第112話 アーミーアント 3
『ご主人様~連れて来たよ~』
「ハティか。ご苦労様」
アーミーアントの巣まで移動するために街を出てすぐ。ハティとフェンリル一家がこの辺りの狼を連れて戻って来た。
流石の狼王の紋章。実に助かる。
ハティが集めた狼の数は二千くらいいるか?普通の狼もいるが殆どは魔獣の狼だ。
「それじゃ、冒険者を刺激しないように少し離れて付いてきて。現地についたらまた指示を出すから」
『は~い』
「各方面に連絡を。フェンリルが率いる狼達が参戦する、この戦いに限って狼は味方だから手を出すな、と」
「了解」
連絡係の冒険者に連絡を頼む。
今回の作戦は広範囲に渡って展開する必要があるので通信用の魔道具が冒険者ギルドから貸与されていた。
街を出てしばらく。
巣に結構近付いたがまだアーミーアントには遭遇していない。
そして他の魔獣にもだ。
「ここまではまだ来てないのか?それともこの辺りの魔獣は全て喰われたのか」
「後者だな。ほら、あそこ。薙ぎ倒された木がある。他にも争いの跡がチラホラ」
「でもアリの死骸が一つも無いよ?他の魔獣の死骸はアリが持ち帰ったんだろうけど」
「それもアリが持ち帰ったのさ。奴らは仲間の死骸も喰うからな」
「うげっ。気持ち悪。ねぇノエラ」
「…そうですね」
まだ機嫌が悪いらしい。
セバストはもう普段通りなのだが。
(セバスト、何とかならない?)
(う~ん。ノエラはこうなると長いからなぁ。オレには何ともできん)
ダメか。
どうしたものか。
「ノエラさんはどうかされたんですか?」
「何だか機嫌が悪そうですけど」
傍を歩いていたクリステアとルチーナがノエラの様子を見て尋ねて来る。
普段見ない姿だから気付くよね。
ノエラの機嫌が悪くなった理由を二人に説明して助言を求める。
「なるほどぉ。それはまぁノエラさんの言い分が正しくと思いますね」
「そうですね。私も同意見です」
「私もですね。親衛隊隊長としては、冒険者稼業自体控えて欲しい所ですが」
話を聞いていたカイエンも話に入ってくる。
この件に関して味方はいないらしい。
「どうしたら機嫌直してくれるかな」
「そうですね…お尻を撫でまわしてみては?」
「それで機嫌が直るのはクリステアだけだ」
真剣な顔して何を言うのかと思えば。
「いえ、直ると思いますよ?私とノエラさんは似ていますから」
あぁ~、まぁそれは前々から何となく思ってた。
そう考えると、信憑性は増すけども。
「少なくともジュン様なら触っても怒りませんから。物は試しにやってみましょう」
「あ、ちょっと、こら」
クリステアに手を引っ張られ、ノエラのお尻に押しつけられる。
直ぐにノエラと目が合う。
「あ~これは、その…」
「ジュン様…」
あ、怒った?普通怒るよね。
火に油を注いだだけになったか。
仕方ない、ここは土下座だ。
「ここじゃちょっと…流石に外では…初めてですし…」
「あっ、そうですか…」
おかしい。
モジモジして拒否するだけで怒ってない。
それどころか機嫌が直っている。
一体何故。
クリステアを見るといい顔でサムズアップしてる。
何だ、その顔。意味がわからん。
「どゆこと」
「だから言ったじゃないですか。私とノエラさんは似ていますから。きっと機嫌を直すと思いました」
いや、だからどうして…。
まぁいい。これ以上の追及は薮蛇な気がする。
それにボク達の受け持ち地点に着いた。
「ハティ、狼達を七つの部隊に分けて。お母さん達にそれぞれ一つずつ部隊を率いて各地に散ってもらって。アリの巣を囲むように。各地の冒険者と協力してアリを倒して欲しい。ハティは一部隊率いてここに残ってね」
『は~い』
これで各地の戦力は十分だろう。
各地の冒険者達も受け持ち地点に着いたと連絡がきたので作戦を開始する。
「攻撃開始!」
号令と同時に空に向かって魔法を放つ。
これが作戦開始の合図だ。
「「「ワァァァァァ!!!」」」
一斉に攻撃が始まる。
先ずは森の中のアリを殲滅して何も無い平野での戦いに持ち込まないと。
魔法を使っての広範囲攻撃が出来ない。
「森から追い出せ!酸に気を付けろ!」
「「「オォォォ!」」」
アーミーアントの感知能力は低い。
奇襲は上手くいった。
しかし、ボク達が受け持った地点はアリが侵攻してた森。
直ぐに追加がやって来た。
「仕方ない。追加の戦力を出そう」
「そんなのあるの?」
「ユウも出せるだろ?頼むよ」
ボクが出したのは泥で出来たマッドゴーレムだ。
その数二百。
「そんなの出せるなら最初から出してよ!」
