第106話 オーダーメイド
「お早う御座います、ジュン様」
「お早う、ノエラ」
今日はお祖父ちゃんとお祖母ちゃんが旅に出る日だ。二人を見送ったらステファニアさんの店に行こう。
そういえば何時に出発するのか、聞いてないな。
「ノエラ、お祖母ちゃんとお祖母ちゃんはもう起きてるかな?」
「あ、はい。ですが…」
「何?」
「先代様方はもう出立なされました」
「え」
「恐らく明け方早くに。昨日は皆お酒を飲んでましたから、誰も気付かず。部屋には『じゃあ行ってくる』とだけ書かれた書き置きがありました」
「軽いなぁ」
そもそもな話、先代魔王とその妻と言えばかなりの重要人物なはず。
それが護衛も付けず二人だけで旅をしてるなど、本来なら許されないはずなんだけど。
まあ今さらか。
「見送りが出来なかったのは残念だけど、仕方ない。今日は朝食が終わったらステファニアさんの店に行くよ」
「はい、畏まりました」
朝食を採りに食堂へ向かう。
父アスラッドと母エリザは既に居た。
「お早う御座います」
「ああ、お早う」
「お早う、ジュン」
それから程なくしてアイも来る。
遅れて一番最後にユウだ。
ユウは朝が弱くていつも一番最後に来る。
「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんはもう旅に出たそうで」
「ああ。全くあの二人は」
「お見送りくらいさせて欲しいわよねぇ」
「え。お祖母ちゃん達もう行っちゃったの?」
「いつ?私なんの挨拶もしてないのに」
「たぶん明け方だってさ。挨拶はボクも出来てないよ」
「大方、そういうのが苦手だとか、護衛をつけられるのを避ける為だろう。全くいい歳して…」
なんだかちょっと不機嫌たな、パパ上。
「前もそうだったしね~。でも心配しなくても大丈夫よ、あなた。通信用魔法道具は持って行ったじゃない」
「心配なんかしとらん!」
ああ、そうか。
二十年ぶりに帰って来た両親だもんな。
それがまた二人だけで旅に出たんだ。そりゃ心配になるか。
「おい、こらジュン。何だその目は。わしは心配なんかしとらんぞ。ただ黙って出て行くあの二人の非常識さに腹を立ててるだけだぞ」
「そうですか。ボクは心配ですけど」
「お、おう。そうか」
それ以上は何も言えずに黙り込んでしまう父アスラッド。
心配なら素直にそう言えばいいのに、
ばつが悪そうだし話題を変えるか。
「今日はステファニアさんの店に行ってきます」
「そうか。剣を作るんだな?どんな剣を作るんだ?」
「ふっふっふ。それは出来てからのお楽しみです」
「お?遂に作るんだ」
「そう言えば『いい物』って結局なんだったの、お兄ちゃん」
「それも店についてからのお楽しみだ」
「何~?勿体ぶらずに言いなさいな」
「どうせステファニアさんにも説明しなきゃだし。二度手間は避けたいんだよ」
大して長い説明にはならないけどね。
朝食も終わり、一息ついた後。
開店時間になったのでステファニアさんの店に行く。
最近ではシャクティも、クリステアと同じく何処に行くにも付いてきたのだが今日は待機だ。
昨晩のパーティーで飲み過ぎて二日酔いらしい。
後で見舞った時、記憶は残ってるか確認しよう。
「失礼します」
「おや、ジュン様。おはようさん」
「お早う御座います、ドミニーさん。ステファニアさんを呼んで頂けますか?」
「あいよ。ちょっと待っててね」
ドミニーさんが奥に行って直ぐに、ステファニアさんがやってきた。
「あらぁジュン様ぁ。確か昨日成人したのよね。いい男になってきたわねぇ。私好みの男になるにはもう少し、男らしさが欲しいとこだけど。私はセバストちゃんの方が好みね」
あ、うん。
そこは永遠に変わらずでいいです。
「今日は以前相談したオーダーメイドの剣の話に来ました」
「あら?遂に必要な金額が貯まったの?」
「それもあります。ですが、先ずはこれを見てください」
魔法の袋から例の箱を取り出し、机に置く。
そして中身を見た時、ステファニアさんの顔付きが変わる。
未だかつて見たことのないくらい真剣な顔に。
「ジュン様、これは?」
「勇者の聖剣です。折れてますけどね」
「「「え」」」
「詳しく説明しますとね」
お祖父ちゃんと父アスラッドから聞いた話を皆にもする。
するとステファニアさんはより真剣な顔になって剣を手に取り眺める。
「やっぱりね…ただの剣じゃないとは思ったけど、まさか勇者の聖剣とはね。恐れいったわ」
「他の剣とはやはり違いますか」
「ええ。これオリハルコンだけど、オリハルコンの中でも最上級を使ってるわ。しかも神々の祝福まで受けてる。もしかしたら神が作った剣なのかも…でも折れた事でその力は失われているけれど」
そんなに凄いのか。
今度神様と通信した時聞いてみよ。
「使えますか?ボクの剣の素材に」
「ええ、可能よ。むしろ私にこんな大仕事任せていいのかしら」
「任せられるのはステファニアさんだけですよ」
「そう…ありがとう。そこまで言われたらやるしか無いわね。間違いなく私の生涯で最も大きな仕事になる…最高の仕事にしてみせるわ…ドミニー!」
「はい、師匠!」
「今日はもう店終いよ。店を閉めなさい。それから新しい仕事はジュン様の依頼が終わるまで受けない。今受けてる仕事を全て終わらせたら私はこの仕事に全力を注ぐわ。いいわね?」
「はい!師匠!私も手伝います!」
「ええ。それじゃジュン様。詳細を詰めましょう」
「はい」
店終いをするドミニーさんを置いて、ボク達は店の奥で話を詰める。
「さてと。どんな剣を作るのかは以前聞いた通りでいいのかしら?」
「はい。二本とも作れますよね?」
「ええ。あれだけ大きな剣ならね」
「なら代金は幾らになります?大分下がると思いますけど」
何せオリハルコンは持ち込みだから。
前に計上した予算の大部分はオリハルコンが占めてたし。
「そうね。オリハルコン以外の材料費だけでいいわ」
「え?でもそれじゃステファニアさんの利益がないんじゃ」
「いいの。その代わり、時間を頂戴。そうね、一ヶ月。一ヶ月で最高の剣を用意してみせるわ」
「ステファニアさん…分かりました。一ヶ月後を楽しみにしています」
そして一ヵ月後。
ボクは理想通りの剣を手に入れる。




