6話 幕間
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目が開けられない。
まぶたを動かすのに努力がいるとは思わなかった。
ローゼリアンはいつもこんなにつらく、しんどい思いをしていたのだろうか。
呼吸をするだけで体力を消耗するなんて。
かたり、と。
扉が開く音がした。
「いつもありがとう。ずっと眠っているのだけど……娘もきっと喜んでくれているわ」
「ローゼリアンとは友達でしたもの。これぐらいなんてことないですわ」
誰が入室したのか確かめるすべはない。
目が開かないのだから。
ただ、会話のひとりは確実に母上だ。
「私は居間で待っているから。終わったら来てちょうだい」
「ありがとうございます。あとで伺いますわ」
パタンと扉が閉まる。
軽い足音。女か?
空気が揺れた。
天蓋からつるされた紗がめくられ、側近くに誰かが歩いてくる。
「しつこいわねぇ、あなた」
吐息と、うんざりした声。
「そんなぶっさいくな姿になってまでまだ生きていたいの? 早く死ねばいいのに」
女は。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
ぶさいく、ぶさいく、ぶさいく、ぶさいく。
枕元で執拗にそう繰り返した。
やめろ、黙れよ。
ぼくのローゼリアンになにを言うのか。
そう言い返したいのに、それさえできない。
ああ。
不調の原因はこの女だ。
何度もしつこく繰り返す「死ね」の言葉を聞きながら、意識は徐々に遠のいていった。




