険者達と卵の殻を回収。
アリの死骸の処理を終えて街に戻る。
そしてギルドマスターに報告をする。
「まさかアーミーアントの変異種だとはな。しかも銀の卵ねぇ。どのくらい有ったんだ?」
「三万個ほどです」
「多くねぇか?アリは二万くらいだったんだろう?」
「戦闘中も産卵を続けて増やしてたようですし」
「なるほどねぇ。しかし、お前さん達はやっぱり大物と縁があるんだな」
「止めてください。特に嬉しいわけじゃないんで」
「ハハハ。悪かった悪かった。それでこの後は祝勝会を開くんだが、参加してくんだろ?」
「そうですね。せっかくですし」
冒険者達には幸い死者は出なかったらしい。
重傷者は多数でたが治癒魔法使いを同行させた甲斐あって死に至る事はなかったそうだ。
親衛隊も同じでフェンリル一家も無事だった。
ただ味方してくれた狼達には犠牲が出た。
魔獣の狼とはいえ戦友だし、何の礼もしないのも悪いので魔法の袋に保存してたマウンテンバッファローの肉を大量に提供しておいた。
新装備の実戦テストに手軽な依頼を受けるつもりだったのに、結構大事になったけど、実戦テストも問題なく出来たし、よしとする。
こうしてアーミーアント討伐は無事に終わった。