「そんなに強くないし、この数だと単純な命令しか出せないから。その割に魔力は使うし」
出来るだけ魔力は温存しときたかったので使いたくなかった。
出した命令は『近付いて来たアリを前方へ投げろ』だ。
アリを倒し切る程の力はない。
「ほら、ユウも」
「うん」
ユウもゴーレムを五十程出した。
これで何とかなるだろう。
アリ達を森の外へと追い出す事に成功する。
他の地点でも、平野での戦いに持ち込む事に成功したようだ。
「広範囲魔法攻撃開始!魔法が使えない者はアリを近付けさせるな!」
一斉に魔法が放たれる。
数百名が一斉に魔法を放つと、中々に派手だ。
まるで戦争映画のような光景だ。
ボクとユウはもちろん、ノエラにセバスト。ティナ達メイド四人組。シャクティ、クリステアにルチーナも魔法で攻撃している。
追加で参戦した親衛隊にはリディアにユリア。ギンにイグナス君も参加。
ユリアは魔法攻撃だが、他の三人はアイと同じく魔法攻撃を抜けて近付いてくるアリを倒している。
リリーも弓で攻撃しているが、飛行してくる羽付アリをかなり遠距離で始末している。
魔法の弓矢になって射程距離が増したらしい。
「えええい!」
ズドンと。弧を描きながらバラバラになって吹っ飛んでいくアリ達。
リディアの武器はハンマーになった。それも特注品で特大。
一振りでアリを三、四匹まとめて吹き飛ばしている。
怪力の紋章を活かす武器だと思う。
本人は騎士らしくない、と嘆いていたが。
「はっ!ふっ!」
アイの新装備の具合は良さそうだ。
実戦でも問題無く使えている。
実はアイが持つ『拳闘士の紋章』は『拳聖の紋章』に変化している。
上位の紋章だけあって、かなり強力な力を持つのだがアリ程度には使う必要が無いらしい。
紋章は使わず、新装備のテストに集中していた。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「何?」
「もうかなりの数倒したはずだけど、一向に増援が止まないよ」
「ああ、解ってる。でも巣の中のアリは少しずつ減ってるから」
「ん?少しずつ?これだけの勢いで倒して、あれだけ出て来てるのに?」
「うん。どうも増産体制に入ったみたいだよ。アリのお母さんは」
探査魔法で巣の中にいるアリの数は解ってる。
減ってはいるが増えてもいる。
その為、先ず内部を守っていたアリ達が先に出て、産まれたばかりのアリ達が内部を守っているようだ。
「どうする?このままじゃジリ貧じゃない?魔力が先に尽きちゃうよ?」
「そうだな…ユウ、巣を囲むように土の壁を作れる?隙間無く」
「出来るけど…それすると私は魔力切れになっちゃうよ?高さも一mが限界だと思う」
「充分だ。伝令!合図したら攻撃を一旦停止!再び合図したら雷属性の魔法で攻撃を開始せよ!」
「了解!」
伝令役が各方面に連絡し終わったのを確認して、魔法を上空に打ち上げ、合図を出す。
ボクもあの魔法を準備する。
「ユウ」
「うん、やるね!」
ユウの魔法で土壁が出来ていく。
そしてボクの魔法も完成間近だ。
「土壁、雷属性の魔法、そしてジュンのあれ…なるほどねぇ」
そう、ボクのあれ。武闘会でロレンタが使ったあの魔法。
その拡大版。準備完了だ。
「ヒュージアクアフォール!」
アリの巣の直上に現れる滝。
その水量はあっさりユウの土壁を壊してしまうが問題ない。
ようはある程度巣に水を入れ、外にいるアリ達を水浸しにすればいいのだ。
「雷属性の魔法で攻撃開始!自分が感電しないように気を付けろ!」
再び魔法で合図し、攻撃を再開する。
さっきよりも確実に早いペースでアリを殲滅出来ている。
「攻撃停止!」
「攻撃停止しろ!」
カイエンが復唱して、ボクが魔法で合図を出す。
作戦は上手くいったようで、外にいたアリはほぼ全滅。
巣の中にいたアリも残り僅か。
流石にクイーンはまだ生きてるようだが、産卵は止まったようで増えていない。
ダメージは与えたようだ。
「チャンスだな。突入するぞ」
「は~い。正直気が乗らないけど…」
「そりゃボクもだよ…」
アリの巣の中なんて、あんまりいい物見れなさそうだし。
「兎に角、行くよ。ここの指揮はカイエンに任せる。負傷者の治療を優先。動ける者でまだ生きてるアリの始末と死体処理を開始して」
「ハッ。了解しました」
「ハティも、狼達を率いて待機してて。狼達の事はハティに任せるしかないからさ」
『は~い』
巣の入り口に向かう。
水は入口には溜まってないようだ。巣の奥に溜まってるのか。
とりあえず進むのに問題は無さそうだ。
「さて、と。じゃあ女王様との謁見に向かうとするか」




